<氣>自分自身の特技特性を知る
◇
日が暮れるまで、まだ時間がある。
ついさっきもらったペイントボールや地雷?を確かめてもいいかもと思って、王都の外の草原で瞑想ついでに検証しようと近い門のまで足を運ぶ。
話は変わるが、お金の使い方についてどうするかを決めかねている。賭けで勝った配当金をどうにかしたい。降って湧いた金。勝ち負けで勝った金。人のエゴまみれの金。言い方は色々あるが、こういったお金は早く使うに限る。
何に使うか。非常に悩む。見栄による贅沢は喜び一瞬消えるも一瞬。所持金は潤沢にあるわけではないのだから、ちゃんと先を見据えた上で自己への投資がいいだろう。悩むようなことではなかった。
装備に使う。道具、生活用品、情報も必要だろう。いつかは王都より離れた地で生活をする。
今所持している道具は何だったか。
ナイフ、服複数、アイテム袋(ペイントボール、地雷?)、ギルドカード、魔物解体新書、普通の袋
…少ないな。地球にいた頃は本とかがぎっしり部屋を詰めていて寝床の場所しかなかったから、新鮮かも。ほぼこの所持品だけで約一カ月の生活してきたが、不便を感じず逆に動きやすい。開放感すらある。
基本していることといえば、瞑想しているか、依頼か、宿にいるかだものなとナノスは苦笑いする。地球にいた頃では考えられないほどシンプルだからな。ここでの娯楽は夜の歓楽街があるがナノスは合わなかった。食わず嫌いは良くないかと思い、一回回ってみて試しに入ってみて利用したのだが、特段何も感じなかった。体による不調だろうか。ご飯は美味しかったし歌を聴いて良かったと感じるのだから、感性の問題かも知れない。別段不便はないので放置でいいだろう。
話を戻すが、地球にいた頃は割り振られた仕事をこなして休みの日は趣味に費やす。ゆっくりのんびりしていたなと今なら思う。あれでも毎日が楽しかったからなと笑う。
明日のためというより今日の俺が何を与えられたらうれしいか
とふとそう思えば
不思議と、静まる大河の凪に天から一滴の水がぽちょんと落ちるが如く、逃すまいとこれまた不思議なことに即断即決した。
よし、装備を買おうと。
マントとかどうだろう。
明日大商店に行ってみるとしよう。
理想の思いを汲み取り言葉にし口にして行動を決めた。明日はもちろんその先の未来を見たように楽しいうれしい日々を送る。それがあたかも叶っているように過ごしていく。
風が吹き黒い髪を揺らす。ナノスは草原を眺めて風が身体を通り過ぎるのを楽しむ。
これから修行、内なる導きに従って瞑想を始める。自分自身との対話。地球にいた頃はできなかったこと。忙しなく過ぎていく日常にほんの少しでも自身と向き合う時がつくれたら、今思うこともまた違っているだろう。
たらればの話で、今なら上手くいきそう。どうなる知らないけれどすごく楽しいワクワクする気がする。成長する気が満ちている。
両手を翼のように広げ風、大気を身に受ける。
草の声。サーー。
日差しは温かい。
風と日混じった温風の温もりに包まれる。
足に当たる草の名はなんだろう。
草はカサカサとなる。
肌にあたればくすぐったそうだ。
これら全て他に与えられたもの。
感じる五感も肉体の力。
(すごいなぁ)
俺にはできないことをしてくれている。体験させてくれる。
未だ人類が理解できない身体が喜んでいるのがわかる。楽しんでいるのがわかる。身体が楽しければ自分も楽しく感じる。
今この時がなければ得られなかった楽しさ。
今ここを感じようと耳をずせなければこの一瞬の楽しさ嬉しい出来事を気づかずに行ってしまうのだろう。もったいなかったが、それを感じることも得難いもので、その思考を手放しこの一瞬一瞬を皆と楽しみたいと想像の翼を広げる。
手を打ってみた。手を上げ下げしてみる。回った。
轟轟唸ってきた風は楽しそうに踊っているような気がした。さながらお祭り。
大地に座る。
大地に寝転がる。大地と一体化して肉体の鼓動と大地の鼓動とが連動してような気分になる。じんわり温かい地面に身体は緩む。身を委ねすぎると意識を持っていかれそうだ。
それをしてしまうと、寝てしまいそうで想像したら面白くて笑っている自分がいる。やりたいけれど、寝落ちすれば確実に寝過ごす。門が閉まって野宿する羽目になるのは勘弁だ。それに瞑想中のあれこれに反応するのは自我に引っ張られている証拠。楽しいはいいけれど無心に還ることに意味がある。
(あったけぇ〜)
温もりをもっと感じていたくて。冷静になって考えてみたらこの時すでに自我になっていて、冷めたら横に転がって大地の温もりを求める。まるで赤ん坊だなと思った。
感じることに集中していると時間の感覚を忘れそうで瞑想するつもするつもりが自然と遊んでいた。まあそれもいいかとナノスは思う。気持ちいいのは間違いなくて幸せだと思うからこれもいいものだ。
だんだん深層に沈んで肉体を脱いだような感覚がしばしば続く。
ふわっふわっーー
ふと、意識が急上昇して目を覚ました。引っ張り戻された感覚に何が起きた?と思った疑問を吹き飛ばす光景。
「は?え?!」
辺りはすでに日が沈んで薄暗い。身を起こして、太陽があった方角を見れば、ちょうど日が沈んだ直後のようだ。
「そんな…」
王都を見る。
すっかり暗くなった王都は、上空に明るい人工の光が映っている。
「ちょ!?ちょっと待って!」
とナノスは声を現した。
どうしてそんなに急いで声を上げたのか。門を閉めようとする人影を見ればさもありなん。慌てん坊さながら駆けていく。
ゴロゴロして汚した衣服が乱れいているのにお構いなし、全速力。
まったく慌てん坊だな。
この時ナノスは気づいていなかった。自然との対話で氣の調和が起き、身体調和が起きていたことで世界陸上記録よりも早かったことを。
そして、身体から星屑のような粒子が流れていったことを。
ギリギリなんとか間に合って人一人通れそうな幅を広げて待ってくれた。
ギルドカードを提示して無事王都内に入れてもらうことができた。
飛び込み注意を受け反省する。賊と間違うこともあるから注意とかあるんだな。乱暴な態度だったら入れていなかったとも言っていた。日頃の行いに感謝しかないな。
乱暴な態度が常だったら入れてもらえてなかったってことだろ?日頃相手を不快にさせないように尊重する生き方をしてくれていた過去の全てに感謝だ。
「あいやー、びっくりした」とナノスはこぼす。
気づいたら日を落ちている。寝過ごしていた自分が悪いのだけれども時間どこいったと?草原に来た時は日が真上にあったことからして数時間いたことになる。魔物とかいるだろうに気づかないとかある?どんだけ寝たんだよ。おかげさまですっきり快調ですよ。ありがとうございます。
時刻を知らせる鐘が門にもある。先ほど門兵に聞いたら鳴らしたといっていた。
不思議なことがあるもんだ。気づくはずのことに気づかないなんて。
考えても答えが出ないものは、知るのは今じゃないと感じて、知りたいと思うけれど、答えが出ないだろうし。
きっと一ピースが足りないとかそんなことだろうなと感じるから、考えるのはここまでにしてナノスは身体が軽いのを気分が良いからだと勘違いとも勘違いではないことを思いながら、宿へと帰る。
過ぎ去る街頭の明かり建物内の賑やかな明かり。一人じゃない。この街の一部だ。暗闇が足元を覆うけれど足はしっかりと大地を踏み身体を支える。
しかし、今の今まで気持ちが良かった。大気に大地に身を委ねるのは楽しかった。万能感とでも言うのだろうか、その時の良さがまだ残留している。またしたいと思う。気分もすっきり爽快。お目目ぱっちりだ。もっと色んなものと出会いまつろう感覚を感じたい知りたいと思う。
少し肌寒くなってきた。
駆け足で小鳥の安らぎ亭に辿り着くと、ほうと息を吐いて扉を開ける。
気分高揚続いているナノスの声はよく通った。
女将が食事処から出てくる。
見知った宿泊客が帰ってきたのを見て、微笑んで出迎えてくれた。
「おかえりなさい。楽しいことがありましたか?」
とナノスの顔を見て女将が聞いてくる。
「ええ、ありました。でもそのおかげで危うく王都に入れなくなる所でした」
と、輝く目が次第に落ち着いてくる。それでも楽しそうな表情を浮かべているナノス。
どんなことがあったのか聞こうとしたがナノスの目線が食事処へ向いているのに気づき、ナノスを食事処へと案内する。
あまりに普段と雰囲気が違うナノス。
入った瞬間それなりに目立ったナノスだが、数歩歩けば視線は各々元の場所へ入り混じり食事や会話が再開される。影が薄くなるのはなかなかに優れた芸当である。染みついた癖はなかなか手放せない。しかし、ここ最近は馴染むことに注視していて、周囲の気配に馴染むことを疎かにしていた。その意識が目立つ存在に押し上げていた。
そんなナノスの急激な変化に女将ローザはびっくりしている。見た目弱そうに見えてもあれなのだ。
ローザの内面に気づかずナノスはいつもの席が空いているのを視認すると、そこを目指し座る。
「楽しみにしています」
何をと言う所だろうが、ここは食事処で何が出るか周りをチラリと見ながらの一言だったおかげで、ローザはナノスの言ったことを理解し、少々お待ちくださいねと言って厨房へと向かった。
「お待たせしました。今日のメニューはビーフシチューです」
目を閉じて話し声をそらんでいると、熱そうな湯気揺蕩うビーフシチューがテーブルに乗せられた。パンとサラダと果物盛りが並べられている。
ローザはごゆっくりと言って厨房へ下がる。ローザに礼を言って、静かに柏手を打つ。
「いただきます」
スプーンを手に取り、ビーフシチューを掬い口にいれる。
(美味しい)
野菜の甘みが噛めば噛むほど美味となってシチューと混じり合い、調和のとれたビーフシチューに次の手が伸びる。
パンはパンで直前まで温めて提供されるおかげか、しっとりふわふわで香ばしい麦が鼻口をくすぐる。とても美味しい。
野菜や果物はみずみずしさを保ち、素材本来の味を十分に感じられて、火照った身体にいい冷却作用をしている。
全体的とてもバランス良い食事で、美味しい、楽しい、幸せなどと幸せホルモンがでているような幸福感に満たされている。言葉にすると十度に伝えることできないのがもどかしい。言葉にすると、主観から見てナノスを介して伝えることになるので、ナノスが適切な言葉に変換できない時、似たような言葉で訳して伝えていくことになる。だからもどかしい。
けれども、うまい、美味しい、楽しい、嬉しいそういう原始的な思いが伝われば良いかなと思っている。
ビーフシチューセットを食べる順番を変えて食べるとまた新鮮。毎回同じ順番だと単調になって味わうことを二の次にして口に入れるだけになってしまいかねない。より気分を上げるために食べたい物を口に入れよく噛んで食べる。味わった余韻から次の物を決める。自発的に呼吸を意識するのと同じように、体の食べたい物を感じ手に取る。
今思えば、テレビやスマホを見ながらしながらの食事は、ひどくもったいなかったなと思うナノス。今の気づきに経験で得たなにものにも変えがたい価値があるなと思う。悪知らなければ善いらず改心抱けずと言うからに今学び機会だっただけだろう。嬉しいね。
事故で障害を負った者は、その部位を見て何を学ぶだろうか。暴飲暴食をして体の至る所に患う者は、患った部位を痛みとして味わいながら生き続けるだろう。人を傷つけその人との縁がなくなった時も、人生は続く。
悲観する必要はない。そこから何を学ぶか、その経験を通して何を学んだかで今の人生を物語る。してはならないと分かったら、金輪際しない。実践して、改めて生まれ変わる。必要な気づきのために経験したことはあったし、必要な気づきに気づくことで先に進める。苦しさは必要あってのこと。苦しみから何を学び何に変えるかをして、苦の花咲いたと言える。
食事していた他の人が全員入れ替わる頃にはナノスも食事を終え、厨房に一声かけて部屋戻る。
厨房に一声かけた時、ローザが誰かと話をしていた。軽い口調で話していたことからしてローザの夫だろう。夫婦の団らんというのはどこもあんな感じか。仲良くてなによりだ。
そういう人たちが美味しいご飯を作っているとわかると、不思議と元気を与えてもらってる感じがする。
物が少ない部屋。それが今のナノスの環境であり、心の状態。
リュック
大柄のナイフ
ミスリルの小太刀
ギルドカード
服数着
その他小物
アイテム袋
宿暮らしだからと言えばそれまでだが、見事にいらない物がないというのは新鮮だった。必要なものしか持っていないという意味で、身軽だろう。いつでも拠点を移すことができるという意味で。
それで、ギルドランクが上がったために遠出できるクエストが受けられる。
遠出するとなると、必要な物がいる。マントは持っておきたい。朝方、寒くなるようだし、野宿となると一層寒くなる。防災に紹介されるアルミシートなんかは作れたりするのだろうか。あれ一枚あれば寒さを和らげることができるだろうし、あるとないとでは断然違う。
なにより、冒険者の僕ノカンガエタ最強ノ装備はかっこいい。冒険者ギルドでマントをしているやつを見ると薄汚れていてああ、旅しているなと玄人感を出しているのを見ると俺もあれやりたいってなる。憧れる年の取り方みたいな感じ。
誰に頼むか。既製品であれば大商店のバリエルか、一点物であれば服飾付与師のラビか。どういったものがいいかわからないし、どちらの意見も聞きに行こう。その時に旅の初心者必須アイテムを聞いてみよう。
ざっくり予定を決めたナノスは靴を脱いでベッドに身を滑らせる。まだほんのり温かいシーツに癒されて体から力が抜ける。毎回思うが綺麗にしてくれること、なんとありがたいことか。心遣い身に余る光栄で、また明日もがんばろうという気になる。いい夢見られそうだ。
うとうと瞼が下がってくる。
気持ちよかったな。大気や大地に身を委ねるのは楽しかった。またしたいと思う…z z z。




