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世にも締まりの無い物語06ーー 冷たい結晶華   作者: 石田ヨネ
第一章 発端、展示会場にて
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4 冷たい結晶華



          (3)



「は、ぇぇ……」

 と、思わず誰かが、感嘆のため息を漏らしていた。

 遺体は、20代か30代ほどの女。

 それこそ、ファッション・モデルのように、整った顔立ちに、美しいプロポーション。

 ただ、仰向けに横たわる遺体はというと、サスペンスドラマのように血に塗れたり、あるいは損壊した凄惨なものではなかった。

 むしろ、まるで眠れる姫のようにとでもいうべきか、その遺体の表情・雰囲気も穏やで、かつ美しいものだった。

 そして、何よりも、“とある特徴的なところ”がある。

 遺体を“彩る”のは、まるでフラワーアート作品のような装華――

 さらには、その装華というのも、ただの装華ではなく、


「う、ん……?」 

「これは、“結晶”?」


 と、これはパク・ソユンとともについてきた、仕事仲間のゴーグル・サングラスと女の声だろう。

 彼らが言葉にしたように、装華とともにアレンジメントされていたのは、いうなれば『結晶華』とでもいうべきか――?

 まるで宝飾のようにして、何か、冷気を帯びた、“冷たい結晶らしきもの”が、まるで華のように添えられており、ガイシャの遺体を美しく芸術的にアレンジメントしていたのだ。

 雪の結晶のようであったり、あるいは金属の樹氷のような結晶。

 もしくは、それこそ霜の、ジャックフロストのような美しき形――

 それらと、実際の赤や青、オレンジのとりどりの花々と花器、オブジェが組み合わさっていた。

 そうして、

「わぁ……」

「すご……」

 と、気がつけば遺体を見る野次馬たちも、まるで鑑賞するように見ていたのだ。

 彼らの中には、特にガイシャと同じような2、30代の若い女性たちが惹かれており、


「ああ……、私も、こんな、ふうになりたい……」


「へ――?」

 と、そう聞こえた声に、思わずドン・ヨンファが気の抜けた声をだした。

 そのまま、パク・ソユンのほうを向いて、

「何――、だって?」

「いや、何で、私に聞くぽよ」

「ま、まあ、そうだけど……、思いがけない言葉だったからさ」

 と、ドン・ヨンファは弁解しながらも、少し引っかかるものを感じていた。

 というよりも、“この遺体”のこと――

 これと類似した事件に関する記憶、それも、世間を騒がせるほどの事件の記憶があるのだが、思い出すより前に、


「――こりゃ、“例のアレ”じゃないけ?」


 と、先にピンと来たのは、美祢八だった。

 その言葉を聞いて、

「例のアレ、かい……? ああ……!」

 と、ゴーグルたちも同じくピンと来た。

「例の、アレ?」

 首を傾げるパク・ソユンに、

「アレよ、アレ」

「いや、だから、アレって何ぽよ?」

「しばらく動きが無かったけど、ついこの間も、あったじゃないか、ソユン。何て言うんだろ? その、結晶華、事件――」

 と、ドン・ヨンファが答えを出した。

「結晶華、事件……? ああ……」

 ここで、パク・ソユンもようやく思い出した。

『結晶華事件』――

 時折り世間を騒がす事件で、今回のように、若い2、30代の美しい若く女性が、装華と“冷たい結晶華”によってアレンジメントされた遺体となって発見される。

 ただ、犯人について分かっていることは殆どない。

 なお、そもそも殺人事件というべきかどうかという話もあるのだが、実際に遺体となっているのだから殺人事件、もしくは、自殺を教唆かほう助した可能性があろう。

 そして、冷たい結晶華に加えてもう一つ、事件には特徴的なものがあった。

 遺体を見ていると、やはりそこには、“それ”があった。

「あっ――? また、華と鋸のマークが」

 と、ドン・ヨンファが気がついたもの――

 華と、鋸のシンボル。

 まるで、狂気に満ちた芸術を主張するかのようでもあった。

 それを見て、

「あっ? これ、アンタじゃないの?」

「すまん、ソユン。逮捕する」

 と、女とゴーグル・サングラスは、パク・ソユンをガチャリと手錠で逮捕するように、パク・ソユンの両手を掴んだ。

「何故ぽよ」

 と、パク・ソユンが言う。

「「出たッ、何故ぽよ」」

「……」

 と、反応するドン・ヨンファとゴーグルサングラスに、パク・ソユンはシュールな顔で、ただ沈黙するだけだった。

 そうしていると、

「はいはい、はいはい」

「道を開けてください!」

「警察だ!」

「皆さん、下がって! 下がって!」

 と、通報によって、現場に駆けつけた警察たちが入ってきた。

 その中で、

「あら?」

 と、韓流スターのような、美麗のイケメン刑事のチャク・シウと、

「ああ”? 何だ、何でお前たちがいんだよ!」

 と、その上司の、こちらはガタイが良く無精ひげを伸ばした体育教師風の刑事のマー・ドンゴンが、パク・ソユンたちの姿を見るなり、言ってきた。

「あっ、マーさん!」

「ああ”? ヨンファに、ソユンじゃねぇか」

 ここで、マー・ドンゴンもドン・ヨンファとパク・ソユンを確認する、。

 そこへ、

「「あっ、刑事さん! 容疑者ですよ!」」

 と、ゴーグルサングラスたちがパク・ソユンを差し出すと、

「だから、何故ぽよ」

「「ぽよ――!?」」

 と、刑事コンビも、パク・ソユンの『ぽよ』に驚愕した。

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