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アイテム袋が落ちていた

西通りを歩くナノス。

 この日はぶらぶらと市場を練り歩く日。天気も人の陽気も快調。店売りを流し見しながら行き交う人の間を抜けて、裏通りに入る。

 先日、裏通りのマニアックな道具屋が面白いかったんで道具屋さんに向かうのだが、道端に袋が落ちていた。

 なぜだか目についた袋。なにもなさそうな袋に見える。道端に何かしら落ちているのはまれにあるので珍しいことではないのだが、どうも近づくとこの袋、ぞわぞわする。

 見た目ただの袋のはずなのに、得体の知れない袋見える。触ったらもっとぞわぞわするだろう。

 とはいえ見つけた以上、落とし物は交番に届けるのが地球だったが、ここは異世界。詰めどころに行くか。冒険者ギルドに行って預けるか。こっからだと冒険者ギルドが近いから、落とし物を拾った場合のことをレイアにたずねるついでに袋を渡すことにしよう。

 うひゃ〜。触ると黒板を引っ掻いた時のぞわぞわがきた。早く渡そう。


 


冒険者ギルドに来てみるとちょうどよくレイアの場所が空いていたので向かう。


「いらっしゃいませ。ナノスさん、どうされました?」

「道端に落ちていたのを拾ったんですけど」


 これですと言ってカウンターに出したのは先ほど拾った袋。

 ぞわぞわする。少々鳥肌が立つ。


「これは…えーと、アイテム袋が落ちていたんですか?」


 レイアは出された袋をしげしげ見ると、目を見開いてびっくりしている。


 「え?これアイテム袋なんですか?

…え」

 

 夢のアイテム袋が目の前に。これがあれかと呆然とした。が、道端に落ちていたが高価でない?


「よくあるの?」

「ないです。ないですよ、アイテム袋がその辺に落ちているなんて。どんな確率ですか…」


 高価で多く出回っていないんですからと言って、考えこんだ。

 レイアの沈黙が怖くて、気配を消して様子を伺う。ひょっとして怒られるか。

 いや、何か巻き込まれた?いや、だってアイテム袋は高価で出回っていない貴重品だ。裏通りの余り人が通らないとは言え、人は通らないというわけではない。それが道端に落ちていた。

 すわ、事件か?外野ならこれは面白くなってきましたと囃し立てて展開待つところだが、心臓がバクバクして平静と緊張のシーソーゲームなんだが。

 地球で読んだどの小説も便利道具のように思われ扱われる物がぞわぞわするとか確かに描かれていなかった。

 こんなデメリット、いや防犯面では良いのか?拾ったんでなければあまりお近づきになれない代物だ。

 夢のアイテム袋とはいえ、このデメリットと定番のメリットの天秤はちょうど良いくらいだけれども、うーん、すごく悩むやつ。まあ所有するのであればの話だが。

 日本では高価な物にはシリアルナンバーとかついていて持ち主のところへ帰ってくるのが多い。ここは異世界だから、法律はどうなっているか。

 しかし、地味に嫌なデメリットのあるアイテム袋だ。確実に覚えたぞ。逆に忘れるのが難しい。


 と、そんなことを思い巡らせていると、レイアが重い口を開いた。


 「えー、落とし物を拾った場合、この国では拾った人が所有して良いことになっています。基本は」


 と一旦基本で区切り、そして、声を少し落として続けた。


「高価な物価値ある物を拾った場合、事件性ある物か貴族の持ち物か、あるいは盗品などの疑いがかけられます」

 

 思わず唾を飲み込む。

 事件はないに越したことはないし、貴族とも関わりたくはない。少なくとも王都の貴族には。また、盗品はやはりごめん被る。惜しいが、アイテム袋を手放したい。


 「性能によって金貨うん十万から白金貨数千万の値がついていたりします。まずは、中をあらためて、持ち主の手がかりになる物を探してください。たしか、人工ならシリアルナンバーがついているはずですが、うーん、ないですね」


 アイテム袋の外側を隅々まで見るがないようだ。天然物決定。

 ということは、中を改めるしかない。この目でお目にかかれて光栄なのだがなあ。

 アイテム袋はべらぼうに高いな。性能まちまちらしいし、人工ということは天然物があるということだろう。夢があるなあ。

 

 よし、拾ったからには責任持って持ち主に返す。そう奮起したナノスは、意を決してアイテム袋に手を突っ込んだ。

 レイアが見つめる中、ゴソゴソ探るが何も手に当たらない。虚空を掴むだけ。

 …これ本当に入っているのかと疑問に思った。


 「天然物ほダンジョン産ですから、まだわかってないことが多いと聞きます。でも、頭の中でアイテム袋の中身を検索する空間を作ると良いと言ってました。そこに入っている物の情報がずらーと表示されると。そして、取りたいものを思うと良いって言って聞きました」


 レイアの助言に従いやってみる。

 すると、するすると脳内でアイテム表示欄が記された。いくつか入っている。数十個くらい入っているかと思っていたが、入っている数は十二と多くない。


・へんな薬品入りのフラスコ

・丸型爆弾のような形をした何か

・携帯食糧

・カード

・翼の生えた靴    

:

:

:



 表示された品名が曖昧なのは本人の認識力に依存ということか?見てない知らない物はわからないと。

 えーと、持ち主がわかりそうな物があればいいんだから、カードを取りたいと願う。


 すると、手に収まった感覚がして手を取り出すと、あら不思議手にはカードがある。


 「おお、すげえ」


 ぞわぞわして怪しいアイテム袋でも不思議体験するのは心踊った。

 カウンターにカードを置く。

 

ハヤマト辺境伯爵、令息。辺境伯?カイト・ハヤマト


 爵位と名前だけ。何のカードだ?

 ナノスと共に見たレイアに覚えあるように言った。


 「通行証ですね、貴族の。それも辺境伯の方…ああ、この方なら商店を持っていらしゃいますね。今も営んでいらっしゃいます」


 ちょっと変わった方ですねと言って思い出すように続ける。

 

 「持ち主の営む商店は市場をよけて裏通りにありますね。何か不思議な研究をされているようで貴族の一部では変わり者と見られてます…それで裏通りはその手の通の番人たちがいる場所ですか。捕まったら厄介ごとになりますから絡まれないようにお気をつけください。ハヤマト辺境伯のカイトさまとおばあさまがいらっしゃいます。変わってるなって思ったらその人です。あのような人はそうそういないので一目見れば忘れないでしょう」


 辺境伯の令息の営む商店か。貴族王族がらみはあまり気が進まない。レイアが止めないということは、粗相しても気に留めない性格なのかも。

 持ち主にアイテム袋を返しに行くと決めたばかりで、この決断を鈍らせたくない。たとて貴族であろうが一度決めたこと、約束は守る。良いアイテムとは言え、早くぞわぞわするこの俺以外気にも留めないアイテム袋を手放したい思いがある。

 まだ少し欲しい欲はあるが、人様のものだしと、ぞわぞわを最小限にしようとつまみ取り荷物に入れた。


 今回でランクアップ。階級昇進でGからEに上がった。人よりも早いランクアップなので、あまり言いふらさないようにと言い含められた。妬み僻みのやっかみで目をつけられたくはないので賛同するところだ。

 新たなギルドカードEと達成報酬を受け取り冒険者ギルドを出る。


 「Eか、これもかっこいいなあ」


 Eと書かれたギルドカードを見ながらひとりごちる。

 Gと違ってカードの色が鉄色。Eと描かれた文字が左側に、右下を中心に樹木が広がっていくような生命力あふれるデザインだ。何ともこれからの成長を楽しみにしていることを思わせる。

 Fランクのデザインはどういうものだったんだろうな。少し惜しく感じた。他のランクと違い上がりやすいのだろうが、どうせならFランクの依頼も受けてみたかった。と言っても、Eランクとの違いはあまりなかった。強いて言えば王都外の依頼が多くなったことと行動範囲が広くなったことか。

 

 市場を歩いていると声をかけられる。いつものように客引きで、異世界初日に会話した果物屋のお姉さんだ。

 金持ちでいい客としてナノスは覚えられているようで、ナノスが市場に来てお姉さんの側を通ると買い物客が居ない時以外声かけがある。仮に対応している客がいても、目線で待てなんか買って行きなさいよビームを放たれるので普段なら気配を薄くしてやり過ごすが、今回は見つかってしまったようだ。

 いつもの如く果物を買い、両隣の店にいつものギラついた視線をかいくぐって先に進む。


 果物を買ったとき思ったが、北方地方から流れてきた物価の値が少し上がっている。収穫物の減少やモンスターの活性化が原因だろうか。他にもありそうだが、実感として、じわじわと来ているような気配がする。事前情報に違う価値観を持っているから気付けたこと。一般に認知されるのはもう少し先くらいか。利にさとい商人なんかは気づいているだろう。

 モンスターの被害はどういう形で出てくるのかわからない。

 この国の上層部は勇者一行の召喚を民にはまだ知らされていないのも変な話だ。

 そんなことを右から左へと流しながら、まれに声掛けされる掛け声を交わして裏通りへと進む。

 

 裏通りに入ると、売り買いされる品物が変わる。市場は食べ物や食器、新しい商品など万民にしたしまれている物があるのに対して、裏通りは小売業者と珍しい食材や物、やけあり商品、昔の秋葉原(アキバ)のジャンク屋などマイナーでマニアックな物が売られている。

 珍しい魔道具にバラ売りの部品、どこぞの遺跡やダンジョンから出土したと宣伝する品物、果てや今すぐ金が入り用なのか家宝を売っていた。

 そんな裏通りは客引きによる声掛けはなく、売り買いの会話や行き交う人たちの無駄のない静かな音が響いている。

 

 目当ての場所に来た。

 ナノスは訳知り顔で店内に入る。ここに来るまで足取り確かにふらふら迷わず来たのは、何回かこの店に出入りしているからだ。


 「こんにちは。店長いる?」


 店の奥に声をかけるが出てこない。いつも通り研究か作業に没頭しているのだろう。

 そして、いつも通り店の日の当たる隅っこでお昼寝しているおばあちゃんに声をかける。


 「おばあちゃん、はいこれ果物。いっぱい食べて元気にお昼寝してね」

 「…zzz」


 これもいつものこと。

 以前、訳あって連日来た際、今日のように果物を置いていたらなかったからおばあちゃんが食べていると信じている。

 間違っても店長なんかに奪われないでねと気持ちよさそうに寝ているおばあちゃんを見て思う。

 店長はおばあちゃんのことをババアと言っていて、おばあちゃんに対して口が悪い。うちの曾祖母さまと変わらなそうなお年召しているから慎重に触れ合えと言っても店長は、そんなババアが弱い訳ないだろって呆れていた。そんな馬鹿なと思ったが、おばあちゃんに関して店長の方が知っているはずだから、その言は本当なのだろう。少しだけ疑っている。

 あと、あれには驚いた。来店した際、変なモノが無造作に床や台の上に散らばっている時があって、危ないからどかそうと触ろうとすると、そこで店長が「あ、そこのやつは爆弾な」見計らったかのように言いやがる。何が「危なかったな」だよ。危険物をそこら辺に置いとくなよ。そんなイタズラじみたことをやるから困ったものだ。

 おばあちゃんがうっかり踏んだらどうするんだと言ったら、

 「ババアは拳法の達人だぞ?うっかりがあるわけがない」

 と言う始末。


 そういうことじゃないんだがとかリスペクトやら気遣いしようってのがあるだろうがと言ったら、ババアに気を使うだけ無駄だと。「むしろナノス、お前がババアに気に入られる理由がわからん」だと?おばあちゃんに気に入られているのはすごく嬉しかった。

 ひいばあちゃん子だったナノスは小柄なおばあちゃんがいるだけでついついかまってしまう。ひいばあちゃんの家に行けば、いつもひいばあちゃんの後ろをついて行ってまわりカルガモ親子みたいにうちの親は見ていたなあと懐かしむ。


 お昼寝中のおばあちゃんに背を向けて、ナノスは奥に入っていく。

 床にゴロゴロといろんな魔道具や工作品をまたいで奥に見える男に声をかける。


 「店長、少しは片付けたらどうだ?足の踏み場がないじゃないか」

 「ん?誰かと思えばナノスじゃないか。どうした?実験体になってくれるのか?」

 ようやく決心したか、やれやれと息を吐く。顔はにやけていて気持ち悪い。たとえイケメンでも。


 「そんなんじゃない。危ない物を俺で試そうとするな。他の人にもダメ。そして、無料って言葉にはもう騙され引っかからねぇよ」


 一回タダで謎のボールを渡されて草原で確かめてくれと言われてやった時、クレーターができるほどの爆発を受けて軽く吹き飛んだ。渡された時離れて3秒でなるぞと言葉がなければどうなっていたか…それ以来店長が差し出してくる物には一層警戒をしている。


 「それで?どうした。実験に付き合う気がないならここにいる必要はないぞ。はあ、試作品を作ったんだが受けてくれる奴がいない」

 とわざとらしくナノスを見てぼやいている。どんだけ実験したいんだ。

 

 「店長のだろ?これ」

 

 バックから例のアイテム袋を取り出して突き出した。

 すると、どうしたことか店長はニヤリと意味ありげに笑った。

 ナノスはとても嫌な予感がした。前にもあった。実験体にされてデータが取れた時の笑っていた顔に似ている。

 「…ふははは。やはりナノスは拾うか。これだからナノスは面白い。実験は成功だ。実験体ご苦労。また何かあったらよろしく頼む。ああ、その袋はナノス、お前にやろう。中に入っている物はそこら辺に出しておいてくれ」

 と言って、ぶつぶつと実験がどうのこうのと思考の渦の中に没入していった。

 相変わらずの人だ。他人の許可を取らない。知らず知らずのうちに実験体になっていたようだ。一体どうやってか見当もつかない。実験に関係あることは間違いないだろうが、恐れとか畏れとかで店長を見てしまう。そんな人に目をつけられたのが運のつきか。

 それはともかく、この不協和音を奏でるアイテム袋の説明を求めて、肩を揺さぶり店長を思考の渦から目覚めさせる。

 「なに簡単だ。天然もののアイテム袋に干渉できるかどうかの実験だ。やったのは付与魔法。実際奇妙な感覚があっただろう」


 あったあった。今でも黒板を引っ掻いた音を想像すると言いようのないダメージを食らう。


 店長は机の上に置いてある装置を押して話す。

 「アイテム袋から感覚を刺激する波形を発する。波、波動、周波数、超音波言い方は色々あるな。物好きでもなければこの感覚はたとえ高価な物でも手に持つどころか周囲から人を遠ざけるようでな、周囲にあるだけで嫌いなものを発していることがわかっている。一種の防犯に使えるが、そんなことはどうでもいい。ダンジョン産のもの、つまりロストテクノロジーである古代物に干渉可能とわかればよかった。だが、こうして副産物が現れた」


 ニヤリと笑いナノスを見る。まるで副産物が来てうれしそうだ。


「ナノスよ。俺はお前への興味が尽きないよ」


 この時は、ニッコリ笑う店長がナノスにとって悪魔か天使かはわからなかった。


 ぞわぞわするのは店長の仕業でアイテム袋自体ぞわぞわしないことがわかった。ぞわぞわする以外に副作用は今のところないようだ。なんて傍迷惑な。知識欲に忠実でナノスは呆れてものを言えなかった。

 しかし、ナノスが拾うのはどう考えても無理がある。拾うと予想を立てているのだ。いったい王都に何人いると思っていのか。


 「店長、本当にアイテム袋もらってもいいのか?」

 「ああ、持っていけ。中身出してな」

 「お金いくらだ?」

 「いらん。その代わり実験に付き合え。今度はこっちだ、ほれっ」


 テニスボールサイズの丸玉と円盤型の重りのような物を投げ渡された。

 

 「ほ、よったっと、ぉもっ…何これ?」


 ナノスは投げ渡された物、特に円盤型の物を角度を変えてつぶさに見る。

 

テニスボールくらいのカラーボール

金属製の平べったい円盤


 円盤の方はどうも嫌な予感がする。どういうものか聞きたくないが、聞かなきゃ使えない。


 「丸い物は煙幕玉。白、赤、ピンク、緑、黄色、黒だ。ほれっ」

 

 数珠繋ぎされたカラーボールもとい煙幕玉を投げ渡される。


 「衝撃で割れる。地面に叩きつけるようにして使え。中身の粉が周囲の風を巻き込んで煙に昇華する。どんな使い方したか使い勝手はいいか改良点があれば報告よろしく頼む」


 カラフルな色玉、煙幕玉の用途はモ○ハンのペイント玉と似ているなあ。


 「次、設置型の爆弾だ」

 「えっ」

 「東方の国で使われる精製方法のヒントなる本を入手してな。一定の重さがかかることで起爆する。地面がえぐれていい感じらしい。待ち伏せに使うといい。そう文献に書いてあった」

 

 淡々と言うじゃないか。使う身としてはおっかなびっくりヒヤヒヤもんだが。地雷なのかとナノスが小さく呟いた声が聞こえたのか即座に命名を承諾する店長。地雷が採用された。

 元々それらしき名称があったようだがしっくりこなかったようで、今回のナノスの呟きを聞いてピンときたと言う。

 実験体にされるのは勘弁だが、受けた恩がある以上可能な限り店長の実験に付き合うことにしている。

 また、なんだかんだこうやって使えるものをくれる店長は好きだ。高い好感度があるのは店長には言わない。調子に乗って色々とやってエスカレートしていき、やったが最後危険なことをしでかすに違いない。

 知り合って短い時間で店長の性格を味わっている。マッドサイエンティストの毛がある。


 店長は最早こちらに興味がなく忙しそうに机にかじりついている。視界に入っていないのだからものすごい集中力だ。

 ナノスはそんな店長に横目にもらったアイテム袋に道具を入れる。今はもうアイテム袋のぞわぞわ感がなくなっている。いつの間にと思い、手渡した際に消したかどうかしたのだろう。店長だからなとナノスは頭を振る。

 よいしょとおっさんくさいよいしょで腰を上げたナノスは、未だ寝ているおばあちゃんに優しく声をかけ店を後にした。




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