15 この、ポンコツドラえもん野郎
その、急に目の前に登場した妖狐の姿を見て、
「おっ、とぉ?」
と、カン・ロウンが軽くは驚き、
「ああ”? 何だ? こっちに来たのかよ、タヌキ? てか、何だ? その格好は?」
と、キム・テヤンが怪訝な顔でつっこんだ。
その、妖狐は肩掛けしてた友禅をソファに置いて、
「やれやれ……、人がせっかく、雪を見ながら酒を飲んでいたというのに」
「ああ、すみません。というか? 何か、追いかけてくるような声が聞こえたんですけど」
「さぁ、」
と、妖狐は答えつつ、はぐらかす。
また、妖狐はそのまま続けて、
「それで? どんな事件なのだ? 貴様たちが調べているというのは。――あ? そのどら焼きをよこすのだ」
「ええ、どうぞ。タヌ、キツネさん」
と、カン・ロウンはドラ焼きを渡す。
それも、苺ホイップのドラ焼きという。
「けっ、ドラ焼きをアテに酒かよ、」
キム・テヤンが、当然といえば当然のつっこみをする。
その傍らで、
「その、こんな事件でしてね」
「ほう」
と、カン・ロウンは妖狐に資料を見せつつ、結晶華事件の概要を伝える。
そうして、しばらくして。
「――ふむ。そういうわけか」
と、ひととおりの内容を聞いて、妖狐が言った。
「仕方がない。出力は少しケチるが、“葛葉”と、“あやしいね!”を用いてやろう」
「ありがとうございます」
「ちっ、露骨に、ケチるとかいうなよ」
と、カン・ロウンが礼を言い、キム・テヤンが舌打ちする。
まあ、妖狐にはあまりメリットもないわりに妖具を出してくれという話だから、ケチるのも当然といえば当然で、舌打ちするほうがどうかしているのだろうが。
まあ、それはさておき、
「とりあえず、“葛葉”を使うぞ」
「ええ、頼みます」
と、妖狐は言うとともに、虚空に手を伸ばす。
すると、
――ファ、ァァン……
まず、緑色のオーラが生じるとともに、
――ニョキッ――
と、それらはツルと葉に具現化されていく。
ホログラフィーのように現れた“それ”は、まるで日本画の岩絵の具のような美しい緑色をしたツル植物の“葛”と、“それら”に互いに絡みあう、高度な電子回路のような金糸――
あらゆる情報網に侵入したりハッキングしたりして情報を得ることができる、この妖力・妖具こそ、“葛葉”である。
なお、その情報蒐集力は、出力次第では米中ロの大国の情報機関や巨大テックを凌ぐという。
妖狐は、その“葛葉”のツルを手にして、
「ちょっと、借りるぞ」
「あっ? おいッ!」
と、キム・テヤンのノートパソコンのほうに放つや、
――ブスッ――!!
と、ディスプレイへと、侵食するように刺さる!
「何しやがる! ポンコツダヌキ!」
「まあ、そう早とちりするな。壊れたりはしないぞ。実際に物理的に刺さっているわけでないからな」
咄嗟に声を荒げるキム・テヤンに、妖狐が言う。
そうしながらも、葛葉による情報蒐集は進む。
これまでの国内外の結晶華事件に関する機密性のある捜査情報、犯行の前後の、周辺の人間たちの通信記録だったり、監視カメラ網だったりの記録を蒐集しながら、必要そうな情報を取捨していく。
「ふむ……。各事件ごとの犯行の前後でな、怪しそうな人物が、いくつか引っかかるのだが、」
「だが?」
と、妖狐がホログラフィで表示する、怪しそうな人物たちのキム・テヤンが反応し、
「通常であれば、そいつらの通信記録だったり、電子的なIDから、個人を追跡できるのだがな、」
「そういうからには、そうはいかないってことか?」
「ああ……」
妖狐は答える。
「それに、犯行は国内外で広範囲に行われていることを考えると、すべてのケースに共通して引っかかる人物がいるはずだが……、ここに表示される人物は、そうではないですよね」
と、カン・ロウンが確認し、
「何だ? すると、“こいつら”は、たまたま引っかかったわけか」
と、キム・テヤンが指さした。
国籍や、人種も、容姿もバラバラな“怪しい”とされた10人ほどの人物たち。
「まあ、たまたま、ノイズ程度の結果が出たんだろうな」
「けっ、ノイズ程度のデータなんか出すなよ。しかも、10人も出しやがって、」
「だから、妖力の出力を落としていると言っただろう」
「落とすなってんだよ、この、ポンコツドラえもん野郎」
「“葛葉”自体が、そんなに万能ではないのだから勘弁するのだ。まあ、もう一度蒐集と分析にかけてやる」
と、妖狐が答えながら、再び“葛葉”を使う。
すると、
――ヴィ、ィィン……
と、ホログラフィが切り替わり、シルエットのように黒ぬりの、“謎の人物X”が表示された。
「あ、ん――?」
キム・テヤンと、
「む……?」
カン・ロウンが順番に、怪訝な顔をすると
「――ふむ。やはりというべきか? その、一連の結晶華事件とやらには、葛葉でも、よく追跡できぬ者がいるようだな」
「何だ、と……?」
「社会の、あらゆるセキュリティ網に、ひっかからず……、まるで、怪人のようにターゲットに接触して、犯行を為す――」
「……」
「……」
妖狐の言葉に、ふたりは沈黙して間を置きつつ、
「まあ、私が呼ばれる事件は、そういった類のほうが多いがな」
と、妖狐は結んだ。
そのまま続けて、
「それでも、少なくとも韓国内にいる可能性が高いようだな」
と、妖狐は分析したデータを見せた。
そこには、韓国内の地図が表示され、犯人ことフロリストのいる可能性のある地域が、なんかそれっぽくマッピングされていた。
「まあ、犯行が行われた――、犯人が結晶華ってのを、お披露目したのが、つい先日だからかな」
と、カン・ロウン。
「だから、この韓国内にいる可能性のあるうちに、だ。このフロリストってヤツを捕まえれたらな」
妖狐が言いつつ、
「ちなみに、ヤツらはどうしたのだ?」
と、ふたりに聞いた。
ヤツラとは、パク・ソユンとドン・ヨンファのことである。
「ああ、あいつらは、別働隊的に調べている。というか、いちおう仕事をしているからな、ああ見えて」
「ほう、」
と、答えるキム・テヤンに、妖狐は相づちしつつ、
「それで? そのパク・ソユンは、“こんな投稿”をしていたな?」
と、昨夜のSNSの、
『もし、犯人、フロリストがこの投稿を見ているのなら、私を作品にしてみる? その代わりに、タイ~ホするぽよー』
との、例の投稿の文面を見せた。
「ああ……、そうだよ」
キム・テヤンも、顔をしかめながら答える。
「“こいつ”に、パク・ソユンのヤツにな、『あやしいね!』がビンビンに出ておってな、」
妖狐は答えると、確かに、
――ピィィン……!!
と、『いいね!』のようで、中指をビシッ――!! と、元気よく突き立てたアイコンが生じていた。
さらに、
「ふむ。それだけでないぞ、」
「ああ”ん?」
「まだ、何か――?」
と、妖狐は溜めつつ、
「どうやら――、パク・ソユンのヤツに、そのフロリストとやらから、ラブ・レターが届いているみたいだぞ」
「「なっ、何だって――!?」」
と、カン・ロウンとキム・テヤンのふたりは、まるで某ミステリー漫画のように声を合わせて驚いた。
「まさか……、囮になってとか、話していた矢先に――」
キム・テヤンが、「嘘だろ?」と言いたげな顔で言い、
「まあ、あんな投稿をしたとはいえ……、本当に、フロリストから手紙が来るとはな」
と、カン・ロウンも同様だった。
犯人、フロリストから本当にリアクションがあるとは、想定外だったからだ。
それを踏まえて、
「しかし……? そうすると、どうするか?」
と、キム・テヤンが言うと、
「ふむ。単純に、ヤツが言うように、そのまま囮にしたらどうだ? ほれ、飲むタイプの、魔界植物の発信機でもくれてやる」
と、妖狐が、ぐにゃりと曲がった魔界のモヤシとでもいうべきモノを見せる。
「おい、言うて、アイツがそう簡単に、そんなもん飲むのかよ?」
「まあ、そこは飲ませろという話だ」
と、顔をしかめるキム・テヤンに、妖狐が言いつつ、
「ただ、もし、これでパク・ソユンを囮として調べることができても、な――? フロリストとやらを、いちおう過大に評価しておくと……、もし、ソユンのヤツが囮となるべく掴まったとしても、それを、簡単に追跡できるか――? 怪しいと思っておいたほうがよかろう」
「まあ、そんなに上手くいくとは思わないほうがいい――、ってことですよね?」
「うん。しょぉいうこと~」
「けっ、何が、『しょぉいうこと~』だ。気の抜けた返事しやがって、」
と、キム・テヤンが舌打ちするのを、スルーして、
「ついでに言うと、だ――、フロリストとやらは、もしかすると、貴様たちがパク・ソユンを囮として調査することくらい、想定しているかもしれない」




