51話 4月19日 第二王子と踊る意味。
「え?」
ディアナの返事を待つことなく、ライルはディアナの手をにぎり、ダンスフロアへと進む。
「え、え、待って、曲途中…」
「だ~いじょうぶ」
禁止はされていないものの、曲の途中で踊り出す人はあまりいない。
けれどライルは、あわてるディアナの腰にかまわず手を置き引き寄せると、音楽に合わせて踊り出した。
それがあまりにも自然で、ディアナもあっさりとダンスの輪の中に入ることができた。
「……お上手なんですね…」
「――――」
思わずこぼれたディアナの本音に、ライルは口角をあげることで答える。
「ま、王族だからね。これくらいは出来ておかないと」
「それでも……すごいです」
「それはどうも」
そう言って、ディアナを軽くターンさせるライル。
その後も、曲に合わせてくるくる回っているうちに、ディアナはあることに気づいた。
ちらり、ちらりと。フロア内だけでなく、休憩スペースや歓談スペースからも。
あちらこちらから、視線を感じるのだ。
「気になる?」
ライルも気づいていたらしく、ディアナに問いかけてくる。
「はい」
すっごくと言わんばかりに、即座にディアナがうなずくと、ライルはこともなげな様子で答えた。
「ほら。おれ、君よりも年上なのに、まだ婚約者が決まってないだろ?」
「…………、はい」
そういえば、目の前にいるライルは、ゲームの彼と違い、将来の相手が決まっていない。
……どうしてなんだろう? ん? あれ、もしかしたら、ライルさまがゲーム通りに、悪役令嬢Eことイルマ・ダントンさまと婚約してたら、イルマさまが、クライヴさまを見てほおを染めることもなかったんじゃ? いや、でもそれあんまり関係ない? 何やかんや言っても、ゲームはあくまでもゲームでしかないし。現実の、読心術かじってんのか? レベルに人の心を読んじゃううさんくさい人よりも、笑顔がまぶしいクライヴさまの方が、何倍……いや何十……いや何千倍もいいに決まってる。すくなくとも、わたしの中では。うんうん。そうそう。
ひとり納得して、うなずくディアナ。そんな彼女の腰が、いきなりぐいっと強い力で引き寄せられる。
「ふわっ」
変な声を出しつつ見上げた視線の先に、ライルのあきれ顔があった。
「……ダンスを踊ってる時に、パートナー以外の人のことを考えるのは、相手に対して失礼なんじゃないかな?」
「…! ………申し訳ございません」
ライルの言うことはもっともだと思い、ディアナは素直にあやまっておいた。よくもまた、人の心を読んでおいて何言ってんだこんにゃろ、なんて口に出して言うつもりはない。ええさすがにそんなヘマはしない。
「………………ま、いいけどね」
ライルは、首を縮こませたディアナを見降ろしつつ、気の抜けた声を出すと、話を続ける。
「ついでに言うと、おれ、ダンスパーティではめったに踊らないんだよね」
「………はあ」
「…一国の王子がそんなでいいのか、って思ってるみたいだけど、特に問題はないね。別のところで国益に貢献してるし」
「………まあ、それは…」
ライルの言葉に、ディアナはうなずいて答える。
確かに、ライルはいわゆる発明家として活躍していて、ゲームでは、学園に在学している間、空飛ぶ金属の箱……魔動翼機の開発をしていた。その他にも、動く金属の箱…魔動車をすこし前に作っていて、今は試作運転中のはずだ。
どちらも、風の魔力を使って動かすものなので、クライヴがライルの実験に付き合っていて、ヒロインは、すこしだけ乗せてもらったりしていた。悪役令嬢AまたはDも乗りたがってはいたけれど、「どうしても乗って欲しいなら、付き合ってあげてもいいわよ?」と上から目線で言うので、クライヴは「いや、まだ試作段階のものですから、無理に乗ることはないよ」と答えていた。ちなみに、令嬢Aにはきちんと敬語を使っていた。
と、ゲームのことを思い出していたディアナの脳天に、ライルの言葉が落ちて来る。
「そんなおれが、婚約者がいるとは言え、ひとりの令嬢と踊ってる。しかも、待ちきれずに曲の途中から。………これを見たみんなは、いったいどう思うかねえ?」
「……え、どうって…――――」
ライルに問われ、ディアナは首をかしげる。
……えっと………。確かゲームでは、普通に女子生徒と踊ってたよなー…。
「ちなみに、学園に来てから踊ったことがあるのは、君の他には、アルテア・シャブリエ嬢くらいかな」
「……え…」
ライルの言葉が本当なら、ディアナは、ライルが入学してから二人目の、ダンスの相手ということになる。
「………………それって、目立ちません?」
「だから、目立ってるだろう?」
「………!!」
にっこりといい笑顔で言われて、ディアナはようやくことの重大さに気づいた。
次回タイトルは、『救いの手』です!
ディアナ「ああ! あれですね! おじいちゃんが背中かゆい時に使うやつ!」
ライル「それは孫の手」
ディアナ「………あ。」




