Fall Holiday Ⅱ
それ以降誰かが来ることはなく、人数確認した大菊先生は語りだした。
「ここに集められた26人。理由は分かってると思うけど、あのプリントに書かれた通りです」
俺は渡されたプリントに目を落とした。名前とか、ここに集まるようにとか書かれた意外の場所に理由が書かれている。
『現段階で、進路を決めてない生徒』
これはその集まりだ。
「高校生活もあと残りわずかです。年が明ければ大学受験も始まり、就職する人もいるでしょうが。その決断を、ちゃんとしてもらいます。皆さんそれぞれやりたいことがあるでしょう。ここいは多くの大学の資料があります。先生方も相談に乗りますので、分からないことがあったら隣の職員室へ―――」
その後も色々と話した後、生徒達に行動開始を伝えると、今まで座って聞いていた生徒達が行動を開始した。
「進路なー……」
さっそく資料を読み始める生徒や、先生に質問や相談に行く生徒がいる中、俺を含めD組5人は席を立たなかった。
「陽斗って、志望する大学今のままじゃヤバイ、とか言ってなかったか?」
「あぁ、でも諦めれきれなくてなー。かと言って簡単に学力が上がるわけじゃねぇし。それで何も言わなかったから、ここに呼ばれたんだろうな」
そういう理由の生徒も、何人かいるんだろうな。
「雀耶さんは、もう決めてるって言ってたよね?」
「はい。美術系の大学を考えています。ここという場所は決めていませんけど」
「それを先生には?」
「言っていません。進路相談がなかったからでもありますけど、おそらくこれがあるので今まで声がかからなかったんでしょう」
こういう理由の人は……雀耶さんだけだろう。
「彰や黒石みたいな奴も、多分レアだぞ?」
卒業後を全く決めてない、という人だ。
「黒石もなのか?」
「彰とは真逆の理由だろうけどな」
俺と真逆? どういう意味か訊くと、黒石はペンを取り出して指で回しながら答えた。
「色々とやりたいことがあり過ぎる。だから一つに決めかねて、結局決めてない。ほら、彰と逆だろ?」
「まぁ……そうだな」
やりたいことがあり過ぎて決められないって、どんだけ人生楽しんでんだよ黒石……
「でも、どの大学も選びたい放題とかじゃないんだろ?」
「そりゃな、大半は選べるけど、だから選びきれなくもある。推薦とかもいくつかはもらえるだろうな」
「うへぇ……普段の行い見てたら秀才には見えねぇのに」
いや、あれだけ生徒や先生の目を盗んでサプライズを起こしてる黒石だ。むしろ、頭が良いんだろう……内申点はどうかしらないが……
「けど、秀才は俺じゃないぜ」
ペンを止めた黒石のペン先が向いたのは、
「……」
声をかけられると予想していたのか今まさに声水を飲んだ玄平だった。
「そういや玄平って、テストとか上位に名前乗ってるよな」
「上位も上位、常にベスト5以内だろ」
「そ、そうなんですか?」
雀耶さんも驚いている。というか、それ本当かよ……
テストの名前なんて自分の名前の周り(だいたい真ん中辺り)しか見てないからしらなかった。
「な? 玄平」
『余り、自慢するようなことではないがな』
竜華の声だった。
『私が目指す道には、学力はいくらあってもいいからな』
「うわー、言ってみてぇよそんな台詞」
「玄平さんの、目指す道とは?」
『生物学、あるいは医学系統だ』
「はぁ、それは、難しそうな分野を……」
『だが、生物学と医学、その方向は全く別でな……どちらを選べばいいものが、悩んでいるんだ』
玄平も、黒石みたいな理由か。
「まぁつまり…」
黒石が今までの会話をまとめた。
「ここにいる全員、皆それぞれの理由を持って来てるって訳だな」
「その通り」
その時、話を聞いていたのか、大菊先生がこちらへと来ていた。
「あなた達、せめて動作を起こしなさい。今なら先生方も空いてるので相談も出来ますよ」
まぁそう言われるだろうとは思ってた。なので俺達は今さらながら行動を開始した。
雀耶さんと陽斗は先生へと相談へ、黒石は資料を探しに席を立ち、俺は…
「あれ?」
「……」
席から立とうともせず、どこかを見ている玄平を見つけた。
玄平、何を見てるんだ?
「……」
その方向には、一つの席、そこに1人の男子生徒が座って資料を呼んでいる。
「アイツは確か…」
「紫、だな」
戻ってきた黒石は沢山の資料を机の上にドサリと置いた。
「凄い数だな」
「読んでるフリしてれば何も言われないだろ? ほい、彰もコレ、適当に」
渡されたのは遠方にある大学の資料。それを受け取って開き、しかし目も通さず黒石に訊く。
「紫って?」
「彰知らないのかよ。一年の時は同じクラスだったろ?」
「あー…………スマン、思い出せない」
「まぁ仕方ないな。一年生の時は目立つ生徒じゃなかったし」
開いていた資料を閉じ、隣の机、陽斗の机に置いて別の資料を開いてから、黒石は語りだす。
「紫 広巳。確か今は科学部の部長で、この学校の誇る、天才だ」
て、天才?
「俺達が三年生になってからの名前が張られるテスト、その全てで一位に君臨し続けているんだよ」
す、スゲェ……
でも、そんな奴がどうしてここに?
「ここに呼ばれた理由は、俺や彰みたいなもんだろうな」
あぁ、そっか。いくら頭が良くても、卒業後を考えてるとは限らないのか。
……で、何でそんな紫を、玄平は見ているのか?
「おーい玄平? お前は資料見なくていいのか?」
「……」
聞こえてないのか、返答無し。
「玄平?」
目の前で手を振ってみる。
『!? な、なんだ、彰か』
ようやく返答があった。
「資料、見るか?」
今まで開いてただけの資料を渡す。
『いや、私はまずどちらかを選ぶことから始めないといけない。まだ資料は不要だ』
それだけ言うと、玄平はまた前を、紫の座る席を見た。
「そ、そうか……」
何で紫を見てるんだ? って訊いても、答えてはくれないんだろうな……
そのまま、本日は終了となった。
俺は特に何も決まらず。
玄平はずっと、紫を目で追っていた。




