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社会不適合者達による成り上がり英雄譚  作者: 鳩理 遊次
二章 貧乏鍛治師と始まりの出会い
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2章 48話 厄とはいつも唐突にやってくる

っぱ、そう簡単には見つからないか」


ラフスの尻拭いのためにやって来た裏商店街。

スラムにある商店街ということもあり、露店などは無く人も殆ど居ない。

一見したら商店街でもなんでも無いのだが、スラムで店が密集している為にそう呼ばれているだけだ。

規模も普通の商店街と比べれば雲泥の差だが、まともな買い物が出来るのはここと後数箇所くらいなために、地元民には重宝されている。

オストもたまに利用しに来ており、一先ずは顔見知りの店をいくつか回った結果全てスカ。

金槌を探しに来たのだが、手がかりすらつかめずにいた。

これに関してはまぁ仕方がないと言う部分もあるので、そこまで悲観はしていないが。

と言うのも、裏商店街で信憑性のある情報を集めようとしたら必ずお金がかかり結構な額になってしまう。

そのために、雑談なんかで情報収集するしかなく、他は闇市の商品カタログなどで似た様なものを探すしか手はない。

この国では魔道具は少なく、貴重であり闇市に出回るのは珍しいため最初は案外楽に見つかるかもと思ったが、それはオストの希望的観測でしかなかったようだ。

能天気な考え過ぎたなと苦笑してたそのとき。


「返せーっ!」


近くから緊迫した様子の声が響き渡る。

声の内容だとスリの類だろうか。

この辺りではよくあることだ。

取られる奴が悪いというのはスラムの常識。

食うか食われるかの弱肉強食の世界では、やられる方が悪いと頭では分かっている。

しかし、オストの中にある良心はそれを見逃すことが出来ずに、気がついた時には体が動いていた。

ラフスやメルからは、トラブルには絶対に首を突っ込むなと口うるさく言われているために、やってしまったと少し後悔するが止まらない。

少し走れば、すぐに緑髪の青年とスラムのゴロツキと思われる男が揉み合っていた。

どうやらスリでは無くカツアゲだったが、オストは行動を変えることなく突き進む。

だが、間に合う前にゴロツキはナイフの様なものを取り出すと高く振り上げる。


「そこのゴロツキ、やめろ!」


間に合わない。

そう判断すると、怒鳴り声を上げて注意を引くと同時に、オストは腰から剣を切り上げる様に抜き放つ。

すると、剣の跡を追う様に炎の斬撃が飛び出す。

それを見ていた男は、焦って緑髪の青年を押し退けて逃げようとするが、逃げる速度よりも炎の方が早い。


「うあぁぁ、アッツ!あちぃ!」


炎の斬撃は見た目ほどの威力は無く、男に当たると服に引火して燃えるだけだった。

しかし、男にとってはそれだけでも十分な威力であり、そのまま地面を転がる。

カツアゲにあっていた青年も状況も分からずに呆けるが、オストは気にせずにスられた物であろう袋を拾い上げる。


「よっと、ほらよお前の荷物はこれか?」


「あ…はいそうですっ!ありがとうございます!あの良ければお名前を聞いてもいいですか…」


オストが話しかけると、青年はびくりと動くとやっと電源がついたかの様に動き出す。

物を受け取るとペコリと礼をし、オストに名前を尋ねる。


「オストだ。お前は?」


「ソボックといいます。助けていただきありがとうございます!」


「見たところここら辺の者じゃないよな?お前みたいなやつが来るとこじゃないぞここは」


ソボックの身なりは上等な服に整えられた髪。

どう見てもスラムの人間じゃないその格好は、頼りなさそうな雰囲気も相まって非常に心配になる。


「あなたこそ、魔剣を持っているじゃないですか。スラムの人が持ってるのは可笑しいですし…もしかして、お忍びの騎士様ですか?」


「んなわけあるか。この魔剣は俺が作ったものだし、少し火が出るだけで大したものじゃないぞ」


「それじゃあなんでここに?」


まさかの返しに、非常に困ったことになったと頭を抱えたくなる。

ソボックの言う通り、スラムの人間が魔導具を持つのはかなり難しい。

それが変な勘ぐりに繋がった訳だが、そのことについて詳しく説明する義理はない。

一先ず、違うと否定を一つ一つ入れていくと、それで納得のいかないソボックはさらに探りを入れる。


「ちょっと野暮用でな。助けたのはそのついでだ」


「はぁ、分かりました。何はともあれありがとうございます」


「あぁ。気にするな」


オストは少し面倒になって雑に返答すると、ソボックも仕方ないですから諦めますかと。

そう顔に表しながらも一旦引くことにする。

誤解は解けていないが、ここで何を言っても解ける話術は持ち合わせていないのでひとまず置いておく。

それよりも今は…


「おい、お前」


ビクッ…!

オストが鋭い声を放った先には、いつの間にか火を消し終えてその場を離れようとする男の姿が。

バレたのならさっさと逃げようと、上体を上げて走り出そうとするが、オストは背中を踏みつけて蹴り倒す。

仰向けにビタンと男が倒れ込むと、そのまま足を押しつけて動けない様にする。


「少し聞きたいことがあるんだが、黒髪を三つ編みにした眼鏡をかけた男を知らないか?」


「ひぃぃっ、知らねぇ!」


「じゃあ金槌の魔導具を知らないか?あれがないと本当に困るんだ…見つかんなかったら俺があいつにぐちぐち説教されてさらに…」


今回もハズレか。

せめて、トラブルを解決したのだから少しの見返りがあってもいいのでは?との思いで聞いたのだが、やはりただのスリが情報を持ってる訳もなく。

このまま見つけられないことを考えると、メガティブな考えがオストの口からポロポロと。

急な様変わりに、コイツはヤベェと男は危機感を覚える。

他人から見たら情緒不安定な男であるから、当たり前な反応でもある。


「それならさっき売ろうとしている奴がいた!聞き耳を立ててだけだから、そいつを見た訳じゃねぇが確かにいたハズだ!」


それが良かったのかは不明だが、思いもよらない場所から情報が出てくる。

一瞬聞き間違いかと思いもしたが、何度脳内再生しても聞こえる情報。


「本当か!?どこだ!どこにいる!?」


「ちょっっと、ま、待って!息がっ…」


「オストさん落ち着いてください、その人気絶しかけてます」


ここで手がかりを逃してたまるかと、つい足に力が入ってしまう。

興奮して気にする余裕が無いオストは、男がぐぇぇと踏み潰されて息も途絶え途絶えになるも気がつかない。

その為に、男の様子がおかしくなってようやく、慌ててソボックが助けに入ることになる。

背中が折れる覚悟までした男は、やっと解放されると息をめいいっぱい吸い込む。


「今の話は本当だろうな」


「ああ、本当だ…朝ごろこの先の質屋にいたぜ」


「分かった。なら、さっさとっ…」


なら次は道案内を。

そうオストが男に命令しようとした時。


ゴスッ!!


意識外からの謎の衝撃。

頭に突き刺さるは空中から降ってきた別の男の膝。

頭から鈍い音を立てると共に、「ぬぅっわぁ」などと間の抜けた声が発せられる。

オストはそれを最後に聞いて意識を落とすと同時に、地面へと倒れ込む。


「うおっと!?」


「あぁぁっオストさぁぁぁん!?大丈夫ですか!?しっかりしてください!」


目の前で起きる超常現象とも呼べる光景は、ソボックの常識と言う名のキャパシティを破壊する。

全く理解のできない状況に、一先ず倒れ込んでピクリとも動かないオストの安否を確認する。

状態を仰向けにしてみると、額を切ったのかツーっと血が流れる。

ヒッ…!?死んでいる!?と慌てかけるも息をしていることを確認すると、問題なくしていたので一安心する。


「あー、ごめん。大丈夫?」


今までに聞いたことのない第三者の声。

ソボックが振り返るとそこには、上からオストの後頭部に膝蹴りを食らわした張本人が、困った様に笑いながら心配していた。


「呼吸はしているので生きていますが…」


「まぁ、死んでないし大丈夫かな」


「頭から出血していて意識が無いのに大丈夫なわけないじゃないですか!」


今の心配はどこえやら。

すぐにケロっと表情が変わると、まぁいいかと膝蹴りを食らわせた男は気にしていない様に言う。

いきなり現れ、膝蹴り頭部にクリーンヒットさせた末に、血を流して倒れたオストを見てなにを思ったのか大丈夫と判断したのか。

その思考回路にソボックは疑問しか湧かない。


「あ〜、そうなの?」


「いや普通そうですよ!ってオストさんしっかりしてください!」


「そうだぞ〜、そのまま寝てたら死ぬぞ〜」


その態度は変わらず、オストに気の抜けるような声かけをする男。

というか、この人は自分がやらかしたと言うことの自覚があるのだろうか?

そう思わずにはいられないソボックは、つい怒声を上げる。


「貴方のせいなんですからもう少し真面目にしてください!」


「え?僕のせい?ここらへんでボケっとしてるのが悪いでしょ?」


「いや頭に膝蹴りなんて普通悪意がなければ当たりませんから。あなたふざけてるのですか!?」


「いやぁ〜よく言われるよ〜、まぁそんなことはともかく普通に大丈夫だよ」


「いや大丈夫ってこんなに…」


いっそ詫びれもない男は問題ないの一点張りだが、どこからどう見ても問題しかない。

そもそも、ボケっとも何も普通人は空から降って来ないし、地面に降りようとする時に膝から飛び込みはしない。

編み込んだ黒髪を弄ぶ男に、ソボックは頭痛を堪えるように無視をしようと決める。

そうして、看病を始めようとすると…


「いたぞぉお、ヤツの仲間も一緒だぁぁぁぁあ」


「捕らえろぉぉお」


どこからともなく響く野太い声。

それも一人ではなく複数人の声と足音が、ドタドタとものすごい速さで近づく。

今度はなんだ!?とソボックが振り返ると、ただでさえ悪い人相をした男達が顔を凶悪に歪めて走っていた。


「やべっ、キミ達も急いで逃げないと大変だよっ」

「え!?ちょっと!?」


それを見た黒髪の男は、「もう追いついたのかぁ。早いな〜」とボヤくと、「じゃ」と掛け声を残すと壁をよじ登って走り去っていく。

いきなりのことに状況が分からないソボックは、黒髪の男を引き止めようとするが時すでに遅く。

声をかけようとした途端、頭部に鈍重な痛みとともに意識が持ってかれた。


●


ああ、またあの夢か。

慣れ親しんだ村が、畑が、家々が、人々が。

皆等しく焼かれ、壊された、切り刻まれ。

これがまさに地獄絵図というやつだな。

その悪魔の所業とも思えることを、同じ人間が起こしたんだって言うんだから。

でも信じられないな。

本来こんなことなど起きるはずもない。

いや、どんなことがあればそんなことが起きるのか不思議なくらい田舎で平和な村のはずだった。

それは、俺だけじゃなくて村のみんなが思ってたことだった。

平和な村で、俺は五人家族の長男として生を受け、貧しいながらも農業で生計を立ててそれなりに幸せに生きていた筈なんだ。

そんな日常はいきなり壊された。

どこからともなく現れた武装集団。

最初はただの夜盗かと、いつもの様に力自慢の男手が集まって追い払う予定だった。

それが蓋を開けてみれば、逆立ちしても勝てない訓練された兵で、ただただ蹂躙されるだけだった。

その時の俺は恐怖していた。

いきなり奪われた日常と、雑草を狩る様に人を殺す襲撃者が怖かった。

襲撃者が夜盗では無いと早々に分かると、村の爺さん婆さん達は女子供だけでもと早い段階で逃がしてくれた。

俺はそれに従うしかなくて、母さんが先頭に、俺が一番下の弟の手を握ってその後ろに姉さんが跡を追う形で逃げ出した。

不安で押しつぶされそうな所に、母さんが何度も励ましの言葉をくれて、俺も泣き続ける弟の手を強く握って大丈夫だと声をかけ続けた。

周りからは幾人も村人達の悲鳴。

後ろをチラリと振り返ると、ちょうど顔を隠した襲撃者達が村人を切り捨てているところだった。

もっと急がないと追いつかれる。

それから無我夢中で家族四人で走っていると、急に弟の手がガクンと軽くなる。

なんだ?

手はしっかり握っていて今も掴んでいるのに、まるで腕から先が無くなったような…

そう不思議に思い、ふと振り返って見るとその先には弟の姿は無く、弟だった腕がぶらんぶらんと掴まれているだけだった。

最初はそれに気づかなかった。

いや気づきたくなかった。

最初は、弟の足が早くなったから軽くなっただけだ。

そうだ、と自分を騙していたが一番遅いはずの弟の足が速くなるわけがない。

だが、現実はそこには居たはずの弟は腕以外が消えていた。

理解したく無い現実に、頭が考えることをやめ、蒼白した顔はさらに血の気が引いて白くなってゆき、最後に力が入らずに足がもつれさせて転倒する。

まずい。

そんなことを考える余裕はこの時の俺には無く、訳もわからずにぼうっとしていた。

そんな俺を見て、母さんは顔色を変えて振り返ると駆け寄ってくる。

なんでこっちに来てるんだ。

俺達はあっちに逃げてるんだろ?

ショックで弟が死んだことが抜け落ちていた俺は、ぼうっとする頭で人ごとみたいに考えていると手をガッと掴まれる。

倒れている俺を抱き上げようと屈むが、何故か覆いかぶさる様に倒れ込む。

いきなりどうしたんだよ?

母さんはいつもそそっかしいが、こんな時も何やってるんだよと心配になって顔を見た。

いや、見ようとした。

そこには、見ようとした母さんの顔は無く、血を噴水の様に噴き出す胴体だけだった。

母さん?

これはなんだ?

そう考えようとすると、今度は姉さんが力一杯俺の腕を引くとそのまま引き摺り出される。

何か怒鳴っているような気もしたが、なにも聞こえない。

惚ける俺に構うことなく姉さんは腕を引いて走り出すが、その瞬間背中に激痛がはしった。

痛みで急に現実に引き戻されると、なんだ!?何が起こってるんだと状況をみて見ると、隣には体に幾つかの穴を開けてぐったりとした姉の姿があった。

姉さん!!

そう叫んで近寄ろうとするも、体は動く気配を見せない。

何だ!?と思い自分の体を見て見ると、姉さんと同じように穴が空いていて、そこから止めどない血が流れ出ていた。

それを自覚した途端、焼けるような痛みを思い出す。

それからは早く、徐々に視界はボヤけ、周りがゆっくりに見えてくる。

姉さん…と手を伸ばそうにも手が届くことはなく、力無く地面に吸い込まれる。

これは幻覚か?そう思い倒れた姉の顔を見ると姉の顔は涙を流していた。

そこへゆっくりと迫る足音。

目を向ければ、フードをまぶかに被って顔の見えない人物。

目立たない黒衣の中で、丸に突き立たれた十字架のペンダントだけが不釣り合いに主張していた。

俺たちが何をしたって言うんだッ!

せめてもの抵抗で力の限り睨みつけるのが限界だった。

その思い出が最後に意識が霧散した。

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