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24話 4月12日 図書館談話

お越しくださり、ありがとうございます。

ブックマーク登録、評価をして下さった方、感謝です。なむなむ。

「ひゃ…」

「し~っ」


 まるで、振り向いたら河童がいたレベルで驚くディアナだったけれど、ライルが口に指を当てて、沈黙をうながしたことで、はっと我に返る。


 そうだ、ここは図書館だった。おしゃべりはこしょこしょ推奨なのだ。


 両手を口に当てて、驚きをこくりと飲み込むと、ディアナは、あわててスカートのすそをつまみ、片足を引き、膝を折る。


「こんにちは、ライルさま」

「ああいいって。そんなに畏まらないで。学園内では、身分は関係ない。知ってるだろ?」


 いやいやいやいや。

 だから、それはあくまでも建前な部分が大きく。

 自分よりも位の高い人間に、礼儀正しくしておいて損はないくらいのことは、あまり社交が得意でないディアナにもわかる。


 でも、あいさつを解いていいと言われたならちょうどいい。ここでさっさとこの場を立ち去ってしまえば……。


 そんな算段をしつつ、顔を上げたディアナだったけれど。


「何の本を探してたの?」

「………」


 あっさり先を越されてしまった。

 思わずほおを引きつらせるディアナだったけれど、ライルはマイペースに話を続ける。


「ここは、魔術関連の本棚だよね。サルーイン嬢の属性って、何だったっけ?」

「………地です」

 まさか王子の問いかけを無視するわけにもいかず、ディアナはしぶしぶ答える。

「…………へぇ~」

 しげしげとどこか意味ありげな視線を浴びて、ディアナはちょっと居心地の悪さを感じた。


「地の魔術の本を探してたの? それならこの辺かな」

 ライルは、さっと移動すると、ディアナでは梯子を使わないと届かない場所に手を伸ばし、本を手に取ろうとした。

「あ、いえ……」

 基本、うそをつけない性格のディアナは、ふるふると首を振る。

「じゃあ、どんな本?」

「いえ、あの―――――」


 あくまでも本探しに協力しようとするライルに、ディアナは、自分で探すと言おうとしたのだけれど。

 ちょっと考えて、思い直した。


 だってライルは、おそらく、去年からこの図書館を使用しているのだ。

 当然、自分よりは本のありかに詳しいはず。


「えっと、その、……高位の魔物関連の本を……」


 さすがに、魔物を召喚できる方法が知りたいです、なんて、ヘタを打つと犯罪者扱いされそうなことは言えず、ちょっとにごしてみた。


 ディアナ自身が魔物を召喚しようとしていると、疑われたらどうしよう。そんな思いがあって、まるで、おそるおそる甲羅の中から首を出す亀のように、おずおずと背の高いライルを見上げてみる。


 ライルは、そんなディアナの瞳をしばし見据えたあと、握った手の下を、もう片方の手のひらで、ぽん、とたたいた。


「ああ、そっか。サルーイン領には、けっこう魔物が出没するからね。研究しておきたいんだ?」

「……!」


 どうやらライルは、ディアナにとっていい方向にかんちがいしてくれたようだ。

 せっかくだから、このまま乗っかってしまおうと思い、ディアナは、こくこくと必死にうなずく。


「はい、そうなんですっ」


 けれど。

 ディアナの返答を聞くやいなや、ライルの涼しげな瞳はすっと細められ、口元が、まるで、人を小ばかにするかのように吊り上がった。


「嘘だね」

「……!!」


 ……ぎゃ! ばれてる!!


 驚きのあまり、もはや声も出ないディアナ。

 目の前にいるこの人は、本当に王子なのか。ていうか人間なのか。まさか、魔物召喚を防ぐべく動いているディアナをどうにかするために来た、ぶたぶーぶーさんの手下なんじゃないのか。


「……、……」


 ずりずりと後ずさりを始めたのは本能だ。正体不明の怪物を前に、本能が危険を認識しているからなのだ。


「ええ~。その態度は、王子様に対して失礼じゃないの?」


 ライルはそんなディアナの態度がお気に召さなかったようで、拗ねた声で言った。

 しかし、ディアナも負けてはいられない。

 だって、目の前にいるこの人は、王子さまじゃない。きっと悪魔か何かの手先なのだ。うんうん、きっとそうなのだ。


「……学園内では、無礼講ですよね?」


 先ほど、ライルがディアナに告げた言葉を、ちょっと利用してみる。

「でも、一歩外に出たら、王子と部下の関係に戻るよね?」

「………」

 ライルの言葉に、上から押し付けられるような威圧を感じる。

 けれども、退くわけには行かない。だってこの人はきっと以下略。


 ディアナは、きゅっと唇を噛んでライルを見上げ、きっぱりとした口調で言った。


「無礼講の学園内で起きたことを、外の世界に持ち出すなんて、人の上に立つ人間としての器を疑いたくなります」

「…!」


 ディアナの言葉に、それまではどこか飄々としていたライルが、視線を左右にさまよわせる。

 やがて、視線が左の後方に固定されると、ふっと自重するように笑った。


「そうだね。…うん。その通りだ」


 それから、ふっとうつむいて、肩を震わせて笑い出す。

 顔を大きな手で押さえてはいるものの、もともと響きのある声のせいで、静かな図書館のけっこう遠くまで届いているように思う。


「……、……」


 きょろりと周囲に目を配りつつも、ディアナは、ライルの様子が気になった。

 うつむいてはいるのだけれど、平均身長より少し低いディアナには、ライルの顔がよく見えた。

 その彼の目もとが、きらりと光ったような気がしたのだ。


 ……え、ええ…っ?


「あ、あの…っ」


 まさか、ディアナの言葉がライルを傷つけたのか。そう思い、焦って話しかけたのだけれど。


「まあ、ライル様。こんな所にいらしたのですね」


 ディアナの声は、甲高い女性の声によって遮られてしまった。

 後ろから聞こえてきた声に振り返ると、そこには二人の女生徒がいた。

 リボンが青いので、ライルと同じ二年生とわかる。

 一人はつやのある長髪をきれいに巻いており、もう一人は手の込んだ編み込みが施してある。おそらく貴族の令嬢だろう。


「探しましたわ、ライル様」

 二人の女生徒は、ディアナを押しのけるようにして、ライルの前に立つ。

「ぜひ、相談に乗っていただきたいことがあるんです」

「少しお時間をいただけませんか?」

 一人は猫なで声で、もう一人は体をしならせライルに極力近づいて話しかける。


「………」


 そんな、いかにもアナタを狙ってます、と言う態度を露わに接してくる女生徒二人組に、ライルは視線を向けた。

 女生徒たちは、ライルの関心が自分に向いたと思い、満足そうに笑っていたけれど、ディアナはちょっと小首をかしげた。


 ……いやあ、あの目は、どちらかと言うと、まったく関心がない人間に向けるもののような………。


 以前、どこかで似たような目をしている人を、見たような気がする。でも、どこでだろう。

 しばらく考えていたのだけれど、けっきょく思い出すことはできなかった。


「………フンッ」

 女生徒たちとすれ違う時、一人には鼻で笑われ、一人には蔑むような目で見られた気がする。

 まあ確かに、ゲームと違い、悪役令嬢Eと婚約していないライルは、まだ婚約者がいない女の子たちにとって、最高の候補者だろう。


 ……そう意味じゃあ、あのお二人もライバルだと思うんだけど……。


 もしもライルさまがどちらかを選んだ時にも、二人の友情は続くのだろうか。

 もしも、クライヴさまがヒロインを選んでも、……わたしは、ヒロインにおめでとうと言えるだろうか……。


「………、……」


 ライルたちが立ち去り静かになった図書館で、ディアナは、言葉にできない複雑な想いを抱えつつ、再び本棚に目を向けるのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

次回の更新日は、11月12日の予定です。

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