第三十三章 ゾーン 〜昔取った杵柄が出てきた夜は、美酒よりも酔える〜
第3試合の私の出場ノルマは、前半8分間と後半4分間であった。対戦相手は、今大会で3連勝中の相手。人数も6人と台所事情は苦しく、疲労の影響からか、前試合では動きが重そうに見えていた。
優勝がかかった試合が始まった。相手チームには小錦のような選手がいて、彼が自陣ペナルティエリア付近で「待ち伏せ」作戦を敢行してきた。そのため、相手チームは実質4人で守らなくてはならないので、
【味方5】対【相手4…1】
という試合展開となった。
私は、1番下がり目のポジションをとり、待ち伏せ選手を視野に入れながらプレイした。相手チームは、その待ち伏せ選手をターゲットにしてロングボールを蹴り込む展開をしてくるので、そのパスコースを読んで、何回かパスカットをした。そのうちに味方が2得点して優勝賞品のビールに手をかけた。
前半5分過ぎ頃、私は、ハーフラインから自陣5mほど入った位置で、ボールをカットした。その私の右斜め前から相手選手が寄せてきた。すかさず左足に持ち替え、前方にドリブルすると、今度は、別の相手選手が左斜め前から寄せてきたので、右足に持ち替えた。その時、相手選手の足に少しボールがかすったが、そのまま前にドリブルできた。
そして、ルック・アップすると、前方には誰もいなかった。あまりのどフリーのため、呆気にとられてスピードが落ちたが、
「そのままドリブルして、シュート!」
という味方の指示が聞こえ、ペナルティエリアに入ってから無人のゴールにボールを置いてきた。
この一連のプレイは、思い出す限り正確に説明したが、シュート前のドリブルについては、よく覚えていない。というよりも、説明できないところがあるのだ。それは、頭で考えたプレイではなく、身体が勝手に動いたプレイだったからだ。ブルース・リー曰く、
「Don't think!Feel !」
のプレイだったのだ。
ここで一句
頭より おもむくままに 身体から
学生時代のサッカー選手としてピークな時期に、考える前に身体が自然に動くプレイが、試合中に何回か出現していた。「出現」という表現を使うのは、自分の意思ではなく、反射的、本能的に身体が勝手に動いてしまうからである。いわゆる「ゾーンに入った」場合は、高い確率で好プレイになった。
30年以上のブランクを経て、サッカーを再開して3年半。最近、そういう本能的なプレイがたまに出てくるようになってきた。少しずつではあるが、昔の感覚が戻ってきているのだろうか、と密かにこれからの自分に手応えを感じ始めている。
ちなみに、この試合は完勝し、4週連続のフットサル大会に優勝した。賞品のビール1ケースを獲得し、その日の参加者で山分けした。下戸の私は、他の人に私の分を持ち帰ってもらい、段ボールだけ家に持ち帰った。
空の段ボールは、今夜の充実したプレイへの満足感で満たされていた。
空箱の 中身は軽く 心も軽し
【後書きの後書き】
帰宅した私が家人にこの話をすると、
家人曰く、
「いや、そこは、ビール3本持ち帰りでしょ?」
と(笑)




