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妹「桜」の話2

「桜」


 庭で一人、オモチャみたいな赤いスコップを片手に穴を掘っている妹。

 先日も庭を穴だらけにして母に怒られたばかりだというのに、懲りていないらしい。

 一応注意しようと妹の名前を呼ぶ。


「さーくーら」


 もう一度呼んだが聞こえてないらしく、桜は下手くそな手つきで穴を掘る。

 じゃく、じゃく、と土を撒き散らして一心不乱にスコップを振るっていた。

 仕方なく近づいて再び名前を呼ぶと、桜はようやく顔を上げる。

 目が合うと、小さい妹は嬉しそうな声で「おねえちゃん」と笑った。


「桜、お母さんに言われたでしょ。お庭で穴掘っちゃダメ」

「えー。言ってないよ」

「言われましたー。お母さんにまた怒られるよ」

「おこられないもん。砂のおやま作っていいって、言ったもん」

「あ、嘘ついたな。もう許さん!タイホします」


 泥だらけの桜をいつものように抱きかかえる。

 桜はスコップを手放し、「うわーつかまった!」と騒いだ。

 もしかして妹は、こうして私に捕まるのが楽しくてイタズラをするんじゃないだろうか。

 はしゃぐ桜の姿に、そんな考えが浮かぶ。


 泥で汚れた桜を見て、母は「ひえぇ」と情けない声を上げた。

 桜が着ていたTシャツは洗濯したばかりの服だったらしい。


「さぁちゃん!またお庭で泥んこ遊びしたの!?」

「してないもん」

「してたよ。庭で穴掘ってた」


 私の告げ口に母は再度「ひぇぇ」と腑抜けた悲鳴を上げた。

 妹の服を脱がせ、母が必死に洗濯をする間に私は桜のお風呂を担当した。

 シャンプーハットを付けて桜の髪の毛を洗うと、ポロポロと砂が落ちてゆく。

 一体全体どういう遊び方をすれば髪の毛まで汚れるというのか。

 お風呂のおもちゃで遊びたがる桜を押さえて二度目のシャンプーを開始。

 遠くで母が「さぁちゃん!長靴履かなかったの!?」と叫ぶ声が聞こえた。

 ちゃんと見ていなかったが靴も相当、泥だらけらしい。


「桜、せめて今度からは長靴履いて遊びなさい」


 私の言葉はシャンプーハットに当たる湯の音にかき消されたらしく、妹は「なぁに?」と聞き返すだけだった。

 お風呂から上がると、母が桜の靴を石鹸で磨いていた。


「ありがとう、円香。助かったわ」

「いいよ、別に。いつものことだし」

「お庭まで片付けさせちゃってごめんね。お姉ちゃんに頼ってばっかりね」


 母の言葉に引っかかるものを感じて、私はドライヤーの手を止めた。


「お庭?庭って、何が?」

「え?円香が片付けてくれたんでしょ?」


 母は桜の靴を洗いながら答えた。


 庭?

 どうして庭のことなんて言うの?

 意味がわからないまま、開けっ放しの縁側に行き、庭を覗く。


 桜が掘った穴が埋められていた。

 ぐちゃぐちゃに掘り返していた穴が、一つ残らず埋められている。

 周りの土を雑に集めて上からかけただけのような、適当な埋め方で。


 私じゃない。

 私は、やってない。


 ぱたぱたと廊下を走る音がする。

 桜の足音だ。

 走ってきた桜は、私の足に抱きつく。


「おねえちゃん」


 そして、穴の埋められた庭を眺めて困った顔で私を見上げた。


「おねえちゃん、わたしのスコップどこ?」


 桜の赤いスコップは、どれだけ探しても見つからなかった。

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