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社会不適合者達による成り上がり英雄譚  作者: 鳩理 遊次
二章 貧乏鍛治師と始まりの出会い
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2章 49話 下水道はいつでも危険が溢れているもの

「んっ…ここは?…」


「オストさん!」


「よぉ起きたかガキ」


目を開けた先に映るのは、トサカの様な奇抜な髪型の男とその仲間達。

いきなり飛び込んできた情報過多な光景に、これは悪夢の続きかと疑う。

しかし、隣からオストの名を呼ばれて振り返れば、先程知り合ったソボックが椅子に縛られていた。

どうしたんだと動こうとしたところ、ガタリと座っている椅子を鳴らすだけで動けずに終わる。

そうして、自身も縛られていることに気がつくと、トサカの男がニヤリと口を開く。


(なんだ、この状況)


全く持って理解できない。

視線だけで周りを見渡すも心当たりのある建物では無い。

だだっ広い空間に物が乱雑に積まれているところを見るに倉庫だと判断する。

次にオストは自身の記憶を探るも、こんな珍妙な男の知り合いはおろか、明らかに武装をした普通じゃ無い集団に覚えはない。

と言うことは、先程恫喝…ではなく道を聞いていたカツアゲ男の仲間かと考える。

報復で捕まえられたのかと疑うが、カツアゲ男の姿は見当たらない。

では、カツアゲ男を締め上げたのは無関係なのか?

冷静に状況整理をしていくと、最初に「なんかすげぇ頭だな」という感想を受けた男が口を開く。


「テメェに聞きてえことがある。まず何故この本を盗んだ。それと、お前らの目的とあのメガネ野郎はどこだ?」


「メガネ野郎?」


「テメェすっとぼけんじゃねぇぞ!」


トサカ男はオストのお腹に張り付く荷物袋を指差すと、凄みながら問いかける。

いや、荷物袋だろ。

何言ってんだと一瞬疑問に思うも、すぐに拾った本のことを言っていると理解する。

まさか、カツアゲのトラブルではなく、道角でぶつかった方がトラブルになるとは。

そっちかよ、と思いもよらないところからの問題に、少し驚きながらも意味の分からないことに内心首を傾ける。

しかも、目的の物を取り上げもしないでそのままに。

本は盗んでいないし、目的はスラれた金槌の魔導具探しだ。

他のにも、あのメガネ野郎と言われてもオストの中にピンとくる人物はいない。


「眼鏡をかけた奴なんていくらでもいるだろ。他の特徴を言ってくれ」


「テメェ、あくまでもシラを切るつもりか!?」


「ふむふむ、それはこんな感じの人ですか?」


どこからとも無く聞こえる男の声。

場違いにも程があるマイペースな声音は、誰から発せられたものか分からない。

トサカ男の後ろから聞こえた様な気がすると、周りの男達は糸が切れたかの様にドサドサ倒れていく。

そんな怪奇現象を前にオストとソボックは目を見開いて驚き、最後にトサカ男が倒れるとその後ろから一人の男が姿を表す。

商人のように身なりの良い格好に、腰に下げられた不釣り合いな布に巻かれた少し反った棒の様な武器。

黒髪を三つ編みにして束ねられ、赤い瞳に銀縁の眼鏡をかけた男はにこやかに「こんなもんかな?」と呟く。


「君たちもう大丈夫だよ、怪我はないかい?」


「お前は…」


急に現れた謎の男。

顔が整っているため、非常に絵になる登場に二人は唖然とする。

目まぐるしく移り変わる状況に、オストは全く理解が追いつかないが、その格好に覚えがある。

気がつけば手を縛る縄がはらりと解けているが、それを気にしないほどの衝撃に襲われていた。

その何かと話題に上がる男を前に、二の句が出せないでいると男は俯いて震える。


「ははは。いやー、人生で言ってみたいセリフトップ七を言えるなんてなぁ」


「「は?」」


なんだろう、物語の主人公みたいな登場しといて雰囲気をブチ壊しなやつは?

心の声を一致させたオストとソボックは、今度は別の意味で開いた口が塞がらない。

完全にフリーズする二人を置いていき、男の言葉は続く。


「いやー良かった良かった。わざわざ良いタイミングを見計らった甲斐があったよ。あっ僕はシナ・アルマークス、よろしくね」


「よろしくねじゃねぇ!お前のせいでこっちは捕まってんだよ!」


「まぁ、助けたんだし良いじゃん」


何ともふざけた道化師の様な男、シナの軽口にオストは有らん限りの不満をぶちまける。

助けてもらっといて怒鳴るのは如何なものだが、元の原因は間違いなく目の前にいるこの男だと言うこのは分かる。

逆に、関連性がない方が驚きだ。

怒るオストに、シナはまぁまぁまぁと気の抜ける様な笑みで宥めにかかる。

そこに、ソボックは控えめに手を挙げながらも「あのー、お取り込み中すみませんが」と二人に割り込むと、さらなる重大発言をする。


「シナさんがオストさんに膝蹴りを入れなければ、僕達捕まらなかったんじゃあ…」


「まぁまぁ、助けたんだし気にしない気にしない!」


「んな訳あるか!!」


「ちょっと!オストさん落ちついてください」


「と言うか、あれはお前かッ!」


完全なマッチポンプに、今なお痛む後頭部の借りも含めてオストの右腕が唸る。

とりあえずこいつを一発殴ろう。

そんな思いで放たれた拳は呆気なく空を切るも、オストは諦めずに次を放つ。

急な荒事勃発に、ソボックはアワアワとしながらも必死で止めに入る。


「まぁまぁまぁまぁ、落ち着いてよ。どうせこの本を持っていたキミはさ、遠かれ早かれ狙われたよ?」


「どういうことだ?」


狙われるとは一体どう言うことだ?

シナの口から聞かされる身に覚えのないことだが、確かにトサカ男に本のことも訊ねられていた。

この胡散臭い男のせいで捕らえられたのは事実だが、落とした人物は別で直接の関係はない。

つまり、この本を持っていたらどの道狙われていたということになる。

頭を使うと少し冷静さが戻り、考え及ばない様な複雑な思惑に思い至ると、一考の余地はあると判断する。

渋々ながら拳と怒りを一旦収めると、オストは座らせられていた椅子にどかりと座ると話を促す。

それを見たソボックは、ほっとした様に胸を撫で下ろすと同じ様に座る。


「話を聞いてくれて助かるよ〜。まず、この本なんだけど魔導書って呼ばれる本なんだ」


「え!?これ魔導書なんですか!」


「魔導書?なんだそれ魔道具の一種か?」


「そうそう」


本の正体を聞いた途端、ソボックは目を飛び出しそうなくらいにそれを凝視する。

しかし、その様な物を聞いたことのないオストは、その凄さがイマイチピンとこない。

分かることは、これが凄い魔導具と言うことだけだ。

魔導書とは、特殊な素材に魔法陣を刻むことにより、魔力を流せれば誰にでも魔法を使える様になるといった魔導具だ。

聞いただけであれば非常に便利で、もっとメジャーな魔導具として広く知られていてもおかしくはないのだが、オストはこれについて知らなかった。


「まぁ、ざっくり説明すると魔力を込めると魔法が使える感じの魔導具」


「結局、同じじゃねぇのかよ?」


「いやいや全然違うよ。魔道具は別に魔法が使えるようになるわけじゃなてさ、あくまで道具に追加機能を足すだけ。それに引き換え、この魔導書は魔法を誰でも使えるようになるんだよ。例えばこの魔導書に大魔法が記録されてたらそれが誰でも使えるようになる」


「そりゃ凄いな。だが、そんな凄いものがあまり目立たないってのは変じゃないか?」


そんなものがあれば一般人でも魔導師になれる。

その有用性に少しでも気が付けたオストは、当たり前の疑問に行き着く。


「そりゃ、この魔導書自体が凄く貴重で数が少ないからね。それに、魔導書に記録されてる魔法は大概強力だから、元々魔法技術が低いこの国じゃあまり有名じゃないしね」


シナが言うように、魔導書は制作コストの問題で量産が困難を極める上に、魔導書を作れる人間が非常に少ない。

さらに、もう一つの理由として魔導書はかなり重要度の高い軍事兵器として扱われており、殆どが国々が所有しているために一般に出回ることはない。

普通であれば見かけることはおろか、存在を知ることもまず無い。

ここまで説明されれば、オストでも狙われる様になる理由くらいは理解できた。


「つまり、俺は面倒な物を拾ったって訳だな。それは分かったが、あいつらは何者だ?」


己の預かり知らぬ場所で起きている騒動。

急に巻き込まれだオストは、早急にこのことについて把握する必要がある。

そのために、目の前の頭はおかしそうだが友好的であり、このことに多少でも詳しいだろうシナに訪ねる。


「リキシア反王国軍。革命派って言ったほうが分かりやすいかな」


「革命派ですって!?」


「厄介なのに巻き込まれたな…」


オストが苦虫を噛み潰したような顔をするのも仕方がない。

ちょっとした組織かと予想していたが、思ってもみないビッグネームが出てきたものだ。

その規模の大きさは、ソボックが驚いていることからも分かる通り、この国最大規模を誇る巨大組織だ。

起源は遡ることアレクレア共和国との戦争後。

上層部の横暴に反旗を翻した当時の王弟を筆頭に、一部の騎士と地方貴族が反乱を起こしたのがきっかけだ。

この反乱自体は失敗に終わり首脳陣は全員処刑されたが、運良く生き延びた者達もいた。

その者達が再集結し、作り上げたのが今話題に出たリキシア反王国軍。

通称、革命派だ。

その勢力は二十年近くに渡り存続したことから、当時とは比べ物にならないほど。

今では、国内で国に属していない組織の最大勢力の一つだ。


「ど、どうしましょうオストさん!このままだと僕達危ないんじゃ…それ何ですか?」


「それ?」


とんでもない組織に目をつけられたと分かると、ソボックは顔を青くしてオストに頼ろうとするが言葉が詰まる。

そして、オストのお腹を指差して不思議そうに聞いてくる。

指を辿って腹部に視線を下げると、荷物袋が膝の上からこぼれ落ちかけているにも関わらず、何かが引っ付く様にそれを阻止していた。


「何だこれ」


言われて初めて気がつくと、不思議なことになっている荷物袋を取ろうとするが、やはり何かが中からオストに張り付いている。

引き離そうとするも、全く取れる気配は無い。

完全に一心同体、意地でも離れないと言う気迫すら感じる。


「オストさん!呪われたんじゃわないですか!?」


「なっ、呪い!?ど、どうすればいいんだ…」


「それ魔導書の機能だね」


「魔導書の?」


ソボックはそれを見て呪いと勘違いし出し、オストもつられる様に顔を青くする。

そんな様を見てシナはクスクスと笑うと、それが魔導書による物なと言う。

そう言われて、オストは荷物袋の中から魔導書を取り出すと、今までの抵抗が嘘の様に荷物袋は足の上からずり落ちる。


「魔導書の中でもとりわけ強力なやつには稀に付いてるんだよ。主に盗み防止だね」


「脅かすなよ…」


「そうなんですか、良かったです…」


何とも傍迷惑な機能だ。

呪いではないと分かると二人は胸を撫で下ろす。

それを見ていたシナは、「大袈裟だなぁ」と小馬鹿にした様に笑うが、途中で「ん?」と挙動が切り替わる。


「どうした?」


「いや、なんか人がこっちに来てるんだよ。この人数だと革命派かな?」


「はい?何を言ってるんですか」


急にそんなことを言われてもソボックには、何のことを言っているのかが分からない。

見渡しても革命派は全員気絶しており、オストも不思議そうに眉を寄せるだけだった。

しかし、先程の手際を見るにシナは戦闘に長けていることは分かっているので、一先ず地面に耳をつける。

床の冷たさを感じ取ると、次に微かに響く足音の様な物を感じ取る。


「いや、確かに足音がする。この感じ結構いるぞ」


「本当ですか!?早く逃げないと!」


「そうだが、ここ倉庫だぞ。逃げ場なんて…」


「あるよ?」


そうは言うが、窓には鉄格子が嵌め込まれており見渡す限りは正面の入り口のみ。

一体そんなものはどこにあるのかと思っていると、シナは腰掛けていた荷物の上から立ち上がる。

そこから少し歩くと、少し大きめの木箱の目の前に立ち止まる。

次に木箱の上縁に手をかけるて、蓋を開けるとその中は空洞になっていた。


「こういう時のあるある。隠し通路様あると相場が決まってるんだよ」


オストとソボックは近づいて中を覗き込んでみると、梯子がかかっており地面を突き破って地下まで続いていた。

マジかと思い、シナの顔を見てみると親指を立ててドヤ顔を決め込んでいた。

見なければよかったと、こめかみに青筋が浮かびそうになるが呼吸一つで抑え込む。


「どこに繋がってるのか分かるのか?」


「下水道だよ。ボクはここから入って来たし、外の出方は分かるよ」


冷静さを直ぐに取り戻すと、オストは念のための確認をする。

もし、この先も分からずに進んだ挙句、敵陣のど真ん中でしたなんてオチになれば笑い話にもならない。

シナから繋がっている先を聞けば、問題ないなと不安が解消される。

そんな段取りを行なっていると、ドアの方からガシガシと音がする。


『なんだ?あかねぇぞ?おーい、開けろ!』


「不味いですよ!早く逃げないと、もうすぐそこまできですよ!」


「ソボックは先に降りてくれ」


「それじゃ、先導はボクがやるよ」


そう言うと、シナは次の瞬梯子も使わずに穴の中に飛び込んでいく。

オストは呆気に取られ、ソボックはえ!?と声を出して驚く。

下から「早くおいでよー」と声がすると、ソボックは急いで梯子を降りていき、オストは蓋を閉めてから後に続いた。


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