第1話 国産み、黄泉の国、そして夫婦喧嘩
古事記、始まります。
まずは何もない混沌から、イザナギとイザナミの国産みまでです。
だいたい勢いで日本列島が生まれ、だいたい夫婦喧嘩で死のルールが決まります。神話の初期設定、雑なのに強いです。
プロローグ ~ まだ何もないんですけど ~
最初、宇宙にはなにもなかった。
いや、正確には「ドロドロしたなにか」があった。クラゲみたいにプカプカ漂う、よくわからない混沌。居酒屋の閉店後の厨房みたいな状態だと思ってもらえればいい。
そこに、唐突に神が現れた。
天之御中主神。
「……」
現れて、なにも言わず、消えた。
続けて高御産巣日神と神産巣日神も現れた。
「……」
「……」
現れて、なにも言わず、消えた。
――おい。
いわゆる「造化三神」と呼ばれるこの三柱、後の世では「宇宙を創った偉大なる神々」として崇められることになるのだが、正直このときやったことは出勤して即退勤しただけである。
その後も何柱かの神が同じムーブをキメた。現れては消え、現れては消え。まるで存在確認だけしに来たバイトのシフトである。
しかしこの意味不明リレーの末に、ようやく「仕事をする気がある」二柱が生まれた。
第一章 ~ イザナギとイザナミ、だいたい勢いで国を作る ~
伊邪那岐命 ―― 見た目はイケメン、中身はノリと勢いで生きるタイプ。
伊邪那美命 ―― しっかり者に見えて、わりと夫に流される系女子。
天上の神々(さっき出勤即退勤したやつら含む)が、この二人に言った。
「あの下のドロドロ、なんとかして」
雑。指示が雑すぎる。
だが二人は素直だった。天の浮橋という場所に立ち、もらった矛(天沼矛)を下のドロドロに突っ込んで、かき混ぜた。
ずるずる、ぐちゃぐちゃ。
引き上げた矛の先からポタポタ落ちたドロが固まって島になった。
「おー、できたできた」
「なんか雑だけど島っぽい」
淤能碁呂島の誕生である。
二人はその島に降り立ち、でっかい柱を立てた。そしてイザナギが言った。
「じゃあさ、この柱をお互い反対側からぐるっと回って、出会ったところで『いい人だね』って言い合おうぜ。そしたら国が生まれるらしいから」
「えっ、それどこ情報?」
「天からの勘」
イザナミは若干の不安を抱えつつも、柱を回り始めた。
ぐるっと回って――出会い頭。
「あなた、なんて素敵な方!」
イザナミが先に声をかけた。
イザナギは微妙な顔をした。
「……あー、うん。ありがと。でもさ、俺から言うべきだったんじゃない? なんかこう、順番的に」
「えっ、そういうルールあった?」
「ある気がする。勘だけど」
また勘。
結果、このファーストトライで生まれたのが蛭子。
骨のない子だった。
「「…………」」
二人は無言で蛭子を葦の船に乗せて海に流した。
ひどい。
さらにもう一つ生まれた淡島も、なんかこう……微妙だった。
「やり直そう」
「だよね」
今度はイザナギから先に声をかけた。
「きみ、めっちゃいい女じゃん」
「あなたこそ、めっちゃいい男じゃん」
雑。だがうまくいった。
ここから二人は怒涛の勢いで島を生み始めた。淡路島、四国、九州、本州……次から次へとポコポコ島が生まれる。まるで工場のラインである。
「つぎ! はい四国! 顔が四つあるけど気にしない!」
「はい九州! 体が一つで顔が二つ! 奇形とか言わない!」
こうして日本列島はだいたいの形になった。
第二章 ~ 火の神が生まれて全部キレ散らかす ~
国を産み終えた二人は、続いて神を産み始めた。
海の神、風の神、山の神、木の神……。これまた大量生産である。
だが最後に問題が起きた。
火之迦具土神。火の神。
生まれた瞬間、イザナミの体を焼いた。
「あっっっつ!!!!」
イザナミは大やけどを負い、そのまま死んでしまった。
イザナギはブチギレた。
「おまえェェェ!!」
愛剣・十拳剣を抜き、生まれたばかりのカグツチを斬り殺した。
いや、生まれたての我が子を即斬殺って。
しかもカグツチの血や体のパーツからまた新しい神が大量に生まれた。雷の神やら山の神やら。
斬ったら増えた。もはやギャグである。
第三章 ~ 黄泉の国 ~ ホラーかと思ったらただの夫婦喧嘩 ~
イザナギは妻が恋しくてたまらなかった。
「イザナミに会いに行く……!」
向かった先は黄泉の国。死者の世界。
暗い入り口の向こうから、イザナミの声が聞こえた。
「あなた、来てくれたの……? でもごめん、もうこっちのご飯食べちゃったから帰れないかも」
「えっ」
「黄泉の神に相談してくるから、ちょっと待ってて。あと、絶対に私を見ないで」
フラグが立った。完全にフラグが立った。
「わかった、見ない」とイザナギは言った。
――待つこと数時間。
「……遅くね?」
我慢できなかった。
櫛の歯を折って火を灯し、中を覗いた。
そこにいたのは――
腐乱し、体中にウジが湧き、八柱の雷神がまとわりつく、変わり果てたイザナミの姿。
「ぎゃあああああああ!!!!」
叫んで逃げた。夫として最低の反応である。
「見たなァァァァ!!! 恥かかせやがってェェェ!!!」
イザナミ、激怒。黄泉の軍団を差し向けた。
追手その1:黄泉醜女。
イザナギは走りながら髪飾りを投げた。すると葡萄が生えた。醜女たちはそれに群がって食べ始めた。
「食うんかい」
次に櫛を投げた。筍が生えた。またしても食べ始めた。
「また食うんかい」
だが最後にイザナミ本人が追いかけてきた。
イザナギは黄泉と現世の境界にある坂に巨大な岩を置いて、道を塞いだ。
岩越しの夫婦会議が始まった。
「あなたがそうするなら、あなたの国の人間を一日千人殺してやるわ!」
「じゃあ俺は一日千五百人生まれるようにするから! 差し引き五百人の勝ち!」
人口問題を夫婦喧嘩のノリで決めるな。
こうして二人は離婚した(正式名称:神避り)。




