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荘厳なる大図書館

……………………


 ──荘厳なる大図書館



 ジークたちは大図書館に向かう。


 大図書館には依然として憲兵が警戒に当たっているものの、開館の知らせは広められており、すでに何人もの大図書館で勤務する司書などが集まっていた。


「アレクサンドラ館長!」


「あ、ああ! 皆さん! 早速集まってくれたのですね……!」


 集まっていた司書たちがアレクサンドラを出迎えるのにアレクサンドラも嬉しそうに歓迎に応じた。


「館長、開館をお願いします!」


「え、ええ。今こそ大図書館を開きましょう……!」


 支所に言われ、アレクサンドラはカギを手にする。ヘカテより授かり、大図書館の歴代の館長に引き継がれてきた大図書館のカギである。


 アレクサンドラはそれを大図書館の大きな扉に差し込む。


 すると、ガチャリと重々しい音が響き、それから扉がゆっくりと開いていく。


「そ、それでは勇者ジーク様、ようこそ大図書館へ……!」


 ついにジークは大図書館へ招き入れれたのだ。


「これが大図書館か! 凄いな……!」


 ジークは大図書館に足を踏み入れて目を見開いた。


 全階層が吹き抜けになっていて、エントランスからでも全容を見渡せる建築様式。そこに本棚がずらりと並び、そこには分類された本がびっしりと収まっている。


「……でも、この山ほどある本の中からどうやって不老不死を解く方法を探せばいいんだ……?」


 ジークは冷静になってそう疑問を発する。


 そうである。本の山はそこにあるだけでは、ジークの問題を解く解決策にはならない。ジークが不老不死を解くには、この本の山から適切な本を選んでそれを熟読し、それによって解決策を見つけなければならないのだ。


「そこはアレクサンドラに手伝ってもらえ。やつならどのような本がヒントになるか分かるだろう」


「そうだよな。頼むとしよう」


 ジークはそう言い、アレクサンドラの姿を探す。


 一緒に入ったはずのアレクサンドラだが、姿が見当たらない。どこに行ったのかと大図書館内をぐるりと見渡すとアレクサンドラが大図書館の本棚に寄りかかって幸せそうな顔をしているのが目に入った。


「ああ。本の匂い、インクの匂い、紙の匂い……。知識の香りがします……」


 アレクサンドラはどうやら久しぶりの大図書館を五感をフルに堪能しているようであった。彼女は本棚の本の背表紙を眺め、香りを嗅ぎ、触って、大図書館に所蔵されているたくさんの本を確かめている。


「お~い。アレクサンドラ。お楽しみのところ悪いだが、俺の調べ物を手伝ってくれるか? どこを探せば不老不死を解く方法って見つかるんだろうか?」


「あ! は、はい。そうでしたね。ジークさんの調べ物がありました……」


 ジークが呼びかけると醜態を見られたというようにアレクサンドラが恥ずかしそうに頬を紅潮させてジークの求めに応じる。


「そ、それでですね。まず神々による不老不死を解く方法というものへの直接的な答えが記された本はありません。そこは知っておられると思いますが……」


「ああ。ヘカテ様からもそう聞いてる。だから、確か組み合わせを試せとかなんとか言われたっけ……」


 まず前提条件として神々による不老不死を解くための手段を直接的に書いた書籍は存在しない。そのような研究が過去に行われたことがないからだ。


「な、なのでですね。私たちはいくつかの段階に分けて、ジークさんの不老不死を解く手段を探すことになります。私が考えているのは、まず生物の死とは何かについて考えることですね……」


「え? そこからスタートなの?」


 随分とスタート地点が後ろなのにジークがびっくり。


「え、ええ。まずは死というものについて理解しなければなりません。不老不死とは死が失われた状態です。だから、ある意味では最重要と言えます」


「そっかー。では、この大図書館のどこら辺から調べればいいんだ?」


「ご、ご案内します」


 それからアレクサンドラに案内されてジークは大図書館の中を進む。


「しかし、本当に広い図書館だな。こんなに本が集まってるの見たことない」


 ジークもこれまでの長い人生で図書館というものは知っていた。だが、それは個人所有のものを集めた場所だったり、大学などの教育機関に併設されたもので、ここまで独立していて、さらに規模も大きいものは初めてだ。


「ル、ルーネンヴァルトの市民が自慢に思うものですから……。ヘカテ様が基礎を築かれて、それから何世代にも渡って脈々と引き継がれてきた知識の保管庫として……」


「そうだな。これはこの街に暮らしていれば誰でも自慢に思うだろう物だ」


 嬉しそうにアレクサンドラが大図書館を紹介するのにジークはしっかりと頷いてそれに同意して見せた。


 この大図書館は地元の人間ならば、誰しもが自慢に感じてもおかしくはないものである。それだけ立派で、世界に対して意義があるものだった。


「ま、まずはここですね。生物学と医学としての死を扱っている場所です……」


「ほうほう。というが、生物学と医学としての死って?」


 ジークは疑問に思ってそうアレクサンドラに尋ねる。


「て、哲学や心理学の上での死については、今回は除外していいかと思いまして。ただ、神学における死は調べておくべきかもしれませんね。ジーク様は神々によって不老不死となれられているので……」


「ふうむ。死をひとつとってもいろいろとあるんだな……」


 生物学上の死。哲学上の死。神学上の死。死という現象には複数の学問からの視線が向けられていた。それは死というものがこの世界において本来ならば何人にも避けられないものだからかもしれない。


「しっかし、難しそうな本ばっかりだな……。俺が読んでも理解できるものか……」


 ジークは『アニマ改訂版 -魂とその消失について-』と書かれた時点のように分厚い本を見ながらそう呟く。


「す、少しずつ読んでいけばいいと思います。分からないところがあっても、大図書館の中を探せば答えは見つかるでしょうし」


「ううむ。大図書館にさえたどり着けば簡単に答えが見つかると思っていた俺の考えは甘かったか……」


 アレクサンドラの言葉にジークは唸りながら専門用語が並ぶ本をぱらぱらとめくる。ジークには何が書いてあるかは読めるが、それが何を意味するのかはさっぱりであった。


「とりあえず生物としての死について調べるとして次は?」


「そ、その次は神学上の死、ですね。魂が死後、冥界神ゲヘナ様の下に向かう過程を調べることになります。計画としてはその次に神々の起こす奇跡について調べ、これまで調べた死がどのようにしてジーク様から除去されたかを探ることになるでしょう……」


「オーケー。頑張りましょう」


 この日からジークの大図書館での日々が始まった。


 彼はアレクサンドラに助けられ、大図書館の書物を読み解いていく。大図書館が開館する朝9時から夜の18時まで食事をしたりしながら、ジークは自分の不老不死を解く方法を探し続けた。


「はあ。本って読むだけで疲れるな……」


 18時なれば大図書館も防犯上の理由で関係者以外は立ち入りできなくなる。なので、夜になるとジークはセラフィーネと大図書館を出て神々の神殿に戻った。


「で、どうなんだ、進展の方は?」


 神殿への帰り道でセラフィーネがジークにそう尋ねる。


「難しいな。人間の死ってのは、いわゆる血液が循環していって体の代謝ってのが維持されているのが止まり、体が維持できなくなることらしい。あとは脳が活動を停止するってのも一種の死というものの定義になるとかで」


 ジークはアレクサンドラに手伝ってもらって調べた内容をセラフィーネに語る。


「けど、俺たちはどれだけ血を流しても、頭を潰されても生きてる。それが身体から死が取り除かれたことなんだろう」


「お前の問題はどうやってそこに死を導入するかということか?」


「まさに。全く考えつかない。俺たちはどうやっても生き返っちまうからなぁ……」


 頭を潰しても、血液を全部流しても、その状態が幾日か続こうとジークは復活する。それは生物学的に、医学的に死を実行できない状況だと言っていいだろう。


「で、だ。アレクサンドラも言っていたけれど、恐らく生物医学的に俺が死ぬのは無理っぽいから神学的な死を模索することになるらしい。歴史を調べると不老不死なのに死んだ神々ってのは確かにいるらしくてな」


「ほう? それはかつての狩猟神オレルスのことか?」


「そうそう。オレルスは狩人のエリヤという男と呪われたドラゴンを狩ることで勝負し、それに負けたから死んだって話じゃないか。そして今の狩猟神は『竜狩りのエリヤ』にになったって聞いたぜ」


「そうだな。神々はときおりそうやって入れ替わったと聞く。特に古い時代は」


 神々はこの世界において必ずしも絶対の存在ではなかった。彼らはときおり挑戦を受けて、敗れれば神々の座を去ったりしていたのだ。


「だから、俺の不老不死を解く手がかりもそこにあるんじゃないかってアレクサンドラは言っていた」


「しっかり調べるといい。いい勉強になるだろう」


「この年になっても勉強しないといけないとはなぁ。人生ってのは分からんもんだぜ」


 ジークはセラフィーネの言葉にそうぼやく。


「人生には目標があった方がいいだろう? 今のお前は生きがいを見つけたように見えるぞ。前よりも生き生きしているように見える」


「そう?」


「ああ。逆に私は……」


 セラフィーネは何事かを言おうとして言葉を濁らせる。


「なあ、ジーク。もし、不老不死を解く方法をここで見つけられなければどうする?」


 それからセラフィーネは不意にそう尋ねた。


「そりゃあ、また旅に出ることになるな。ここになかったとしても、他の場所にはあるかもしれない。俺が旅した場所なんてまだまだ狭いもんで、ここに来てから思い知ったけど世の中ってのは広い……」


 ジークはそう言い神々の神殿の丘から海の方を眺める。


 夜の闇に沈んだ海は静かで、真っ黒だ。その先に何があるのかすらも分からないほどに暗い中に沈んでいる。


「……不老不死を解くのを諦めたりはしないのか?」


「それはないな。俺はもういい加減に人生を全うしたと言いたい。俺は十分に生きて、十分に働き、ちゃんと義務を果たした。ならさ、そろそろもう休ませてくれてもいいころだろう?」


 ジークは少しばかり疲れた様子でそう語る。


「……そうか……」


 セラフィーネはジークの言葉を否定も肯定もせず、ただ寂しそうな顔をしていた。


「……私はお前に出会っていろいろと変わってしまったよ。昔は理解者など、戦友などあの朽ちた剣だけで十分だった。だが、今では共に生きてくれる人間を求めるようになってしまった。お前のように」


「それは……」


「お前のせいだぞ。お前との時間は私の700年の人生で言えばほんの一瞬だが、もっとも意義がある時間だった。そのせいだ」


 セラフィーネはそう言って僅かにはにかむように笑い、そして足早に神々の神殿の方に去っていった。


「……なんか調子狂うな……。……それに俺のせいってなんだよ……」


 今のはいつものセラフィーネではなかった。彼女ならば戦う相手さえいれば満足していそうなものなのに。


 でもそんな彼女でも心の中には寂しさであったり、後悔であったりする感情があるんだろうかとジークはそう想像した。しかし、今までのセラフィーネを見た限りでは、そういうものはなかなか想像できなかった。


 そういう意味で彼女は変わったのだろうか?


「仮に俺のせいだとして、俺に責任とれって言いたいわけじゃないよな……?」


 ジークはそう思い悩みながら神々の神殿へと戻る。



 * * * *



 翌日もジークは図書館に出かけた。


 しかし、今日はセラフィーネが部屋から出てこず、ジークだけで大図書館へ。


 エマも今は次の商売に向けての準備とそれから父親であるアルブレヒトとの関係を修復することに時間を使っている。


 ガルムとその群れは無事に神々の神殿に腰を落ち着かせ、神官たちから餌をもらいながら神殿の番をするようになっていた。


 ロジーは行き詰ったら協力してくれることになっているが、今の段階ではまだまだ調べることがあるので相談は保留している。


 そんな状況で今日もジークはアレクサンドラがいる大図書館と訪れた。


「アレクサンドラ。来たぜ」


「あ、ああ。ジーク様、お待ちしていました……」


 アレクサンドラはいつものようにジークを出迎えてくれる。


「今日は神学的な死についての調査だよな」


「え、ええ。せ、生物医学的な死が難しいならば、そっちを探るしかありません」


「よし。じゃあ、早速調べていこう」


 ジークとアレクサンドラは神学上の死について大図書館の書物を読み漁る。ジークは長く生きているだけあって、複数の言語を理解しており、異国の言葉で書かれている書物も読むことは全く不可能ではなかった。


「神々にとっての死、か……」


 神々は神の座を降りると死ぬということになっているが、実際にその死についての詳しい描写は少ない。


 炎に包まれて死んだとか毒をあおって死んだとか、あるものだと挑戦者に負けた悔しさのあまり憤死したとかあるが、どれも不老不死である神々には起こりえないものだ。


 恐らくだが、神々が本当に死んだ理由は隠されている。


「あ。ひ、ひとつ明確な描写がありました!」


「教えてくれ」


「こ、これです。冥界神ゲヘナの下に向かった神の物語の中に出るのですが、その神は自らゲヘナの統治する冥界に赴き、妻と再会し、そのまま冥界で過ごしたとあります。これはこれまでの描写と違って間違いなく神々の死の描写ですよ……!」


「おお。しかし、それを達成するとなると俺もゲヘナ様のところに歩いていかにゃならんのか……。そもそも冥界って歩いていけるのか……?」


「そ、それについては他の神々の協力を受けたそうです……」


「神々の協力かぁ……」


 それは今のジークには得られる可能性の低いものであった。


 そもそも神々がジークの願いを聞き届けてくれるならば、冥界にわざわざ行く許可をもらわず、英雄神アーサーに不老不死を解いてもらえばいいだけなのだから。


「他の方法を探そう……。今のところ、神々は俺に協力してくれやしない」


「そ、そうですか……」


 アーサーはジークに協力するどころか、アーサーの名において蘇った邪神フォーラントを討伐せよなとどほざいている。ジークにとってもフォーラントは憎むべき敵だが、いい加減そういうのは次世代の勇者に任せておきたい。


「ほ、他の方法となると……また探さなければなりませんね……」


「すまん。協力してくれているのに無茶苦茶言って」


「い、いえいえ! ジーク様がいなければそもそも今も大図書館は閉鎖されたままだったのかもしれないんですから、これぐらいお安い御用ですよ!」


「そう言ってくれると助かる」


 ジークはアレクサンドラに感謝しながら、大図書館で引き続き調査を続けた。


 自分の不老不死を終わらせる方法を。


……………………

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