74話 4月27日 ライルイベントに潜入…!
その後も、最近サルーイン領で流行している結婚式の話など、アルテアにせがまれるままに話しながら時を過ごしていると、馬車が静かに停車した。
「着いた…んですかね?」
「そうですね」
ディアナが答えると同時に、馬車の扉が開いた。扉を開けたのは、三十代前後の男性御者だ。
「お待たせいたしました」
「ありがとう」
御者の手を借りてまずはアルテアが、次にディアナが馬車から降りる。
「馬車をあちらの路地に移動させておいてください。他のお店の邪魔にならないように」
「かしこまりました」
馬車を店の前に停めておくのはよくないと思ったのだろう、アルテアみずから御者に指示を出し、馬車を移動させる。
そうして、ひと仕事終えたアルテアは、はずんだ声でディアナに言った。
「さあ、参りましょうか」
「はい」
ディアナがうなずくと、アルテアの教育係のガーナが店の扉を開く。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ガーナに礼を言いつつ店内に入る二人。
「まあ…!」
教室の半分程度の広さの店内に、所せましと並べられた魔動具の数々に、アルテアが感嘆の声をあげる。
そんなアルテアの気持ち後ろを歩きながら、ディアナは店内を見回した。
……うわあ…、居るしー…。
まずディアナが見つけたのは、取っ手のついた水差しを興味深く眺めている、ヒロインファルシナと友人パメラ。そして。店の奥にあるカウンターの前で、店主らしき老人と会話をしている――――。
「あら…?」
アルテアが、小さく声をあげた。その視線は、どうやら店の奥の方に向いている。
「ライル殿下…?」
再び小さくつぶやいて、アルテアはふらりと歩き出した。その足は、まっすぐにカウンターの方へと向かっていて―――――。
「? あれ、シャブリエ嬢?」
次第に大きくなる靴音に気づいたのだろう、ライルは、アルテアが彼に声をかける前に振り返っていた。
「こんにちは。ライル様」
アルテアが、制服のスカートをつまんで膝を折る。アルテアのうしろにいたディアナも、一緒に礼を取った。
「こんにちは。めずらしいね、あなたがこんなところに来るなんて」
「こんなところで悪かったのう」
ライルと話していた老人が、ふてくされたような声をあげた。ぷいっと顔をそむけた際、胸のあたりまで伸びている白いひげが、まるで鞭のようにしなる。
そんな彼に、ライルは笑って言った。
「ああ、いや。そんなつもりは…………ちょっとあるかな」
……ええー…。
ライルの言葉に、目を細めるディアナ。けれど、そのあと、ライルと老人が目を合わせ、まるでいたずらっ子のように笑い合う姿を見て、気づいた。
……そっか、この二人、仲良しさんなんだ。
いやみのようなやりとりも、この二人からすると、ちょっとしたじゃれ合いの一環なんだろう。そう思ったディアナの横で、アルテアがライルに声をあげた。
「また…! 殿下はそういうことをおっしゃって…!」
「………」
どうやら、アルテアは、とてもまじめな性格のようだ。
そんな彼女だから、休日が月に一度だけとか、日本でやったらある意味虐待? とも思われかねない教育方針も、素直に受け入れているのだろうか。
………わたしにはぜったい無理だけどねっ。
人生、乗り越えられない壁は現れないものなのだという、前世で聞いた言葉を思い出し、ひとり納得していると、うしろから悲鳴のような声があがる。
「アルテア様っ!」
「! まあ、ファルシナ様!」
大きな声をあげながら駆け寄って来るファルシナ。そしてそのあとにパメラが続く。
「こんにちはアルテア様! まさかこんなところでお会いできるなんて、うれしいです!」
アルテアの手を取り、ぎゅっと握るファルシナ。その貴族らしからぬ振る舞いに、うしろのパメラは顔をひそめている。
そして、お店の壁に貼りつくようにして立っているガーナは、ひくりとこめかみを引き攣らせていた。
……ああー…。次期王妃さまの教育係がお怒りですよー………。
けれども彼女は、深く息をついて怒りを逃したあとは、まるで置物のようにぴくりとも動かない。
少なくともこの場では、アルテアの友人関係に口をはさむ気はないのだろう。第二王子もいることだし。
……もしも口をはさんで来たとしても、ファルシナさまに関しては、ちょっと大目に見て欲しいかも。彼女、父親の伯爵さまに引き取られるまでは、平民として暮らしてきたはずだから、たまに素が出るのもしかたない気が。……と考えるわたしは甘いのか。あ、そういえば、ゲームのアルテアさまは、ファルシナさまの、今みたいな貴族にしてははっちゃけた言動に、よく文句をつけていたけれど………。アルテアさま、どうされるかな?
と思いつつアルテアを見ていると。
「わたしも、お会いできてうれしいですわ。ファルシナ様」
アルテアは、ぎゅっとファルシナの手を握り返した。
そして、二人、きゃ~っと店内で盛り上がったあと。
「ファルシナ様、今日は魔動具を探しにいらしたんですか?」
「はいっ。オルヘルス様に、おもしろい商品を扱っている魔動具屋さんがあると聞いたので、何か一品買ってみようかと思って」
「そうでしたか」
「アルテア様も、魔動具を探しに?」
「わたしと言うよりは、ディアナ様が、今日は魔動具屋へ行くとおっしゃったので、ご一緒させていただいたんです」
「えっ?! ディアナ様?!」
ファルシナは、名を呼びつつ、どこどこ? とばかりに視線をさまよわせ、アルテアの後ろに立つディアナを見つける。
「まあ、そんなところにいらしたんですか、ディアナ様!」
「あ、はいっ。こんにちは、ファルシナさま」
「こんにちは~」
「ディアナ様が、魔動具に興味をお持ちとは、知りませんでした!」
「え、ええ……まあ…」
マシンガンばりの勢いで話しかけてくるファルシナに、ディアナはあいまいに答える。
……いやだって、まさか、ライルイベントがどうなるかを見にきました~、なんて、能天気に言うわけにはいかないし。
まあでも、ディアナだって魔術師のはしくれだ。魔動具に興味がないわけではない。
「わたしの魔法は、攻撃力がとぼしいので…それを補えるものがあればいいと思いまして」
「でしたら、魔動具屋に来るのではなく、鍛錬場でご自身の魔法の技術を磨いてはいかがですか?」
「えっ…」
とげとげしい声がした方を向くと、ファルシナの後ろでパメラがディアナを睨みつけていた。
次回のタイトルは『援軍現る?』で~すっ。
アルテア「援軍というよりは……」
ファルシナ「………おかん?」




