19 何でだよ! こち亀じゃ、金持ちがカジュアルに戦闘機とかヘリとか出してくんじゃねぇか!
(2)
「何だよ! 早くねぇか!」
と言ったのは、キム・テヤンだった。
場面は、ソウル市内に戻って。
また、時間も少しばかり戻って、日付が変わったくらいの頃のこと。
パク・ソユンを除くSPY探偵団の三人は、再び、片付け終わった屋台に集まっていた。
まる、ここに至るまでを振り返ると、こうである――
まず、パク・ソユンが一番に帰り、それからドン・ヨンファと、リーダーのカン・ロウンが帰った。
そうして、最後までカン・ロウンが残り、チジミ屋のオッサンことキム・テヤンは屋台の片付けをしていた。
「あぁ~、あっ……、疲れたぜ。まったく」
キム・テヤンが、やれやれと溜め息をして、
「そうだ、な」
と、カン・ロウンが、いちおう軽く手伝いつつ頷く。
そのようにしながら、屋台の片付けも終わりに差しかかっており、
「おい、そろそろ帰ってもいいぜ、ロウン」
「ああ……、まあ、帰ってもいいんだけど、もう少し飲みたいと思ってな。これが終わったら、バーに行かないか?」
「ああ……? そう、だなぁ?」
と、ふたりは話していた。
まさに、その時、
――キ、ィィンッ――!!
と、ちょうど真上の上空から、轟音が響いてきた。
「あぁ”ん!? 何だ! やかましいな!」
キム・テヤンが、思わず声にした。
顔をしかめ、口がポカンと空きそうになりながら、
「おいおい、戦闘機、か……? こんな時間に、飛ぶもんだったか――?」
「いや、まさか……、それとも? まさかの、有事かい……?」
「いや、そうだとすっと、こんな、一機だけ飛ぶということないだろ。まあ、この機体が、自国のものという前提での考えだが……」
「それか、何か特別な訓練、か――?」
「いや、どんな特別訓練だってんだよ。こんな、都心の上空でよ」
と、ふたりは突然の出来事に、ああでもないこうでもないと困惑しながら考えていた。
すると、
「――!」
と、しばらく考えるまでもなく、キム・テヤンはピン――! と直観した。
「おい、」
「う、ん――?」
「まさか――、じゃねぇよな?」
「まさか――、とは? ああッ……!」
と、カン・ロウンも、同じくピンときた。
そのままに、キム・テヤンは調査用のノートパソコンを開く。
昨日の、妖狐の力によって、パク・ソユンに仕込んだ魔界植物により、その居場所が追跡できるようになっていた。
まあ、GPSのようなものだろう。
ただ、魔界植物ゆえに人間には検知できないシロモノゆえ、GPSのように気づかれ、途中でどこかへ捨てられたり、もっと言えば攪乱のために関係ない他人の車両に載せられる――、などといったことを心配する必要もない。
まあ、相手が人外の怪人か、それに相当する異能力者で、魔界植物を除去するか無力化する力を有していない――、という前提だが。
それはさておき、パク・ソユンの位置情報を確認するに、
「う、ん……?」
「こいつは、結構なスピードで動いているな」
と、ふたりはマップ上の位置情報が動いていることを――、それも、音速かそれ以上と思われる速さで動いていることを確認する。
「ちっ! やっぱ、確定じゃねぇか!」
キム・テヤンが言い、
「ああ」
と、カン・ロウンが頷いた。
すなわち、今しがた上空を通過した戦闘機は、恐らく拉致されたのか? パク・ソユンが乗せられていることが確定したわけである。
「そうすると、すぐ動かなきゃなんねぇな」
「ああ。ヨンファも、呼び戻す」
――という経緯で、三人そろって今に至る。
「まったく、ステルス戦闘機なんて、わけの分かんねぇモノでデートの迎えに来やがって」
キム・テヤンがしかめっ面で言った。
「というか、どうやって戦闘機なんて……、まさか、軍の」
と、ドン・ヨンファも、にわかに信じがたいとの表情をする。
「けっ、知らねぇよ」
「まあ、今は、軍の戦闘機だろうが、ワンチャン、秘密組織や個人の所有だろうが、どうでもいい」
と、カン・ロウンは話を進めさせる。
表示される、パク・ソユンの位置情報――
確認するに、どうやら、山の、しかも奥のほうで止まっていた。
「うむ、山のほうか?」
カン・ロウンが言い、
「アジトでも、あるのかな?」
「けっ、何がアジトだってんだよ、」
と、ドン・ヨンファにキム・テヤンが舌打ちしながら、マップ情報をよく見る。
すると、そこにあったの、何かの施設や建物はというと、
「ダム……、みたいだな」
と、カン・ロウンが確認した。
「何でぇ? わけの分かんねぇ、デートコースの趣味だな。フロリストのヤツも」
「土木建築マニア――? とか、じゃないかな? たまに、そういうのが好きな人がいるじゃないか」
「ちっ、真面目に答えてんじゃねぇってんだよ! タコ!」
と、キム・テヤンが舌打ちしてつっこみつつ、
「しかし……、なかなかに、嫌な場所をチョイスしてくれるな」
「確かに……、どうやって、行くか?」
と、カン・ロウンとともに重い顔をした。
山の奥のほうの、大きなダム。
しかも、こんな雪の降る冬の夜であり、今から簡単に行けるような場所ではないことは日の目を見るよりも明らかだった。
「なあ、テヤン? 情報部時代か軍のツテで、ヘリとか借りれないか? 全天候型の」
と、カン・ロウンが聞く。
「ああ”? 借りれるわけねぇだろが! んなもん! 自転車借りるとはわけが違うんだぞ!」
「まあ、自転車も貸してはくれないだろうけどな」
と、キム・テヤンはつっこみを拾われながら、
「それか、よう? お前の能力でよ、基地の全員踊らせて、乗せてもらうか?」
と、逆にカン・ロウンに聞く。
このカン・ロウンだが、小太りに丸サングラスと、その見た目は某二桁億再生されたプロモの男に似た見た目のとおり――、プロモーションのように踊ることで、敵味方問わず周りにいる人間を操ることができるという。
だが、
「いや、いや、さすがに無理だろう。その前に、捕まるか、運悪ければ射殺されるだろう」
と、その本人が否定した。
踊って周囲の人間を操れるというが、その能力の範囲にも限りがある、
ゆえに、広く人数も多い基地で、上手くいく自身はなかった。
「じゃあ、ヨンファ! てめぇの一族や友達にいねぇのかよ? 軍用の、全天候ヘリ持ってるヤツぁ」
「さ、さすがに、いないって、」
「ああ”!? 何でだよ! こち亀じゃ、金持ちがカジュアルに戦闘機とかヘリとか出してくんじゃねぇか!」
「いや、あれは、カジュアルに出しずぎだって、」
と、キム・テヤンは某日本の国民的なマンガの名を出しつつ、理不尽なことを言う。
そのようにして、フロリストとパク・ソユンのいるであろうダムに、どうやって向かうおうかと考えていた。
その時、
――ババ、バババ!!!
と、今度は低空から、回転音らしき轟音が響いて来るなり、
「あっ――!?」
「ああ”!? 何だってんだよ!? 今度は!?」
「ま、まさか、本当にヘリが来るとは……!」
と、三人が驚いた先――
恐らくは、先に話したように、軍用の全天候ヘリが降り立ってきた。