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ここは世界で一番空に近い檻 ディストピア一歩手前のオメガバースの世界で運命の番が幸せになるまで  作者: 庭師K炎


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序・こんな世界で

 運命の番に会ったときの衝撃なんてものを味わえるαは、今のこの世の中にどれだけいるのだろうか?


 それはどんなもの?


 歓喜?

 それとも恐怖?


 それに答えてくれるのは、だいたい過去の文献とやらしかない。


 それほどまでに今この世界のΩ人口は極端に少なく、またα人口も昔ほど多くはない。



 そんな中で、俺たちは出会った。

 いや、出会わされたとでも言えばいいのだろうか?



 目一杯、限界ギリギリまで飲んでいる抑制剤の効果を無駄と一蹴してしまえそうな反応が、自分の中から湧き上がっているのを感じる。


 堪えて、堪えて、張った虚勢で無理やり己を「理性ある立派なα」としてこの場に立たせていられるのは、その抑制剤の恩恵あってこそ。


 そして、隣にいる同じαの養子の息子にまともじゃない姿を見せられるものかという見栄と、彼こそ初めて会うΩの存在に惑い狂わないよう、俺が抑止力にならないといけないという使命感が、ギリギリのところで踏みとどまらせてくれている。


 そうでなければ、理性なんてとっくに豪速球よろしく宇宙の彼方に飛んでいったに違いない。


 若干、心に余裕があるのは、この場所が医療機関隣接の研究室であり、信用しているバース性研究の権威であるセンセイ様が側にいるからだ。


「良かった。見立てどおりだった」


 センセイ様は満足げな笑みを浮かべる。


「君たちが『運命の番』だということは、反応を見れば一目瞭然だ。この世界のためになんて立派なことは言わない。君たち自身のために、番ってくれないか」


 一方的に、そんな勝手なことを言ってくる。



 番ってくれ?



 本能は願ったり叶ったりだ、なんて叫んでいる気がする。

 でも、常識と理性が、反骨心を生む。


 センセイ様に大事に支えられている、Ωの女性。

 彼女も彼女で、運命の番()の存在に、抑制剤で抑えきれていない不調が見え隠れしている。

 それを必死で耐えているのが分かった。


 そんな態度だけで、ぐらりと好意に傾きかける意思の薄弱さ。今すぐ自分で自分を殴りつけたい。


 彼女と目が合う。


 たったそれだけで、言葉で表すにはあまりにも複雑な想いが、身の内側を暴風雨の如く掻き乱していった。


 それは心地よく、同時に恐ろしくもあった。


 無意識に、彼女の方へと一歩、足を踏み出しかけた。


 触れたい。

 抱きしめたい。

 そのうなじを噛みたい。


 渇望と充足。

 歓喜と慟哭。


 そんな両極端な感情で、思考がうまく働かなくて……。



「ああ、でもね」



 センセイ様は、俺と彼女の間にするりと割って入った。


 彼女の姿が、彼の白衣の後ろに完全に隠され、見えなくなる。

 その途端、自分の中で凄まじい怒りと衝動が湧き上がったのさえ感じた。


 俺から溢れ出たその気配に、背後の息子さえ「ひっ!!」と短く怯えた悲鳴を上げたほどだった。


 センセイ様は飄々と。


「番になるのは、まだだ」


 きっぱり言い切った。


「……は?」


 更なる怒りで、目の前の色が変わる気がした。


 番になれと言ったその口で、まだだと止めてくる。

 楽しそう、なのか、企みめいて、なのか、内心を読みきれないセンセイ様は、俺を見て笑った。



「彼女、まだ十七だから」



 なんともいえない静寂が、確かに俺たちの間に落ちた。


 ……その言葉の意味が、分からないわけではない。


 目が泳いで、床を見て、天井を見て、頭を抱える。



 激減したΩを守るために、バース性法律はたっぷりと改正された。

 もちろん、未成年に対する番契約の内容についてもだ。


 いくら必ず番うと誓いあった者同士でも、基本中の基本の倫理を守る今のバース性法律の壁は立ちはだかる。


 万が一、今、理性を手放して本能のままに彼女と番えば……。



「俺に社会的に死ねってか……っ!!」



 叫ばずにはいられない現実が、目の前に突きつけられたのだった。





いらっしゃいませこんにちはこんばんは。

こんな世界にようこそ。

ディストピア一歩手前のオメガバースの世界観です。

オメガバースとは、α(あるふぁ)、β(べーた)、Ω(おめが)という第二の性を持つ人類がいる世界です。

αは遺伝子的にも肉体的にも生物学的にも優秀な一般人より明らかに上位種な人たち。

βはいわゆる一般人。普通の人たち。

Ωは肉体的にはβにも劣る虚弱性と発情など特殊な習性がある人たち。

Ω性を持つ人は、男女問わず妊娠が可能。うなじを噛まれるという番契約を結べば生涯ただ一人その番のみに反応するようになる。

αα、αβ、βΩ、ΩΩなどの結婚は可能だが、優秀なαの子供、Ωの子供が生まれるのはαΩの番からのみである。

ちなみに、βがΩのうなじを噛んでも番契約とはならず、あくまでαとΩ間で起こる現象である。

αとΩは特殊なフェロモンを発生させていると言われており、相性の良い者たちはそのフェロモンによって激しく惹かれ合う。

自他の日常生活に支障をきたさないため、αもΩも抑制剤の服用が義務付けられている。

運命の番とは、そんなαとΩの中でも特に相性がよく、肉体的だけでなく精神的にも深い繋がりを示す、唯一無二と言ってもいい相手である。

一度番になったら解除方法はほぼ無く、死によって別れを経験した番は……。


もっと詳しくオメガバースの世界を深く知りたい方は、いろんな媒体で参考にしてください。

どうぞ、お楽しみくださいませ。

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