14 と、これは異世界時間は何時何分か――?
(2)
パク・ソユンとドン・ヨンファが調査(?)をしているいっぽう、並行して、カン・ロウンとキム・テヤンのふたりは、正攻法(?)で調べていた。
「マーたちにも聞いてみたがな、今回のガイシャに関して、目ぼしい通信記録や、監視網から得られる有用な情報ってのは、今のところ無いとのことだ
と、わざわざ警察署に足を運んだのか、キム・テヤンが、そうカン・ロウンに報告して言った。
「そう、か……」
カン・ロウンが頷く。
「他にも、情報部時代の連中や、ツテも使ってるけどよ……、あまり有用な情報は期待できねぇぜ」
ソファに座るキム・テヤンは言いつつ、これまでの事件に関する資料を表示させて、ダーッと流し見してみせる。
「う~む……、なかなかに、神出鬼没的な存在だな、フロリストというヤツは」
中腰の状態で、カン・ロウンもどれどれと、ざっと見て唸る。
そのまま、カン・ロウンは立つなりコーヒーを淹れに「いった。
「ちなみに、何か、それっぽく唸って考えているけどよぅ……、実質、今のところ何もしていねぇじゃねぇか? ロウン」
「まあ、そう言うなよ。いちおう、コーヒー淹れてやってるじゃないか」
「けっ、」
キム・テヤンが舌打ちする。
その背後から、
「砂糖は、どうするか? テヤン?」
と、カン・ロウンの声が聞こえてくる。
「ああ”? 入れんじゃねぇよ。入れたらタダじゃすまねぇぞ、ミルクもな」
キム・テヤンが、治安の悪そうな返事をする。
そうしながら続けて、キム・テヤンが、切り出す。
「しかし……、さて? どうするよ?」
「そうだ、なぁ……」
と、コーヒーの香りとともに、カン・ロウンの相槌が返ってくる。
「このまま、何か、“パンチの効いたこと”をするかしないと、進展しねぇんじゃねぇか?」
キム・テヤンが言う。
いわゆる、何かトリッキーなことをして調べる的な意味で。
「まあ、あのふたりが色々調べてくるのも、待たないか?」
と、盆にコーヒーカップを載せて、カン・ロウンが戻ってきた。
「けっ、あのふざけたヤツらの、何が期待できるんかってんだよ」
舌打ちしつつ、キム・テヤンが受け取る。
「テヤンも、いるか?」
「ああ”? いいよ、俺は、甘いのは」
と、甘党派のカン・ロウンが、韓国版どら焼きとでもいうべきスイーツを見せるが、反対にキム・テヤンは辛党というか、少なくとも甘党ではないので受け取らない。
その、どら焼きを見ながら、
「ああ? そう言えば、もしドラえもんだとすると、こういう、話が進展しない時には、ドラえもんを頼るんだろうな」
ふと、カン・ロウンが、ドラえもんを連想したかのように言った。
「ああ”? 何だっ、て……?」
キム・テヤンが怪訝な顔をしつつ、
「――また? あの、タヌキを頼るのか?」
と、ピンと来て思い出した。
「ああ……」
カン・ロウンが、頷いた。
タヌキ、――ではなくてキツネ、“妖狐”の、神楽坂文のことを思い出した。
SPY探偵団とは協力関係にあり、これまでのいくつかの事件の調査においても、助けを借りたことがある関係である。
なお、その助けを借りるとは、妖狐の妖力であったり、ドラえもんの秘密道具よろしく、妖具を出してもらったりといった具合であり、妖狐とはいいながらも、さながらドラえもんみたいなナニカとして扱われているという。
「まあ、いいんじゃねぇか。俺は、あのタヌキ、あんま好きじゃねぇけど……。てか? 俺よりも、ソユンのヤツが嫌な顔するだろ」
「だから、今のうちに、こっそりとだよ」
と、確かに嫌そうな顔して言うキム・テヤンに、カン・ロウンが答える。
「ちっ、仕方ねぇな」
キム・テヤンが舌打ちしつつ、カン・ロウンの提案を渋々のむ。
すると、カン・ロウンはスマホを手に取って、
――プル、ルルル……、プル、ルルル……
早速妖狐へとかけ始めていた。
「何だ? もう電話してんのかよ?」
「ああ、思い立ったが吉日、とかいうじゃないか」
と、しばらく待つと、
『――何だ?』
と、これは異世界時間は何時何分か――? 金沢は兼六園のごとく、雪の庭園を眺めるドラえもんみたいなナニカこと、妖狐の神楽坂文が電話に出た。
ちなみに、そのタヌキこと妖狐の形はというと、某スパイ家族マンガのような黒髪にアサシンドレスに、雪をモチーフにした友禅を肩掛けした、狐耳の美麗な女の姿であった。
その妖狐に、
「お久しぶりです、タヌ、キさん」
『だから、いつもキツネと言っておるだろ、』
妖狐は、やれやれと返す。
もう、キツネではなくタヌキと呼ばれるのがデフォルトだった。
この妖狐も、性格こそクズであるが、ここは「いい加減にしろ」と言ってもいいものの、諦めているのだろう。
その妖狐の手には日本酒があり、館のような室内は、ガヤガヤと喧しかった。
神そうなヤツラはだいたい友達な面々が、花札や賭博と、酒宴に興じて騒いでいた。
妖狐は、そこから離れて、小休止というところなのだろう。
『――で? 何の用だ?』
妖狐が、カン・ロウンに聞く。
「ええ、その……、ちょっと、新しく、事件を調べてましてね」
『はぅ、』
妖狐が相槌する。
なお、「何? その、『はぅ』って」と、カン・ロウンは一瞬つっこみたかったが、スルーして。
『それで、また私の妖力か、妖具を使いたいというわけか? まったく、人のことを、ドラえもんみたいなナニカと思っているんじゃないだろうな?』
「すみません、思ってました」
『思ってましたじゃないが』
正直に答えるカン・ロウンに、妖狐は言いながら、
『まったく、仕方がない、』
と、協力の依頼を受けようとした、その時、
「おい! 何してんだ! タヌキ!」
「おうよ! 戻って来いや! クソダヌキ!」
「そうよ! 犯すわよ! 何、休憩なんかしてんの?」
と、神そうなヤツラはだいたい友達が、雪崩ように縁側に押しかけて来た。
たぶん、貸した妖力のツケやらで逃がさない的な感じで。
そんな神そうな彼らから、
「おっと! ちょっと、相談ごとが入ってな? しばらく外すから、さらばだじょ」
「おおぉい!!」
「さらばだじょじゃねぇぞ!! 殺すぞゴラァ!!」
と、そういうわけで、
――ギュ、イイーンッ――!!
と、こちら側の世界の時空間に穴が開き、妖狐の神楽坂文が現れた。