表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

そして……

「入学式が2時間以上掛かるとか聞いてない……!」


 クラスへと向かう隊列からこっそり逃れ、講堂の裏へと隠れたあたしは大慌てで、ローブの胸元に隠した瓶を取り出していた。この中には姿変えの魔法を閉じ込めた、錠剤が入っているのだ。

 入学式は1時間半の予定だった。だから、薬が切れる頃にもう一度、薬を飲むはずだった、当てが外れたのだ。


 この薬を飲めばあたしは、だいたい2時間ばかり、シャーロックの姿に変身して過ごすことができる。顔は殆ど変わらないけれど、喉仏が出て、胸が平らになって、下半身がその、アレになる。あまり常飲すると体に悪いそうなので、日に2錠くらいまでにするように、と薬を用意してくれた父からは言われている。多分、父が何かしたのだろうけれど、寮の部屋もひとりだった。本来二人部屋なのに、だ。

 でも、初日くらいは、誰もいない時でも男の姿でいたほうがいいだろうと思って、朝と、入学式が始まる前に飲んだのだが、無事に変身できたことで、気が緩んでいたらしい。胸元のさらしの巻きが緩いことに、気づいていなかったのだ。


 まだあたしは15になったばかり。胸元はそんなに豊かじゃない。でも、締め付けていなければ見る人が見れば分かる程度にはある。女子生徒はローブの前を閉じているけれど、男子生徒は前開きのローブの下に、シャツとベストを着ているだけなのだ。緩んださらしに押し上げられた胸元は、うっかり屈みでもすればバレるだろう。


「……明日からはキツ目に巻いてから飲まなきゃ」


 飲んでから巻いたからいけないのだ。巻いてから飲めば、男の身にはちょっと苦しいかもしれないが、緩むことはないはずだ。


「なーにしてるの?」

「ひょえあ?!」


 慌ててカラカラと瓶を傾けたところで背後から声を掛けられて、あたしは驚きのあまりに瓶を取り落とした。バラバラと白い錠剤が飛び散り、慌てて振り返ると、癖の強い栗色の髪に緑の瞳、薔薇色の頬をした色白でかわいい女の子が、にっこり微笑んでこちらを見ていた。


「あ、ごめんね? 驚かしちゃったみたい……」

「だ、大丈夫。気にしないでくれ。く、薬を飲もうとしていただけなんだ……」


 半年ほど訓練したけれど、言葉遣いはまだ慣れない。どうしても硬い雰囲気になってしまう。本物のシャーロックはあの口ぶりなのだから、これじゃあ、いつか入れ替わるときに困ってしまうのに。


「ごめんね。きみも一年生でしょう? わたしもなんだ。教室に戻る途中で、急に列から離れていくから、どうしたのかなと思っただけなの」


 女の子は心底申し訳ないといった表情で、あたしの前にかがむと、こぼれた薬を拾い始めた。あたしも慌てて、それにならう。


「あ、ありがとう……」

「ううん、わたしが驚かしたのが悪いんだし。…………ねえ」


 瓶に入っていた錠剤は10粒。あたしの手に5粒。彼女の手に3粒。あと2粒、どこかにあるはず……


「ねえ、これ。姿変えの薬だよね?」


 びくん。

 自分の背が震えてしまったことに、あたしは内心で舌打ちした。

 ばか! そんな挙動不審になってしまったら、肯定しているも同じじゃないの!


「ち、ち、ちがうよ! 心臓の薬! あたし、心臓が弱いの!」

「……ふうん?」


 女の子はなぜか笑みを深めた。

 残りの2錠も見つけ出し、それらの錠剤をあたしに渡してくれる。


「ありが……あの?」

「……ほっそい手だねー」


 彼女は錠剤を渡したあと、あたしの手をぎゅうと握った。そして、ひどく珍しいものを見たとでも言いたげに撫で回す。

 ……なんだか妖しい手つきだ。こそばゆい。なんだっていうの。


「きみさあ……」

「……な、なに?」

「女の子でしょ」


 ぎくり。

 震えた己の筋肉に、だからなんでそうすぐに動揺するかなあ! あたしのばか! と内心が悲鳴をあげる。バレバレにも程があるだろう!


「いま、屈んだ時にね。ちょっと膨らんでたよ?」


 否定も肯定もできず(いや、この態度だもん、肯定したも同意だろうけれど)、まさか初日からバレるなんて! と身震いしたあたしを、彼女は覗きこんで笑った。――妙に、艷やか、獣みたいな瞳で。

 黙っていて、なんでもするから! と叫びかけていたあたしはごくりと喉を鳴らす。


「……実はねえ」


 彼女は何故か、あたしの手首をギュッと握って自分の方へ引き寄せた。その手が向かうのは彼女の下腹部で……


「?!」

「『俺』も、なんだよね」


 にこりじゃない。

 これは、にやりだ!


 下腹にのびた手にあたったのは、少女にあるはずのないもので。

 混乱のあまり硬直するあたしの耳元に、『事情は聞かないよ……きみと私の、秘密ね?』と妖艶に囁いた少女――少年とは認めたくない――が、シャルの言う『主人公』であることをあたしが知るのは、この二日後に寮に届いた、シャルからの手紙によってである。


 うう、知ってたなら、先に教えておいてくれ、弟よ!




しかし弟も「主人公が男とか聞いてねえし!!!」と反論したのであった。

おしまい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
男のふりしてるのに薬落として話かけられた時のシャーロットの1人称があたしになってるのが違和感あった。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ