第101話 ゆるしてくださいたすけてくださいもういやです
糞長文章となっております。
無理の無いようにお読みください。
唐突の来訪に対する疑問や戸惑いは無かった。此処で奴を止めなければ、きっと次の機会は無い。だからその決断はすぐに下った。彼女が事の詳細を伝え終わるなり、俺は否定されるのを覚悟して告げた。
「早く駆けつけないとマズいな、逃げられる前に…」
防衛部に死者が出ている以上、迎撃に向かうにしても慎重にならざるを得ない。このまま彼女と共に教員達に報せても、そこから部隊編成に時間を掛けている間にツェデクスの撤退を許す可能性が高い。ならば仮に時間稼ぎにしかならないとしても、今すぐ誰かが先に向かって彼らの足を止めなければならないと判断した。…そうなれば駆けつけるべきは今此処にいる俺なのだ。
怒りに任せず冷静な俺を見て、ロベリアも幾らか安心した様子で、しかし気は抜けられず神妙に頷く。そして、その腕に抱えていた魔鋼製の剣を両手に持ち替え、「だから、これを…」と俺の前に差し出した。それは鞘に納まったロングソードだが、鍔の中央は通常の物より遥かに太く、そこには青紫の魔石が埋め込まれていた。
「…これは?」
「チャームソード。…メイスワンドの作成に使われた技術を長剣に適用したものだよ。私からお願いして作ってもらってたの。ユーリ先生から聞いたけど、レムくんすぐには装備の使用許可下りないんでしょ?私も基地の防具は勝手に持ち出せなかったけど、…丸腰で行くくらいなら、せめてこれだけでも持っていって…」
ロベリアは不安を顔に出したまま、それでもその剣を俺に託して無謀な戦いを許してくれた。下手をすれば返り討ちに遭いかねない戦いに、彼女も俺を送り出したくはないだろう。しかし、付き合いの長い彼女は俺が立ち止まらないことを知っている。止めても止められないのだと、彼女は俺を理解している。
俺はチャームソードを受け取ってその場で抜き、鞘を彼女に預けて微笑み掛けた。彼女は請うように濡れた瞳を俺に向けて一歩歩み寄った。
「ありがとう。無理だと思ったらすぐに引き返すよ」
「…お願いね。出来るだけ早く応援を送るから、絶対に無茶はしないで…」
「ああ、約束する。…じゃあ、後で」
それでもやはり不安な彼女へ、精一杯明るく笑って手を振りながら駆け出した。事務室を出ても彼女の視線が追い掛けてくるような錯覚を覚えながら、脇目も振らずに広場へ走る。
…憎む、憎まないの問題ではなく、リードの凶行は此処で食い止めなくてはならない。クリスのような無惨な犠牲や、レシナのような不幸の傀儡、そしてこの世の悪意に洗脳された弱き人々の凶行を……それらを陰で操ってきたあの男を、必ず此処で仕留めきる。
「――我らツェデクスの目的はただ一つ、魔王様に選ばれし心美しき諸君らを、選ばれし人類を!魔人という新たなステージの上へとかき集め、魔王様の築く新世界へと誘うことだ!…魔人とは、諸君らが知る通り魔物の力を手にした人間のことだ。しかしこれは知っていたか?魔王とはこの世界に異を唱えた神であるということ、魔物とは神が遣わせた人類への罰だということ、そして魔人とは…罰をその身に受け入れ神の加護を賜った存在だと云うことを!…今アムラハンを中心とした各地では、魔人を野蛮で獰猛な生物兵器と捉える誘導が行われている。古来より先祖代々と亘って魔人の助力で馬車を乗り継ぎ、生かされてきた人類は彼らの恩を仇で返しているのだ!これを知っていた者はいるか!?国王と偽る未熟者の独裁に勘づいた者はいるか!?…いるならばいい、そうでなくとも今気づけた者がいるならばそれもまた良し。未だ気付けず、見ようともしない者達はこの場を無言で去るがいい。そしてこの場に残った君達こそ、魔王様に選ばれし新人類だ!力を受け取るに相応しい心の持ち主だ!…我々は魔人として、今いる人類より遥かに精良な人種として、魔王様はもとより魔物達の配下へと下っている。…永年魔物と敵対していた君達には抵抗のある話ではあろう。魔物達に敗北したように感じる者もいるだろう。それは仕方の無いことだ。しかし、不完全な人間の統治する世界に生きることと、善良たる神の統治する新世界に生きることのどちらが正しいのかを考えてみよ!人類としてのプライドなどと宣う者は、今の人間にプライドがあるかと疑ってみよ!右翼思想の人々は、今そうして羽を休めているその枝がいつ折れるとも知れないものであることを自覚せよ!我々は次なるステージへの旅立ちを迫られたのだ!その総帥たるは私、ダムア・ファル・ケイトリンである!魔王様の統治する新世界に我ら魔人の大国を築く!賛同する者は家も資産もこの場に捨てて、この隊列に加わるがいい!醜い人の心から解き放たれ、絶対の安寧を手にするのは究極の至福である!魔王様を新たに自らの神と信仰する者も、私を新たな主として崇め、争い無き大国を共に築く志を持つ者も一同に、私の下に列を成すがいい!」
民衆が群れる中心に、護衛も付けず、行動不能に陥れた魔人達で作った小山の傍で演説を行うリード。ツェデクスの部下達は聴衆から僅かに離れて横隊となり、その演説を端から見守っている。彼は赤い鎧と盾、そして白いマントを纏い、右手には抜き身の赤いロングソードを提げている。その声量と澄んだ声音、そして胸の奥から感情を呼び起こすような謳い文句で聴衆の喝采を博する。…彼は逸早く俺の接近に気が付いて振り返る。その顔は険しく、印象ばかり老け込んで、そして目は悲しそうに萎んでいた。
「リードォォオオッ!」
雄叫びを上げて頭上から斬り掛かった俺の太刀筋を容易に捉え、彼は自身の剣で刃を防ぐ。砂埃を巻き上げ、唾競り合いのまま着地して向かい合う。両手持ちで押す俺に対して彼は片手で軽々と拮抗する。衝撃に揺れる彼の髪は紅梅に染まり、肌は仄かに青白く、瞳はパープルに輝いている。…その光の眩さは、ヨヒラ達のそれと同等とすら見えた。
聴衆は悲鳴と共に去り、ツェデクスの隊列はこの騒動に戸惑い慌てる。「ダムア様!」と耳に馴染んだ女の声…。見れば隊列の先頭には3人の女性が立ち、それぞれが人々の警戒を仰がぬための配慮かドレスを纏っていた。その声の主はやはりレシナだった。彼女は嘗てクリスが着させられていた物と同じ足首丈の青いドレスを纏い、想定通りの邪魔が入ったと告げるように憎らしげな視線を俺に向けて叫んでいた。
彼女はもうリードの操り人形として思想の根深い所まで侵されている。殆ど救いようが無いだろう。…それよりも、俺の眼を引いたのはもう1人の女性だった。…レシナと、白いドレスの赤髪の女性との間に、あの時にも見た赤いドレスを着た姿があった。ボブの銀髪をダイヤの装飾で彩り、その華やかさに相反して死人の様相でいる…あの日のままのミファがそこにいた。
俺は思わず息を呑み、しかしその隙を狙われる危険を思い出して強引に刃を薙ぎながらリードから距離を取った。しかし、奇妙ながら彼はその隙の間に率先して攻撃を仕掛けようとした痕跡も、その素振りも無く、ただ離れていった俺を見て少し笑っただけだった。…以前見たような芝居掛かった爽やかな笑みではなく、不器用で不格好な、それでいて人懐っこい印象にだけ説得力が宿ったような、そんな不気味な笑顔だった。
「レム、待ってたよ。お前なら必ず真っ先に駆けつけると思ったんだ。本当はもっと早くにこの街を訪れるつもりだったが思わぬいざこざが続いてね。それはさておき、君にも来てもらいたいんだ。僕達ツェデクスの一員として迎え入れたい。どうだい、俺とお前の仲だろ?来てくれないか?」
「…何を……」
両腕を広げて笑い掛け、ツェデクスの頭領として立場を省みずに話し掛ける彼の姿に俺は言葉を失った。…これが、本当にこの男が、クリスやレシナ、他にも数多くの人々を罠に嵌めて支配してきたあのリードなのだろうか。…口調は出鱈目、発言は稚拙、その発想も短絡的で単方向だ。…こんなにも頭の悪い男だった覚えは無い。……こんな、安っぽいような男が、クリスをあんな目に遭わせただなんて…そんなはずは決してない…!
「なぁ、レム。来てくれ、俺と…」
「……馬鹿げたことを…言うなぁぁあああああッ!!」
彼の過去など、負の連鎖などもうどうでもいい。この男をこれ以上好きにはさせない。させて堪るものか。此処で息の根を止めてやる。
再び斬り掛かった俺に、リードは防戦に徹して一切の反撃を見せない。袈裟も、薙ぎも、斬り上げも、全て先回りした彼の剣に阻まれて、一向に彼の胴に届かない。収まりのつかない感情だけが膨らんで、仕舞いきれずに溢れ出る。
「誰がお前の仲間になんか…!お前は俺から全てを奪ったんだ!忘れたとは言わせねぇぞ!…クリスも、リーベルもお前のせいで…!人間達を悪鬼に変えた元凶もお前だ!その自作自演の革命劇も全部此処で終わらせてやる!」
「人間達は勝手に狂ったんだ!俺はそこまで期待しちゃいなかった!嬉しい誤算ではあったが、俺のせいじゃない!」
「こ、こいつ…!言うに事欠いてっ……リード…てめぇは此処で刺し違えても殺す!てめぇだけは生かしておかねぇ!!」
心が熱く滾っても剣戟では敵わない。頭だけは冷静でいるように努め、すぐに戦法を変えた。逆袈裟を防がせて正面から身を寄せて、視界を狭めて出来た死角でひっそりと『フリーズ』を放つ。油断があったのか彼の足下は抵抗も無く凍り付き、俺はすぐに後退って間合いに揃えた。
…彼は俺の行為に驚いていた。俺が本気で攻撃するとは思わなかったとでも言うように、彼の顔は困惑していた。焦って刃を顔の前に構えた彼に合わせて左薙ぎを真っ直ぐ脇へと払うも、強固な鎧に一筋傷を付けただけで、舌を打って間合いの外で下段に構え直す。
追加で『フリーズ』を仕掛けようと左手を伸ばした所へ、「レム!」と後方からメーティスが駆けてきて、俺は手を止めて振り返る。彼女は全身に魔鋼の装備を揃えており、他に誰も連れていないことを見るに独断で駆けつけたのだろう。まだ距離は離れているが、心配した表情が窺えた。
彼女の参戦に危機感を覚えたらしいレシナが「ダムア様、ここは撤退を…!」と駆け出したのが聞こえた。俺はすぐにリードの方へ顔を向け直し、取り繕いもせず本音をぶちまけた。共に戦おうとする彼女への感謝などは無い。俺は自分の手でリードを殺したかった。そんな俺にとって、現れた彼女は邪魔でしかなかったのだ。
「「黙って見てろ、手を出すな!!」」
俺とリードの声が重なり、メーティスもレシナも息を呑んで足を止めた。戦いを眺めるミファは表情に何の感情も映さず、隣で表情を険しくさせている赤髪の女性に庇うように抱かれている。女性が殆どを占める隊列は一様に困惑を抜け出し、ただただ諦観を決め込んでいる。…リード自身も危機的状況にはないのだが、それにしても彼女らの信頼も関心も無いその反応には疑問を持たざるを得なかった。
俺と発言が重複して何が嬉しいのか、リードはニタリと俺に笑い掛ける。それに睨み返していると、彼の笑顔も徐々に沈んでその内嘆くように俯いた。
「…どうして…どうしてだ!?お前さえ来てくれればミファはきっとまた以前の笑顔を取り戻す!お前だってツェデクスに加わらなければ魔王の手で滅ぼされるしかないんだ!俺と一緒に来ればいいだろうが!」
「…お前に俺の今後を案じられる謂れは無い。ミファが笑わなくなっただぁ…?お前のせいだろ、ふざけんな。クリスもミファもお前が壊した!お前は此処で殺して、ミファも此処で返してもらう…!」
「違う、違う違う…!俺は、俺だって、僕は…!こんなことしたくなかった!もう世界を救うにはこれしかないから、そのためには犠牲も仕方なかった!……やめろ…うるさい!黙れ黙れ黙れ!いつまでも喚くなクソ女!てめぇなんか犯されてればいいんだクソがぁッ!!」
リードは左手で額をキリキリと押さえ、息切れを起こして叫びながら駆け出した。足下の氷はとっくに溶けて、彼は漸く俺を攻撃する気になったらしい。そうでなくては俺も満足に殺意をぶつけられない。…しかし、全力を出した彼はもはや俺が相手を出来るレベルではなかった。
全ての挙動が遥かに俺の先を行き、眼にも止まらぬ唐竹の初擊を辛うじて予測だけで防ぐ。しかし、直後彼は速やかに刃を滑らせて払うとその流れのまま回転して左薙ぎを繰り出し、その剰りの速度に此方は対応出来ない。『手を出すな』と声を荒げた癖にこの体たらくだ、情けないにも程がある。
俺の後悔とは他所に「レム…!」と再び悲鳴のように叫んだメーティスが、何らかの召喚と同時に背後から俺諸とも『ウィンド』を放った。突風に足を踏ん張り身動きの止まった彼に向け、その召喚獣は突進を食らわせる。しかしその非力な攻撃ではリードを突き飛ばすには至らず、俺に撤退の隙を作ってくれた程度だった。
現れたそれはユニオナルファだった。白い孔雀の胴と翼、尾はガブノレのもので、全身の毛先が空色に滲んでいる。雌鹿の四肢と頭部、そして白い体毛の下に覗く金色の肌はペリュトンから受け継いだものだ。ガブノレとペリュトンを掛け合わせたその容姿が、日の下で地面に異様な影を伸ばす。その影は髪の短い成人女性の裸のように映り、俺の眼にはそれがメーティス本人の影のように見えた。
ユニオナルファの身体能力と精神力はペリュトンに劣るものの、魔法は『ウィンド』に加えて『スリープ』も扱える。彼女はリードが背を押さえ付けて怒りのまま剣を逆手に振り上げると、即座に彼と眼を合わせ、ガブノレ以上の精神力を以てその『スリープ』を解き放った。
しかし、それでもリードには敵わない。彼は睡眠を誘発されることなくその剣を突き刺し、その一撃でユニオナルファの召喚が解けていく。敢えない幕切れとなってしまった。しかし、彼女の行為は無駄にはならない。彼女の肉体が薄まっていく間リードの動きは完全に止まっていた。それは彼女が生み出した絶好の機会だった。
俺は間合いを開いてすぐ彼女諸ともリードを凍り付けにした。間も無く彼女は消失し、リードは此方を睨んだまま足先から頭頂まで氷の中に閉じ込められ、その氷筍から手の甲が飛び出ている。俺は透かさずその手に触れてMPも気にせず時間が許す限り『コールド』を連発する。
「リード様っ!!」
とうとうレシナが此方に駆け出してきた。メーティスは彼女への対処とリードへの『ウィンド』とを天秤に掛けた結果、好機を逃してはならないと判断しペリュトンを召喚した。登場から既に発汗を起こしているペリュトンが俺と並んでリードに『ウィンド』を掛けている所へ、魔法で高速化したレシナが一気に迫ってくる。
彼女は勢いのまま俺を蹴り飛ばした。身構えていなかった俺は呆気なく転がっていき地面に膝をつく。しかしレシナはその攻撃で足を止めてしまったため、即座にペリュトンの『ウィンド』を零距離で受けてしまう。彼女は突風に襲われて数m先まで飛ばされていった。
そして俺を見て安心し息をついたペリュトンの腹を素早く左手が貫く。見れば氷が砕かれて、怒りに顔を染めて激しく睨むリードが飛び出していた。ペリュトンはその口から血の泡を吐きながら決死の『ウィンド』を放ち、風を推進力にリードの腕から逃れて地面を転がった。しかしその抵抗も虚しく剣を投げられ、その追撃によって消失していった。振り向いて見るとメーティスは即座に祈りに入り、俺はその間の護衛を務めるべく立ち上がる。今や彼女を邪魔などと一蹴は出来ない。彼女が助けてくれなければ俺は敗けていた。
リードはメーティスとレシナとに眼を移すと憎らしげに眉を寄せ、「女が邪魔を……」と毒づいた。そして俺を見ると、彼はその瞳を潤ませて叫んだ。それは剰りにもみすぼらしく、情けない子供の駄々のようだった。
「…何でだ…!何でなんだよ!別に俺を選ばなくてもいい、どうしてミファを選んでくれないんだ!どうしてクリスに拘るんだ!?君がミファを選んでくれていればこんな話にはなってない!君がミファを支えてやれば、君がミファの理解者になっていればミファだってこんなにも自分を責めなかった!こんな風に壊れることもなかったはずなんだ!それで君も俺と一緒に来てくれて、俺達だけでも仲良くやっていけたはずだ!何もかも上手く出来たはずじゃないか!!」
「…何故…何故だと…!?何故と言うなら此方だってそうだ!お前はクリスの記憶を見たんだろ!?クリスの過去を知ったんだ、誘拐中も繰り返しその心境を直視できたんだ!それなのに何でお前はクリスをあんな目に遭わせられた!?彼女の気持ちを知っていてどうしてあんなことをした!?作戦のため、計画のため、そればっかりで、本当にお前はそんなことのためにあの子の心を踏みにじれたのか!?」
互いに感情だけをぶつけ合う。それはもはや会話ですらない。俺は地面に刺さったままの剣をメーティスの傍まで弾き飛ばし、再びリードと戦い始めた。メーティスのお蔭で速度はほぼ互角、攻撃も先程と違いある程度は通るようになったが、言葉を重ねる程に冷静さに欠いていく俺達は両者ともに詰まらない攻撃に翻弄され合う。読み合いも何も無くただ攻撃を避け合い、先攻を取れた者が攻撃を仕掛ける。邪魔の無いよう放たれた『アフレイム』の紫の炎が俺達を囲い、その中でただそれを繰り返す。彼のロングソードは外に放られたまま、レシナも炎があってはどうしようもなく加勢し倦ねているようだ。此方は拳の一撃、彼方は刃の一撃を易々と食らい、また攻撃を避け合うだけの戦いが続く。
炎の外で大勢の足音が響き、「あれは…!?」とマイクの声が上がる。応援が着いたようだ。その声にメーティスも祈りをやめて「レムとリードが戦闘中です!」と返していた。そしてまた足音が僅かに響き始めた所に「待って、彼に任せてください!」とメーティスが訴えていた。そこへ真っ先にゾルガーロが怒鳴り返す。
「何を馬鹿なことを!レムリアド1人であれを相手になど…」
「お願いします!リードは…ダムアはレムの因縁の相手です!ちゃんと彼の手で始末をつけさせてあげてください!お願いします!」
「黙れ!これは遊びじゃないんだ!下手をすればあのままレムリアドも…!」
待てゾルガーロ、とマイクが制止した。炎の外の光景は分からないが、腕で制してでもいるのか彼の声はゾルガーロより近かった。
「…あいつに任せよう!どのみちあの火の中には飛び込めない!今はそれより、向こうに待機してるツェデクスの連中を――…何だ…何だあれは!?何やってるんだ奴らは!?」
冷静に制していたと思いきやマイクの声が急に切迫する。そんな外の情報に左右された隙を狙ってリードはチャームソードの刃を掴み、その痛みも捨て置いて俺の胴を蹴り飛ばす。俺はそのまま地面に倒れて夥しく汗を噴き、彼は剣を炎へ投げる。武器を無くした俺に向かって彼は刺突を繰り出す体勢で迫り来る。未だ炎の外では慌ただしく怒号が錯綜している中、最期の一撃に賭けようと立ち上がった俺の前に、炎を突き破りロングソードを抱えたレシナが躍り出た。彼女は焦げ付いて穴の開いたドレスを洪水のような汗でその身体に張り付かせ、涙を流して俺に叫んだ。
「もうやめて!これ以上リード様を責めないで!もう報いなら受けたのよ!クリスティーネの記憶とレベル上昇の影響で、もう…!」
俺はそれに立ち止まった。しかし、リードは止まらなかった。彼は苛立たしくレシナを横に打ち飛ばすと、ゴミを見るような眼で見つめて手を翳した。そしてレシナの腕から離れた赤いロングソードが俺の足下に転がり、俺は透かさずそれを掴み取った。
「邪魔をするなと聞こえなかったか!?役立たずは消え失せろぉぉおおお!!」
紫の炎が燃え盛りレシナの身体と悲鳴をその内に閉じ込める。俺は彼の注意が逸れた今に全身全霊を懸け、肩から脇へと真っ二つに斬り裂いた。彼は姿勢のバランスを失って対処できないまま振り返り、俺は駄目押しに彼の胸に左手を突き立てて『バイオ』を掛ける。身体が繋がった瞬間、彼は俺を振り払い、その腕に打たれた俺は肌を灰色に変色してその場に倒れる。
剣は先端を地に立て、それからゆっくりと倒れていく。息を切らして怒りを眼で投げ掛けていた彼は、数秒して同じく身体を灰色に変色させてその場に倒れた。炎が晴れ、曇り空で薄暗くなった街並みが一層黒々と映る中、レシナは黒く染まりながら小さく口を動かしていた。その顔は長い髪に大部分を隠されていたが、桃色の毛を掻き分けて僅かばかりの輝きがひっそりと頬を伝って落ちるのは見届けられた。
「…ご…めん……な………さ……………ル……………――」
レシナはそう残して黒い液体と化した。地を舐める俺を眼にしてメーティスは金切るように俺の名を呼びながら駆け寄り横に膝を突いた。遅れて駆けつけたレイラの『コネクト』が効くまでの僅かな時間にも、彼女は俺の肩を揺すって名を呼び掛けていた。
「…大丈夫だ…メーティス、勝ったよ俺…。…もう、大丈夫だ……」
メーティスは起き上がった俺に必死にしがみつき、人目も憚らず号泣していた。…戦いが終わるまで不安を抑えて待ってくれていたのだろう。俺は彼女に微笑み掛けて頭を撫でながら、すぐ傍に仰向けになったリードを見下ろした。
彼は妙に晴れ晴れとした笑みを浮かべて俺を見つめ、訴えるような力強い眼で告げた。
「…殺してくれ……お前に殺されるなら、俺は本望だ…」
俺は眼を足下に転がる剣に移し、そして泣き続けるメーティスへと移した。彼へと向けていた憎悪や、クリスを取り巻く全てへの悲しみ、そしてメーティスと交わした言葉の数々を思い起こし、それを彼への返事とした。
「…殺さない。お前はツェデクスの最重要人物だ。全てを明かしてもらうまで殺す訳にはいかない。…それに……彼女のためにも、俺は人殺しにはならない」
「…そうか、…仕方…無いな」
リードはそう呟いて目を瞑る。諦めたと云うには、随分と納得した顔付きだった。そこへ一発の銃声が轟いた。…弾丸は正確にリードの胸を貫き、リードは観念した様子で黒く染まって溶けていく。レイラ、メーティスと続き、俺も銃声の源へ視線を向けた。突如として降り始めた雨が矢継ぎ早に勢いを増し、俺達の身体をさめざめと濡らす。
大勢いたツェデクスの部下達は皆炎の中に横たわり、彼方此方に不発の爆炎弾と火炎瓶の破片が転がっている。赤髪の女もマイクとゾルガーロの手で斬り伏せられて行動不能になり踞る。…その手前に、教員達に囲まれて武器を向けられたミファの姿があり、彼女は硝煙を上げる拳銃をしっかりと右手に握っていた。
…リードを殺した彼女の意図は知らない。彼を憎んでいたのかも、彼にこの処理を予め命じられていたのかも分からない。ただ、今彼女を縛る物は何も無く、俺達が彼女を取り戻すことが出来る確実な機会だった。俺とメーティスは、共に立って一歩一歩を踏みしめながら彼女の前へと進んだ。
「…ミファ、無事で良かった。…帰ってきてくれ。俺達にはお前が必要なんだ。また一緒に街で遊ぼう。また一緒に楽しく話そう。…クリスはもう傍にいないけど、それでもお前が帰ってくれたら、俺達はまたあの懐かしい時間に近付いていけるんだ」
メーティスは何も言わず、濡れた目でじっとミファを見つめた。その視線は語るよりも雄弁にミファを求め、迎え入れる気持ちを伝えようとしていた。しかしミファは、死人のような暗い表情を変えることなくゆっくりと首を横に振った。
「…私はこっち側です。もう戻れません。お兄ちゃんと、お姉ちゃんと…、一緒に地獄に落ちてきます」
彼女は一瞬だけ、かつて向けてくれた無邪気で優しい笑顔を儚く浮かべた。俺達は神々しくさえある彼女の笑顔に言葉を失う。
「…ばいばい……私の…もう1人のお兄ちゃん…」
彼女の身体を包んだ風が竜巻のように激しくなり、その猛烈な風は空気圧の刃を生んで拷問のようにジリジリと彼女の身体を傷つける。俺達は風に押されて近付けなかった。名前を呼び掛けて喚く俺達の前で、彼女は血の池と肉片に変わり果て、緩まった風と共にその命は空へと還っていった。
レム
Lv.24 HP63 MP48 攻103(75) 防55(50) 速75 精25 属性:氷
装備 旅人の服(防5) 魔鋼製バイオレットチャームソード(攻28、使用MP5減少、耐55000)
持ち物 無し
黒魔法 コールド(50秒間防10低下、消費MP6)、
バイオ(毒、消費MP6)、
フリーズ(防20低下、10秒停止、消費MP12)
メーティス
Lv.24 HP82 MP24 攻51(25) 防250(50) 速75 精49 属性:炎
装備 魔鋼の鎧(防60) 魔鋼の兜(防60) 魔鋼の盾(防80) 魔鋼製メイス(攻26、耐30000)
持ち物 無し
コマンド 祈りLv.2(1秒でMP1回復)、召喚Lv.2(次の召喚へのインターバルが無い)
召喚 ガブノレ、ペリュトン、ユニオナルファ(5秒でMP1消費)
ガブノレ
HP20 攻30 防20 速30 精15 耐性:なし
行動 引っ掻く、突つく、飛翔、スリープ(相手を眠らせる、消費MP8)
ペリュトン
HP100 攻30 防30 速60 精50 耐性:風
行動 突撃、飛翔、
ウィンド(3m飛ばす、50秒間速10低下、消費MP3)、
ブレイド(ダメージ20、10m飛ばす、50秒間速20低下、消費MP12)
ユニオナルファ
HP60 攻30 防25 速45 精32 耐性:風
行動 突撃、飛翔、ウィンド、スリープ
リード
Lv.35 HP46 MP70 攻178(108) 防252(72) 速108 精75 属性:炎 経験値3400000 金17000
装備 セネメイトメイル(防80)セネメイトシールド(防100) 耐火マント(防0、炎上状態を防ぐ) セネメイト製ロングソード(攻70、耐5500000)
黒魔法 フレイム((秒数×1.2)小数点以上分ダメージ、60秒後消火、消費MP10)、
ミフレイム((秒数×6)ダメージ、消費MP20)、
アフレイム((秒数×10)ダメージ、消費MP30)、
スリープ(相手を眠らせる、消費MP8)




