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27話 4月13日 魔法実技

 午後から始まった魔法実技の授業。初めてということで、今日は、それぞれみんなの得意技を披露することになっている。

 実技の授業を行う闘技場は、生徒同士で戦う闘技大会にも使われるので、かなり広い。

 見たところ、小学校の校庭ほどの広さはあるんじゃないだろうか。

 乾き気味の土を踏みしめながら、ディアナは思った。


 くるりと周囲を見回せば、すり鉢状の観客席が視界に入る。

 さすが、毎年学年で行われる個人と団体戦での闘技大会が開催される場だけあって、客席は広い。

 闘技大会は、もちろん学園ナンバーワンを決めるためのものだけれど、生徒たちのお披露目の場でもあったりする。


 闘技大会の観客席は、参加者の家族や知人だけではなく、全国の貴族たちのためにも存在している。

 貴族たちは、自分のお屋敷に雇い入れる人材を探すため、または、将来魔法を使える人間を家から出したいと願い、魔力を持つものとの婚姻、または養子縁組をするために、人材を探しに来るのだ。


 ただ、魔力を持つ者と結婚しても、魔力を持たない子供が生まれることもある。


 ディアナの姉がそうで、国でも有名な風の使い手の父と、水属性から氷まで生み出すことができ、さらに、海に氷の壁なんか作って、ときおり船で攻めてくる海外の船を追い返してしまうほどの力を持つ母との間に生まれた第一子――――ディアナの姉、セシリアは、ろうそくに火を灯すレベルの炎魔法しか使えない。


 魔法を使うためには、大気にただよう属性の魔素を集めることも重要だけれど、それには自分の中にある魔力を使う。

 セシリアは、生まれつき、魔力の内在量が果てしなく低かった。


 三年間イリュージア学園に通って鍛えたものの、力はさほど伸びず、学園を卒業すると、まもなく王都近くに領地を持つ伯爵家との縁談がまとまった。


 セシリアが他家に嫁ぐために領地を出ると知った時、ディアナは泣いた。それはもうギャン泣きした。

 姉の結婚を決めた両親の足あたりを、ぐーでぽこぽこ殴り、昼夜問わず泣きまくり、疲れて眠ってまた起きて泣きじゃくる。


 なかなか堂に入った泣き方をしたものだ、と今でも思ったりするほど。


 だって、ディアナは、姉セシリアが大好きだったのだ。

 母ゆずりの白銀の髪も、線の細い身体も、雲ひとつない深い青空のような色の瞳も。

 そして何より、時々小さなディアナに絵本を読んでくれたおだやかな声と、やわらかな笑顔。


 そう。姉はまさしく、妖精のような美しさの持ち主なのだ。


 さらに性格もやさしく、常に領民を思い、飢饉の年には積極的に私財を投げ打って彼らを助けた。

 当然、領民への信頼も厚かったので、姉ならば、魔力がなくても、魔力の強い婿を迎えて領地を治めればいいのではないか、という話も出たらしい。


 けれど、その案が実現されることはなかった。


 原因は明らかだった。ディアナが生まれたからだ。


 魔力の才能を示す、カカオ七十パーセントレベルのブラウンという、濃い瞳の色を持って生まれたサルーイン家の次女。


 海を越えてではあるけれど、常に敵と対峙している状態のサルーイン家としては、魔力を使えるものは、ひとりでも多い方がいい。

 というのが、近臣を含めた大多数の意見だった。


 それって、まさか……とディアナは悩む。


 この世界がもし、ゲーム『イリュージアの光』のストーリー通りに進むのなら、サルーイン家の後継ぎ娘は、悪役令嬢でなくてはならない。


 悪役令嬢、それはヒロインをいじめる立場。

 本人に聞こえるように、こそこそ悪口を言ってみたり、または呼び出してねちねちいびってみたり、教科書や筆記用具を隠したり、制服を破いたり、……なんてこと、可憐な妖精さんセシリアにできるわけがない。


 だからこそ、だからこその次女ディアナなのだろう……。


 自分の顔や髪の色がきらいなわけではないけれども、美貌では姉の足元にも及ばないことは百どころか万……いや、もはや無量大数レベルで承知している。

 そんな姉が物語に登場したら、ヘタをすれば、ヒロイン交代なんて事態にもなりかねないのだ。


 だから、後継ぎのディアナは、両親が、美男美女で有名なのにもかかわらず、そこそこの顔かたちに生まれたのだろう。


「………はぁ…」


 小さくため息をつきながら、クラスメイトと協力して、土の上に長椅子を並べていると、サリーバン先生の指示が飛ぶ。

「そこの長椅子、もうすこし丸太から離してください。近すぎます」

「はい」

 返事をしてぱっと動いたのは、リューク・ブルグだ。彼の家も辺境伯で、領地がサルーインに近いこともあり、家族間での交流があった。

 一重の三白眼で、目が合うとちょっと怖いのだけれど、性格はよいという、見た目で損をしている人だ。


「今年の特化生は優秀ですからね。念のため距離を取りましょう」

 そう言って空けた感覚は十メートル程度。ディアナとしては、みんなの技をもうすこし近くで見たかったけれど、先生の指示ならしかたない。

 ささっとリュークの方へ行き、長椅子を後ろに運ぶ彼を手伝う。


「ありがとな」

「んーん、こちらこそ」


 そんな短い会話を交わしながら作業を終えたところで、サリーバン先生がぱんぱんと手をたたいた。


「それでは、これから魔法実技の授業を始めます。呼ばれた方は前に出て、今、魔法で出来る事をやってください。もちろん、丸太に魔法を当ててもかまいませんよ。魔法を学んだ経験のない方は、他の方の技を見てこれから魔法を習得する際の参考にしてください。では……ベイク・ブレウスマさん、前へ。他の方は長椅子に座ってブレウスマさんの魔法を見てください」


 こうして、イリュージア魔法学園の最大のウリとも言える、魔法の実技授業が始まったのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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