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fall〜coda〜autumn  作者: 井能枝傘葉
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Fall Holiday Ⅲ

秋休みの初日……だというのに。

「なんで俺は、学校に来てんだ……」

「言うなよ彰、ここに居る奴は皆同じ気持ちさ」

生徒指導室。今日もまたここで進路を決める為の缶詰めが行われていた。

「でも、人数減ったな」

「あぁ、オレも思った」

確か昨日は26人と言っていた筈。だが今数えてみると、20人ちょうどしかいなかった。

「その6人は、昨日の内に決まった奴等だよ」

昨日同様、資料を読み、しかし左手ではペンを回している黒石が目を資料から動かさずに答えた。

「その中に、ここもいたって訳だ」

席の並びは昨日と同じ。黒石は閉じた資料を俺の隣……雀耶さんの席だった机に置いた。

「雀耶さん、先生に話すだけだったもんな」

早いのは当たり前か。

「陽斗も、先生に言ってなかったか?」

「おー……けどやっぱ他の場所も考えろって言われてな。仕方ねぇから、同じこと出来る場所で探してみるんだ」

陽斗は席を立って資料探しへ、黒石も資料を見てる(フリかもだけど)。

俺も行動に移るか……

「……ん?」

ふと、隣に座る人の顔を見た。

「……」

昨日と変わらず、前の方の席に座る紫を見ていた玄平が、別の行動をしていた。

「……」

具体的に言うと、何かを書いていた。

大学ノートに、シャーペンで何かしらを書き、ページが埋まったら捲り、行を埋めては捲るを繰り返す。

資料のメモ、ではない。玄平の机の上にはノートと水筒しかないし、ぱっと見たソレは、とりあえず、日本語じゃなかった。

かと言って、英語でもなさそうだな。じゃあ何語だ?

いや、それ以前に。

「玄平、何書いてるんだ?」

普通に本人に訊けばいいだろう。

「……」

答えてくれない可能性もあったが、玄平は水筒に手を伸ばして、声水を飲んだ。

『これはですね……すみません、ちょっと、言えません』

雀耶さんの声に変わった。

「あ、それか。へー、大分進んでるんだな」

黒石がノートを覗き込み、そう言った。

「黒石、分かるのか?」

「そりゃあ、教えたの俺だし。ふーん、やっぱ玄平はコッチに進むんだな」

『そうですね……わたしには、こちらの方が合いますし、それに……こちらに進まないといけないんです』

こちらに進まないと? というか、俺が教えたって?

この2人、何か関わりはあるとは思ってたけど、どういう関係なんだ、これ?

「彰」

色々考えていると、黒石に呼ばれた。

「これについては、深く考えない方が良いぞ。これは理解出来る人と、影響を受ける人の二通りあって、彰はもう後者だからな」

もう、後者?

「もうってどういう意味だよ」

「手遅れって意味だよ」

いやそう訊いたんじゃねぇから。

「深入りはやめとけな。出来ない人には、本当に出来ないから」

それだけ言い残し、黒石は資料に目を戻した。

「……」

そう言われたら、少し深入りしてみたくなるだろ。

「玄平、それ少し見せてくれないか?」

『別に構いませんけど……良いんですか?』

「大丈夫、少し見るだけだから」

『では、どうぞ』

ノートを受け取り、ペラペラと捲って見るが、

「うわ……」

ダメだ、理解出来ないし、そもそも読めない。深入りしろって言われても無理だ。

「……ありがとう」

『何か、分かりました?』

「ううん……やっぱり、深入りはダメだね」

つい、雀耶さんと話している時のような感覚で返してしまった。

『これは、努力することで、得られることですからね』

玄平は再び、ノートに書き込む作業に戻った。


そのまま時間が来て、終了。

結果として、俺は昨日と同じ。

玄平は、大学ノートを一冊書き終えた。







秋休み2日目。

本日、朝から雨が降っている。

「けど、屋内のここでは関係ない、か」

でも俺は生徒指導室にて、資料を開いていた。

にしても、また少なくなった……

昨日は、陽斗を含め11人の生徒が進路を決め、ここに残ったのは9人のみ。

知っている顔は、今も資料を読む黒石。ノートに書き込みを続ける玄平。

それと、

「玄平さん。ちょっと、良いかな?」

今まさに玄平へ声をかけた、この学校の誇る天才。紫 広巳。

「……」

玄平は水筒に手を伸ばし、会話の用意をする。

『どうした? 紫』

紀虎の声だ。

「えっと、あの説明書は、出来たの?」

説明書? まさかそれって、

『いや、まだまだだ。昨日一冊書けたけどな』

やっぱり昨日書いてたアレか。何かの説明書だったんだな。

「良かったら、それを見せてくれないかな?」

『ん? 別に良いぜ、ほれ』

玄平は昨日書き終えたノートを鞄から取り出し、紫へと渡す。

「ありがとう」

お礼と共に紫はノートを開いて目を通す。

へー、さすがは学校の誇る天才。あれが読め…

「へ……へー、凄いね……」

…てるのか?

「あ、あれ? ココ、間違えてない?」

ページの一ヶ所を指して言うが、

『いや? 間違えてねぇけど』

玄平は首を振って否定した。

「え、あ、あぁ、そっか。ゴメン……」

……どうやら、紫も読めてないみたいだな。

じゃあ、何で間違いを見つけた、なんてこと言ったんだ?

まるで、読めてる姿を見せたいみたいじゃんか。

「……天才故の葛藤。だな。いや、天才じゃなくて―――」

黒石が何か呟いた気がした。

「はぁ……ダメか……あ、玄平さん、ありがとう」

ノートを閉じ、返そうと手を伸ばす。

その時、


カッ……



「あ……」

「あっ……」

『あ!』



カシャーン!!


水筒にノートが当たり、バランスを崩して床へ落下。更に運悪く蓋が緩かったのか中身が……声水が床に零れ落ちた。

『ちょ、お前何しやがるんだ!』

「ご、ゴメン! 悪気はなかったんだ! すぐに拭くもの持ってくるから!」

紫は走って部屋を出ていった。その行動とさっきの音で、生徒達の視線は集まっている。

『ま、マズイな……今日はこれだけしか持ってきてねぇのに』

「いや、まだ少し残ってるぞ」

『え?』

隣の席ということもあり、落ちてからすぐに動いた俺はまず水筒を持ち上げて縦にした。

それにより、底の方にまだ少しだけ残っている。

「この量でどうにかなるか分からないけど、どうだ?」

「……」

玄平は無回答。

まさかもう、さっきの効果が切れたのか?

と思っていたら。玄平はいきなり俺の耳元に顔を近づけ、


「……ありがとう」


と、誰か分からない声で伝えた。



え……今の声……やっぱり……


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