3章 プロローグ
お久しぶりです。
また大体3日くらいの間隔で投稿を再開します。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。
「やってられるか!」
とある森林地帯にて、一人の男性が怒りを発露する様に地面を踏みつける。
辺りは悲惨たる状況であり、生い茂っていた森の木々がなぎ倒されて禿げ上がっていた。
グチャグチャとなった多くの魔物。
負傷したアレクレア共和国の騎士が横たわっていたりと、散々な状況である。
比較的無事であった騎士の男は怒声をあげながら、周りの魔物の中でも一際大きな死骸を睨みつける。
厳密に言えば、その魔物の近くに居る青髪の少女を。
大人びた見た目に儚げな雰囲気を醸し出すその少女は、立っているだけで人を惹きつける魅力を持っていた。
しかし、この惨状を引き起こした張本人となれば話は別だ。
「お前、元騎士団長様の推薦だか何だか知らないが、勝手な行動を取るのもいい加減にしろ!」
「魔物は依頼のあった村の直ぐそこまで来ていたこよ。貴方の作戦じゃ、村人に被害が出てもおかしくない状況だったわ」
「だが、お前の独断行動で騎士に重傷者が三人も出ているんだぞ!それに、避難誘導をすれば村人に被害など出なかった!」
「避難誘導をするにも時間がかかるわ。迅速に行動できていなければ騎士だけでなく、村人にも被害が出ていた可能性もあったわよ」
「だが、それを判断するのは隊長である俺だ!」
アレクレア共和国の隣国であり同盟国でもあるクレメリア王国、その辺境にある村からの依頼が今回の彼ら彼女らに課せられた任務であった。
トロールと呼ばれる大型の魔物の上位種の姿を見かけたとのことで、その調査が任務内容であった。
しかし、現地にやってくればバンデッド・トロールと呼ばれる危険度の高い上位個体が確認できた。
それどころか、その上位種を元に徒党を組み、村に向かっている直前であった。
「私は納得のできる命令でなければ従う気はないわ。私達は最強であり誇り高きアレクレア騎士団の騎士よ。失敗は許されない」
「何が失敗は許されない、だ。こんな半壊のような状態では失敗と変わらんだろ!」
「任務内容は魔物の調査及び、住民への危険度の高く討伐が可能な場合は討伐することよ。あのバンデッド・トロールを倒せる私が速やかに討伐するのが最善よ」
「それは認めるがそれは単騎だった場合だ!あれは手下を多数引き連れていたんだぞ。通常のトロールでも中級の魔物に分類される。その群れを新設の俺の部隊で相手をするのは難しい」
「騎士の使命は命に変えても弱き者たちを守ることよ。私達はその者達のおかげで生活ができ、命を賭けることを是として騎士になった。貴方達の覚悟が足らないのでは?」
「この狂人がッ…このことは上に報告させてもらうからな!この任務が終わり次第お前には除隊してもらう!」
話が通じないと分かった隊長を名乗る男は、歯を食いしばり怒りを押さえつければ、吐き捨てる様にその場を後にする。
残された少女は、その場でため息をつくとその背中を見送ることもなくバンデッド・トロールであった物を解体する。
アレクレアの騎士も、冒険者の様に討伐を証明する物を回収することを推奨しているからだ。
とは言っても、やむを得ない事情や依頼主の意向によって難しいこともあるので、冒険者とは違い絶対では無い。
大技を使い討伐したその死体は原型をとどめていない。
少女は苦労を強いて先ほどのことも重なりイラつきを増長させる。
そもそも、少女自体が新設の新人ばかりで構成される小隊に配属されることがおかしいと、心の中で不満に思っていた。
一応、小隊の全員が新人という訳ではないが、かと言って玄人がいる訳でもなく、隊長を今回初めて務める人だった。
本当に見習い騎士から昇格したばかりの騎士達を適当に寄せ集めた様な、主に雑務を任せる為に作られた小隊。
それは、騎士団長の両親を持ち、騎士学校で歴代最高の成績を叩き出した神童たる少女からすれば、コネを抜きにしたとは言えおかしな話だと思っていた。
しかし、他の騎士と変わらずのスタートと思えばこれも仕方がないことと、一応は納得することもできる。
見習い騎士の期間が殆どなかっただけでも優遇されてる方だとも理解していたからだ。
だが、蓋を開けて新しい小隊の一員として活動してみれば、中々に酷いものだと心の中で呆れたものだ。
自分と同じ時期に騎士になった者達は、自分よりも年上なのにも関わらず実力は低く判断も悪い。
それはまだいい。
新人騎士だから仕方がないと思えた。
問題は新人ではない騎士達の方であった。
戦闘能力は少女以下であるどころか、新人騎士に毛が生えた程度の能力であった。
隊長にしても、周りに比べれば優秀ではあったがそれでも少女とは比べるまでもなかった。
(なんで、そんなヤツらだけで隊をくませるのよ)
一瞬、父親が課した陰謀かと勘ぐりもしたが、あの親がこの様な形で陰湿な手段を取るのは考えにくい。
やるならば、間違いなく力づくで力の差を思い知らされ、心を物理的に折にくるだろう。
実際、過去に二度もされている。
ならば、これが雑用を任される小隊の練度かと思えば、その程度の低さに怒りやら呆れやら、一纏めにするなら不快が適切だ。
少女とて別に実力や練度の不足を悪だと断じるほど、独善的な思想を持っている訳ではない。
ただ、大陸最強と名高いアレクレア騎士団の一員としては、相応しくないと思わずにはいられないだけだ。
何のための見習い騎士か。
何のための士官学校か。
学び、力をつける機会などこの国であれば幾らでもあるのだ。
そう考えれば、少女から見てこの小隊の面々は意識が低すぎると言わざるを得ないだけだ。
やっとの思いで魔物から証明に必要な部位と魔石を剥ぎ取り終えれば、さした疲労もないのに溜息が漏れる。
(私はこんなところで足踏みなんてしてられない)
少しナーバスな気持ちになりかけるが、自分の目標を思い出せばそんな思いは遥か彼方。
今なお国の英雄として崇められる母親に、決して褒められることはないが他を寄せ付けない偉業を幾つも残す父親を超える騎士団長になる。
誰が何と言おうと、苦難が待ち受けようと成し遂げると誓った使命とも言える目標。
少女、エレナリーゼ・アルマークスはいつもの涼しげな表情とは裏腹に、心の中で闘志をたぎらせる。
では、何をするべきなのかと考えれば、隊長の先程の発言を思い出し冷や水をかけらた気分になる。
(そういえば、除隊されるんだったわね。まぁいいわ。次はもう少しまともな隊に配属されるといいんだけど…)
隊長からの除隊は決して良いことではなく、当たり前なことではあるがマイナスポイントなのだが、エレナリーゼとしてもこの隊でこれからもやっていきたいとは思えない。
これを好機だと無理やり良い方向に考えれば、少しだけ気分が晴れる。
だが、父親から小言をもらうのは確定したのでやはりマイナスの方が大きい。
父親はエレナリーゼが騎士になるのは反対なのだ。
明確に辞めなさいと言われている訳ではないが、騎士の話になれば小言が多いので快く思っていないのに間違いはない。
それでも、淡白ながら騎士になることを止められないだけ感謝はしている。
とは言え、小言をもらいたいから貰いたくないかなら間違いなく貰いたくない。
父親の小言は精神を間違いなく削るのだから。
(ダメね。これ以上このことを考えると気が滅入ってしまうわ)
どんな時においても負の気持ちというのは、判断も鈍くなり、考えるも凝り固まり良い方向に働くことは一つもないのだ。
ならば、次に同じ隊になるであろう人達のことを考える。
今度は自分よりも能力が低くても、この隊の者達よりはマシな人と一緒になれるようにと。
エレナリーゼは仲間達の遠巻きに見る目など気にせずに、依頼を受けた近隣の村へと足を進めた。




