4 冷たい結晶華
(3)
「は、ぇぇ……」
と、思わず誰かが、感嘆のため息を漏らしていた。
遺体は、20代か30代ほどの女。
それこそ、ファッション・モデルのように、整った顔立ちに、美しいプロポーション。
ただ、仰向けに横たわる遺体はというと、サスペンスドラマのように血に塗れたり、あるいは損壊した凄惨なものではなかった。
むしろ、まるで眠れる姫のようにとでもいうべきか、その遺体の表情・雰囲気も穏やで、かつ美しいものだった。
そして、何よりも、“とある特徴的なところ”がある。
遺体を“彩る”のは、まるでフラワーアート作品のような装華――
さらには、その装華というのも、ただの装華ではなく、
「う、ん……?」
「これは、“結晶”?」
と、これはパク・ソユンとともについてきた、仕事仲間のゴーグル・サングラスと女の声だろう。
彼らが言葉にしたように、装華とともにアレンジメントされていたのは、いうなれば『結晶華』とでもいうべきか――?
まるで宝飾のようにして、何か、冷気を帯びた、“冷たい結晶らしきもの”が、まるで華のように添えられており、ガイシャの遺体を美しく芸術的にアレンジメントしていたのだ。
雪の結晶のようであったり、あるいは金属の樹氷のような結晶。
もしくは、それこそ霜の、ジャックフロストのような美しき形――
それらと、実際の赤や青、オレンジのとりどりの花々と花器、オブジェが組み合わさっていた。
そうして、
「わぁ……」
「すご……」
と、気がつけば遺体を見る野次馬たちも、まるで鑑賞するように見ていたのだ。
彼らの中には、特にガイシャと同じような2、30代の若い女性たちが惹かれており、
「ああ……、私も、こんな、ふうになりたい……」
「へ――?」
と、そう聞こえた声に、思わずドン・ヨンファが気の抜けた声をだした。
そのまま、パク・ソユンのほうを向いて、
「何――、だって?」
「いや、何で、私に聞くぽよ」
「ま、まあ、そうだけど……、思いがけない言葉だったからさ」
と、ドン・ヨンファは弁解しながらも、少し引っかかるものを感じていた。
というよりも、“この遺体”のこと――
これと類似した事件に関する記憶、それも、世間を騒がせるほどの事件の記憶があるのだが、思い出すより前に、
「――こりゃ、“例のアレ”じゃないけ?」
と、先にピンと来たのは、美祢八だった。
その言葉を聞いて、
「例のアレ、かい……? ああ……!」
と、ゴーグルたちも同じくピンと来た。
「例の、アレ?」
首を傾げるパク・ソユンに、
「アレよ、アレ」
「いや、だから、アレって何ぽよ?」
「しばらく動きが無かったけど、ついこの間も、あったじゃないか、ソユン。何て言うんだろ? その、結晶華、事件――」
と、ドン・ヨンファが答えを出した。
「結晶華、事件……? ああ……」
ここで、パク・ソユンもようやく思い出した。
『結晶華事件』――
時折り世間を騒がす事件で、今回のように、若い2、30代の美しい若く女性が、装華と“冷たい結晶華”によってアレンジメントされた遺体となって発見される。
ただ、犯人について分かっていることは殆どない。
なお、そもそも殺人事件というべきかどうかという話もあるのだが、実際に遺体となっているのだから殺人事件、もしくは、自殺を教唆かほう助した可能性があろう。
そして、冷たい結晶華に加えてもう一つ、事件には特徴的なものがあった。
遺体を見ていると、やはりそこには、“それ”があった。
「あっ――? また、華と鋸のマークが」
と、ドン・ヨンファが気がついたもの――
華と、鋸のシンボル。
まるで、狂気に満ちた芸術を主張するかのようでもあった。
それを見て、
「あっ? これ、アンタじゃないの?」
「すまん、ソユン。逮捕する」
と、女とゴーグル・サングラスは、パク・ソユンをガチャリと手錠で逮捕するように、パク・ソユンの両手を掴んだ。
「何故ぽよ」
と、パク・ソユンが言う。
「「出たッ、何故ぽよ」」
「……」
と、反応するドン・ヨンファとゴーグルサングラスに、パク・ソユンはシュールな顔で、ただ沈黙するだけだった。
そうしていると、
「はいはい、はいはい」
「道を開けてください!」
「警察だ!」
「皆さん、下がって! 下がって!」
と、通報によって、現場に駆けつけた警察たちが入ってきた。
その中で、
「あら?」
と、韓流スターのような、美麗のイケメン刑事のチャク・シウと、
「ああ”? 何だ、何でお前たちがいんだよ!」
と、その上司の、こちらはガタイが良く無精ひげを伸ばした体育教師風の刑事のマー・ドンゴンが、パク・ソユンたちの姿を見るなり、言ってきた。
「あっ、マーさん!」
「ああ”? ヨンファに、ソユンじゃねぇか」
ここで、マー・ドンゴンもドン・ヨンファとパク・ソユンを確認する、。
そこへ、
「「あっ、刑事さん! 容疑者ですよ!」」
と、ゴーグルサングラスたちがパク・ソユンを差し出すと、
「だから、何故ぽよ」
「「ぽよ――!?」」
と、刑事コンビも、パク・ソユンの『ぽよ』に驚愕した。