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50話 4月19日 気づいてしまった気持ち

 まるで会場を包み込むように響く、優雅なヴァイオリンの音。

 それにリードされるかのように、楽し気にフロアをまわる着飾った生徒たち。

 その中の、たった今、ディアナの目の前を通り過ぎた一組のカップル。それは。

 ………ヒ、ヒロインと、第一王子いいぃぃいぃぃ!!?

 ゲームではありえなかった光景に出会い、ディアナの心臓は跳ね上がる。

 もしも心臓が自由に体から飛び出せるのなら、三階建ての屋根くらいには届いたかもしれない。

「………!!」

 ディアナは、白い長手袋をはめた手で、とっさに心臓をぐっと押さえた。

 ……おかしい。絶対におかしい。

 ディアナは、震える手を握り込みながら考える。

 だって、ゲームでは、第一王子カーサの出会いイベントはかなり遅い。まずレダンやクライヴ、ロナンドなど、生徒会のメンバーと仲良くなって、彼らに生徒会室に連れて行ってもらい、はじめてカーサに出会えるのだ。

 四月のダンスパーティで攻略者たちと踊るには、出会いイベントを発動させないといけない。

 カーサの場合は、その出会いイベント自体が四月にないのだから、本当なら踊ることはおろか、知り合いにすらなっていないはずなのだ。それなのに。

「………」

 なぜ、ヒロインとカーサは踊っているのだろう。二人はどうやって顔見知りになったのだろう。

 しかも、カーサがすっごくうれしそうだ。ファーストダンスで、婚約者のアルテア・シャブリエと踊っていた時よりもはるかに。むしろヒロインの方が若干引いている様子だ。

「………」

 ゲームのカーサは、ちょっと、いやかなりやさぐれていて、すべてにおいて今ひとつやる気がないキャラクターだった。

 幼少のころから、ひとつ下の弟ライルの方が優秀だと言われ続けていたうえ、最近、ライルは空飛ぶ乗り物という画期的なものを開発し、世間からさらに注目を浴びている。フロンド王国は、基本的に貴族も王族も長子継承だけれど、ライルに関しては、特別に国王にしてもいいのではないか、という声が一部であがっているほどだ。

 そんなわけで、ゲームのカーサは、全体的にやる気というものが欠けていて、生徒会長の仕事も他の役員…おもに副会長のライルに押し付けて、自分は森へと遊びに行くのだ。

 森は、学園の敷地より北の方にあって、ゲームでは、親密度が高くなったカーサとヒロインのデート場所になる。

 けれども忘れてはいけない。未来の国王カーサには、すでに婚約者がいるのだ。それも悪役令嬢のボスと言えるお方が。

 そんな彼女を差し置いて、ヒロインと王子が逢瀬を重ねれば、当然……かはわからないけれど、嫌がらせを受けることになる。それはもう何度も何度も。

 そもそも、悪役令嬢Aがヒロインをいじめるほどに荒れるのは、本人の性格によるところもあるかもしれないけれど、やっぱり婚約者であるカーサ王子の浮気が大きな一因。

 なのでカーサ王子は、浮気がバレないようにと、森の湖にヒロインを誘うのだ。きっと。

 ゲームのキャラクター紹介文に、それぞれの攻略対象者のセリフが載っていて、カーサのところには、「お前と一緒にいる時だけは、自分が王子だと言うことを忘れていたい」と書いてあった。

 このセリフを読んだ時、みのりは思った。「え、じゃあ、ヒロインは、王子のカーサとは一緒にいられないの?」

 何と言うか…、はっきりと、本妻と愛人の立場を線引きされたような気がして、まあ実際それに近い関係なのだけれども、何だかしっくり来なかったので、みのりはカーサの攻略を後回しにしたのだ。

 そして結局そのまま…、カーサルートには手をつけなかった…はず。……覚えている限りでは。

「………」

 それなのに、今、ディアナの目の前では、ゲームとはまったく違う内容が繰り広げられている。

 忍ぶ恋をよしとしていたはずのカーサが、人目をはばからずに浮気相手……ヒロインの手を取り、嬉々として踊っているのだ。

「………」

 実際にこんな光景を見ていると、微妙な気分になる。

 自分の気持ちにふたをせず、踊りたい相手と堂々と踊るのは、カーサにとってはとてもいいことだ。

 ヒロインは…ちょっと引き気味とは言え、それなりに楽しそうに見える。なのでまあいいとして。問題は……。

「……!!」

 その、問題の人物、いわゆる三角関係の一角となるアルテア・シャブリエの姿を探していたディアナだったけれど、偶然視界に入った光景に、思わず目を奪われていた。

 ダンスフロアの一角で、イルマ・ダントンが、クライヴと一緒に踊っていたのだ。

 オレンジ色のドレスを、ふわりふわりとなびかせ、うるんだ瞳を、まっすぐにクライヴに向けて。

 あかく染まったほおは………、ようするに、そういうことなのだろう。

 イルマはきっと、クライブのことが好きなのだ。

 ……――――ああ……、そうなんだ…。

「……っ」

 ぎゅっとしめつけられた胸を、ディアナは手で押さえた。

 ……どうしよう…。変だ…。これ以上、踊っている二人を見ていたくない…。

 ダンスパーティに参加しているのだ。自分の婚約者が他の女性と踊るのは、当たり前。むしろ、交流が広がるのは、家にとってもいいことだ。それなのに。

 イルマとクライヴが踊るのだけは、どうしても見ていたくない。そう思ってしまった。

「………」

 一足先に寮に戻ろう、言いわけならあとで考えればいい。

 そう思って、きびすを返そうとした時。

「…えっ…?」

 そっと手を握られて、顔をあげると、ディアナをじっと見降ろしているライルと目が合った。

 ライルは、しっかりとディアナを見据えると、にこり、と、めずらしく人好きそうな笑顔を向けてくる。

 そうしてディアナの指に触れてきたライルの手はあたたかく、まるで、ディアナの不安な気持ちに寄り添ってくれているように思えた。

「ライルさま……」

 ディアナの口が、自然ととなりにいる彼の名前を呼ぶ。

 そんなディアナに、ライルは会ってから今までで一番やさしい声で、こう言ったのだった。

「―――――踊ろうか」

次回のタイトルは、『第二王子と踊る意味。』でっす!


ファルシナ「ライル様と踊る意味…意味って…?」

ベアトリス「サルーイン様の力が、ライル様の実験に役立つのでは?」

シーラ「………人体実験?」

ディアナ「…!!(ひいいぃぃぃぃ!!)」

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