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漆黒の魔術師エルト、勇者パーティを引退してコンビニを始めます!  作者: 永礼経


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第27話 ギルマスとパン売り場

 その店は夕方の掻き入れ時で客がごった返していた。


 多くのものは飲料水やお菓子、それになんと言っても夕食にするつもりであろう惣菜類を多く買い物かごに入れている。

 中には携帯食料ベントーを買っているものもいた。


 ゲラルドはこの「携帯食料ベントー」とやらをまだ食べたことが無かったが、ヘルメの話によると、

「品目に偏りがなく非常にバランスの良いメニューで、ことに、白飯しろめしを主食に据えているところがまた絶妙です。野外活動において炭水化物の摂取は即効性が高く、即時行動に向いています」

とのことだ。


 まあ、そのうち食べることもあるだろうと思っていたのだが、それもそう遠くない未来になりそうだと考えていた。


 それにしても盛況なことだ。

 しかし店員の皆はてきぱきと仕事をこなし一分いちぶの乱れも出さない。自分自身がすべきことを的確に判断し、それを為せる環境づくり、つまり、チームワークの賜物だろう。


 その中にあってひと際輝いている女性店員がいる。


 エルフのリーリャ・リューレ女史である。

 このうら若いエルフの乙女はその居住まい、立ち振る舞い、そして何よりも輝くような笑顔が美しい。

 白い肌に金色の髪。

 今は仕事中で髪を纏め上げているが、それゆえに露になる首筋の白さにゲラルドは陶酔の域に誘われる。


 ――いつ見ても美しい女性ひとだ。エルのやつ、採用基準に容姿は関係ないとか言ってたが本当かどうか怪しいぜ。


と、ゲラルドは訝しむ。


 さすがに店が忙しそうなので、店内をしばらく物色することにする。そのうち、手隙てすきのタイミングも出るだろう。


 店内に置いてあるものと言えば、ポーション、呪文書、携帯食料、惣菜類、飲料水関連などの冒険者が日常に必要なものが多い。それに加えて、いわゆる小道具類も結構な種類が並んでいる。火打石、小型松明、ダーツ、煙玉けむりだま蛍石ほたるいしなどもある。あとは菓子類や日用品なども多数並んでいる。


 そんな中、ひと際広い幅を取っている売り場へと目を向ける。


 パン売り場だ。


 冒険者にとって食料としてのパンと言えばバケットがほとんどだ。

 なぜなら、あれなら固く、ナップザックに入れてもぐちゃぐちゃにならない。ゲラルドも冒険者として活躍していた頃にはナップザックに数本押し込んでいたものだ。

 形は細長いものと丸いものがあったが、その時の荷物によって使い分けていた記憶がある。

 もちろんこの店にもそれは品揃えされているのだが――。


(お、お? これは初めて見るぞ? 餡子あんことホイップクリームだと!? そんな最強の取り合わせが実現可能なのか!? これは――、オニオン、ケチャップ、チーズ? そして、ベーコン!! なんという贅沢な取り合わせだ! 野外でプチピザ感覚が味わえるだと!?)


 と、バケットの横にずらっと並べられている、「調理パン」の売り場に並ぶ様々な種類のパンたちに目を奪われる。


 こういったパンたちは、全て包装紙でくるまれている為、実物自体を目にすることは出来ないが、その代わりに、それぞれにPOP(ポップ)が付されていて、魔法による「投影画フォト」も付いている為、中身の形状がわかるようになっているのだ。


 実はゲラルドはこの調理パンが大の好物なのである。


 自分が実戦冒険者ランカーだった頃は固いバケットをたまに手に入るバターやジャムと一緒に食べたものだ。そして、それぐらいしか味のレパートリーは無かった。

 それが今や、こんなに凝ったパンが作戦行動中の休息時にも食べることができるとは、今の実戦冒険者たちのなんと恵まれていることか――。


 それにしてもこの、餡ホイップロールはヤバい――。


 ゲラルドが誘惑に耐え切れず、思わずそれに手を伸ばした瞬間だった。

 

「これはこれは、ゲラルド様。ご来店ありがとうございます。あ、そちらの商品は最近新発売のものですよ? ゲラルド様はパンがお好きなので、ご意見を賜りたいところです。いかがでしょう?」


と、背中から麗らかな女性の声が掛かり、思わず手を引っ込めてしまった。


「あ、ああ、リューレ女史。いやあ、お恥ずかしい。少し見ない間にこんなに種類が増えたんですな? 餡子とホイップクリームの取り合わせなど、そんな夢のような組み合わせ、本当に相性が良いのですか?」

と、努めて冷静を装い、問い返すことに成功する。


「もちろんです。当店自慢の一品となっており、売れ行きも大変好調ですよ? ゲラルド様もぜひお試しくださいませ。――あ、オーナーに御用でしたでしょうか? 今、呼んでまいりますので少々お待ちを――」


と、言うなり、リューレ女史は事務室の方へと向かって去って行った。


 ゲラルドはその背中に向かって名残惜しさを感じつつ、もう少しパンの話でも聞きたいと思ったが、彼女は忙しい立場のひとだと、自分を制する。


 彼女が去った後には爽やかな香りが立ち込めているようなそんな気分に心を満たされながら、その背を目で追っていた。

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