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あなたの傷が癒えるまで フローラside ~dibs on you~ ※2014/10/25 一部シーン追加(詳細は前書きにて)

主人公ローザリアの妹、フローラの恋愛のお話。

時系列は、最終話の後となります。

本編を読まなくてもある程度分かる内容となりますが、よりお楽しみ頂く為には、本編読後の閲覧をお勧めします。


癖のあるフローラとそのお相手をお楽しみくださいませ。


※本話をすでにお読みいただいた方へ

話の内容について、一部背景が分かりづらい、記載が足りないとのお声を頂きました。そのため、一部シーンを追加をいたしました。中盤の主人公がテラスへ移動後の文章に追加となります。その他は変わりません。もし宜しければ、お読みいただければと思います。力足らずによる改定となり、申し訳ありませんが今後ともよろしくお願いいたします。

私の名前はフローラ。


つい数年前まで貧乏貴族だったマーティン家の末っ子だ。


現在は、公爵家であるダーランド家のご子息と結婚した姉のお陰で、貧乏貴族ではなくなった。


私の母はすでに亡くなっており、お父様も借金を作って一人蒸発しまい居ない。

唯一の家族である姉が結婚し、従者一人居ないオンボロ屋敷に一人になってしまった私は、ダーランド家の本宅に住まわせていただいている。


姉には夫となるフェルナンド様と住む新居に、一緒に住もうと言われたのだが、終始睦まじい御2人となんて住みたくありません! と断固として断った。


それならばと、フェルナンド様の妹であられるキャロル様(キャロルお姉様と呼ばせていただいている)に一緒にダーランド本宅に住まないか? と仰っていただき、お言葉に甘えて住まわせていただいている。


先日フェルナンド様と姉が本宅を訪ねてきた。

どうやら、お子を授かったらしい。


初恋同士だった二人が、想いを通じ合わせた交際時代の睦まじさを、間近で見ていた私は、子供が出来るのははすぐだろうと思っていたのだが、案外遅かったことに疑問を感じ、姉に直接聞いてみることにした。


とても恥ずかしげに話してくれた内容に、後で聞くんじゃなかったと思った。

フェルナンド様が、10年越しの恋がようやく結ばれたのだから、暫らくは独り占めしいたかったとの主張故らしい。


ご馳走様でした。


あー、私も素敵な恋をしていい旦那を捕まえたい。


以前、姉とフェルナンド様の出会いの経緯を教えてもらったのだが、姉はまさしく『唾をつけた』フェルナンド様と結ばれたのだから、私も若い内にある程度、良い殿方を見つけておかなければ。


そう決意してからは、キャロルお姉様に誘っていただく夜会に出るようにした。


そして、今日は王宮内で開かれる王家開催の夜会に出る為、キャロル様と馬車に揺られている。


ちなみにキャロル様は、今年で23歳になる。

私は今年で13歳になる。


この世界で言えば、結婚適齢年齢は18歳ぐらいだ。


男性とのお噂も余りないキャロルお姉様。

ご結婚に興味がないのだろうか。

ダーランド家といえば、結婚相手は選び放題だ。

そこで聞いてみた。


「キャロルお姉様。『いきおくれ』ってご存知ですか?」


……馬車が夜会会場に着くまで、みっちりお小言を受けた。


どうやら、若干の焦りを持つくらいには、結婚はお考えのようだ。

よかった、よかった。


--------------------------------------------------------


会場に入れば、煌びやかな世界が広がっていた。


姉が結婚するまで、私は貴族の世界とは程遠いところにいた。


なんせ貧乏貴族と呼ばれるくらいだ。

物心付いた頃には家計は火の車で、貴族のパーティーなんて出る機会がなかった。

それ以前の令嬢としての振る舞いや勉強なども、特段教わったことはない。姉に最低教えてもらった位だ。


ダーランド本宅に越してからは、キャロル様が教育を施してくだり、今や立派な令嬢としての振る舞いも出来るようになった。


ダーランド家の嫁となった姉や、一緒に連れて行ってくださるキャロル様に恥をかかせてはいけないという思いもあり必死に覚えたのだ。


ただ、実際にパーティーへ出てみれば振る舞いも大切だが、私にとって一番大変だったのは、嫉妬や嫉みの応酬への対応という精神的な忍耐だった。


貴族社会の頂上に君臨する、ダーランド本家の人間は、今は結婚相手に身分は問われない。

御当主が身分差結婚のであるゆえ、家族達にはそういった身分による苦労を掛けたくないとも思いらしい。実際、フェルナンド様のご家族である、御爺様や御婆様、お父様達やご兄弟はみんな気の良い素晴らしい方だった。姉も私のことも、家族同様に可愛がって頂いている。


だが、落ちこぼれのマーティン家が王家の公爵家の方と結婚したのだ。周りが許さなかった。


パーティーに行って私が一人になれば、周りを取り囲むご令嬢方にねっとりと嫌味を言われる。中には周りに分からないように、抓ったり、扇で叩いたり、ワインをこぼしたりと陰湿なやり方をする人もいる。


え? 勿論、全部やり返している。


私に嫌がらせをしたとして、何の意味があるのか分からない。

嫉妬しようがどうしようがフェルナンド様には姉だけだし、またその逆も然りだ。他人がとやかく言ってもどうともならない次元だ。


しかも、幸せなお2人を見ていると私もとても幸せなので、なおさら他人のそういった嫉妬に屈するつもりはない。


ある時気づいたのが、そもそも自分はその手のプレッシャーには強いことがわかった。


気が弱そうにして、嫌味を言われれば涙でも浮かべる……という風に見せれば、相手側もすっきりするだろうが、嫌味を言われれば5倍にして返すし(相手のお嬢様の噂など個人情報は頭に叩き込み済みだ)、抓られれば靴のヒールで思いっきり足をふんづけてやった。


そんなことで、ますます反感を買っているようだが、やり返されて懲りたお嬢様方は、少しずつ私につっかかってくることは無くなっていった。いい様だ。


さて、いまいる会場の一番奥には、この国の王と王妃がお座りになっている。

王にはご子息とご息女のあわせて5人の子供がいらっしゃり、本日は、第2王子の23歳のお誕生日をお祝いするパーティーだ。


王と王妃の間には、ご子息が3人とご息女が2人いらっしゃる。

キャロル様に恐れ多くも、会場にいた王族の皆様に紹介していただいた。さすがの私もとても緊張した。


しかし、一番下の第3王子はこの場にいなかったので、お会いできなったのが残念だ。

体が弱いらしく、こういったパーティーには余り出られないということだ。


キャロル様と別れ、一通りのご令嬢の嫌味を受け返すと、私は目についた色とりどりのお菓子を皿に盛り、壁際で休むことにした。


どのお菓子を口にしても、想像通り美味しかった。

堪能していると、会場のランプの明かりが落ち、会場の中央の立派なシャンデリアのみが辺りを照らした。


すると、おしゃべりをしていた男女が手をとり、会場の中央へ集まり始める。

控えめに和やかな演奏をしていた音楽団も音を途切れさせると、いよいよ本番だというように力強くも軽やかな音色を奏で始めた。


ダンスの時間だ。


人々がダンスに夢中になっている間に、お菓子の美味しさに味をしめた私は次の獲物を求めて静かに、客の間を歩き出す。


数歩歩いたところで、軽く誰かの肩にぶつかった。


「失礼いたしました」


そういって、相手の顔も見ず小さくお辞儀をして、その場を離れようとする。

すると、素早く手首を取られて、足を止められた。


「申し訳ございません、レディ。ワインがドレスを汚してしまったようです」


その声に振り向けば、私とさほど背丈が変わらない男の子が私を捕まえていた。


シャンデリアの光を浴びて輝く、金色が強い茶色の髪。

涼しげな青みがかった灰色の瞳。

高い鼻ににこやかに笑う口など、ご令嬢方に非常に人気がありそうな姿だった。


自分のドレスを見下ろせば、足元の方に赤い染みが付いている。

これは、先ほどご令嬢に掛けられたワインの跡だ。


「ご心配無用ですわ。これは、先ほどちょっと自分で零してした跡ですので」


そんなことより、あの美味しそうなお菓子が食べたい。

だから、手を放して欲しい。


ちらりとお菓子が並べられている机に視線を送る。


しかし、男の子は給仕を行う女性を呼びとめ、染みとり用の布を持ってくるよう指示した。


そして、今はテラスで給仕の女性に染みを取られながら、お菓子を食べている。

隣には例の男の子とその従者であろう男性が付いてきた。


ご令嬢が大好きな姿の男の子だが、私より年下な気がする。

私のタイプは自分より年上かつ25歳以下の男性だ。


昔父が作った借金の代わりに、気持ち悪い男性の物になりかけ事があって以来、ある一定の年齢の男性は駄目になった。


しかも、若すぎるのも、ダメだ。

フェルナンド様を見ていると、やっぱり男性は年上だなと思うのだ。包容力と安心感が違う。


だから、今ここにいる男の子も私の範疇外になる。


「君はあまり見かけない顔だね」

「ええ、最近パーティーに出るようになりましたので」

「だからか」


当たり障りの無い会話をしていると、染みを落としきった給仕の女性が、頭を下げ会場の中へ消えていった。


私もこれで用はないと、彼女の後を追うことにする。


「ご心配頂き、ありがとうございました。連れの者が探しているかもしれませんので戻ります」

「名前をお聞きしてもよろしいですか?」

「フローラ=マーティンでございます」

「僕はニコル=コントール」


ニコル、コントール。


この国の第三王子じゃないか!


じりと体を後ろに移動させる。

私のタイプの男性の条件はもう一つある。

そこそこの身分であることだ。


それなりにいい男で、それなりの身分の男性。

これが、一番気楽でいい。

余計な嫉妬もないし、堅苦しい身分による対応なども気にしなくてもいい。


だから、目の前にいる人は私の一番お近づきになりたくない人物だ。

ちょっと仲良くしている所を知ったご令嬢が、どんな難癖つけてくるか分かったもんじゃない。


引きつりそうになる顔に気合を入れて、すまし顔を作り、再度退出の言葉を告げる。


「もしかして、僕のことはお嫌いですか?」


美しい顔が寂しげに歪み、辛そうにいわれると、うっとたじろぎそうになるがここは強気に出なければいけない。


「いいえ。本当に連れの者が探しているので、行かなければいけないのです」

「では、今度王宮へご招待してもよろしいですか?」


よろしくない! そんなのお断りだ!


「お約束は出来かねます」

「では、もう少しお話を」


ええい! しつこいな!

はっきり言ってやる。


「わたくし、年下で身分が高い男性は嫌いなのです。ですので、失礼いたします」


言い切ってやった!

振り向こうとした時、またしても手首を取られる。


「あなたはお幾つですか?」

「13ですが? それより手をお放しに……」

「僕より一つ上なのですね。おい、」


ニコル様はにっこり笑って、遠巻きにこの様子を見ていた従者に声を掛けた。


「王宮が管理している僕の生まれ年を1年過去のものにしろ」

「そんなことは、」

「死ぬ気でやっても出来ないって言うの?」

「いえ、そのようなことは」

「大丈夫、1歳年齢が上がったことで、王位承継の順位は変わらないし」

「……しかし」

「なに? お前は僕に、死ぬ気になるような事をされたいわけ?」

「…………………畏まりました」


お、恐ろしい会話が目の前で行われている。


じゃあ今すぐ行って、と従者を見送り2人きりになると、ニコル様が私をみて笑った。


「これで君と同じ13歳だから、問題ないね」


私の顔がひくと引きつる。

大問題だとも。あなたの行為がっ。


誰か…、誰か助けてっ!

キャロルお姉様、どこですか!

貴女の可愛いフローラは今、恐ろしい魔物に取って食われようとしています!


こうなったら、ニコル様への愛溢れれる、血気盛んなご令嬢方!

身分の低い女狐が、あなたの王子様と2人っきりの空間にいますよ!

さあ、はやく難癖を言いにテラスへやってきて!


必死に思いの丈を心の中で叫ぶも、みんな、おしゃべりとダンスに夢中で一向に助けはこない。


「それに、身分も大丈夫」


ニコル様が嬉しそうに口にした言葉に、びくりと身を震えさせる。


「身分のせいで、難癖つけられるのが嫌なんでしょ?」


こくこくと頭を振る。

だから、私を解放して。


「君が望むなら、多少血なま臭い事をしてでも、この国の頂点に立って、誰にも文句を言わせないようにするから」


謀反宣言!?


「兄上達は、多少頭がお優しく出来ているからね。僕の手に掛かれば、その地位を引きずり降ろすなんて、とーっても簡単。お父上は、すぐに引退してもらうよう仕向ければいいんだし、ね?」


同意を求められても、そんな怖いこと頷けません!

溢れて零れ落ちそうになる涙で、ニコル様を睨みつける。


顎を掴まれて、間近でうっとりと見つめられた。


「その目……ゾクゾクする。どんなに踏まれても貶されても折れない反骨精神と、凛と一人立つ強さ」


掴まれた腕ごと、その体に寄せられる。


「フローラ、君こそが未来の王のなる僕の妻に相応しいよ」


私の体を固定する力はとても力強い。誰よ、病弱なんて言ったのはっ。


「あなた、体が弱いんじゃ……」

「大丈夫。王妃になった暁には、君を三日三晩抱くぐらいの体力はあるから」

「そういうことではなく! あなたは政務に耐えられない位、体が弱いんじゃないのですか!」

「あはっ、フリに決まってるじゃないか。幼い頃から誰よりも優秀な上に体まで健康だと、兄上達の取巻きに潰されるからね。王位に着ける年齢に成るまで大人しくしてるのさ」


ニコル様が妖艶に笑う。


「このことは、僕と君との秘密だよ。他の人に話したら、ねぇ? 分かるよね」


顎を掴む指がつつと唇を撫でた。


とんでもない秘密を知らされた恐怖に、体が震えた。そして、彼はその秘密に私を加担させようとしている。


突然、コンコンと硝子を叩く音がした。

キャロル様がテラスを覗き込んでいる。


「キャロルお姉様!」


救いの希望にすがるように声を上げた。


「残念、時間切れか」


後ろで、ニコル様が呟いた。

そして、悲鳴を上げる間もなく、抱き寄せられて耳元で彼が囁いた。


「逃がさないから。僕の花の女神フローラ


ぺろりと耳を一舐めされ、直ぐに開放された。

私は逃げるようにテラスを出た後、気分が悪いと言って一人馬車で家に帰った。


それからは、彼に会うのを恐れてパーティーには出ず、年が明けるまで家に篭った。


しかし、彼のしつこい王宮への呼び出しに、王子の要求だしさすがに行かないと不味いわと、キャロル様に言われて行けば、彼に手を取られて愛を延々囁かれた。

こうなったら結婚してやる!と目をつけていた男性と懇意になれば男性の家に圧力が掛けられた。

隣の国に逃げようとすれば、国境の砦で出国禁止の命が降りているとニコル様のところまでそのまま連行された。


聞けば、あの夜のパーティーは、私宛の招待状が来ていたらしい。

そして、会場で私を探し始めたキャロル様は、ことごとく色々な人々に呼び止められたという。

そして、ワインを零しても無いのに、声を掛けたニコル様。

有無を言わさず、移動したテラス……。


もしかして、最初から仕組まれていたのだろうか?


「逃がさないから」


そういった、ニコル様の声が蘇る。


すでに罠は張り巡らされていたと考えるのが妥当だろう。


ふつふつと怒りが沸きあがる。


「ふふふふ」


年を重ね16歳を迎えた今も、呼ばれた王宮の庭園で、ニコル様とお茶をしている。

突然笑い出した私を見て、ニコル様は首をかしげた。


やれるものなら、やってみなさい!

売られた喧嘩は、必ず勝つのが私の流儀よ。


力強くニコル様を見やる。


「絶対に逃げ切ってやるから!」


私の言葉と視線を受け、ニコル様がくらりとする程綺麗な笑顔を浮かべた。


「いいですよ、逃げても。貴女は、もう僕という高い囲いに閉じ込められた一輪の花だということに気づくまで、お相手して差し上げますよ?」

「上等だわ」


この後、散々逃げ回り抵抗するも、ニコル様の手により絡め取られ、いろんな意味でなかされるようになるのは、そう遠くない先の話しになる……とは、考えもしない私は、冷めた紅茶を飲みながら、どうやって早く帰ろうかなとこの場を乗り切ることだけに頭を巡らせていた。


そんな私を見ながら、ああでも、とニコル様が呟き、次にいった言葉も知らずに。


「貴女にはもう僕の唾がついているんです。どこにも逃がしませんよ。あんまり抵抗されるのであれば、僕も男ですし、ねぇ? 覚悟の上で逃げてくださいね」

2014/10/25 誤字脱字修正。一部シーン追加。

2014/11/2  誤字修正


dibs on youの意味=唾つけた。


たぶんフローラは、逃げられません。

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