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23話 4月12日 図書館へ。

いらっしゃいませ。

ブックマーク登録、評価をして下さった方、ありがとうございます。


「う~ん………」


 清閑な空気が流れる図書室で、ディアナは口に手を当て、小さなうなり声をあげた。

 まるで、深い森の中、延々と生い茂る木々さながらに立ち並ぶ本棚の一角。魔術関係の本が集まる場所で、ひたすら魔物の召喚に関する本を探していたのだけれども、一向に見つかる気配はない。


「むー……、…?」


 ……でも、あれ? そもそもこの世界で魔物召喚なんてしたら、害にしかならないんだから、たとえやり方を書いた本があったとしても、簡単に人目に触れる場所に置いておくわけない?


「う~ん…?」


 前世の世界の某ロールプレイングゲームみたいに、「ぼく、スライム。わるいスライムじゃないよ?」なんて言っちゃう、かわいい魔物の話なんて聞いたことない。


「む~………?」


 この世界にもスライムはいるけれど、あいつらは見た目ぶにぶにのうにょうにょで、頭とんがってないし、特に決まった形もなさそうだ。

 ただ、ゼリーみたいな体で、目の前の獲物に覆いかぶさって、溶かして食べるだけ。

 お母さまの氷魔法で瞬間冷凍されたスライムをじっくり見たことがあるけれど、目や鼻の場所は結局わからなかった。


 この世界に、かわいい魔物なんて存在しない。

 魔物は、人や動物を見れば襲いかかり、その命を刈り取って行く。

 知能の低い魔物は、自分の空腹を満たせば巣へ戻って行くけれど、知能の高い魔物の中には、自分より弱い生物をなぶる者もいたりするから、放っては置けない。


 うちの領地は、南方ほど多くはないものの、ちょくちょく魔物が出張ってくるので、油断はできないし、次期領主の身としては、この学園でしっかりと魔法を身に着けて、みんなを守れるようにならなくては。


「………まあその前に、九月の魔物召喚イベントを、乗り越えなくちゃいけないんだけどねー……」


 ディアナは、目の前にそびえたつ本棚に向かって、小さなため息をつく。


 さっき話したヒロインファルシナは、とてもいい子だったと思う。

 ディアナとクライヴの婚約を応援してくれると言っていたし、その後も、実は自分は、九歳の時まで平民として暮らしていて、母が亡くなった時に、父親に引き取られたと言っていた。ちなみに、ゲームの設定と同じだったから知ってたけれど、一応ふんふんと聞いておいた。

 貴族令嬢としては、未熟な部分があるかもしれないけれど、よろしくお願いします、ときっちり四十五度で頭を下げられた時には、いや、むしろ自分の方がよほど貴族令嬢らしくない……と思わず言ってしまったり。


 結局、食べ終わるまでにはすっかり話が弾み、ちょっと仲良しになってしまったかもしれない。


 まあ、ヒロインと友達になると、ゲームのストーリーからは激しく逸脱することになるので、バッドエンド回避に一役買うのではないだろうか……やっぱり無理か。


 けれど、正直な話、ストーリー云々を無視して、ファルシナと仲良くなりたいと思ってしまった。

 幼いころは、下町で育ったせいなのか、ファルシナは気さくな性格で、貴族間ではある意味必須の、腹の探り合いをして来ない。


 思ったことがすぐ顔に出る(らしい)ディアナと会話していても、眉をひそめずごくごく自然に接してくれるファルシナは、これからはサルーイン領の次期領主として、積極的に社交もしていかなければいけないディアナにとって、貴重な友人となってくれる気がした。


 もしも、万が一、ぶたぶた大ぶたさんが召喚されてしまった時は、ファルシナと攻略対象者が中心になって戦う。


 ……そうなったら、わたしも一緒にまざりたいなー…。


 まあ、その時は、たぶんクライヴも彼女のとりこになっているのだろうけれども。


 ゲームのスチルにあったように、クライヴはきっと、ファルシナの手を取ってひざまずき、彼女に愛と忠誠を誓うのだろう。大きな瞳を細めて、眩しそうにヒロインを見つめながら。


「――――はっ、だめだめ。今は落ち込んでる場合じゃない」


 ふいに我に返り、ディアナは、ふるふると頭を振った。

 半年後に人生が終わるかもしれないのに、今がんばらないでいつがんばるんだ。しっかりしろ、自分。


「んん~!」

 ディアナは、気合を入れるべく、両手でぱちんとほおをたたいた。

 そして、目の前に高くそびえたつ本棚を、きっとにらみつけ、小声で決意を新たにする。

「よし。ぜったいに探し出してやる~!」


「何を?」


「へ? ふえっ?!」


 突然、頭の上から声が聞こえてきて、ディアナは思わず飛び上がりそうになった。けれど、ここは図書館…! おしゃべりはなるべく禁止! と自分に言い聞かせ、必死に声を押さえる。


 ささっと体を右横にずらし、ぱっと振り返って視線に映ったその人は。


 つい昨日、白薔薇が咲きほこる庭園で、ディアナの思考をずばり読み取ってくれた、フロンド王国第二王子、ライル・ガウスだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

気に入っていただけましたら、ブックーマークやら評価ぽちやらしてやっていただけると喜びます。


次回の更新日は、11月9日の予定です。

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