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社会不適合者達による成り上がり英雄譚  作者: 鳩理 遊次
二章 貧乏鍛治師と始まりの出会い
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2章 69話 シナvsハーヴィス

「オスト!大丈夫なの!?」


「メル…?」


ぼやける視界のせいで、その姿ははっきりとしない。

しかし、確かに聞き覚えのある声にオストは掠れる声でその人物の名を呼ぶ。

命を賭けてまで助けたかった幼馴染。

声だけでも聞こえると、何かが込み上げてくると心の底から良かったと思う。

瓦礫の山を蹴る音が次第に近づいてくると、再びオストの名が呼ばれる。


「こんなになって…馬鹿じゃないの!?」


「すまん…」


再会して早々に怒鳴られるが、今はその態度が何よりも嬉しい。

ぱっと見何かされた形跡は無く、目を吊り上げながら心配そうにしながら怒っていた。


「何がおかしいの!ほんっとに貴方はっ!」


いつもの幼馴染の姿に小さく笑い、更にメルの怒りに油を注ぐ。

その無事な姿に心の底から良かったと思い、ここまで頑張った甲斐があった。

怒りながらも手の施しようのない傷を前にメルは、どこから手をつけたものかと悩む。

どうしようかと困り果ていると、オストにビチャビチャと謎の液体がかけられる。


「お熱いねぇ。あ、それ治癒のポーションね。それにしてもハハ、中々に眼福だねー」


「うるさい…」


シナは中身の無くなった瓶を放り投げると、揶揄う様に二人の様子を見る。

茶化されて少し恥ずかしい思いをしたオストは、照れを隠す様に悪態をつくも小さな笑いは治らない。


「ハハハ、おじさんの数少ない楽しみだからね。やることはやったから許してよ」


「そうだな、メルを助けてくれてありがとう」


「私からも、ありがとうございます」


バツの悪そうな顔から一転。

うつ伏せながらもオストは真剣な表情をすると、簡素ながらも心の底からの感謝を伝える。

メルも続く様に姿勢を正すと頭を深く下げる。


「気にしなくていいよ…とは言わないけど、約束だからね。ボクはしっかり守っただけだよ」


落ち着いた雰囲気で答えるシナ。

ニコニコしているのに変わりは無いのだが、鬱陶しい高いテンションがなりを顰めているその姿は、同じ人間でありながら大きく印象が違っていた。

胡散臭さがあった笑みはなりを顰め、優しげに二人を見て笑う。


「ガァぁァァァァアァア!!!」


獣の雄叫びと共に弾け飛ぶ瓦礫。

猛スピードで迫るハーヴィスは、目を血走らせて敵を呪い殺さんと恨みを振り撒く。


「さて、ボクは邪魔者みたいだし後は任せて」


「コロスコロスゴロスゴロスゴロズッ!!」


「じゃ、邪魔者同士あっちに行こうか」


銀剣に纏わりつく風は全てを切り刻まんとする。

しかし、シナはそれを前にしても慌てることなく、腹を抉る様な蹴りを入れる。

くの字に曲がるハーヴィスは、瓦礫を巻き上げながら転がるもどうにか立ち上がるが、追撃の蹴りが顔を捉える。

転がっては蹴られ、転がっては蹴られ。

メルに体勢を起こしてもらったオストはその光景を見て、圧倒的すぎる戦闘に唖然とする。

自分が絶対に勝てないと思えた絶望的な相手は、シナにとっては革命派の雑兵と変わらず足だけで圧倒できてしまうと言う事実に。

ハーヴィスは決して弱く無い。

騎士隊長だったラフスですらリキシア王国では強者とされており、それを間違いなく超える彼が弱い訳が無いのだ。

相手が悪かったとしか言えない。

球遊びと変わらぬ様相は、とてもでは無いが戦いと言える物ではなかった。

またも蹴られ、今度は建物に突き刺さるハーヴィス。

瓦礫の中から姿を見せるが体を庇う様に傾けさせており、大きなダメージを負っていることが見受けられる。

しかしながら、体の傷と反比例させて目は敵を殺さんと怒りを燃え上がらせる。

周囲にかかる圧が一段階上がると、強力な魔法を使うべく魔力を高める。


『暴風の刃よ、我が体に纏て、全てを切り刻め!!』


ここに来て初めての詠唱。

今まで詠唱を短縮していたことから、それ間違いなく強力な魔法だということが分かる。

それを前にシナは特に動く事もなく、楽し気にその魔法を観察する。

態度が気に食わないハーヴィスは、さらに顔を歪ませると最後の詠唱を言い切る。


『斬風の鎧!!』


「オリジナルか…」


固有魔法とも呼ばれるそれは、個人が複数の魔法を掛け合わせて改造されたオリジナルな魔法。

魔法の開発と言うのは超高難易度の技術であり、効果はそれに見合った強力な物が大半である。

ハーヴィスの体から魔力が風の様に噴き出ると、近くにある廃材が細かく刻まれる。


「少し期待はずれかな?」


細かくなった廃材を見て、防御に特化した物かと考察すると表示は変わらずとも声から落胆が見え隠れする。

それを聞いていたかはさて置き、ハーヴィスが怒りの形相で間合いを詰める。


「お?」


想像以上に速い動き。

少し驚いた声を出して、シナは初めて遅れて後ろに下がる。

だが、逃すかとハーヴィスはさらに速度を上げて、敵をミンチにすべく銀剣が振るわれる。

シナは余裕を持って回避するが、頬に風の刃が掠める。

超高難易度とされる固有魔法なだけあり、刃の鎧だけでなく能力の向上に攻撃の追加効果など、一つの魔法とは思えない破格の能力。

流石に認識を改めるが、それでも表情に変化が出ることは無い。

攻撃が一振りで終わる事もなく、ハーヴィスはそのまま削りきると超速での剣戟を見舞う。

シナは全ての攻撃を避けるが、周りは粉微塵に切り刻まれて服も切り傷が着実に増えて行く。

常人の目では捉えるのも難しい高速のやり取り。

オストも例外ではなく、メルと二人して戦闘があるであろう砂煙の起こる場所を見つめることしか出来ない。


「結構強くなったね。けど…」


剣戟は荒れ狂う嵐になりて、敵を切り刻もうとする。

その真っ只中でも微笑みが途絶えることはない。

未だ崩れぬ笑みに、ハーヴィスの怒りは止まることを知らずに剣を振るう。


「そこそこかな?」


独り言のように呟かれたその言葉は、理性を吹き飛ばす。

銀剣の握り手を強く握り、上がった血が目を赤く染め上げる。


「ダレガソコソコダァアッ!!」


感情に任せた大振りは、当然のごとくあたる事もなく暴風を荒れ狂わせるだけに終わる。

だが、何も全て感情だけの行動ではない。

ハーヴィスは改めて魔力をかき集めると、シナの方ではない別の場所に向き直る。

その先にいるのは動く事も困難なオスト達だ。

微かに残る理性が、技を確実に当てるために導き出した最善の作戦。

二人を見捨てられないシナは当然間に入るが、焦ったそぶりはひとつもない。

その態度一つ一つが、ハーヴィスの行動を否定されている錯覚に陥る。


『ゲイル・スラッシュゥ!!!』


感情に任せた魔力操作は、『斬風の鎧』の相乗効果も相まって前のものとは完全な別物へと変貌していた。

うねり狂う暴風の刃は全てを塵に変え、街の一角など軽く消滅させる威力を内包していることが簡単に予想できた。

ハーヴィスが繰り出す最大最強の攻撃魔法。


「守るのはあんまり得意じゃ無いんだけどなぁ」


それを前にして、流石に縛りを課した状態では分が悪いと悟ったシナは、この戦いで初めて魔法を行使する。


『空に落ちよ』


軽く放たれた魔言は目の前の現象に下された命令を実行する。

おかしな挙動で浮かび上がる瓦礫達。

より正確に言えば、浮かび上がるにつれて速度を増していた。

それはまるで空に向かって落ちていく様にも見え、暴風の刃も例に漏れなかった。

一切合切を破壊し尽くす一撃は、唐突に進行方向を上空に変えて突き進む。


「ハァッ…!??」


訳の分からないその光景に、ハーヴィスの意識は理解を拒む。

呆然と最強の魔法を見つめ、隙だらけな姿にシナはトドメを刺すべく音もなく動く。

トンっ…

靴音が鳴ったと思うと目の前にいたシナの姿が掻き消え、ハーヴィスは突然のことながら全体を見渡す。

シナは一瞬で横に姿を表して手を伸ばす。

トンっ…

今度は肩を軽く打つ音が鳴ると、次の瞬間には何が起きたのかも理解する間も無く四つん這いになる。


「ッァ!?アガッァ!!?」


理解及ばずに困惑するハーヴィス。

最後の仕上げとばかりにシナが足を振り上げると…

ハーヴィスは腹に爆撃でも受けたのかと思う音と衝撃を受け、体を折り曲げて全てを吐き散らかしながら天高く打ち上げられる。

シナは高く打ち上げた物を見る事もなく、用は済んだとオスト達の方へ歩き始める。

一連のやり取りを見ていたオストは言葉にもならなかった。

圧倒的ですら生温い一方的な戦い。

これがそこらへんの革命派であれば、驚きはすれど受け入れることが出来た。

しかし、二度目ではあるが相手は国によっては英雄とすら称えられる超越級のハーヴィスだ。

それはつまり、超越級だと思われていたシナの戦闘階級はそれよりも上…

本当の最強、英雄級なのだと。

そこまでオストは考察するが、あまりにも現実離れしすぎていてそれ以上の考えは出ない。

ボロボロになった服をパタパタと叩きながら歩く様は、今まで強敵と戦っていたとはまるで思えない。

いや、彼にとっては強敵では無く、そこら辺にいる雑兵と代わりがないのだろう。

事実、シナは己に課していたハンデである『革命派には足だけで戦う』を未だに実行しているのだから。

それに気がつかないオストは幸運なのかもしれない。


「おまたせ、待った?」


出会った時と同じ、軽薄な明るい声音。

今までの落ち着きのある安心できる雰囲気はどこえやら。

そこにいるのはいつものシナであった。

驚きは無くらなず、聞きたい事もたくさんあるのだがそれ以上にその態度に安心する。

シナの軽い物言いはオストの苦手とするものだが、この時ばかりはつい笑いが込み上げてしまう。


「いや、早いくらいだ」


「そっか、それは良かった」


長く感じる激動の日々。

たかが三日程の戦いであったが、それくらいに感じる事件の終わりが見えてきた。

辛い事も受け入れきれないことも多くあり、オストとしては一生忘れられないものになるだろうが、それでも今は笑おうと。

そう思い勝利を喜ぼうとしたところなのだが、突然何かが大きな音を立てて落ちる。

そちらに振り向けば、ハーヴィスが呼吸ができずに唸り声を上げて体を丸めていた。


「狙い通りだね」


「本当にふざけたやつだな、お前…」


「おーい、ソボックくん喋れる?」


「どう見ても無理だろ」


本人の口振りから遊びが混じっていたのは間違いないだろう。

オストは呆れるが、本人は気にする事なく落ちてきたハーヴィスに問いかける。

口から血を吐き出し、明らかに受け答えのできる状態では無かった。

そんなのは見れば分かりきっている事だが、シナにそんなことは関係ない。

腰に下げたポーチの中からポーションを取り出すと、ハーヴィスの口の中に流し込む。

すると、咳き込み始めると再び血を吐き出し始め、数分後には呼吸が戻り憎々しげに見上げていた。


「そろそろ喋れるよね?聞きたいことがあるんだけど…」


「いぃ…ブゥ…ロすゥ…!!」


「すごい反骨精神だね。キミ、クロフォード教団と取引したよね?大まかな取引内容は分かってるから、せめて教団の居場所くらい分からない?」


殺意を込めて睨まれ、一方的に負けた相手にする対応ではないと少し感心しながらも聞きたいことを聞くシナ。

しかし、ハーヴィスは完全なダンマリを決める。


「助けなら来ないよ?ここら辺に結界を張ったし隠蔽の魔法をかけてあるからね」


助かる道は無いと逃げ道を塞ぐも、顔をさらに歪めるだけで話す素振りは見せない。

シナはこれは困ったと、持ち帰って拷問も視野に入れなくてはとプランの一つを練り始めた時。


「『天軍』!僕を助けろッ!!」


突然、しゃがれた声で周りに響く声で叫び出すハーヴィス。

超人の喉から発せられる音は、鼓膜をビリビリと痺れさせる音量をほこり、おもわずオストは手で耳を塞ぐ。

耳がキィーンとしながらも、『天軍』という謎の発言について疑問を挟もうとすると、シナの表情がごっそりと抜け落ちていた。

急な変貌に声をかけようとするが、一瞬でハーヴィスの喉を鷲掴みにして持ち上げる。


「『天軍』がここに来てるのかな?ねぇ、答えてよ?」


肌をひりつかせる悪寒。

オストは今までに感じたことのない感覚に、肌が逆撫でられ、冷や汗が全身から噴き出す。

重量が何倍にもなったかのように思える圧迫感に、ハーヴィスの顔に初めておびえの色が浮かぶ。


「言うつもりが無いなら仕方ないね。怒られるからあんまり使いたく無いんだけど…」


シナは再び腰のポーチの中に手を入れ、目的のブツを探し始めた時だった。


「は…?」


威圧に当てられて固まっていたオストの目に、隣にいたはずのメルの姿が映し出される。

それだけならばまだいい。

何故、この圧迫感の中で動けるのか。

どうして、シナに飛び掛かっているのか。

どこから、その剣を取り出したのか。

思い浮かぶ疑問は尽きないが、オストは声を上げようにも動けない。

「メル!」と喉の寸前まで出かけた時、後ろに目をついていると思える反応でメルの振り下ろす剣を掴む。


「これはマズイ」


「良くやった」


メルの行動で全てを悟ったシナは、今後の展開に独り言をこぼす。

それに反応したわけでは無いが、相槌を打つかの如く第三者の声が聞こえる。

オストが今度はなんだと、疑問を抱くときにはシナはハーヴィスから手を離し、メルを遠くに吹き飛ばしていた。

次の瞬間にはシナはその場から消え、代わりに金と黒の豪奢な剣を持つ男と、長い白髪に仮面を付けた者がその場所に剣を振り下ろしていたのだった。

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