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【07】 冷たい結晶華   作者: 石田ヨネ
第三章 ラブ・レター
17/28

17  会うなら、今でしょ?  いや、今じゃないでしょ、って話なのだが。

 


          (4)



 夜の、23時ごろ。

 蔓バラと鋸のオブジェに、新しく加わった赤いカラーコーンと……

 すなわち、パク・ソユンは部屋で、スイーツをお供に赤ワインを飲みつつ、パソコンで動画を多重に開いて見ていた。

 その内容はというと、先ほど屋台で召還したような、農業機械のシャフトの事故動画の再現CGだったり、その他巻き込み事故の解説動画など――

 それを、いちごタルトを食べながら、淡々と視聴し続けるという。

 まあ、傍から見たら悪趣味というか、少し人間性を疑わざるを得ないだろう。

「は、ぁ……」

 パク・ソユンは、ため息をした。

 思い出す、

『――お会いできるのを楽しみにしております♪』

 との、フロリストからの手紙の文面。

 この手紙が嘘だったり、結晶華事件に便乗してフロリストを語ったイタズラでなければ、そのうちに、自分はフロリストと会うことになるのだろうか?

 まあ、イタズラであれば、タヌキこと妖狐の“葛葉”や“あやしいね!”を使った時点で弾かれているだろうから、この手紙が偽物かイタズラか心配をする必要はない。

 しかし、私に会いたい――、とは?

 そのための、また、フロリストから連絡が来るのか?

 あるいは、どこかで不意打ち的に、会いに来るということだろうか?

 まさか、それは、まるで某スターリンのノックのようにして、今、ドアを叩いて来るのか。

 いや、そこは、さすがにマンションのセキュリティで、大丈夫だと思うが……

 というか、こんな時間にノックとは、勘弁してほしい。

 会うなら、今でしょ? 

 いや、今じゃないでしょ、って話なのだが。

 しかし、そう考えていると、勘弁してほしいことというものは起きるものである。

 すると、

 


≪こんばん、は――♪≫


 と、まるで、脳を低周波か何かで内部から揺さぶるような声が、頭上というか、背後からした。


「ぽ、よ――?」


 さすがに、パク・ソユンも少し驚きつつ、ゆるり……と、振り向いてみる。

 そこには、何か“黒い影の者”がおり、

「ごきげん、いかがですか♪ ジグソウ、プリンセス」

 と言うなり、自分の後ろから、首へと手を回してきた。

「はぁ、」

 パク・ソユンが、チラリと後ろを見たまま、曖昧な相づちすると、

「お渡しした手紙のとおり、会いに来ましたよ♪ パク、ソユン様」

 と、黒い影の者――、恐らくは“フロリスト”が、上機嫌そうに言う。

「いや、会いに来たって、さ? スターリンノックの時間でしょ? 今じゃないでしょ」

「いや、今でしょ♪」

「は、ぁ」

 と、マイペースに答えるフロリストに、パク・ソユンが気の抜けた相づちをする。

 同時に、

「ん――?」

 と、パク・ソユンは、首に、

 ――ググッ……

 と、力が込められかけているのに気がついた。

 恐らくは、自分を“落とそうと”しているのだろう。

 その、次の瞬間に、


 ――ギュ、ィィイイン――!!!!!


 と、パク・ソユンは先ほどの屋台と同じく――!! いや、今回は出力を上げた高回転数のシャフトを見舞わんとする!!

 その力は、人間を――、いや、大型獣ですら、数秒から10秒でバラバラに引き裂くほどの凶悪な力!!

 それを、威嚇を込めてフロリストに向けた。

 しかし、

 ――ギィィィン!!! ガガ、ガガッ!! 

 と、突然に、何か音が鋭くも鈍くなるや、


 ――ガッ、キィィン――!!!


 と、何とあろうことか――!? 力に屈して折れたのはシャフトのほうだった!!

「は――!?」

 パク・ソユンが、思わず驚きの声を出す。

 恐らくは、この影の者は、巻き込まれる直前で力を入れ、無理やりシャフトに抗って破壊したのだ!!

 すなわち、このフロリストの“力”や身体の強靭さは、少なくとも大型機械を回転力を遥かに凌駕するという。

 ただ、自分の首に回してきた手の、腕の感触というのは、むしろ柔らかく、少し細いようにも感じた。

 すなわち、柔らかくもサイボーグかナニカのように、強靭ということだろうか――?

「……」

 パク・ソユンは、チラリとフロリストのほうを見る。

 そのフロリストも、

「……」

 と無言ながら、ニコリと、甘く微笑しているように見える。

 後ろから抱かれる形ながら、パク・ソユンは思う。

 恐らく、この黒い影の者――、フロリストなる者は、今まで戦ってきた、どの相手よりも強いだろう。

 痛みによって興奮することにより、MAXで戦艦の主砲並みの力を出せるという異常体質の令嬢。

 自在に体を変化させてテレポートし、かつ、念力のようにして人体を変形させる力を発動する、無表情のM字ハゲのオッサン。

 それから、黄色の空間に閉じ込め、謎の力で首輪爆弾を発動した、壁の化身の異形の翁 (まあ、その攻撃は自分には効かなかったが)――

 そんな、直近の事件の敵(?)というべきか犯人(?)だったりを、パク・ソユンは思い出しつつ。

 そのようにしていると、

「さあ、デートしましょう♪ ジグソウ、プリンセス」

 と、フロリストなる者は首から手を放すや、やや強引にパク・ソユンの身体をグッと引いて抱き寄せる。

「ちょッ!! 何すんの!!」

 パク・ソユンはイラッとして言うも、そのままフロリストはパク・ソユンを抱きかかえ、窓を開ける。

「は? 外に飛び降りる気?」

 パク・ソユンが聞く。

 いちおうはタワマンの上のほうの階で、たぶん落ちてもしなない異能力者かつ異常体ではあるが。

 すると、

「いいえ、下じゃなく、上に行きますよ♪」

 と、フロリストは答えるなり、

 ――タ、ンッ――!!

 と、窓枠を蹴るなり、上へと大きく跳躍する!!

 それも、パク・ソユンを抱きかかえた状態で、まだここから20メートルくらいはありそうな屋上へと一気に辿り着くほどの人間離れした跳躍力で――!!

「何すんのよ!? てか、さっむ!!」

 パク・ソユンが叫ぶ。

 確かに、外は美しくも雪が降っていた。

 そんな中、


 ――キ、ィィイインッ――!!


 と、今度は夜の雪空の中から、つんざくような、ジェットエンジンの轟音が聞こえてきた。

 見えるは、スタイリッシュにしてステルス戦闘機と思しき機体の姿。

 すると、 

「さあ、乗りましょう♪」

「は? ちょっ!? 嘘でしょ!?」

 と、フロリストは言うなり、再びパク・ソユンを抱きかかえた状態で、まるでエスコートするかのように、かつ強引にして飛び乗る。

 自動で開いたキャノピーに、フロリストは流れるかのようにして入り、そのまま、夜景によって仄明るい雪空の中に消えて行ってしまった――

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