4th day patternⅤ
開始した、秋の物語。
若干変わった文章の書き方をしていますが、どうぞお楽しみください。
〜HR前〜
教室に入り、鞄を机の上に置いたところで、
「緑葉、先生が配当係探してたぜ」
とクラスメイトに言われて、職員室へと向かった。
そういえば、D組もう一人の配当係である玄平がいなかったけど、もう行ってるのか?
と思ったその時、
「やっぱジョウハイは面白ぇよな」
前から紀虎の声が聞こえた。誰かと話しているようだが、
『おー、あのやっぱりか! って感じが良いよな』
会話に応えた声もまた、紀虎の声だった。
……コレ、知らない人が聞いたらただの一人会話の寂しい奴に聞こえるが。知ってるから違うと分かった。前から会話をする2人がやって来る。
「よっす、2人共」
「ん? おぉ、彰、よっす」
先に気付いた紀虎が声をかけ、
『おぉ、彰、よっす』
続いて、紀虎の声に変わった玄平が声をかけてきた。2人共に手には紙の束を持っている。
「え、もしかして紀虎が手伝ってくれてるのか?」
「いや? アタシも配当係で、玄平とはそこで会っただけだぞ」
よく見れば2人が持っている資料は違う教科のものだ。
「B組のもう一人は?」
「分かんね、まだ学校来てねぇのかもな」
ふむ……改めて、2人の持つ物を見る。
紀虎の持つのはノート。多分クラス全員分で、普通に2人で運ぶ量だ。
一方玄平はプリント。量はあるがノートほどかさ張ってはいないし、ここまで1人でも良さそうだ。
けどそう考えたら紀虎の方も1人で運んでるしな。
紀虎を手伝うか、平気と思って自分のクラスを手伝うか……
□紀虎を手伝う △自分のクラスを手伝う
△…… まぁ、紀虎なら平気だろ。体力あるし。
「それじゃ、俺は自分のクラスを手伝うことにするよ」
「ことにってか、それが普通だけどな。んじゃ、また後でな」
荷物を持ったまま、紀虎は一人行ってしまった。
Select → △
半分持ち、玄平と共に教室へと向かう。
『別に向こう手伝ってきても良かったんだぜ?』
そう言ったのを聞いて、なんというか、妙な気持ちになった。
向こうが紀虎で、こっちも紀虎(の声に変えた玄平だけど)、
「妙な感覚にもなるさ……」
『ん? どした彰』
「いや……どっちも紀虎だったなって、少し混乱してた」
今さら思えば、さっき紀虎、よく自分の声と話してたな。
『んー……じゃあ、まぁ、あれだな』
あれだな?
『ちょいコレ持ってて』
玄平が持っていた半分のプリントを俺が持っている上に置くと、ポケットから何かを取り出して、
『んぐっ……』
その何か―――試験管に入っていた液体を一気に飲んだ。
いや、何で試験管なんてポケットに入ってるんだ? まぁ答えてくれるとは思わないので口にはしないけど。
『ふぅ……これでいいかな~?』
その声が、山吹のものに変わっていた。
「あ、あぁ……うん」
ひょっとして、わざわざ変えてくれたのか?
というか、声水は一度効果が切れるまで他の声には変えられないって、聞いた気がするんだが。
『これはちょっと特別製でね~。重ね掛け専用なんだよぉ』
そんな物をわざわざ使ってまで……
「えっと……ど、どうもな」
『ど~いたしまして~』
玄平が再び半分持ち、その後は無言のままで、教室へと向かった。
~休み時間~
授業が終わり、休み時間になったところで、こんな会話が聞こえた。
「なぁ、あのプリントやったか?」
「まぁね、でも昨日出して今日提出はヒドイよね」
プリント? そんなのあったか?
「よっす彰、お前プリント終わったか?」
陽斗が訪ねてきたが、全く知らないぞそんなの。
まさか……
「陽斗、そのプリントが出たのって、昨日の5限か?」
「そうだけど?」
俺は机の中に手を入れ、中を探ってみる。すると手に紙のような物が触れた感触があり、掴んで引き出してみる。
「……コレか?」
そこにはくしゃくしゃになった白紙のプリントがあった。
「どう見てもやってないな」
昨日の5限と言えば、寝ていた時だ。一番後ろの席だし、渡されてはいたんだな。
この授業は、まさに次の時間じゃないか。
「陽斗、写させてくれ」
「無理だな、なぜならオレもやってないからだ!」
「いばることじゃないよな?」
「彰を頼るつもりだったんだけどな。ここはお互いに誰かに写させてもらうしかないぜ」
「だな」
と言っても、誰にだ?
写させてくれそうで、頼みやすそうなのは……
〇やはり竜華だ △玄平はどうだ?
△…… 玄平とか、真面目にやってそうじゃないか?
悪い考えかもしれないが、あの喋りたがらない玄平に頼めば、断わるよりも無言で見せてくれる気がする。
よし、行ってみるか。
「よし、お互い頑張ろうぜ」
「だな、オレは……ナツ辺りに訊いてみるわ」
互いの健闘を祈り、俺達は行動を開始した。
目指すのは、玄平だ。
Select → △
玄平は自分の席に座っていた。
「玄平、ちょっといいか?」
「……」
声に気付いた玄平は、鞄の中に手を伸ばして水筒を取り出し、中の声水を一飲み。
それが毎回の事なので、クラスの皆はもう分かっているから俺も素直に待った。
『何か用か? 彰』
げ……よりにもよって竜華の声に変わりやがった。これじゃあ竜華に訊きに行ったのとあまり変わりがないぞ。
『どうした?』
……いやいや、確かに声は竜華だが、これは玄平だ。だから大丈夫……の筈。
「昨日の5限にプリントの宿題が出たよな?」
『あぁ、コレだな』
机の中からプリントが出された。よく見れば、全て書かれている。つまりやってあった。
「頼む。写させてくれ」
『……』
竜華なら怪訝な顔を浮かべるだろうが、玄平は全くの無表情を浮かべていた。
『……仕方ないな』
おぉ、竜華が言いそうな割り切り方、
『ただし全てはダメだ。途中からは自分で解け』
うわぁ、竜華の言いそうな台詞だ……けど、全部ではないが写させてはもらえるんだ。
「サンキューな、竜華」
『……』
あ、しまった。間違った。
「わ、悪い間違えた。サンキューな、玄平」
『あぁ』
声が竜華で台詞回しも竜華だからつい間違えちまった。
でも、ちょっと意外だったな。
自分で声変えてるのに、呼び間違えれられたら、少し眉をひそめていたのは。