第四十二章 戦術 鈴木彩艶 (なし) 〜本職ではないことが、なんとかなるほどサッカーは甘くない?~
後半は、GKである。代理GKは何回か経験はあるが、今回は、県リーグの天王山ともいえる真剣勝負である。普段は、正GKが守護神としてゴールの前に鎮座ましましているので、安心して守備をしている。だが、今日の試合は「シュートを打たせたらダメ」という厳しい縛りがある。こちらも、「シュートを打たれたらゴメンナサイ。」というスタンスでやらないと気が重くなる。だから、前半が「戦術 長谷川唯」なら、後半は「戦術 鈴木彩艶」だ、と冗談で気楽に考えるようにした。
後半が始まった。後半は、前半とは違い、相手のペースで試合が展開された。攻撃中は、ポジションを自陣ペナルティエリアとハーフウェイラインの中間に置き、相手のロングスルーパスなどに備えた。だが、そこから、ゴール前に走って戻ることが多かった。
DFがボールをつなぐ場面では、GKの私にパスしてもよい状況でも私にバックパスが出てこなかった。これでは、「戦術 鈴木彩艶」には、まったくならない。パスが来ないので、安心する気持ちとさみしい気持ちが錯綜していた。
そうこうしているうちに、給水前にゴールを許し、追いつかれてしまった。相手の右サイドのカウンターで、センターリングされたボールをジャンプしてキャッチしようとした。だが、相手FWが、私よりも前に入り込み、ヘディングシュートを許してしまったのだ。しかも、味方DFと衝突してしまった。あの時、私が「キーパー!」と大きな声を上げて自分の存在をアピールすれば味方同士でぶつかることを防げたのかもしれない、と反省し、「今度こそは声を出すぞ。」と腹に力を込めた。
しかし、なかなか声が出なかった。フィールドプレイヤーでは、常に声を掛け合っているが、GKではまったく声を出せなかった。
ここで一句
場所変わり 爺が少女の 如くなり
それでも、声が出ない分は動きでカバーした。ペナルティエリアの前まで出て、浮き球をキャッチしたり、センターリングされたボールを敵味方で競り合った際、ゴールポスト付近にこぼれたボールを倒れ込みながらセービングしたりした。
そして、試合終了間際に、ペナルティエリアの外10m付近で、味方がファールを犯した。相手にフリーキックが与えられた。キッカーは、相手チームのキャプテンである。以前から何度かミドルシュートで得点していたのを知っていたので、このフリーキックも間違いなくゴールを直接狙ってくるに違いない、と身構えていた。
相手キャプテンがボールを蹴った。真っすぐこちらに向かってきた。私の前にいた味方と相手の数名がそのボールをヘディングしようと競り合いながらジャンプした。
だが、ボールは、彼らの頭の隙間を抜けてこちらに向かって来るのが分かった。
ここで一句
パンチング スカッと爽やか こりゃこーだ!
なんと自分でもびっくりジャンプしての両手パンチングで、スパーンとボールをペナルティエリアの外まで弾き返したのだった。初めてのパンチング。それなのに、見事に弾き返した。しかも両の拳は痛くない。というよりもジャストミートした余韻で拳が何だか気持ちがいいほどだった。シニアサッカーを始めてからジャストミートしたヘディングをしたこともなかったのに……。
ここで一句
パンチング 周りの味方は 音もなし
「ナイス・キーパー」
「ナイス・パンチング」
などの声を期待したわけではないが、ド素人のGKが会心のプレイをしたのだから少しはなんとか言ったらどうなの?と大人気なく思ってしまった。
試合は、そのまま1対1の引き分けで終わった。ハーフウェイラインに整列してお互いに一人ひとりと挨拶のハイタッチを交わした。その際、相手チームのキャプテンをはじめ、数名から、
「ナイス・キーパー」
と労いの声をかけられた。
ここで一句
敵賛辞 我が意を得たり 秋の空
心のもやもやが、秋の空に吸われて浄化されていった。
いまこれを書いていて思い出したのだが、あのパンチングは、きっと20~30代の時に4年ほどバレーボールを子供たちに教えていた賜物ではないか、と。
「指導している間に、左右どちらでもスパイクを打てるようになったからジャンプしての両手パンチングができたんだ。」
と勝手に自得した。
「でも、本職のフィールドプレイヤーとしてもっと技術を上げたいから、次回からは代理GKはお断りしよう。」
と心に誓った。
いつまた正GKが不参加になるのかは、知らんけど……。




