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試練のダンジョンと金の力18

 痛みが治まってきたのでギルは立ち上がりその場で屈伸をする。二度三度確かめた後、グッと足に力をこめる。少し違和感を感じるが力を入れる分には問題はなさそうでギルはホッとする。

 そのまま軽く走ったり跳んでみたりして具合を確かめる。


「どうだ?大丈夫そうか?」


「うん。問題なさそう。ユーリさん達がくれた中級ポーションのおかげだね。ポーションってすごいんだなぁって実感したよ」


「そうか。……主、その」


「止めよう、そういうの」


 ゴンちゃんは何か言い辛そうにしている所をギルが遮る。


「今回は信じてくれたんでしょ?ならいいよ。これから先同じようなことが沢山あるだろうしそのたびに謝ってたらきりがないよ。俺はゴンちゃんを信じる。だからゴンちゃんは俺を信じてくれ。それが相棒ってもんでしょ?」


「……わかった。ただ、一つ条件がある」


 ギルの提案にしばし沈黙をし、ゴンちゃんがポツリとつぶやく。


「何?」


「死なないでくれ。我は剣だ。感情、というものが人と同じほどあるわけではない。だが、それでも死別だけは辛いものなのだ」


 ギルは目を丸くするがすぐに笑顔になる。


「そりゃあもちろん!なんたって一万枚。金貨一万枚集めないといけないからね。死んでる暇なんてないさ!」


「ふっ。そうだな、そうだった。我の過ごした長い時の中でも借金が金貨一万枚もあるのは主が初めてだ」


 お互いの気持ちが、例え表面だけだとしても感じ取れた気がしたことがなんだかくすぐったくて、二人はしばらくの間笑いあった。





「だから主は雑なのだと、何度も言っているだろう!」


「雑じゃないって!なんとかなったじゃん!」


「なんとかなったでなぁなぁに済ませていればいつかなんとかならなくなる時が来るのだ!もっと丁寧に立ち回ることを心掛けよ」


「あーもー。シスターみたいに小言が多いんだよ!剣の領分は斬ることだろ!」


「何?ならばもっと言ってやろう!前から言いたいことが山ほどあったのだ!」


「あーあーはいはい。きこえないきーこーえーなーいー。ハイ、次の目的地到着でーす。しゅうりょー」


「なっ、何を子供のようなことを」


 お互い罵り合いながらギル達は九階の大部屋前まで来ていた。この部屋もまた通路が一つしかなく入るのも出るのも今ギルがいる通路を通るしかない。

 ギルは慣れた手つきで背嚢からアイテムを取り出し腰のバックに詰めていく。


「わかっているであろうな?」


「わかってるわかってる。ちゃんと気をつけるってば」


 ゴンちゃんの小言を流しながら部屋の探索を行う。四階の部屋の時と比べて罠もわかりにくくなっていて見つけにくい。本当にトラップに引っかかってしまわないようにギルは慎重に探す。


「おっ、あった」


 四階の時より見つけにくくはあったが床のモンスター召喚のトラップをなんとか見つける。場所は部屋の真ん中よりも左上、通路から見れば左の奥に位置する。


「ここにトラップがあるってことは通路側と後はそっちかな」


 そう言ってギルは通路の側へとトリモチ爆弾を三つほど間隔を開けて投げる。そして部屋の右奥の方にも一つ投げる。後は火炎玉に火を点ける。


「よっし、そんじゃあ稼ぎますかね!」


「雑な立ち回りでピンチに陥らなければ良いがな」


 ゴンちゃんの皮肉を聞き流しギルは床のトラップを踏む。ガチッと重い石が動くような音がしてすぐにオーク達が現れる。

 ギルはすぐさま現れたオーク三匹の内の離れている一匹に火炎玉を投げつける。

 投げつけられた火炎玉はオークの目の前で炸裂しオークを燃やす。燃やされたオークの悲鳴を聞きながら近くのオークへ回り込むように近づく。

 近づかれたオークはギルに棍棒を振り下ろす。ギルはそれを難なく躱し足を斬りつける。斬りつけられたオークはギルを振り払うように棍棒を振るがギルはすでに射程の外に逃げている。

 足を斬られ機動力の落ちたオークは満足に動けず棍棒も先ほどよりキレがない。


「ほら、もう一丁くらえ!」


 横に薙がれたオークの棍棒を屈んで躱しオークに肉薄しもう片方へ思い切り剣を叩きつける。

 ゴンちゃんの切れ味と能力による底上げによって足の深くまで斬り払う。

 支えを失ったオークは金切声を上げながらその場に倒れる。倒れたオークにギルは更に追撃して一気にとどめを刺す。

 オークの首に突き刺した剣をすぐに引き抜くと残っていた最後の一匹を煽る。


「どうだ?トリモチの威力は。考えもせずに突っ込んでくるから簡単に引っかかるんだよ、この図体だけデカいゴブリンが」


 ギルの簡単な誘導に釣られて足元に設置してあったトリモチに引っかかってしまったオークは、ギルの言葉を理解しているのか更に暴れる。


「主、そういうのが命取りになるのだ」


「わかってるって。オークも動けないならこっちのもんだ」


 動けないオークの後ろへと回り足を断ちそのままオークを蹴り倒す。飛び乗るようにしてオークに着地すると同時に剣を突き立てる。突き立てた剣をグリっと捻り更に深く差し込む。

 断末魔を上げ暴れるオークに体重をかけながら耐えオークの上に乗り続ける。

 やがてオークは動かなくなり、ドロップへと姿を変えた。


「ふぅー。どう?中々良かったんじゃない?今の?」


「まぁまぁといった所か。煽りがなければベストだったな」


「えーいーじゃんそんくらい。ゴンちゃんの採点厳しすぎるよ」


「馬鹿を言うな。むしろ甘々だ」


 軽口を言いあいながらドロップを回収する。内訳はオークの肉3とオークの棍棒1と魔石1である。


「さぁすがに棍棒はどうしようもないや。こんなんよく振り回してるよなあいつら」


「棍棒の内はまだ温情だぞ。ダンジョンを攻略していればいずれは鉄製の斧を振り回しているオークにも出くわすだろう」


「そんなん当たったら死ぬじゃん!一発で死ぬわ!」


「そうだ。だから我は主のためを思って、思うからこそ厳しくするのだ」


「どーだか。さー稼ご稼ご」


「ぬっ。聞いているのか主よ。主!主!」


 そして何度目かのオーク虐殺の結果。


「稼いだ稼いだ。かせ、いだな……」


「ほとんどが肉であったな。魔石くらいしか金目になりそうにないな。lvが上がっただけマシか」


「いいもん、別に。焼いて食えるから食費が上がってラッキーだし」


「腐らないと良いな」


「悔しくなんてないんだからねっ!」


 ドロップ品を回収し逃げるようにしてギルは大部屋を離れた。





 ギルは大きな門の前にいた。頑丈そうな柱にしっかりとした扉が付いており今までのものとは一線を画す。


「こ、これが中ボス部屋の扉。なんかいかにもダンジョンって感じがする」


 ギルはゴクリと喉を鳴らす。表情もどこか余裕がなさそうである。さっきまでとは様子の違うギルにゴンちゃんは心配そうに尋ねる。


「緊張しているのか?」


「うん。だってだって」


「何、中間のボスとは言え敵はサンドゴーレム。そこまで強くは」


「違うよ!魔道具だよ、魔道具!あれ金貨一枚もしたんだよ?もしものために二枚買っちゃったけど、本当にミスっちゃったら金貨二枚が飛ぶ!そんなのあんまりだっ!」


「……心配するだけ無駄だったな。我もまだまだだ」


「ねぇゴンちゃん聞いてる?金貨一枚だよ、金貨一枚。その一枚で人間どんだけ生き延びれると思ってるの?ねぇってば、ねぇ」


 しつこく絡むギルが静になるまでゴンちゃんは無視し続けた。

 それからしばらくして。ようやく落ち着いたギルに声をかける。


「準備は整ったか?」


「真っ直ぐ行ってぶっ放す。真っ直ぐ行ってぶっ放す。真っ直ぐ行ってぶっ放す。真っ直ぐ行ってぶっ放す。真っ直ぐ行ってぶっ放す……オッケー、イメージの中のサンドゴーレムはボコボコにしてやった。イケる!イケる!絶対当たる!集中していこっ!」


「……気合い十分のようだな。後は当たって砕けろだな」


「おう!行くぞっ!」


 ギルは金貨一枚もする使い捨ての魔道具を握りしめて扉を押す。ゴンちゃんの嫌味にも気付かない。

 扉の中へと入るとすぐに部屋の中を確認する。だがしかし、部屋の中には何もいない。


「あれ?留守?」


「いいや、来るぞ」


 円柱状の部屋に山ほどに積みあがった砂がプルプルと震え始める。やがてそれは大きなうねりとなり流れとなり部屋の真ん中へと集まっていく。


「おおぉ、砂が動いてる」


 砂はどんどん積もっていき、形作り始めた。やがて足はなく地面からずんぐりむっくりしたお腹が生えて首はなくお腹の上に頭があり腹の所から二つ腕が生えている砂の塊が出来あがった。


「おおぉ、これがゴーレム」


「ぼさっと見上げている場合か!来るぞ」


 サンドゴーレムは腕を振り上げるとその手を目一杯開くと振り下ろす。


「うわあぁぁぁぁぁ」


 しかしサンドゴーレムはその巨体ゆえか動きが遅い。そのおかげでギルは押しつぶされる前にその範囲から離脱出来た。

 サンドゴーレムの手のひらがさきほどまでギルが居た辺りに叩きつけられる。その威力でサンドゴーレムの手の形が崩れ辺りに砂が撒き散らされる。


「あぁぁ目に砂がぁぁ。ああぁあぁぁぁ口にもぉぉぉぉ」


 近くにいたギルにも当然砂が飛ぶ。不意を食らったギルは目に砂が入り、それに反応して口を開いたことで口の中にも砂が入る。


「あぁちくしょう!なんだこれ!想定してた攻撃とは違うけどすごくやらしい!」


 目をこすりながら口の中の砂を吐きだしつつ悪態を吐く。粗方処理し終えてギルは剣を握り直しサンドゴーレムを睨む。


「お前と長々戦ってられるか!さっさとカタつけてやるからな。今に見てろ、この水の魔道具で」


「何を呑気にくっちゃべっている!離脱せよ!」


「え?どわあぁぁぁぁぁ」


 ゴンちゃんに怒られ下を見るとギルの膝の下辺りまで砂の流れが出来ていた。砂の流れは意思を持っているかのようにギルの足に纏わりつく。


「あっあっ、なに、なにこれっ」


「サンドゴーレムは人の腕の形をしているが別にあの形しか出来ないわけではない。つまり」


「おおおおおお」


 纏わりついていた砂はギルの腰にまで上って来ておりズルズルとギルをサンドゴーレムの方へと引きずり始める。そしてそのまま本体の砂と合流しそれはやがてサンドゴーレムの手を形作った。


「おわああああああああ」


 サンドゴーレムに握りしめられる形でギルは持ち上げられる。身動きがとれないまま更に強く握りしめられる。


「あー痛い。いったい!タイ、タイタイ!ギブっ!ギブギブ!ギブっつってんだろ!離せよ!プロレスはギブしたら離すルール知らねーのかこの!」


「ふざけている場合か!今水の魔道具を手に持っているな?そのまま撃て!」


「あぁそうだった。食らえ、『ウォータースプラッシュ』!」


 ギルの手に持つ魔道具が勢いよく水を解き放つ。解き放たれた水はサンドゴーレムの腕を穿ち、崩していく。手の形が崩れたことで握る手に力が入らなくなりギルは宙に浮かぶ。

 そして重力によって地面に吸い寄せられる。


「おおぉぉぉぉぉ。だはぁっ。ぐぅぅぅぅぅ。足、足がっ」


「止まるな、捕まるぞ!急げ!」


「あぁぁぁぁぁ人使い荒いぃぃぃぃ」


「人聞きの悪い事を言うな。走らなければ死ぬぞ」


 着地による足の痛みに耐える間もなくギルは走る。その跡をサンドゴーレムの残った腕が追う。ギルは必至に走る。


「追いつかれるぞ。足の回転を上げろ」


「はいぃぃぃぃぃ?」


 ゴンちゃんの容赦ない指示に抗議を含んだ声で意義を表明しつつギルは更にサンドゴーレムへと向かって走る。


「もう一発くらいやがれやぁぁぁ」


 ギルは手に持つ水の魔道具を前にかざしサンドゴーレムに魔法を放つ。大量の水の弾が散弾のようにサンドゴーレムへと叩き込まれる。

 その大きなお腹に水の魔弾を叩き込まれ流動体であった砂の体がやや固まる。

 そこ目掛けてギルは更に走る。そして走りながら取り出した火炎玉に火を点ける。


「よっしゃ、その腹に大穴開けてっ……あれっ?あれっ?」


「さきほど腕の中で水を思いっきり被っただろう?湿気っているのだ」


「あぁぁぁぁぁくそがぁぁぁぁぁぁっ!」


 ギルは火炎玉を一瞬振りかざし、そしてそっと腰のバックに戻す。ギルは追ってくる手から逃げるためにサンドゴーレムの後ろ側に回り込むように走る。


「くそっ。計画狂った!どうしよっ。あっ『スラッシュ』あんじゃん!それで行こう!その前に水で固めてやる!」


 ギルは後ろに回り込みながら水の魔法を連射する。散弾のように撒かれる水の雨がサンドゴーレムを濡らし全身を固めていく。


「ついでにその邪魔な手も食らいやがれ!」


 背中に回ったことで一旦追跡を止めた腕が今度はギルの真正面から襲い掛かってくる。それ目掛けてギルは魔道具を使う。

 水をかけられた腕は指の部分からボロボロと崩れていく。


「よしっ。これでもう大丈夫だ。後は楽に処理出来る」


「いや、まだだ。見ろ、回りの砂を集めようとしている。モタモタしていると再生するぞ」


「そんなのあり!?じゃあさっさと片付けよう『スラッシュ』!」


 ギルはサンドゴーレムの背中に『スラッシュ』を撃ちこむ。放たれた斬撃はサンドゴーレムの固まった背中に当たり、ある程度吹き飛ばす。


「あ、あれ?なんか全然」


「威力が弱すぎるのだ。仕方ない、金を捧げよ!」


「えっ、やだよ!」


「つべこべ言ってないで早くしろ!再生されるぞ!」


「あーくそっ!くそっ!くそったれ!幾つだ!幾つ捧げれば良いんだよっ!」


「銀貨10枚!」


「ぎ、ぎ、ぎっ!持ってけドロボー!」


 ギルは財布へと手を伸ばし銀貨を取り出す。そして別れを惜しむようにゴンちゃんへと銀貨を捧げる。

 ギルは剣を握りしめ上段に構える。


「食らいやがれこの金食い虫ヤロー!愛と悲しみのゴールド『スラッシュ』ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」


 至近距離から放たれた、膨大なエネルギーの塊はサンドゴーレムに纏わりつき始めた砂もろとも体の大部分を吹き飛ばす。吹き飛ばされ大きく穴の空いた体に魔石に似た鉱石のようなものが露出する。


「あれを狙え!あの紫色のあれだ!あれがこのゴーレムのコアだ!」


「了解!今度こそ止めを刺してやる!安心と信頼のォォォタダ『スラッシュ』!」


 ギルは『スラッシュ』を放つ。放たれた『スラッシュ』は魔石へと吸い込まれるように飛んでいき、魔石を粉々に砕いた。

 魔石を砕くと、体が崩れてもなんの素振りも見せなかったサンドゴーレムが苦しみだす。

 地面の方からどんどん(ひび)が入っていきそこからどんどん亀裂が入りやがて大きく崩れただの砂へと戻っていく。


「よっしゃぁぁぁぁぁぁ。やったぁぁぁぁぁぁ。見てくれたか!天国の銀貨達よ!」


「主よ、速く退避を」


 意思を失くした砂は、重力に導かれて放射状に押し流される。


「どわぁぁぁぁぁぁ」


 サンドゴーレムの近くにいたギルは砂の波に飲まれ押し流されるのであった。

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