66話 4月24日 蠢く闇
*ダーク回です。残酷…と思える表現がありますので、苦手な方は次のヘージに移動し、前書きをお読みください。
ざわり、ざわりと。
風に打たれて木は泣いた。
彼の下には、夜の深い黒にまぎれて手を伸ばし、暴虐を働くものがいる。
その生贄になったのは、今朝も彼の生やす枝に留まり、美しい声で鳴く小鳥だった。
けれど小鳥は、伸びて来た黒い手に一瞬でのどを砕かれ、もう助けを呼ぶために叫ぶことは許されない。
小鳥は細々と息を紡ぎながら、おのれの身が黒い歯に噛み千切られるのを、悲痛な思いで見つめている。
穢れのない海色の瞳から、あざやかな赤い涙が、ひとつぶ、ふたつぶとこぼれ落ちた。
「ぴ……」
小鳥が、小さく声をあげた。
その双眸は、真っすぐに、毎朝小鳥が羽を休める木に向けられていた。
「ぴぃ…」
海色の瞳が、わずかに細められる。それが、笑っているように見えるのは、木が抱いた都合のよい幻想だろうか。
けれども彼には、小鳥がこう言った気がしたのだ。
〝今日まで、わたしを休ませてくれてありがとう。歌を聞いてくれて、ありがとう〟………と。
けれど。
木は語る言葉を持っていなかった。そして、語るための声ですらも。
だから、木はただ揺れ続ける。
その体を、生えたばかりの青い葉を、強い風になぶられるのをいいことに、激しく揺れ動いた。
手を持たない木は、小鳥を得体の知れない黒いものから救うことはできない。
「ぴ…ぃ…」
すでに、体の半分ほどを黒いものに飲まれた小鳥が、震える右翼を木へと向かって伸ばした。
それはまるで、木に届ける別れの印―――――小鳥の想いのような。
「……ぴ…」
小鳥の右翼が、ぱたりと、まるでこわれたおもちゃのように地面に落ちた。
同時に黒いものは、ぬめぬめと力を失ったそれへと飛びつき、ばりぼりと骨を食む。
やがて、小鳥の体のすべてが黒いものの中に消えると、周囲に散らばった太陽と同じ色の羽さえも、飲み込み。
黒い手で、軽く自分の体を数回さすると、何ごともなかったかのように、棲み処へと戻って行く。
その姿を見据えながら、木はまた泣いた。
一体、なぜこんなことが起こるのか、いつまでこんなことが続くのか、と。
そう。初めてではないのだ。
木が、このような光景に出くわすのは。
いったいいつからだったか。そうだ、季節がかわり、枝に小さな緑の芽が生え始めたころからだ。
木は、今までに数回、自分の枝に留まってくれた小鳥を失っていた。
そして、その場から動くことのできない自分は、いつも何もできずに、ただ、小鳥の命が蹂躙されるのを見ていたのだ。
ざわりざわり。木は揺れる。
まるで、無力な己を嘆くかのように。そして、はかなく散っていった、罪なき小鳥へ送る、鎮魂歌を奏でるように。
次回タイトルは『混合実技。魔物討伐へ。』
ディアナ「よっし! 今度こそイベント回避するぞ~っ!」
ライル「あんまり張り切り過ぎると……コケるよ?」
ディアナ「あっ、イベントと同じくらい回避したい人だっ」
ライル「……指さすな」




