3章 83話 空気を読めないのではない、読まないのだ!
ブックマーク人数が十人を達成しました!
少ないながらもこれだけの人に気にかけてもらえて嬉しいですね。
遅いながらもこれからも頑張っていきます。
あとついでですが五十万字突破しました。
「流石チート持ち」
「チートって。それはキミ達もでしょ?」
オストの拳がエレナリーゼの腹部を捉えた瞬間。
その光景を見ていたマサキは呟く。
誰に言ったわけでも無いが、それを拾ったシナはお互い様でしょと笑う。
確かにマサキ達転移者はこの世界に来る際に、下級以上の肉体スペックに魔法やスキルなどの才能。
果てには称号や加護と言ったさまざまな恩恵を授けられていた。
この世界の住人基準で言えば充分にチートと呼べる才能を。
それはマサキも承知しているが、あそこまで人間離れした能力は転移者の中にはいない筈だ。
一応サキが迫るかもしれないが、それでも人間を辞めたほどの出鱈目さではないことから、やはりオストの能力は異質だ。
「オストのは俺達のと比べても別格じゃないですか。なんにしろ順当な勝利ですね」
「そうでもないよ。基礎は全部負けてたしね。今のもエレちゃんがパニックになって判断力が鈍って無ければ防がれてたと思うし、結構綱渡りだったと思うよ」
「よく言いますよ。オストが捨て身に出れば勝てるって分かってましたよね」
「もしかしたら成長していて冷静な行動に出れたかもしれないよ」
「ハハ、そうだったら良かったですね」
この模擬戦でエレナリーゼにオスト達が勝利できると言ったはシナだ。
実力では劣っていると言いながらも勝利できると断言していたことから、彼女に欠陥があるのは間違いなかった。
多くの者がその意図に気が付き、それが我の強さからくる融通の効かない性格だと予想していた。
マサキはさらに深く考え、見た目に反して感情的な性格が弱点だと予想していた。
これは前日に女性視点としてコヨミと意見を擦り合わせたので確実性が高いと思っていた。
結果、調子に乗り過ぎて力加減に失敗。
誤って対戦相手に致命傷を負わせ、そこからパニックになり隙を突かれて負けた。
それらのことを彼女の父親であるシナに予想が付かない訳がないのだ。
しかし、当の本人はとぼけるだけでのらりくらりとする。
マサキも別に問い詰めたい訳ではないので、言いたいことだけ言い終えると皮肉を最後に話を終わらす。
二人の雑談が終わると、丁度オストが立ち上がり身体の中程で止まっている大剣を引き抜いた。
そうして、血反吐を吐きながらも立ち上がったのが見えると、シナが試合の終了を告げる。
「試合しゅーりょー!勝者、オスト」
結界に打ち付けられたエレナリーゼは意識こそあるようだが内臓に傷を負い、オスト同様に血を吐き出していた。
違いは傷が深いのか依然として立ち上がることは無いこと。
試合が終わると、救護役として呼ばれていた母親であるラナが駆け寄る。
オストのパンチ一発でやられてしまうことから、エレナリーゼの防御力はかなり低いと思わなくもないがそんなことは無い。
『イグニッション』を発動中であれば大岩なら余裕で砕け、魔力による強化を受けた盾を貫くほどの破壊力を持っている。
あれは普通生身で受けられるような攻撃く、寧ろ応急処置さえすれば動けるくらいのダメージで済んでいるエレナリーゼが凄いとすら言える。
「オストくん全然動かないけど大丈夫かな」
試合が終わり、血塗れになってはいるが全快して無傷なオストだが、その場から動き出す気配が無かった。
サキが少し心配そうにするが、あれが『イグニッション』による反動だと分かる。
あれだけの超強化をもたらす魔法に、何のデメリットも付いていない訳がないのだ。
「あー、あれ見栄張って突っ立ってるだけですねー。ちょっと労いついでに突きにいきましょうか」
「そうだね」
「コヨミちゃんとどめを刺しに行くのエグ過ぎない?」
それに気がついているコヨミは面白そうに結界の中に入っていき、サキはそんな素直じゃない行動にクスりと笑う。
それを理解できないジュンジは、困惑しながらも心配だから二人の後についていくことにした。
「お疲れ様でーす。流石オストさんですねぇ。凄いです!」
「お、おう…お前なにをする気だ?」
キラッキラッに輝くアイドルスマイル。
コヨミは普段から笑顔の率は高いのだが、ここまであからさまであると裏があるのが見え透いている。
サキはコヨミのこの行動を照れ隠しと評したが、それは半分アタリで半分ハズレだ。
「さ、みんなの所へ行きましょうか!」
パシッ。
スキンシップ程度の平手が肩を叩く。
ただの平手と侮るな。
オストは崩れ落ちると悶絶して地面を転がる。
ジュンジは本当にやりやがったと顔を顰め、サキはそのやりとりを見てコミュニケーションの一貫だとクスクス笑う。
完全無欠のインテリゲーマーとは対照的に、サキは見た目に反して体育会系の思考をしていた。
「あれあれ?急に転がってどうしたんですか?」
「イタッ!痛い!突くな!」
これはイジメなのでは無いだろうか…
ジュンジも似たような目に度々あっているからこそ、なんとも判別し難いが本当に苦しそうなのは確かだ。
何はともあれ、この場の唯一の常識人は助けに入ることにした。
コヨミもひとしきり楽しんだのか、特に抵抗もなく止める。
その後、そのままジュンジに肩を借りて観覧席へと向かう。
「ナイスファイト。よく勝ってくれたよ」
「ないっすー。首の皮一枚繋がったな」
「全くだ。アレが通じてなかったらお手上げだった」
オストが観客用の椅子に腰掛けると、シナがパチパチと拍手しながら慰労を述べる。
続いてマサキもブラックが混ざった労いをされるが、それにはしみじみと同意する。
骨を切り裂かれれば真っ二つだったのだから本当に笑えない。
あれはかなり分の悪い賭けだった。
シナとマサキの言った問題点以外にも、そもそも致命傷判定というルールを破っていなくもない行為だったからだ。
結果としてはオスト有利の裁定だったから良かったものの肉体的にも精神的にも、またやりたいとは思えない作戦だ。
「そうね。あれは少しビックリしたわね」
エレナリーゼの治療が終わったラナが、オストの傷を見るためにやってくる。
何も知らない人が人体を袈裟斬りの場面を見れば驚くでは済まないのだが、やはりお淑やかに見えてシナの嫁だということが分かる発言だ。
もしかしたら天然かもしれないが、その場合サイコパスも混ざってるだろう。
今も、オストの服を剥ぎ取り傷口だった場所を入念に観察していることから、その疑惑が拭えない。
「分かってはいたけれど、傷がなくなってるわね。これどうなっているの?痛くないの?後遺症とかは?」
「え、ちょっと…」
「ラナちゃん、取り敢えず治癒魔法と疲労回復魔法をしてあげて」
優しさが滲み出る口調なのだが、質問をされるたびに圧迫感が強くなっていく。
それに耐えきれないオストは困惑としながら、逃げるように体を少し傾ける。
そこへ珍しくシナがフォローに入る。
それで我に返りごめんなさいね」と謝ると、オストの体の痛みや疲労が和らいでいく。
数秒もすれば、朝起きたばかりかと思うくらいに体が軽くなる。
「おお?なんだこれ、凄いな。体が軽いぞ」
「この国一の回復魔法使いだからね」
「大袈裟ね」
シナの世辞にニコリと笑って謙遜するが、オストからみてもその実力が高いことが分かる。
意外なことであるが、治癒魔法は外の傷よりも内面の傷の方が難しい。
エレナリーゼが吐血していたことから、内臓にダメージがあった筈だが今は何事もなかったかのように立ち上がり、体をほぐしている。
内臓だけの治癒などオストには聞いたことも見たこともない。
他にも、肉体疲労を治す魔法など初めて受けたが驚くほどの効果だ。
「ありがとう。お陰で痛みが消えた」
「それは良かったわ」
「お母様の魔法なのだから当たり前よ」
ラナに礼を言い終えると、エレナリーゼがやって来る。
表情や歩き方からは違和感がなくこちらも全快していることが分かる。
しかし、それでも致命傷になりうる攻撃をしたために、オストはひとまず謝罪をすることにする。
「悪いな。腹は大丈夫か?」
「気にしなくていいわよ。私もアナタのことを切っちゃったし」
「そうか」
「そんなことより驚いたわ。まさか、体を切られても大丈夫だなんて」
「大丈夫じゃないけどな。痛いのは変わらない」
「そうなの?普通に反撃してきたからてっきり効いてないのかと思ったわ」
エレナリーゼは根に持つ性格ではないのか、さして気にすることなく謝罪を受け止める。
それどころか、そんなことはどうでもいいと正直な感想を楽しそうに語る。
どうしても近寄り難い雰囲気があるが、彼女は元から人付き合いが嫌いな訳ではないのだろう。
認めた相手には敬意を払うし、親しくしたいと思うくらいには社交的だった。
当初はどうなることやらと思っていたが、これならどうにかなりそうだなとオストは胸を撫で下ろす。
「仲良くやれそうで良かったよ。なんなら、次は不戦勝にして一緒に隊を組んでもいいんじゃないか?」
「仲がいいかは置いておくとして、確かに実力があることは分かったわ。けれど、それとこれは話が別よ。この人達が騎士に相応しいかはまだ分からない。一度始めたのだから最後までやるのが道理だわ」
「それは残念」
良い雰囲気を見て、この際だからうやむやに出来ないかとシナが説得するが、残念ながらエレナリーゼがそれを受け入れることはない。
この話が出て傍観に徹していたマサキは少しばかり前のめりになるが、断られた途端に普段の五割り増しで瞳を濁す。
この残念は果たして誰に向けた言葉であるのか。
「ところでエレちゃん、体は大丈夫?日を跨ぐのはダメだけど休憩なら取れるよ」
「少し違和感があるけど問題無いわ。それに、これも最初に言ってたハンデの内よ」
オストの一撃は必殺の威力を誇っていた。
込められた魔力もさることながら、力のリミットを完全に無視、己の腕を破壊するほどの強化がされているのだから。
それが分かっているシナは、珍しく少し心配そうな顔で体調を伺う。
エレナリーゼはお腹を少し差する動作をするが大丈夫だと答える。
さらに、煽り文句のために言ったハンデの話をシナが思い出せば、苦笑して「それもそうだね」と同意する。
「次の対戦相手は?そこの魔力がすごく大きなアナタ?それとも一番強そうな前髪が長い人?」
「違う違う。ボクの隣にいるこの子」
ポンと置かれるシナの手。
その下には不機嫌そうにする顔色の悪い青年、マサキの姿があった。
「え…冗談よね?その人後方支援担当じゃないの?」
「ハハハ、バリバリの戦闘員だよ?」
涼しげな表情か綺麗な微笑しかしていなかったエレナリーゼの顔が、この時ばかりは驚愕に染まる。
それは中々に珍しいことなのか、シナは悪戯が成功して笑う。
これは別にマサキのことを馬鹿にしている訳では無い。
事実、数値化した能力を出せばマサキの能力はこの中で一二を争う貧弱さをしている。
この世界ではある程度の強さと良い目があれば、パッと見でどのくらいの戦闘階級なのか予想することができる。
スキルや加護、称号の有無や能力の隠蔽などがあり正確なものはむずかしく過信は禁物だが、それでも一つの目安にはなる。
エレナリーゼの目算で見のこなしと魔力量を合算してみれば、この中で一番弱いのは彼だった。
余談ではあるが、マサキは人よりも魔力が外に出にくい体質のために、一般人に毛が生えた程度の魔力量と勘違いされることが多い。
「後方支援騎士もいるけど、それはそこの少し小さい男の子と大きい子だよ」
「嘘でしょ…」
話に上がった二人は、美人から凝視され居心地が悪そうに強張る。
しかし、エレナリーゼからしたらそんなこと気にしていられない。
シンイチは見た目通り近接には弱そうだが、魔力量には目を見張るものがある。
シュウタの方は見のこなし、魔力量共に高水準に見える。
対してマサキであるが、見のこなしはそこそこであるが魔力量は一般人。
なによりも、周りへの注意力がなさそうで覇気がない。
エレナリーゼの前評価は戦闘員としては騎士学校の学生と同じかそれ以下だ。
それに比べて二人は騎士見習い以上には見える。
しかし、それは大きな間違いだとシナは思っている。
「マサキくんって弱いふりするの得意だから仕方ないけど」
「いやいや、事実弱いですよ?」
「武術も魔術も一番うまいよ?」
「おーい、人の長所バラすのやめてくれません?」
「断言してあげるよ。エレちゃんにとっては一番相性の悪い相手だよ」
「ちょっとー?勝手にハードルと警戒心を上げないでもらえます?」
ニコニコとしてはいるが、そこには脅しの意味合いが込められている。
それでは足を掬われるぞ、と。
確信している様子のシナの言葉には重みがある。
その横でマサキが苦情を入れるが、誰にも取り合ってもらえない。
それを聞いたエレナリーゼであるが、その表情は微動だにしない真顔。
先程までの和やかな空気など無かったかのように、凍てつくとも思える闘気をたち登らせる。
「私にはとてもそうは思えないわ。お父様が直々にスカウトしてきたのだから、非凡なのは分かるけれど基礎能力が低いのは致命的よ」
「そうだね。でも、キミ達くらいの差ならひっくり返らないこともないよ」
「いいえ。そんなことは無いわ。なんのために戦闘階級なんてものが普及しているのよ。下の人は上には勝てないのは常識だわ」
「なくは無いよ?」
ヒリツク圧力。
側から見ればこの二人が親子だとは思えない空気だ。
なぜこの親は娘をここまで煽るのだろうか。
サディストだということは周知の事実だが、それを娘にまでしているのだろうか。
なんにしろ、やめてほしいと全員が思う。
エレナリーゼは埒が開かないと思うと、漏れ出ていた闘気を霧散させる。
「詭弁ね。これ以上は無駄な話。早く続きを始めましょ」
「そうだね。じゃあマサキくん、頑張ってね」
「え、ここで俺に投げられるの?」
エレナリーゼはさっさとグラウンドの中央へと歩き出しす。
最後にシナから肩を叩かれたマサキは、流石にあんまりな状況ではと理不尽に思うのだった。




