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社会不適合者達による成り上がり英雄譚  作者: 鳩理 遊次
一章 社会不適合者達と異世界転移
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1章 33話 狂気

ダンジョンには地上から酸素が送られており、逆に内部に溜まった異臭や毒素と言った有害物質を吐き出すと言った性質がある。

しかし、これらの現象は即座に常時行われているわけでは無く、そのダンジョンによって様々だ。

面白いところだと息を吐き出す様に、内部を換気する様な場所もある。

それはさておき、この洞窟型にはそんな機能は無く、多くのダンジョンによく見られる時間をかけての換気となる。

獣などの生き物が住んでいる割に臭いなどの生活臭は本来籠ることはないのだが、辺りを立ち込めるはむせ返る様な異物の匂い。


「これは…」


暗部の女は顔を顰めて、その場所に足を踏み入れる。

そんな表情を浮かべれば、普段であれば上司の男が嗜めるところだが、今回は何も言わない。

男とて顔にこそ出ていないが、心中では似た様な事になっているからだ。

何も匂いで顔を顰めたわけではない。

その理由は、夥しい魔物の死骸だ。

勿論のこと、暗部と言う職業柄死体は見慣れているためにそんな事に驚いたわけではない。

驚いたのは結果ではなくて内容。

この二十をも超える数の死体を築いたのが、戦闘訓練を初めて一年程の青年が作ったからこその驚きだ。

ブラックウルフ一体あたりの戦闘能力はギリギリ中級に入るか入らないかくらいだが、これが群になると話が変わる。

群れを相手取る場合はパーティーを組むか、上級の者がいないと厳しい。

だが正樹は、それを一人で殺し尽くしたのだ。

突出した能力こそなかったが、命の賭かった戦闘でのセンスはピカイチであったようだ。

そもそも、多少の戦闘センスがなければあのオーガの攻撃を凌ぐことすらできず、ましてや倒すことは無理だ。

なので、元々あった高い頭脳とパーシィの手助けがあってこその勝利だと暗部の二人は思っていたのだ。

しかし、蓋を開けてみればパーシィに勝るとも劣らない戦力であったわけだ。

それならば、超越級の異端なオーガに勝てたのも単なる奇跡ではなかったと言うことが分かる。

暗部の男は、足元に転がる死体に目を向けると上半身のみとなっていた。

他の物にも目を向けてみると、その異様な光景に少しの寒気を覚える。

どれ一つとして、死に方が同じでは無いのだ。

あるものは頭を吹き飛ばされ。

あるものはモズの餌のように宙ぶらりんと、突き刺さされ。

あのもなは地面に広がる様に潰され。

どうやって殺したのか分からない、異様としか思えない光景だ。

どうして監視していたはずの暗部の者が分からないのか。

それは、正樹が戦闘の初めに使った煙幕が原因だ。

それにより、目による監視が困難となり気配と探知による監視となった。

そのために、正樹がこれら全てを狩り尽くしたと言うのは分かっているのだが、どう戦ったのかまでは分からなかった。

分かっていることといえば、最初に正樹がブラック・ウルフの連携を封じるためにやったと言うことだけ。

最初は、視界を潰したところで犬型の魔物には嗅覚や聴覚があるために無駄なのではと思っていた。

だが、この場に来て煙の残留により嗅覚に異常を感じた事により理由が分かった。

恐らく、この煙幕は毒ガスであり視界に意外にも嗅覚を封じたのであろう。

この様子を見るに、聴覚も何かしらの仕掛けで無効化したと考えるのが妥当だ。

部下の女も、その類を見ない現場に戸惑いを浮かべてキョロキョロと周りを見渡す。

男もそうしたい思いをグッとこらえると、この場に出てきた本来の目的を思い出し部下の女にハンドサインを出す。

その指す先には、血の道が奥の行き止まりまで続いていた。

暗部の者がわざわざ身を晒して、この場に来た目的は正樹の生存確認だ。

と言うのも、視界が晴れた時には奥の行き止まりで倒れていたのだ。

出血量も中々もので、生きていることだけは分かっていたのが気配が弱まり続けて、先程に感知が不可能になった。

暗部としては半端な仕事は許されない為に、この目でしっかりと判断する必要があった。

血の道を辿っていくと、魔導具で見た時から全く動いた様子のない正樹がたおれていた。

流れてからそれなりの時間が経っているせか、固まり始めている血のベットで寝た正樹は死んでいる様にも見える。

しかし、良く近づいてみて気が付いたが虫の息ほどはある様だ。

応急処置をしようとした痕跡があり、からポーション瓶が手元に転がっているのと手を傷口らしき場所に当てていた。

だが、助かる見込みが無いのは出血量から見ても明らかであり、このまま放っておけば勝手に死ぬか魔物の餌になり死ぬかで、死ぬことは確実だ。

ならば、助けるかと聞かれると暗部の答えはノーだ。

二人に与えられた任務は監視のみであり、仕事内容以外のことをするのはご法度だ。

そうでなくとも、暗部の一部は正樹を暗殺しようとした様子もあることから助けると言う選択肢は無い。

ならば、さっさと処理してしまおうとしゃがみ込み、うつ伏せから仰向けの状態にしようと手を伸ばしたその時だ。

バァァン!!!!

一瞬にして視界が白一色となり、遅れる様に目と耳に強い痛みが走る。

何だ!?

そう考えるよりも先に戦闘体制にうつり、正樹から距離を置いたのは体に染み付いた本能か。

暗部の男は何よりも先に距離をとったが、経験の浅い部下の女は少し反応が遅れる。

その時だ。

今まで近寄らなければ感じられ無かった気配が、膨れ上がる様に現れる。

ピクリとも動かなかった正樹が、一瞬の隙をついて女に迫る。

不味い、部下に下がる様に命じようとしたが全く間に合わず、正樹が暗部の女から離れると今までの状態が入れ替わる様に女がドサりと倒れる。

視覚と聴覚が潰された事により、感覚による気配察知重視に切り替え、さらに範囲を絞って精度を上げた探知魔法を即座に使用する。

それにより、朧げだったシルエットがしっかりとしたものになると、その手にはレイピアの様な細い獲物が握られていた。

部下の方の気配も探ると、気を失ってはいる様だが死んではいないことを確認する。

嵌めらた。

それが男が初めに思ったことだ。

たしかに、監視については知られてはいた様だが、それでもダンジョン内まで付いてくると予想するだろうか。

そして、その時になり腑に落ちなかった点が全てがつながる。


(まさか、まさか、まさか!こいつは、俺たちを誘き寄せるためだけにダンジョンに残ったのか!?)


そう考えれば、男が抱いていた少しの違和感の正体も分かる。

そもそも、超越級の魔物に食らいつけるだけ実力のある者が、あの群れの足止めに自分を犠牲にする必要など無いのだから。

すぐにセレンに報告に戻らなくてはと思考に至るが、正樹とてそんなことをさせる気は毛頭無い。

いつもの様にナイフを取り出して、暗部の男に投げつける。

男も、正樹の常套手段に焦りの中ではあるが視界が見えないにも関わらず、問題がない様に避けて距離を取る。

一定の距離が開くと、両者見合った微動だにしなくなる。

いま迂闊に動く訳にはいかないからだ。

彼我の戦力差を見積もると、暗部の男に大半は優っている。

しかし、正樹の戦闘を一番見ている身としては、確実に勝てるかと聞かれれば答えられない。

まず、誘き寄せられたと言うことは男を倒す算段は間違いなくついているということだろう。

基本の能力で勝っていようとも、此方が不利だと考えるべきだと男は判断をくだす。

ならば、取るべき最善の行動は逃げる事のみ。

それは正樹も理解しており、男の動きにいつでも反応できる様に構える。

どうしたものか。

第一目標を決めはしたが、それでもこの場の問題は山積みだ。

まず、一番の問題が正樹が逃げ道を塞いでいる事。

目眩しの土壇場で位置を入れ替えられており、ナイフを投げたのも誘導の意味合いが強かった。

もう一つが倒された部下だ。

正樹の目的は恐らく監視の排除と情報。

部下の女が死んでいないことからもそれは間違いなく、万が一ではあるが情報を抜き取られる場合がある。

暗部は全員、拷問の訓練や毒への耐性、最悪の場合の自決などがあるがそれでも確実では無い。

部下の女を助けるのは、正樹を倒すことが必須条件なために論外だ。

張り詰めた静寂。

お互いが様子を伺い合う場で、先に動いたのは暗部の男だ。

それに少し遅れて正樹は、再びナイフを投げるも難なくと男は獲物であるダガーで正確に打ち払う。

その後、陽動で投げナイフの後を追う様に片手斧が迫るが、こちらは受けることなく横にステップするだけで躱す。

そのお返しに、男は針を取り出すと正樹に向かって投擲する。

正樹も同じく横にステップするだけで回避し、這う様に近づいてきた男のダガーを腰挿しの剣で捌く。

キィーンと言う甲高い音を一つ響かせると、追撃の回し蹴りを見舞うも正樹は後ろに体をそらすだけに終わるが、ここからが暗部の男の真骨頂。

舞を踊る様にダガーと足技による猛攻を仕掛ける。

格下相手でれば、数秒で防御を崩せるはずの攻撃なのだが防御に徹した正樹を崩し切ることは出来ない。

このままであれば攻め切られると言うことは悟り、正樹は手元に水球を作り出す。

何故、この状況で遠距離攻撃である『ウォーター・ボール』を?と疑問に思う。

その水球を差し出す様に男に差し向けられたその時。

パァン!と音を立て握りつぶされる。

すると、プシューと音を立てて霧が吹き付けた。

これだけであれば、また目眩しがと思うところだが男の目はいまだに回復していない。

その理由はすぐに分かる事になった。

男は呼吸に違和感感じ始めたのだ。

下をピリリとした痺れが、これは毒だと言うことを訴えかけて、その通りに体を動かして正樹から大きく離れる。

幸い、毒には強い耐性があるためにすぐにどうこうなる訳ではないが、それでもこのまま戦闘を続ければ何があるか分からない。

だが、問題無い。

今の飛び退きで位置を入れ替えるとうい目的を果たすことができ、これ以上ここで戦い続ける理由も無いのだから。

男は飛び退きの勢いを殺すことなくさらに下がり、牽制のために針を投げる。

目的を理解した正樹は、針を躱すと逃すかと石粒の様な物を暗部の男に投げる。


(逃すくらないなら、ここで殺すと判断したか)


石粒の様な物は、今までの戦い方から見て間違いなく爆炎石だと予想する。

これは最初から分かっていたことで、手に持っていたダガーを出入り口に向かって投げる。

本来であれば、これで十分暗部の男の足止めをすることが出来たであれうが、情報量の差が出る。

爆炎石が地面につく前、男の姿が掻き消えて、投げられたダガーの位置に現れる。

これが男の隠し球である転移する能力のあるダガーだ。

正確には二振りで一対の武器で、お互いの位置を変える事が出来るのだ。

これで、爆炎石の爆破範囲からは逃れられた。

奥の手をしっかりと隠し持ち、正樹の裏を描く事に成功したと言えるだろう。

カラカラ。

だが、爆炎石と思われる石は地面に転がるも、特に爆破する気配はない。


(フェイクか!?)


正樹が投げたのは微弱に魔力を纏わせただけの石ころだった。

騙されて状況は不味いが、正樹との距離はだいぶあけることには成功した。

ならば身体能力差で追いつかれることは無いと更に加速する。

そのまま、出入り口まで後少しと言うところ。

男が勝ちを確信した時。

出入り口が大爆破したのだ。

爆音を響かせて、衝撃波をもろに受けた男は宙を舞ったのちにゴロゴロと転がり、どうにか体を起こす事に成功する。


(今度は何だ!?)


混乱しながらも、しっかりと体を動かして反撃の態勢を取る。

しかし、体のダメージは相当な物となり咄嗟に動こうとした時にズキリっと体に痛みが走る。

その隙を見逃すほど、正樹は甘くなかった。

直線距離であっという間に暗部の男に詰め寄ると、剣を上段で構える。

ダメージにより、体を動かしては間に合わないと分かるや否や、男はダガーにて迎撃をしようとする。

その時、さらに男を混乱させる出来事が起きる。

正樹が消えたのだ。

否、正確には気配や魔力と言ったものが消失した。

そして、経験から咄嗟に飛びのこうとした時には、胸を焼く様な痛みに襲われて意識を落とすのだった。



「んっうっ…!?」


「やっと起きたか」


意識が浮上した暗部の女は、呟こうとした時に焼くような腹と顎の強烈な痛みに驚き体を跳ねさせる。

それにすぐ気が付いた正樹は、独り言を言うように反応する。

これは一体?

女は驚きつつもすぐに状況確認をする。

口は顎が砕かれている様で動くことはなく、手足は縛られて杭により吊るされていた。

場所は先程と同じ場所らしく、正面にいる正樹は体の至る所を血まみれにしており、それに加えて目のハイライトが消えて生気の無いことから不気味さを感じる。

だが、見るべき点はそこでは無い。

両手の滴る血を見て、女は一瞬で血の気が引く。


「はぁ、何で片割れが女なのかなぁ。これどう見ても俺、ただの変態じゃん、事案じゃん。きっついなぁー…」


急に独り言を始める正樹を置いて、気づいてしまった一つの可能性を確認するために、バッと首を左右に振って確かめる。

どうかそうで無い様にと願うも、すぐにその希望は打ち砕かれる。

暗部の女の隣には、自分と同じように吊るされてグッタリと頭を下げる自分の上司が。

顔は良く見えないが、首元を中心に胴体部分をぐっしょりと濡らす血を見て悟る。

拷問されたのだと。

自害用の毒は如何したのかと考えるも、自分の状況を見るに同じようにそんな暇は無かったのだろう。

女は正樹をキッと睨みつけるも、それで如何なる様子はない。


「あー、状況確認は終わった?予想はしてるだろうけど、お前達からちょっと話を聞きたくてさ。悪いんだけど、主人について話てくんね?」


合間変わらず面倒くさそうな表情のまま言う正樹に、女は答えない。

当たり前で、はいそうですかと言う訳はないのだ。


「男の方が喋ってくんなくて困ってんだよ。仕方ないからこっちは諦めて、お前から聞こうと思ってるんだけど…」


「まぁ、喋んないよな」と呟いてから女に近寄る。

これでも、暗部の中ではエリートなのだ。

たかが拷問如きで口を割る気は毛頭無い。

咬まされていた布を正樹が取ると、手を口の中に突っ込まれる。


「ウッ…!?!?」


案の定と言うべきか、そのまま奥歯を引っこ抜かれる。

目的であろう仕込み毒も一緒に引っこ抜かれ、少し焦りが生まれる。

同じ要領で、奥歯を全て抜き切ると一旦やめて女に治癒魔法とポーションをかける。

これで自害ば出来なくなった。


「とりあえず、こんなもんか。一旦質問タイムだけど、話す気になった?」


「プッ!」


正樹な顔に手を添えて、吐きかけられた唾だと分かると「うわぁ」とドン引きする。

女は美人ではあるが、残念ながら正樹にそれで興奮する性癖は無いために、嫌そうな顔でタオルを取り出して拭う。


「なるほどね。特に言う気は無いと。てか女の人が唾吐くかね。あれ物語の中だけじゃないのね」


大きくため息をつくと、噛ませていた布を再び女に付けると、いくつかの解体用の道具を取り出す。

これから拷問が始まるのかと、身構えるも「お前じゃねぇよ」と正樹は準備しながら呟く。


「それじゃ。話したくなったら次の質問タイムの時に言ってくれ」


まさか、と女が目を見張ると正樹は動かなくなった男の前に立つと拷問を始めるのであった。

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