ケモ耳メイドは今世の幼馴染との過去を邂逅する⑤
「陛下とお父様の賭け事に巻き込んじゃったみたいでごめんなさい」
しゅ〜んと項垂れるお嬢様を目にした私は、手に持っていた紅茶セットとお菓子の乗ったトレーを最速かつ丁寧にテーブルに置くと、駆け寄り手を握りました。
「お嬢様、今回の事はいつもの訓練です」
にっこりと微笑みながら『なんの問題もなかった』のだとお伝えします。
お嬢様は私の性格を理解して下さっているから、これ以上謝罪の言葉を連ねても受け入れないであろう事を考慮したのか、小さくくしゅっと苦笑いされました。
「そうね。昨夜は久々の訓練だったから疲れたでしょう? ノワール、一緒にお茶でも飲みましょう?」
そう言ってテーブル上のお皿からクッキーを摘み、「はい。あ〜ん」と言いながら私の口元へと腕を伸ばし、にっこり微笑まれました。
『か……可愛い!!』
お嬢様に『あ〜ん』とかされたら飛びつくしかないっ
いえ! 私はメイドですよっっ
ご主人様にそんな失礼な事しては!!……と直立不動で数秒間とはいえ葛藤の荒波に揉まれていたところ、扉のノック音がお部屋に響き現実に引き戻してくれました。
「カルディナ様、宜しいでしょうか?」
侍女長のルティア様の問に「どうぞ」と声を掛けると 、スっと音も無くルティア様がお部屋に入ってこられました。
そして、深くお辞儀をした後ゆっくりと身体を起こされました。
ルティア様が午前中のこんな早い時間にお嬢様のお部屋に来られるなんて珍しいですね? どうしたんでしょう?
「カルディナ様。本日旦那様が急遽登城する事となりましたが、カルディナ様は如何致しますか?」
凄くにこやかにお尋ねしているのにルティア様の背後には冷気を伴った黒いものが漂っている!
どうしたんですか?! ルティア様ともあろう方がお嬢様に対して、そのような態度で!?と一人あわあわしていたのですが、どうやらお嬢様は一切気にしていない様です。
「あら? 本当に急ね?」
「ええ。全くでございます。何やら陛下とお会いする用事が出来たとか?」
「まあ!! そうなのね。ふふっ、ちょうど良かったわ。私もアスラン様にお会いしたかったからご一緒させて貰いたいわ。ルティア、お父様に伝えてもらっても?」
お二人とも笑顔での会話ですのに、どんどんお部屋の空気が下がってきているような気がします……。
何があったんですか?! 日頃と違うお二人の雰囲気に私の心臓はばくばくですよ?!
お嬢様の言葉を旦那様に伝える為にルティア様は下がられ、私はお嬢様が登城出来るように準備に取り掛かりました。
え? まだ返答が来てないのに準備するの?とお思いの皆様。
旦那様がお嬢様のお願いを拒否出来るとお思いですか?
……それにね、この登城だって、昨日の夜オルト団長に無茶苦茶お説教されての事のようです。
私が巻き込まれた経緯を知った旦那様以外の御家族と使用人達のお怒りは思った以上の様です。
そういえば今日の朝食、いつもより盛りがよかったな!!
―――あ〜、きっと陛下もオルト団長にお説教されるんだろうな……。
オルト団長って、陛下と旦那様の教育係兼兄貴分だからお二人共頭が上がらないんです。
『きっと旦那様とお嬢様、そしてオルト団長で登城となりそうだから、服装はいつもの色で。となるとあの服がいいかなぁ……』と、お嬢様の登城ファッションに意識を向けていた私の背後から声をかけられました。
「ノワールも一緒に行きましょうね」
「え? ……私もですか?」
今日は旦那様もご一緒なので、私はお留守番かと思っていたのですが?と心中思ってましたら、お嬢様がとてもいい笑顔で、
「ええ。勿論ですわ。私の横にはノワールが居なくては、ね?」
と言われた後、ふふふっと微笑まれました。
その表情が何だか大人びていて、何故か私をどきどきさせたのは内緒です。
「あ、それと今日の色なんだけど」
「はい、いつも通り、王子殿下の色でお纏め致しますよ」
そうなんですよ。あの王子、あの歳にして『婚約者のカルディナには自分の色を身につけて欲しいんだ』とお嬢様への独占欲丸出しのお願いをしてて。
なので、お嬢様のドレスルームは緑と青ばっかりですわ。
私としてはお嬢様には他の色も纏わせてあげたいのに〜っっ
「今日はノワールが好きな色でお願いね」
え?! まじですか!?
……えぇ〜と、これは……今回お嬢様、まじ、お怒り………???
読んでいただきありがとうございます。




