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ひとひらの花びらに思いを(未)  作者: 御山野 小判
第二章 信じる者の儚き幻影
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第六話 背信の愛 その二十

 何か嫌な予感を感じていた。湧き上がるその気持ちを抑えてレヴィンはアルヴァにそう問うと、彼は不気味ににやりと笑った。そして、


「殿下を、魔法の道へと誘うことです」


「!」


 それは予想だにしない言葉であった。思わぬ出来事に、レヴィンは愕然とする。

 そう、確かにそれも当然。今ここに存在する自分が、もしかしたらある意図の下に仕組まれたものかもしれないというのだから。知らず知らず敷かれていたレールの上を走らされ、思う方向へ導かれていたのかもしれないと……。嘘だろう、嘘だろうと心の中で何度も繰り返すレヴィン。だが、聞いてしまった現実を変えることは残念ながらできず……。


「殿下は、実に立派な魔法使いへと成長なされた。見事私の期待に答えてくれたわけです」


「じゃあ、僕に小人やユニコーンや妖精を見せてくれたのは?」


「当然、その使命の為に」


 アルヴァは不敵に笑う。

 そう、それはいつも心待ちにしていた時間。中々外に出ることが出来なかった自分が、唯一楽しみにしていた夢の世界。なのに……それが使命とやらの為だったとすると、その後本に関して色々便宜を図ってくれたことも、同じ意図を持っていたということなのだろうか……。

 レヴィンは衝撃に眩暈がしてくるのを感じながら、額に手を当てる。そして、


「何故、僕を魔法の道へ?」


「さあ、それは追って分かることでしょう。全てはアルトゥール陛下の御心のままに」


 アルヴァは曖昧にごまかす。だが、それ以上の追求はレヴィンには出来なかった。そう、ショックのあまり、目の前までが白く染まってゆくようだったから。崩れてゆく過去の思い出に打ちのめされそうになりながら、だがここで負けてはいけないのだと、レヴィンは自分に言い聞かせた。そう、まだまだ聞かなければならないことは沢山あるのだから。


「ルシェフは一体何をしようとしているんだ。本を手にいれ、僕を操作し、どうよりよき世の中にするつもりなんだ、ルシェフは、まさか……」


 今までのルシェフの行いを考え合わせ、再び過る嫌な予感にレヴィンは恐る恐る尋ねる。

 するとそれにアルヴァは、


「全ての魔法を手に入れて、この世を統一国家にするためですよ。近代魔法、黒魔法、それはちゃくちゃくと手に入れつつあります。だが、どう努力しても今の状態では手に入れられない魔法がある。それが古代魔法。それを手に入れるために、私はこうして労力を費やしているのです! この長い年月を! そうすれば私は、きっと今以上に……」


「その為に、僕を暗殺しようとし、ルシェフの工作員を、クリフォード氏を殺害したのか!」


「そうです! あの女性は口封じのために、クリフォード氏からは、本の内容を引き出す為、そして控えがあればそれを手に入れる為に! クリフォード氏は気丈にも口を割りませんでしたがね。ですが……あなたは別です。あなたには役目があるのですから、まだ生きていてもらわねばならない。そう、あれは手を出すなという威嚇のつもりでした。それなのにあなたは懲りずに……」


「王室の魔法封じを破ったのも? あんなに強力な魔法を?」


「それは私が情報を流してルシェフに解析してもらったのです。そして解除方法をこの身に叩き込まれました。流石に私一人では限界がありますからね。金庫だって、解析する時間さえあれば私にも出来るはずだった! ここまできて引き下がる訳にはいかないのです!」


 どこか悲壮な表情をたたえ、アルヴァはそう言葉を吐き出す。


「僕を、どうするの? 殺すの?」


「こちら側に来るつもりはありますか? 共によりよき世の中を作るつもりが」


「ある訳が無い!」


「では、こうなってはいたし方が無いでしょう。でもまだ殺しはしません。まずは人質となってもらい、私が外へ出るための盾になってもらいます!」


 それにレヴィンはキッとアルヴァを睨みつけた。そして、


「させるか!」


 レヴィンは身構え呪文を唱える。


「セルノ・オズネホヘイ・サワ・テヨウリ・ソムナ・トマゾ・ケイグカ」


 それは攻撃魔法の呪文。それに続いてアルヴァも身構えると早速呪文を唱え始め……。


「セルノ・オズネホヘイ・サワ・テヨウリ・ソムナ・トマゾ・ケイグカ」


 そう、唱える呪文はどちらも同じ。そして二人の手から発せられたのは風の魔法だった。凄まじい風圧と風圧が中央でぶつかり、更に大きな力となって、脇の本棚達を倒す。すると、その凄まじい物音に図書室内にいる人々から驚きの声が上がり……。


 そんなレヴィンの周囲には、それでもまだ所狭しと本棚が。正直、それに動きにくさを感じていたが、ここで広い場所といったら後は閲覧室位しかない。なので、仕方なくそちらの方へと向かって、レヴィンはじりじりと少しずつ後退ってゆき……。そう、アルヴァをどうとらえようかと、どう攻撃しようかと、ひっきりなしに頭の中を働かせながら。はっきり言って、彼がどの程度の魔法の持ち主なのか、全く見当がつかなかった。経歴だけを見れば、そう力は強くないと見るが……。だが分からない、相手を見くびって足をすくわれてもならないから。


「ケレコトア・ツアデナ・ヅヲリャイ・バララ・ケイグカ」 


 するとそうする内、ようやく閲覧室へとやって来て、再びレヴィンの口から攻撃魔法の呪文が唱えられる。

 散ってゆくのは火花。そう、呪文が終わると同時に、レヴィンの手からアルヴァの方へと向かって電流が流されていったのだ。そう、何とか殺さずに捕らえたかったので、死なない程度の電流を。だが……。


「シリョゲア・サッリデ・オクショエイ・ベイギュ」


 それよりも以前、アルヴァの口からも呪文が唱えられ、防御魔法でそれは弾かれる。それに思わずレヴィンは、


 はやい!


 思った以上の能力を目にして、レヴィンは少し焦りを感じる。だが驚いてばかりはいられない、何とか力を見極めるべく更に大きな攻撃魔法を掛けようと、レヴィンは次の呪文を唱えてゆく。そう、普通より少しばかり多くの精神力を必要とする攻撃魔法を。すると、その間にアルヴァは既に次の呪文を唱えていて……それも攻撃魔法の。


「ロソサネ・ヘイン・ホヘイ・ネ・オヲスア・ノモアユ・ケイグカ」


 レヴィンの、防御魔法の呪文を唱えるタイミングが少し遅れた。その結果、レヴィンはアルヴァが発したその攻撃魔法を、もろ体に受けることになる。そう、何かが勢いよく体に当たるかのような大きな衝撃を感じ、レヴィンは後ろへと吹っ飛ばされていって……。


 それに、そう、利用者にとって突然の如く始まったその戦いに、一方の人々は慌てふためいたようになっていた。震える空気を身に、不穏のざわめきを背に、悲鳴をあげながら人々は唯ひたすら逃げ惑う。それは、やがて我先にと図書室の入り口へと殺到する、パニックの行動へとつながってゆき……。


 そして、そんな気配を体に感じながら、抵抗も何も出来ないまま、レヴィンは背後にある壁へとその身を押し付けられていった。そう、何かに押さえ込まれたかのよう、ピクリともその体は動かないのだ。


「殿下の能力については、綿密に調べがなされています。得意分野はずば抜けて素晴らしいですが、幼い頃から魔法学校で学んだ積み重ねというものが無い分、その能力には少しばらつきがあります。どうやら、攻撃魔法はあまり得意ではないようですね。そして私はルシェフから、魔法軍人並のカリキュラムを受けました。以前の自分とは違います。見くびってはいけません」


「くっ……」 


 口惜しげに表情を歪めるレヴィン。

 すると、それに人々は、恐怖も忘れ、図書室の入り口付近にて身を固めながら、固唾を呑んでその光景を見守っており……。そして、


「ヅノートソ・ネ・ホヘイ・コアサヲドヲ・ヅ・ヒイザホシュイ・ヒイアヲ」


 アルヴァの口から低く呟かれる呪文。その魔法とは……。

次回で第六話は終わりになります!

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