3章 88話 結局は他人に丸投げするスタイルです
年末年始忙しすぎて全く進んでませんわ
「で、オレは何すればいいんだよ?」
「さぁ?」
才能の有無で賭けを始めはしたが、その前提には練習ありきでの判断をしなければならない。
特に何をすれば良いのか分からないヒカルは、ひとまず何をすれば良いのかを聞く。
しかし、この状況を招き、格闘技が向いていると力説していた張本人は無責任にも気の抜けた表情で分からないとのたまう。
「今までのくだりは何だったんだよ!考えがあるから賭け始めたんじゃねぇのかよ!」
「いやー、面倒だったし勢いとノリで…」
「オマエほんっとそんなんばっかだよな!」
「勘がやれって言ってたもんで。あと単純にムシャクシャしてたし」
「普段の慎重癖はどこに捨てきたんだよ」
「まぁーまぁー。俺が無策で勝負する訳ないじゃん」
「今、無策って言ってるようなもんだぜ?」
初めてのことでは無いが、マサキの行動は落差が酷い。
それは戦闘の場面で顕著に分かり、緻密な策を考え実行するのだが突然全てを放り投げて特攻を仕掛けたり、奇怪な行動をとり始めたりすることがある。
日常生活でも同様であり、スイッチのオンオフが激しい気分屋だ。
今回の話もその気まぐれかと分かったヒカルは、そんな癇癪に巻き込まれたのかと頭を掻きむしりたくなる。
だが、マサキとて一応は友人の悩みを憂う気持ちが小石程度には存在している。
勢いで行動したのは事実だが、その場のノリでこの賭けを提案した訳ではない。
「マサが教えてくれんのか?」
「俺は習い事で格闘技を齧ったことはあるが、まぁ素人にエクステが数本ついたくらいだ」
「それ大分生えてね?」
「エクステは所詮付け毛だ。格闘技なんて基礎を少し学んだら、パワーとその場のノリでどうにかなることしか分からない」
「んな訳ねぇだろ。ノリでどうにかなるのはマサだけだ」
武道を本気で学んでいたとは思えない発言に、ヒカルはそんな馬鹿な話があるかと思う。
だが、マサキは呆れる彼に「いやいや」と首を横に振る。
「ノリと才能だけで俺より殴り合いが強い奴がいるだろ」
「アレも例外だろ」
思い浮かべるはセンスと才能だけで銃を使った格闘技を使用するギャルゲー主人公ビジュアルな青年。
その普通を極めた、逆に普通じゃ無い二次元から飛び出たような青年をマサキは引き合いに出すが、ジュンジはその肉体スペックも二次元スペックだ。
あれを人の物差しで測るのは違う。
しかし、それを微妙に否定できないマサキは視線を少し泳がせる。
「とにかく、俺が教えられるのって殆どないんだよなぁ。そもそも、地球の格闘技を今から学んでも大して役に立たなそうだし」
「それもそうだな。じゃあ、どうすんだよ」
マサキは格闘技を教えることができないということも分かると、ではどうやって学ぶのか頭の中で疑問を浮かべる。
「そこは戦闘のプロの出番だよ」
「戦闘のプロ?あぁ…」
「こういう時こそ頼りになる大人ダナー」
一瞬思い浮かばないヒカルだったが、マサキのニヤリとした表情を見てすぐに見当がついた。
すると、これから味わうであろう苦痛を思い浮かべ、うへぇと顔を歪ませる。
出来れば思い浮かべた人でないようにと内心で祈るが、その祈りは悪魔によって妨げられる。
「という訳で、今からシナさんの所にいくぞー」
やはり、一番聞きたくなかった名前が上がった。
剣を教えてもらうことが多くて真っ先に出てこなかったが、よくよく思い出してみれば普通に体術も使っていた。
どのくらい得意であるかは未知数だが、あの見のこなしの時点で不得意ということはないだろう。
と言うか、軽くではあるがジュンジが足技などを教えてもらっていた記憶が脳裏にチラつく。
剣を教えてもらったことから指導力もあり、師事するには最適とも言える人物だ。
しかし、ヒカルはシナに教えてもらうのに抵抗があった。
「ちょッッとまて!」
「なに?」
「ほら、シナも帰って来て仕事で忙しそうにしてんだろ。仮に見てくれたとしても付きっきりは無理だろうし、そうなれば効率も大分悪いぜ?」
普段は絶対にしない、駄々をこねるような説得。
皆んなの兄貴ポジションに座す者として、あまりこういう行動は取りたくはなかった。
しかし、ここに居るのが弱みを見せられるマサキだけというのもあるが、そのプライドを捨ててでもシナの訓練と言う名の地獄を回避したかった。
フラッシュバックするはアレクレアまでの旅の日々。
シナに転がされたり、ボコされたり、追いかけ回されたり。
時には魔物の群れと命懸けの鬼ごっこに殲滅、武器なしでの戦闘etc。
思い返しても本当に碌なことのない訓練風景。
あれで実力が上がったと実感できてなければ恨むレベルの凶行だ。
「俺達の育成もあの人の立派な仕事だ。ほら、困った時はなんでも言ってね!とか言ってたし」
「完全な社交辞令だろ」
「大丈夫大丈夫。あの人多分ノリノリで協力してくれるから」
「んなわけ…」
「という訳でれっつごー」
「ちょッ、放せ!襟を掴むな!」
残念なことにそんなこと程度ではマサキを説得できる訳もなかった。
どうにか逃れようと足掻くヒカルだったが面倒だと首根っこを掴まれ、引きずられるように連れて行かれた。
●
「なるほどなるほど。それでボクのところに来たわけね」
仕事部屋で書類の山に囲まれているシナ。
命令違反ではないのだが、やはり他国へ勝手に行ったことに加えて、テラクセスでの一件が問題視された。
とは言え、今の騎士団には現騎士団長達ですら彼を罰することはできないので、お咎めは文句と彼の友人達にチクられただけだ。
それだけ?と思わないこともないだろうが、これがシナにとっては非常に効果を発揮する。
その結果がその友人達から回されたこの書類の山だ。
やり過ぎた自覚があるので詫び代わりに仕方無しと引き受けたが、脅威の業務速度を持ちながらも終わりが見えず辟易としていたシナ。
そんな中、黙々と仕事をしているところへ話があるとマサキとヒカルがやってきた。
最初は仕事を休憩する口実が出来た程度の気持ちで話を聞いていたが、聞き終える頃には中身にも興味が湧いていた。
「つまり、ヒカルくんに格闘技を教えたいってこと?」
「まぁ、そうですね」
「で、ヒカルくんは納得してるの?なんか不満そうな顔だけど」
マサキが主体になり説明を終えれば、シナは大事な部分だけを抜き取って確認をする。
しかしながら、その教えを乞う方のヒカルはというと仏頂面で眉間に皺を寄せていた。
「オレは納得してねぇけど、気分転換って話だったからな」
「良かった。ボクに教えてもらうのがそんなに嫌なのかと思ったよー」
ここに連行される途中にある程度地獄を見る覚悟はしたが、それでも嫌と思う気持ちは変えられなかった。
そんな思いを見透かされたように当てられると、ヒカルの表情はさらに苦々しくなる。
だが、ここで言い繕っても仕方がないと観念して本音を語る。
「それも無くは無いけどよ、オマエの指導力は分かってる。嫌だけどな」
「それは光栄だね。期待に応えられるよう頑張るよ」
「そこは程々にしてくれ…」
心底嫌なのか、せめてもの抵抗をするヒカル。
だが、シナの輝かんばかりのスマイルを前に、数秒も持たずに虚勢はどこかへ旅立ってしまう。
「で、シナさん引き受けてくれます?」
「いいよ。最近は机仕事ばっかりで参ってたからね。ちょうどいい気分転換になるよ」
「いいのかよ。オマエ仕事溜まってんじゃねぇか」
最終的にマサキが確認を取れば、二つ返事で引き受けてくれる。
しかし、ヒカルはやはり嫌な気持ちが強いのか、往生際悪く今まで手をつけていたであろう書類を指す。
「殆どが雑務だからボクじゃなきゃってことも無いし大丈夫だよ。それより、キミ達への指導の方が重要度が高いからね」
それはつまり他の人にその仕事を投げるということなのでは?
マサキはそんなことを思いながらも、まぁいいかと名も知らない被害者に適当な黙祷を捧げる。
ヒカルの方はそれどころでは無く、もう逃げられないことが確定するとガタンッと膝から崩れ落ちたのだった。
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