67話 4月25日 混合実技。魔物討伐へ。
66話は、きれいな声で鳴く小鳥ちゃんが、森の中で、なんか変な黒いのにがじがじ食べられちゃったよ?
………というお話でした。
青の絵の具に水を混ぜて、限りなくうすくしたような色の空の下、丸い形の青い屋根を乗せてそびえたつ講堂の前に、朝早くから三十人程の男女が集まっていた。
見回す限り、学園の制服を着ている者はひとりもいない。
全員が、軍事の際に着用する、防御力の高い特殊な布で仕上げられたマントにチュニック、そしてパンツを着用していた。
マントに自分の家の紋章を縫い付けたり、チュニックのすそを長めにしたりして、個性を出している者は、おそらく裕福な貴族。まったく同じ仕立ての服を着ている者は、経済的に余裕がなく、自前の防護服を購入することができない貴族と平民だ。
ちなみにディアナはと言うと、濃いめの緑色のマントの下に、同色の太もも丈のチュニック、その下にクリーム色のシャツを着て、首元には赤いリボンをつけている。赤いリボンは、今年のイリュージア学園の一年生の色だ。ちなみに、パンツもチュニックと同色だったりする。
……え? 地味なうえに、悪役令嬢ぽくない? ……だよねだよねそうだよねー。わたしもそう思うよ?
確か、この日、ゲームの悪役令嬢Dは、真っ白なマントに、膝丈のピンクのチュニック、そしてパンツも白といういでたちだった。今のディアナとはぜんぜん違う。Dとの共通点を挙げるとすれば、茶色いブーツくらいのものだろう。
だって、今からディアナが向かおうとしているのは、学園内にある魔物の棲み処なのだ。
今日は、三学年全校生徒が、剣術や弓術などの決められた授業からひとつを選んで受講する、混合実技の日。
その中でもディアナは、魔物討伐という、見て聞いてそのままの意味を持つ授業に参加する予定だ。
学園の北側は、一体が薄暗い森になっていて、魔物の活動拠点とエリアとなっている。
……そんな場所に行くのに、白とピンクの服とか目立つから。木がたくさんありすぎて、昼間でも視界が悪い森で、雪なみに真っ白いマントとか着てたら、率先しておとりになってるようなものだから。
防護服を作ってもらった時のディアナに、前世の記憶はなかったけれど、仕立て屋さんが申し訳程度に用意してくれていた、明るい色の生地はすべてスルーさせてもらった。
そういった危機管理的な部分でも、ディアナと悪役令嬢Dの違いがわかって、すこしほっとする。
自分は、ゲームのDとは違う。確認するように小さくうなずくディアナの視界に、ストロベリーブロンド色が入って来た。
「今日は、サルーイン様と同じ授業を受けられてうれしいです」
そう言ってにこにこと笑顔を向けてくるのは、同級生のファルシナ・オランジュ。ゲーム、『イリュージアの花』の主人公だ。
「ええ。わたしもです。オランジュさま」
にっこりと笑って答えるディアナだったけれど、心の中では、ひやりと汗をかいていた。
だってまさか、今日は授業の最中に、ヒロインと攻略対象者とのイベントが起こるかもしれないので、気になって一緒にしてみました~。………なんて言えるはずがないのだから。
この、三学年の学園生が入り混じって、自分が選択した科目を受けられる授業は、身分も年齢も関係なく、協力し合う場、………とかいう、一見とても有意義に思えなくもない。
けれども、ゲームをプレイする側の意識はまったく違う。
九科目の授業の中には、攻略対象者が得意なものがいくつかある。たとえば、クライヴなら乗馬だ。そして、混合実技の時に、ヒロインが乗馬を選ぶと、クライヴとの親密度が上昇する。親密度の高さによっては、デートのごとく、馬で並走したりなんてこともできちゃうのだ。
要するに、混合実技とは、ヒロインと攻略対象者が親密度を上げるために作られた設定。
そして、ヒロインの攻略度を警戒しなければいけないディアナにとっては、月に一回開催されるダンスパーティ同様、けっして気を抜くことができないイベントなのだ。
そんなわけで、ディアナは、今日ヒロインがどの授業を受けるのかを事前に聞いておき、一緒に参加したわけだ。
けれども、まさか、一年最初の混合実技で、魔物討伐の授業を受けるとは思わなかったので、聞いた時はかなりびっくりして、思わず「ええ~!」とか言ってしまったディアナだった。
まあ、一年生が魔物討伐を最初に受ける時は、パーティを組んだ先輩たちと、引率の先生、あるいは、森を巡回するために駐在している兵士にしっかり守ってもらいつつ、弱い魔物しか出現しないとされている場所で討伐をするので、そんなに…いや、ほぼ危険はない。だからまあいいかと思い直した。
ちなみに、魔物討伐の授業を受けた時に、親密度が上がるのは、ロナンド・エンノルデンだ。
ヒロインはロナンド狙いなのか、それともただの戦闘好きなのか。
そのあたりは、今日二人の言動をつぶさに観察することで、把握しておきたいものだ。
……よし。がんばるぞ!
ディアナが、マントの下で、決意新たに小さな握りこぶしを作っていると、前方から、黒いマントをはおった長身の男性が歩いて来る。
……あ、ロナンドさまだ。
ディアナが見つけたと同時に、あちらもディアナに気づいたようで、うすい唇に笑みを浮かべた。
「――――」
そのお返しとばかりに、ディアナがぺこりと頭を下げる。
あいさつを終えたディアナは、もう大丈夫、とロナンドから視線をそらそうとした。けれど。
……ん?
なぜか、ロナンドは、笑顔を浮かべたまま、まっすぐこちらに向かって来るのだ。
……えっ…?
頭に疑問符を浮かべながら、ディアナはちらりととなりを見た。
……まさか、ロナンドさま、ファルシナさまをご自分のパーティに誘うおつもり…? で、でも、ロナンドさまからヒロインを誘うのって、親密度が五十パーセント以上になってからじゃなかった? え、え、ということは、ヒロインとロナンドさまって、すでにお友達以上な間柄? え? でも、四月の時点でそんなに親密度上げられるわけないんだけど……。………あっ…! …そ、そう言えば、この間のダンスパーティの時も、四月の時点でありえないことが起こってた…!
そうなのだ。全攻略対象者の親密度をすこしずつあげて行き、生徒会室にお呼ばれされないと、攻略対象に出来ない、フロンド王国第一王子カーサと、ヒロインはダンスを踊っていたのだ。
……と、いうことは………、そう、きっとあれだよ、あれ。なにか、攻略対象者との親密度をいきなり大幅にアップさせる、裏技的なものがあるんだよ。わたしが知らないだけで。
……え、待って。ヒロインと攻略対象者との親密度があがるのが早いんだとしたら、わたしたち悪役令嬢軍団が、巨大ぶたさんのくっさいお口の中にダイブする日も早まるんじゃないの? ……え。ど、どうしよう。でも、人の恋路をじゃましたら、馬に蹴られ死んじゃうかもしれないし………。いったいどうしたらいいの?
ディアナのあせりメーターが、ぶんぶんと大きく振れだしたころ、その原因となったロナンド・エンノルデンが、ディアナの目の前で立ち止まった。
次回タイトルは『パーティメンバー』で~す。
ディアナ「何か、気がついたらどんどんメンバーが増えて行く……悪い方に……」
ロナンド「悪い方って…もしかしておれも入ってる?」
ディアナ「えっ…、い、いえ……(入ってます。とは言いづらい……でも言ってしまいたい…!)」




