3章 87話 悩める才能
新年明けましておめでとうございます。
今年もボチボチ書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
新作も出す予定です。
木剣が強く空気を切り裂く音。
人によってはその音を心地よく思うこともあるだろう。
かくいうマサキもそのうちの一人だ。
音が綺麗というのも勿論あるが何よりも爽快感があり、剣を振っている感じがよく味わえる。
ありたいていな感想を言うのあれば、なんかカッコいい。
子供らしい理由だがこれに尽きる。
初めて竹刀で音を出せた時は嬉しさのあまり時間を忘れて素振りを続けたものだ。
セットで思い出す翌日の苦痛を除けば良い思い出だ。
他人が出す素振りの音も割と好きである。
人によって違いがあり、それを探すのもまた乙なものだと密かに思っていたりする。
そんな奇妙な趣味を持つマサキであるが、現在近くから聞こえてくる風切り音は残念ながらお眼鏡に適うものではなかった。
(これ、いつまで続くんだよ。そろそろ放置するのもダルいし、面倒だなぁ…)
いつもの眠たげで締まりのない顔。
それでいながらしっかりと魔力操作の練習をしながらも、内心盛大にため息を吐く。
目を向ける先にはブォンブォンと荒々しく木剣を振るうヒカルの姿があった。
一見普段と変わりないように見えるが、その纏う空気は危機迫るような張り詰めたものがある。
前から近寄りがたいオーラを纏ってはいたが、これ程あからさまなものはマサキの知る限り出会って間もない時以来だ。
これも全てエレナリーゼとの模擬戦以外に理由はないだろう。
詳しいことを推し量る事はできない。
しかし、ざっくりとした予想なら難しくはない。
三人中自分一人が負けているのだ。
それも惨敗という形で。
オストとマサキとはアドバンテージの差があったとは言え、二人が善戦していたのを見れば思うことの一つや二つくらいはあるだろう。
ヒカルは負けず嫌いでプライドが人一倍高い。
そんな男が惨敗したのだから、荒れるのも仕方がないのかもしれない。
だが、それを見せられているマサキとしては不快極まりない。
トゲトゲしい空気であったり、八つ当たりのような素振りであったり、会話の際の気遣いであったり色々だ。
とにかく言えることは、今ヒカルは非常に面倒ということ。
模擬戦からは一週間以上が経って日常生活では普段通りにも見えるが、暗い顔をしていることがあるのを全員が知っている。
空気を読まないマサキを含む仲良し四人は、特に触れることもなく放置することにしていた。
シンイチとシュウタは気にしてはいるものの、長い付き合いの四人が何もしないのを見て静観。
唯一オストが当たり障りのない気遣いを一度したが、ヒカルが触れて欲しくないと遠回しに言ったことにより、心配はしつつも掘り返さないようにしていた。
そんなこともあり、全員が本人の折り合いがつくまで放置するという結論に至った訳だ。
だが、変化として日に日に口数が少なくなっていき、自己鍛錬の時間もかなり増えてきている。
まるで鍛錬に行き場のない気持ちを発散するように。
そうなると、一緒に鍛錬のすることが多いマサキが一番被害を被ることになった。
最初は特に気にすることもなかったのだが、毎日毎日あの様な姿を見せられるのに加えて、打ち合いの訓練ではあの熱量をぶつけられるのには参っていた。
知らない人がその現場を見れば襲われているのではと思うほどの激しさだ。
大抵のことは気にしないマサキは問題なく受け流していたが、流石に気になり始めてきた。
(いい加減ウザいな)
ここで心配では無く悪態を吐くのがマサキクオリティ。
基本的に我慢という行為が嫌いな面倒臭がり屋は、どうやって立ち直らせるかなど数秒だけ考えて即座に投げ捨てる。
前も勝手に立ち直ったのだから、今回も勝手にどうにかするだろうと。
考えがまとまってからの行動は早い。
彼は文化系を装った体育会系なのだから。
マサキは何となくという理由で組んでいた坐禅を止めると、側に置いていた木剣を杖代わりにのっそりと立ち上がる。
そして、ゆっくりと助走をつけて…
「ヒーカールーくーん。鬱陶しいから喧嘩しーよーおッと」
言葉より先に素振りを続けていたヒカルへ木剣を力一杯振り下ろす。
ヒカルはギョッとした顔で即座に受け止めるが、マサキはそのまま体重を乗せて鍔迫り合いに持ち込む。
「あぶなッ!?マサ、オマエ何のつもりだ?」
急な攻撃と訳の分からない言動。
ヒカルからすれば困惑しかない行動だが、理不尽に対する怒りへと即座に変換される。
人を萎縮させるほどの威圧、凄められた声を浴びせられたマサキだが、いつもの眠たげな表情は崩れない。
「悩める子羊にとどめを刺そうかなと」
「意味が分かんねーよ!!」
「まぁ、ムシャクシャした者同士。憂さ晴らししようかと」
「このキチガイが…!」
聞いて尚理解できないマサキの発言。
突拍子もない行動に定評のがある爪弾き者五人組だが、その中でもマサキは頻度こそ少ないもののやる事の意味のわからなさは飛び抜けている。
今回もそれかと納得すると、精神状態が不安定であるヒカルは怒りを燃やす。
「そっちが仕掛けた喧嘩だ。手加減しねぇぞ…!」
やるとなれば全力。
ヒカルが本気で力を入れれば、重なり合っていた剣を跳ね除ける。
マサキは体勢を崩すこともなく木剣を構え直す。
そこからは鍛錬も何もない、文字通りの喧嘩が始まる。
技も無いマン振りの攻撃をマサキは苦もなく捌き、力の乗らない小手先の攻撃をヒカルは避ける。
力で押すヒカルと技で駆け引きをするマサキの戦いは、一進一退の様相になる。
お互いに手の内を知っていることもあり、決め手にかけるのだ。
これが魔法やスキルも使っていた場合は話が変わるのだが、これはあくまでも喧嘩。
そこに肉体以外を持ち込むのは無粋だと、二人の間では言わずとも暗黙の了解で無しとなっていた。
剣で切り結び続けること数分。
先に痺れを切らしたのはヒカルだった。
マサキが攻撃を防ごうと木剣を僅かに寝かせ、防御の構えをしたのがしっかりと見えた時。
「アメェんだよッ!」
その防御を力で打ち崩そうと、上段から全力の振り下ろしを放つ。
「残念!バスターだ」
ヒカルが隙を窺い続けていたことを分かっていたマサキは、この攻撃を待ち続けていた。
手首を使い、即座に中段に剣を構え直す。
そして、迎え撃つように木剣の側面に当て、払い技にてヒカルの木剣が地面に叩きつける。
因みにバスターは野球において、バントに偽装する打法だ。
マサキはヒカルの木剣を押さえつけると、トドメとばかりに互いの交差した木剣を足で踏み抜く。
「ホームランもらい」
自分も木剣を捨てる羽目にはなるが、そんなこと知ったことでは無いと、呆気に取られている顔目掛けて拳を振るう。
しかし、ヒカルはギリギリで首を捻ることで避ける。
「ねぇよ、逆転サヨナラだ!」
ヒカルはそのまま身を引いてためを作り、カウンターを放つ。
マサキは腕でカードをすると、更に懐に入り「ワンベース」と呟きながらジャブを繰り出す。
それを「アウトだ、ボケ!」とヒカルは迎え撃ち、結局木剣の時と同じく泥沼の戦いとなっていく。
飛び交う手足に罵声となぜか野球用語。
「ストレートっ!」
「エンドラン」
空を切り裂く拳。
マサキは手の甲で軌道を逸らすと、手首を掴んで地面へと投げ飛ばす。
幼少の頃から剣道を中心に習っていたマサキであるが、元は警察官を目指していたのだ。
数多くの武道を試し、勿論投げ技の心得もある。
相手の勢いに自分の力を加えると、恐ろしい速度で宙に舞う。
投げ出されるヒカル。
必殺の一撃とすらいえる恐ろしい技となった投げ業だが、ヒカルは持ち前のセンスを総動員する。
体を無理やり捻り、掴まれた手を強引に振り解く。
さらに一瞬で上下と自分の状況を把握すると、体全体の力を抜いて出来るだけ威力を殺して着地する。
「嘘ぉ…」
確実に相手を行動不能にすることのできるカウンターは、並外れた身体能力からの身のこなしに防がれてしまった。
曲芸すら超えたドラマのような体捌きに、マサキはそんな馬鹿なと呆れを滲ませる。
「ストライクガラ空きだぜ!」
ヒカルは投げられて出来た間を一息に食いつぶすと、勢いそのままに飛び蹴りをする。
それは当たり前のように回避されるが、本当の目的は距離を詰めること。
地面に足がつくと同時拳を振りかぶる…
と見せかけて、コンパクトに体を一回転捻りを入れると高速で脚が飛び出す。
マサキは拳の攻撃に少し意識を裂かれ、回し蹴りへの対処が少し遅れる。
恐ろしいキレで繰り出された蹴りは相手のガードに当たり防がれるが、有り余る勢いでそのまま振り抜かれる。
マサキは吹き飛ばされ、地面ゴロゴロと転がる。
そして、受身をとって跳ね起きれば、回し蹴りを受けた腕を痛そうに振るう。
「なぁ」
「んだよ」
マサキは構えを解くと痺れる腕をさすりながら話しかける。
相手に戦う意思がなくなったと一応判断したヒカルは、一撃入れて溜飲を下げたこともあり構えを解いて聞くことにする。
「ヒカルさ、剣やめて素手で戦うスタイルに変えない?」
「はぁ?」
唐突に尋ねられた予想外な内容に、疑問がヒカルの頭の中いっぱいに広がる。
急に何の話だというのもあるが、素手で戦うなどデメリット以外の何者でもないだろう。
敵と戦いとなれば大抵は武器を持っていたり人外の化け物だ。
素手で戦うなどただの縛りプレイだ。
「素手で戦うってどーやってだよ。猛獣に裸一貫で勝てるか?拳が剣に勝てるか?」
またいつもの思いつきかと考える間も無く馬鹿馬鹿しいと鼻で笑う。
「拳を武器にすればいいじゃん。ここファンタジーだし、多分剣くらい折れるだろ」
「アホか。そりゃフィクションって言うんだぜ。格下なら折れるかもしんねーけど、それ以上じゃ話にならねぇよ」
この世界はファンタジーではあるがフィクションではない。
魔力を持つ者同士の戦闘では魔導士のみならず、騎士であろうが戦士、果ては暗殺者であろうが魔力を使用する。
魔力は魔法を使うためのものでは?と勘違いする者が多いが実際は違う。
人間離れした身体能力の根源は魔力にあるからだ。
身体強化の魔法が使えずとも魔力が多くあれば体は力強く頑強になる。
その為に素手でその辺の岩を砕くことは出来たりする。
じゃあマサキの言うように拳で武器くらい壊せるのでは?と思わなくも無いが、話はそう簡単では無い。
体に魔力を流せるように武器にも魔力を流せるからだ。
そうなると元の強度の方が高い武器の方が硬いし攻撃力もある。
「そもそも、オレはオマエと違って武術を習ってた訳でもねーんだ。そこらへんの喧嘩殺法が通用するかよ」
世間一般の認識で一つ一つ否定していくが、マサキが折れることはない。
また意味のわからない暴論に熱が入っているだけかと、ヒカルは遂に呆れ果て始める。
体を動かして程よく疲れていたこともあり、適当にあしらうかと思い始めた時。
「喧嘩殺法の何が悪いんだ?」
「何がって…」
「俺はその喧嘩殺法に負けそうになったぞ?」
マサキは言葉を遮り語気を強める。
ヒカルはハッとなって改めて顔を見ればいつもの気怠げな表情ではあったが、目だけが本気だと鋭く細められていた。
「断言してやる。お前は武術の才能がある。証拠にエレナリーゼの切り札を切らせたのは剣じゃないぞ?」
「あれは奇策が嵌まっただけで…」
「そうだとしても剣じゃ奇策も無かった」
実際に拳だからこそ打開策を実行することができた。
しかし、荒唐無稽過ぎる話にヒカルはそんなことは無いと思えてならなかったために、何故か言い訳がましくなってしまった言葉。
それをマサキは事実をもってピシャリと切り捨てる。
「よし」
事実なだけに返す言葉に詰まるヒカル。
そのわずかな間にマサキは良案を閃いたとばかりにニヤリと笑う。
「じゃあ俺と賭けをしよう」
「賭け?」
「ヒカルが一ヶ月素手での武術を練習して才能があったら俺の勝ち。無かったらお前の勝ち」
「はぁ?また意味の分からんことを…ガキかよ」
「ガキだけど?」
「あー、うぜぇー。賭けってオマエ、才能の有る無しなんてどう判断するんだよ」
パチンと指を鳴らして良案の内容を口にする。
聞き終えればなんてことは無い、負けん気の強い男の子が取り敢えず競いたいから出した案のような、適当感この上ない提案だ。
ヒカルは頭が痛い素振りをしながら呆れ果てると、振り回されっぱなしの腹いせに小馬鹿にする。
しかしながら、キチガイメンタルの持ち主の前にはそんな攻撃は波紋一つ立てることすら叶わない。
何と無くわかっていたことではあるが、それでも全く堪えた素振りもないと少しばかり腹が立つ。
「そんなのやれば分かるだろ」
「テキトーかよ」
「適当でいいんだよ。ベタだけど勝った方は出来る範囲で相手の言うことを聞く」
「本当に適当だな。こんなことしてマサに何の得があるんだよ。勝てない勝負はしない主義じゃねぇのか?」
「勝てるから吹っかけてるんだよ」
マサキはその場の気分で動くことも多々あるが、その根幹はリアリストだ。
更に言えば負けず嫌いでもある。
そんな人物はらしくもない確実性のないどころか不利な勝負を仕掛けながら、勝ちを確信したように勘に触る笑顔で答える。
「オマエがこんなあやふやな賭けをするなんて珍しいな。いいぜ。乗ってやるよ」
どこからその自信が湧いてくるのやら。
そう思いながらも、見え透いた挑発に乗ってみせる。
どのみち武術を習って損などないのだ。
それに、珍しく圧倒的不利な賭けを持ち出したマサキがどうするのか気になる部分もあった。
ヒカルは受けて立つと猛獣の様な笑みを返したのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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褒めるとモチベが上がって投稿が早くなるかもしれない。
誹謗中傷以外の感想も大歓迎です。




