第12話 母という他人
ノクシア「私にも色々あったんだよ」
エルン「どんな事?」
ノクシアはお茶を啜ってから、少しずつ話し出した。
ノクシア「昔は私も割といい仕事をしていたんだけどね。ある日、お店の常連さんに食事に誘われて、そこでプロポーズされたんだよ」
エルン「それがお父さん?」
ノクシア「うん」
ノクシアはまたお茶を啜る。
そして、台布巾でちゃぶ台の自分の近くだけ拭いて、それを元のところに戻す。
ノクシア「それで婚約してから、私の実家に来た時なんだけど、エルンのおじいちゃんが『嫁にやるなら三食昼寝付きだぞ!』って言ったら、お父さん怒って、おじいちゃんの事殴ったの」
エルン「それでどうなったの?」
ノクシア「私、こんな暴力振るう人となんか結婚したくないって言ったら、おばあちゃんが『もう嫁入り道具買っちゃったんだから嫁に行きな!』って言うから結婚したんだよ」
エルン「酷い!みんな無責任よ!でも、それと私を捨てた事に何の関係があるの?」
ノクシアは台布巾を片手で触り指を拭きながら言う。
ノクシア「結婚してからも酷かったんだよ。お父さんは酒乱でね。私のお腹の中にエルンが入ってる時に私のお腹を殴るんだよ」
エルン「え、じゃあ私がお母さんのお腹にいる時に殴られてたって事?」
ノクシア「うん、しょっちゅうだったんだよ。流産するんじゃないかって心配だったよ」
エルン「でも私は生まれたって事?」
ノクシア「でもそれからも色々あってね。エルンが生まれてから親戚回りをしたんだけど、その時もこの子が生まれましたって見せると、みんな可愛いって言うけど、離れたところでヒソヒソ話してるんだよ」
エルン「みんな何て言ってたの?」
ノクシア「女の子なんか産んでって悪口言ってるんだよ。その後帰る時に挨拶すると、白い目で見られてたんだよ」
エルン「女の子の何処が悪いの!?男でも女でもどっちでも可愛いでしょ!」
ノクシア「そうだよね、普通そうだよね」
エルン「それで私を捨てたの?」
ノクシア「お父さんに相談したら『やっぱり一番上は長男じゃないとダメだ!』って言うからね」
エルン「それで全部?」
ノクシア「大体ね」
エルン「本当は?」
ノクシア「う、うん。まあ、私よりエルンの方が若いから可愛がられるんじゃないかなって思ったんだよ」
エルン「自分よりも可愛いから邪魔になって捨てたって事?」
ノクシア「まあ、少しは考えたかも。でもお母さんも寂しかったんだよ!エルン元気かな?ご飯食べてるかな?って」
エルンは腹が立っていたが、それを通り越して呆れ返った。
エルン「分かったわ。その事はもう忘れてあげる。その代わり貴女達が持ってる宝珠を返して!」
ノクシア「あれは…」
タール「ああ、分かった分かった」
そう言うとタールはステージの上のちゃぶ台から離れた所にある宝箱の中から光る大きい楕円の玉を両手で取り出して持って来た」
タール「ほらよ」
エルンはタールからそれを両手で受け取った。
すると、光る楕円の玉の光が瞬間的に強く光った。
エルン「これが世界を支える宝珠なの?」
ルドアード「間違いありません。確かに本物です」
エルン「え、本当に返してくれるの!?」
タール「ああ、俺からの差し入れだ」
ノクシアが慌ててタールに言う。
ノクシア「タール何やってんの!あれが無いとうちは暮らしていけないんだよ!お母さんまた働くなんて出来ないよ!」
タール「あ、うん。そこまで考えてなかったから。あ、やっぱ、それ返して」
既にその時、エルンとルドアードはステージの端で靴を履いて階段を降りていた。
そしてエルンの世界に戻った。




