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試練のダンジョンと金の力19

 白い壁の部屋の中、ギルは焚き火の前に座り暖を取る。服は水で濡れていて焚き火の近くに干してある。

 焚き火の他には毛皮で造られたソファーに、水の湧く小さな水溜まり、それからギルドカードを認識する装置がある。


「あー最悪だ。口の中も靴の中も、どこもかしこも砂だらけ砂まみれ。おまけにお金は消費させられるし。あいつとは二度と戦いたくない。顔も見たくない」


 焚き火の上では大き目の三脚に乗ったフライパンの上でオークの肉が焼かれていて肉の焼ける匂いが部屋に立ち込める。ギルは肉の様子を見ながら濡れた布で体を拭く。


「今回は主の実力不足だな。あの時捕まっていなければ火炎玉も使えていただろうしな。ただ、火炎玉を使えていた所で上手くいっていたかはわからないが」


「絶対上手くいってたって。火炎玉だって爆発はするんだし埋め込みさえすればそれでどうにか」


「ならないと思うがな」


 あの後ギルは砂の中から脱出しサンドゴーレムのドロップ品、魔石とキラキラ輝く砂と外の荷物を回収してくたびれた足取りでセーフルームへと向かった。

 セーフルームへ着くと荷を下ろし服を脱ぎ靴を脱ぎ焚き火に火を点け、服をざっと洗い焚き火の近くへと干し、調理道具を用意しオークの肉を焼く。そして現在へと至る。


「なりますぅ、よっと」


 ギルはナイフでオークの肉をひっくり返す。ひっくり返された肉の断面にはしっかりと焼き目がついていた。


「どうだかな。ケチらずに爆破系の魔道具なりアイテムなりを持ってきていればもっと楽だったことは間違いないがな」


「そんなこと言ったってお金に余裕ないんだから仕方ないじゃん。あーていうか体中痛いな。ポーション飲んどくか」


 近くに置いていたウエストバックからポーションを取り出し一気に飲み干す。たちまち口の中に薬草の青臭さと苦さが広がる。


「おえー、まずっ。しかもなんかあんまり効いてない気がする」


「ポーションもケチってジャンク品など買うからだ。ユーリ達から中級のポーションを貰っていなかったらまずかったぞ。この際必要経費だと割り切ってアイテムにお金をかけたらどうだ?」


「そうは言うけど……探索者なんてお金を稼ぐためにダンジョンに潜るんだよ?そんな金無しがお金稼ぐためにどっからお金を捻り出せるっていうのさ。デミグラスソース作るためにデミグラスソースを使えるのは金持ちだけなんだよっと」


 ギルは肉をもう一度裏返し焼けているか確認する。しっかりと焼き目が付いているのを確認したら肉の端の火が通っている部分を切り離し口に入れる。


「うん、美味い。塩っ気が全然ないけどこの際肉が腹一杯食べられるなら文句はないさ」


 ギルはフライパンで焼き続けている肉を、焼けた部分から削いで食べる。


「あーお金があればなー。そういえばあの金持ちは今何やってんだろ?後姿すら見てないけど。サンドゴーレムにやられてたりしないかなぁ。砂まみれになってないかなぁ」


「それはないだろう」


「ふぉーふぃへ?」


 口に肉を含んだままギルはゴンちゃんに尋ねる。


「自分で言っただろう?あやつは金持ちだと。実際にその通りだ。酒場で奴の指を見たか?指の全てに魔道具を着けていたぞ」


「ん!んーんー!」


 ゴンちゃんの話に驚きギルは喉を詰まらせる。たまらず胸を叩きながらバックを探し水筒を取り出すと口につける。ゴクッゴクッと喉を鳴らして一息つく。


「ぷはーっ。あのキラキラしてた指輪全部魔道具!?指輪型の魔道具なんて一体一ついくらなんだよ!あいつそんな金持ちだったのか……」


「そうだ。ダンジョンに挑むために金で用意出来る物はいくらでも用意しているだろう。果たして今まで我らが歩いた道に、奴が立ち止まることがあるかどうか」


「えー、それってもしかしてやばいんじゃ!?」


「そうかもしれぬな。ちゃんと準備をしなかったからな」


「そ、そんなー」


 ゴンちゃんの意地の悪い物言いにギルは消沈するのであった。





 所変わって、試練のダンジョン十三階。

 一人の男が、召喚獣と共に探索を行っていた。その男は背が高く、髪は金色で顔は整っている。身に着けているのは立派な全身鎧で、その上に羽織っている外套(がいとう)は光沢を放っており質の良さがわかる。

 腰には装飾の施された鞘に納められた剣を携え指には指輪型の魔道具を全ての指にはめていた。


「やれやれ。誰にも攻略することの出来ない難攻不落のダンジョンだと言うから来てみれば出てくる敵は雑魚。中間のボスも雑魚。どいつもこいつも雑魚ばっかりで行く道は単調な道ばかり。期待外れも良いところだ。こんなダンジョンに苦戦するなんて想像すら出来ない」


 男が喋っている間もモンスターが襲ってくるが召喚獣がそれらを蹴散らし傷一つ付かない。


「まぁダンジョンなんて金の無い貧乏人が大多数だからな。金がないから装備も整えられない、自分を鍛える時間もない。そんな奴らがどう足掻いたってモンスターに殺されるのが関の山か。そうだとしたらこの程度のダンジョンが攻略されない理由にも納得だな。本当に貧乏人ってのはどいつもこいつも苦労しているんだな、可哀想に」


 男はモンスターが全て蹴散らされるのを見てその場で立ち止まる。周りに落ちたドロップ品を見渡すがめぼしいものはない。


「はぁ。全くガラクタにゴミばかりだな。金に困ってはいないからどうでもいいが、一つくらい心を躍らせる様な物が出たりしないのか?全く退屈でしょうがない。名声のためだけにダンジョンを攻略しようなんてバカだったのかもな。こんな事は貧乏人がやっていれば良いんだ。そういえばあの喧嘩をふっかけてきた貧乏人は今頃どうしてるんだろうなぁ?もう死んでたりしてな」


 男はそこで口を閉じしばし瞑目する。顎に手を当て、指先で顎をなぞりながら黙考する。


「そうだ。どうせなら面白くすればいい。丁度退屈していた所だ。あの貧乏人で少し楽しませてもらおうか」


 男はそう言うと自分の暗い欲望に笑みをこぼすのであった。




夕方の投稿を18時から19時に変更します。19時の方が見てもらえる可能性が高いらしいので、あがかせてください。

ここまで読んで下さってありがとうございます。一章終了まであと8話です。よろしかったらとりあえず一章最後までお付き合い下さい。

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