4章 161話 教団の魔の手
あまりにもお久しぶり過ぎる更新、申し訳ないです。
「くくく…試練続きだったがようやく主が祝福を授けてくれたようだ」
神はやはり自分を見守ってくださっている。
その幸福を噛み締めるニンブスは、いきなり目的の人物に出会えたことを神に感謝する。
対して、何のことやらさっぱりなオストは、仏頂面を引っ込めたかと思えば笑顔を浮かべ始めた不振者に警戒を強めた。
「試練?祝福?お前何言って…ッ!」
ニンブスの首からぶら下がるアクセサリーに視線が奪われる。
見覚えがあるどころでは無い。
忘れるものか。
忘れる訳が無い。
「クロフォード教団…!」
自分から家族奪い残った幼馴染までも利用する因縁の相手。
思わぬ出会いに感情が大きく揺さぶられるが、こんなにも早く手がかりを見つけられ好都合だと柄に力を入れる。
そんなオストの心情など欠片も察することの出来ないニンブスは高らかに述べる。
「穢らわしきアレクレアに従属する駄犬ではあるが、腐っても主の恩寵を賜り者。一応の勧告はしてやろう」
「さっきから訳のわからないことを…」
「話は最後まで聞け。これだから駄犬は…大人しく私について来い。さすれば、苦しみも無いどころか神の従属たるクロフォード教団の末席を汚させてやろう」
どこまでも上から目線の傲慢な語り口。
勧誘する気が感じられない酷い内容。
しかし、まるでそうすることが当たり前かのようにニンブスは言い切った。
無論、内容がまともに修正された所でオストの返答は決まっている。
「クソ喰らえだッ!」
「所詮は犬畜生。手足を捥げば多少は利口にもなるか」
威嚇する様に吠えるオストにニンブスはゴミを見る目を向けると槍を構え直した。
相剣であるラーファを握り直して先に仕掛けたのはオストだ。
(獲物が槍じゃ突きはどうにかなっても防ぐのはキツいはず。それにできれば主導権を握って場所も変えたい)
憎き敵を前にして怒りを露わにするほど抱いても、オストの思考はラシェンダやアリーダ、それに被害者のことも考慮できるくらいには冷静だった。
シナと出会ってから驚きやアクシデントの連続で狼狽えたり冷静さを欠いていることが多かったが、彼は元来死と隣り合わせで日常生活を送ってきただけあってクレバーな方だ。
(よく見るんだ。少しの動きでも!)
周囲から学んだ基礎を忘れずに実践する。
僅かな情報を見逃さないと目を凝らすオストに対して、ニンブスが出した回答は突きでの迎撃。
防ぐのでは無くそもそも間合いに入れないのが槍使いのセオリー。
槍先は寸分違わずにラーファの側面を穿つ。
「くっ!?」
「浅い、浅いぞ駄犬」
びくともしない槍はさらに踏み込もうとしていたオストの足を強制的に止める。
「取り回しの優位性に目をつける頭はあるようだが、そんな当たり前程度で私をどうにか出来ると考えるなど…不愉快極まりないッ!」
自分をその程度の基礎もできてないと思われていたことにニンブスは激昂する。
怒りを露わにしながらも繊細に操られた槍先は剣を払いながら攻撃に転じた。
蛇を思わせる一連の動きはいやらしく脇腹の一部を引きちぎる。
地面を濡らす大量の血は誰が見ても戦闘継続など不可能な重傷だ。
しかし、これこそがオストのもう一つの狙いでもあった。
(イッてぇぇ…だが、これで俺の間合いだ!)
肉を切らせて骨を断つ。
オストの場合まず自分の骨が断たれているが、脅威の回復力があれば大した経費にはならない。
攻撃をするには長物である槍でも踏み込みは必須。
敢えて攻撃を喰らったオストは痛みを堪えながらも、絶好のチャンスを離してなるものかと一刀を振るう。
奇しくもオストの必殺の型となりつつあるカウンター攻撃。
「だから浅いのだ」
反則的なスキルを持っているからこその最強の初見殺しは呆気なく空を切る。
(外れた!?これも読まれてんのか…!)
「恩寵を活かした相打ち狙いが透けて見えるぞ」
今まではオストの能力を理解していなかったり咄嗟の判断を強制されるからこそ効果は絶大だった。
しかし、前もって『無限』の存在を知っていた人物の場合は話が変わる。
知っていたニンブスは攻撃を仕掛ける時に踏み込まなかったのだ。
だから一歩後ろに下がるだけで簡単に回避できてしまう。
自信のある一撃だっただけに空振りに終わったオストに、少なく無い動揺を与える。
そんなあからさまな隙を逃してくれる優しい敵でも無く、槍は新しい穴を作らんと突き出される。
首、腹、手、足と満遍なく散らされているにも関わらず、そのどれもが寸分狂わずに致命的になりかねない部位を捉えていた。
痛みで動きが鈍くなりながらもオストはどうにかしてみせるが、数秒も経たずに傷が瞬く間に増えていく。
守りは無謀だと辞めたつもりが、あっという間にそれを強いられてしまっていた。
(身体能力だけじゃねぇ。そもそも経験が違いすぎるッ!)
奇襲を受けた時点で強者だとは分かっていたが、相対してみて彼我の差が想定よりもはるかに大きいことを嫌でも思い知らされる。
スキルだとか身体能力だとかそんな目に見える物以前に経験が段違い過ぎるのだ。
傲慢な態度や物言いとは裏腹に奇襲を仕掛け、さらに精度の高い分析まで行う慎重さ。
何より思い知らされるのは格別の技量と戦いの運び方。
どちらが先に行動を起こそうが主導権はニンブスが握ったままなのだ。
完璧に防ぎ切れていないのに手札を次々に暴かれているオストに対して、ニンブスはただただ洗練された動きで圧倒するだけ。
さらに相手には余裕まである始末。
辛うじて勝負の形をなしているのはひとえにスキルのお陰に他ならない。
「『ファ…「馬鹿め」イア』!」
再び仕切り直すために魔法を使おうとするオストだったが、そこへニンブスから魔力をぶつけられ阻害されてしまう。
(『ファイア』が使えない!?)
彼が行ったのは汎用的な魔法への対処方法、または『ディスターブ』と呼ばれる魔法で、相手の魔法に合わせて魔力をぶつけることで、発動の邪魔をすることができる代物だ。
魔法戦では基礎中の基礎なのだが、本職が剣士のオストはそのことを知らずに狼狽する。
「陳腐な芸が二度も通じるなどありえんことだ!」
動揺に畳み掛けるようにニンブスの槍が閃く。
ついに、機動力を潰されないために死守し続けていた脚に先端が貫く。
(しまった、脚が完全にやられた!?)
痛みに呻きながらも犯してしまった重大なミスに背筋が凍る。
技術では到底敵わないオストがギリギリで凌げていたのは、剣の腕と言うよりも間合いをずらそうとした脚運びの方が大きかった。
その脚が失われたと言うことは事実上の死刑宣告を受けた様なもので…
「終いだ!」
ここぞと突き出される連撃がオストを削っていく。
一突きされる度に血や肉片が宙に舞い、一瞬にしてボロ雑巾を作り出す。
「ォォォオオオオッ!!」
「吼えろ吼えろ!駄犬なのだから少しは私を楽しませろ!」
死んでたまるかとガムシャラに攻撃を捌くオストに、ニンブスは愉悦の表情を浮かべて徐々にその密度を上げていく。
ついに筋が切れた左腕がダラリとぶら下がる。
「邪魔そうだな?少し軽くしてやろうッ!」
「グァァアア…!?!?」
胴体にくっ付いた肉塊となったそれをニンブスは、極大の悪意以外の何者でも無い親切心を発揮した。
無駄に洗練された槍捌きは僅かな払う動作だけで見事に左腕を中程から切り落とす。
(まずい、回復が間に合わねぇ…このままじゃ…)
激痛に視界が滲む中で敗北の二文字が頭を埋め尽くす中で、残った片足に残る全ての力を乗せて地面を蹴る。
苦し紛れのそれは、嫌な物から逃げたがる人間の本能がそうさせたのだろうが、死期を少し伸ばすだけに過ぎないのは誰の目にも明らかだ。
「がはッ…!」
その悪足掻きも背後に迫っていた壁が邪魔をした。
自ら壁に激突した衝撃で肺の中の空気が強制的に吐き出される。
「くくくくくっ。見窄らしい舞もここまでの様だな」
息を吸い込もうにも咳きと喉に張り付く血糊のせいでそれもままならない。
ニンブスは情けない様を見たことで溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかのごとく邪悪に笑う。
一旦区切りをつけると、動くこともままならないが念には念をとニンブスは右腕にも槍を突き刺す。
いたぶる様に槍先を撚れば、耳をつん裂くような絶叫が響く。
「うるさいぞ」
自分でやっておいて不愉快そうに顔を歪ませるニンブスは、躾だと言わんばかりに額を押し蹴る。
悲鳴が呻き声に変わり満足すると足を退けて槍を引き抜くと、改めてオストの状態に感心する。
「ほう?流石は主がもたらした恩寵。これだけの傷を負いながらもまだ再生するか。しかし、持ち主がこのような愚物では宝の持ち腐れだな」
あり得ない速度で修復される肉体を前にして、神への敬意を抱くと同時に不服にも思う。
だが、そんな考えは不敬だと思い直し、簡単に恩寵を回収させるためにこの者に与えたのだと考えを改めた。
「主に見放されし哀れな犬に、火芸では無い本当の『魔法』を見せてやろう」
槍がオストに向けられる。
現在のニンブスの目的はアレクレア騎士の撃退では無く、任務の失敗を挽回することにある。
つまりオストの回収だ。
既に戦闘不能の状態ではあるがまだ意識は途切れていない。
痛め続けるのも無くは無いが、それは時間がかかる可能性がある上に音でアレクレア騎士が応援に来る場合もある。
何より面倒だ。
喉を潰そうにもこの回復力では運送中に治り切ってしまうだろう。
そこでニンブスが考えたのは半殺しだ。
「我が至高の紅蓮の槍を、その目に刻め『バーン・ランス』」
嗜虐心からオストの使う『火』属性を見せつける様に行使する。
煌々と輝く赤が周囲を照らし…
一直線に焼き貫いた、オストは愚か後ろの壁も含めて一切合切を…
●
誰かが呼んでいる…
囁く様な声は人物の判別はつかないが不思議と心地よかった。
眠い。
たとえるなら極限の寝起きだろうか。
思考すらままならない感覚は眠気をどこまでも助長する。
(あぁ、懐かしいな…)
そんな状況でも記憶の中に光る宝物が頭にかかったモヤを少しだけ晴らす。
しかし、考えられるのはそれだけで一向に人物が誰なのかが思い浮かばない。
間違いなく大切なものだと何かが言っているのだが、それ以上がどうしても思考できない。
(けど、別に思い出さなくてもいいか…)
こんなにも心地よいのだ。
無理などしないでこのまま流されるがまま身を委ねても許されるだろう。
あれだけ苦難ばかりの人生なんだから少しくらい安らかな時があってもいいんじゃないかと、もう一人の自分が囁く。
誘惑に身を任せてゆっくりと沈もうとしと時だ。
「オスト、起きて…」
ぐぐもった声が引き留める。
今度は内容もしっかりと聞き取れた。
まだ誰かは分からないが惹きつけられるようにその声を辿っていった…
「んあ…?俺は………ッ!?」
痛みで意識が覚醒する。
リキシアの時も似た様な状況に陥ったせいで既視感が強いが、出来ることなら二度と体験したく無い目の覚まし方だと毒吐く。
そうこうしている内に次第に記憶が一気に戻って来た。
(そうだ、教団のヤツに吹っ飛ばされたんだった!で、今は…この感じ瓦礫の下か?)
ぐちゃぐちゃ過ぎて全く無い感覚と、ありえない倦怠感に目を開けようにも開けられない状況から今の自分を推理する。
これも瓦礫の中に埋まったことのあるからこその経験だからなのだが、素直に体験しておいてよかったとは思えない所。
「『イグ…ニッ、ション…』」
芯から熱が込み上げる。
次第に身を焦がす熱が全身に駆け巡ると、次第に痛みや不快感と言った体の神経が戻って来た。
異物を押し除けて体が元に戻ると、オストは燃える魔力を放出して瓦礫を退かし脱出したのだった…
●
勢いで周囲に亀裂が入り破片がパラパラと降り注ぐ。
それを汚らわしそうに叩いてからニンブスは自らが作り出した赤々とする通路を歩く。
穴に黒焦げの物体を取りに行ったつもりのニンブスだったが、勢い余って別の空間に出てしまう。
「チッ…地下に通じてしまったか」
馬車が行き違える程に広い地下通路。
しかし、そこはランバック商会が作り上げたものでは無いと一目で分かる作りをしており、壁にはヒビだらけのせいで、隙間から侵入した水が通路を汚している。
明らかにここ何年も使われた形跡が無いのを見るに、そこが過去にファーゲが軍事拠点として使われていた時の物だと見当をつける。
ニンブスはカビ臭さに顔を顰めながらも、足早に吹き飛ばされた先を目指して歩き始めた。
と言っても、目的地は対面に出来上がった瓦礫の山だ。
早いところ肉塊、あるいは炭の回収を済ませようと大股で近づくと、不意に膨大な魔力の流れが肌を撫でた。
(まさか、まだ意識があると言うのか!?)
死んでしまったとは微塵も思っていなかったニンブスだが、あれだけの攻撃を受けても動けることに驚きを隠せない。
進んだ分だけ飛び退くとタイミング良く火炎が瓦礫を押し除ける。
「ここは…牢屋じゃねぇな。どこだ?」
原型を留めていないくらいボロボロな団服と打って変わって、傷一つない状態で這い出て来たオストは戸惑う。
少し見渡しただけで明らかに違う空間。
(捕まったって感じじゃないな。魔法で別の場所に吹き飛ばされたのか…って、教団の槍男!?コイツが目の前に居るなら、意識が無かったのは少しの時間か)
少しの間とは言え、気絶していたせいで記憶が信頼出来ずに困惑するが、ニンブスの姿を捉えると考えを放り出して警戒体制を取る。
(ここなら全力が出せる…が、武器が無いのはマズイな。ラーファ以外でもいいから何処かに落ちてりゃいいんだが、んな都合よくは行かないよな…)
ラーファこそ手元に無いが、代わりに別の空間に意図せずに移動できたことで、なし崩し的に使うことになった『イグニッション』を維持することが出来るようになった。
所詮は貧民街で身に付けた体術なので過信は出来ないが、そもそもの身体能力が段違いなので先ほどよりは遥かにマシな戦いにはなる…ハズだとオストは自分に言い聞かせる。
せめて策を練りつつ出方を伺っていると、ニンブスが突然笑い声を上げた。
「くくくくっ…フハハハハ!素晴らしい、これが主の力の一端か!先程まででも人外の自己回復速度であったが、まさか少し目を離した隙に傷一つ見当たらない状態にまで戻っているとは」
何が面白いのか全く理解できないオストが不気味がるが、端から配慮なんて無いニンブスは一人悦に浸る。
只人でさえ人智の及ばない超越者へ変えてしまうその力はまさに神の力の一欠片に相応しいものだ。
その奇跡を垣間見ることが出来るのは一信者としてこれに勝る幸福は無いと断言出来た。
「しかし、だからこそ残念でならない…主の奇跡をこのような駄犬があやかっているなど、な」
狂喜的な笑みを引っ込む。
奇跡を目の当たりにした幸福以上にそれを無能が享受していることが許せない。
膨れ上がる殺意を闘気に変えて、目にも止まらぬ速さで突きを繰り出す。
構えは愚か予備動作すら無い攻撃はニンブスほどの使い手となると、まるでコマが切り替わったかのような挙動を見せる。
反応するのは至難の業。
「!?」
先ほどまでであれば間違いなく対処出来なかったそれを、オストは見事に見切ってみせる。
「ふんッ!!」
それだけに止まらず、オストは一歩前に踏み出す。
強く握りしめた拳から炎が吹き出す。
攻撃を回避しただけに留まらず、しまったと焦るニンブスの頬へカウンターの拳を叩き込む。
踏ん張ってどうにか堪えるニンブス。
一体何がと自問自答するが、その答えは燃えるように痛む顔がすぐに答えてくれる。
完全な格下にカウンターを決められてしまったニンブスは憎々し気に睨み付ける。
「貴、様ァ…!」
「取り敢えず一発、だ。さっきみたいに行くと思うなよ?」
「死にかけて頭をおかしくしたか。偶然一撃入れられた程度で騒ぐな…!」
「偶然かどうかはすぐ分かるさ。ここなら周りに気を使う必要はねぇしな」
狭い空間に周囲に仲間達や救助対象の人々がいる状況では、火属性しか使えないオストはどうしても能力が制限されてしまっていた。
しかし、今は周りには誰も居ない上にそこそこの広さがある場所だ。
周りを心配する必要は無くなった。
オストの闘志に呼応するように身体中から炎が溢れる。
その様子を見てハッタリではないことを察したニンブスは、雑魚に手を抜かれていたと言う事実に青筋を浮かべた。
「今までは全力じゃなかったとでも?力を隠していた程度で調子に乗るなよ、駄犬…」
煽りのカウンターに手加減と言う事実は、ニンブスのプライドを酷く傷つける。
それは強者の特権なのだ。
駄犬風情がするなど許されない。
「それはこちらとて同じことだ!」
それを証明するかの如く、鍛え上げられた濃密な魔力を周囲に解き放つ。
何も手を抜いていたのはオストだけでは無い。
不利な地形に槍しか使わないなど分かり切っていたことだが、ニンブスもまた実力の半分も出してなどいない。
こうして第二ラウンドの火蓋が切って落とされたのだった。
データがポックリ逝ったあの日から早半年。
言い訳はあります、私生活に変化がありゴタゴタしていたんです。
あと、蛮族皇子の制作が楽しかったのと3話分の内容がパージした関係で完全にやる気を失ってましたが、流石に3章を終わらせようと更新しました。
実はまだ終わってません…
間話の方は終わってるのになぁあ?
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白いとおもったらブクマと評価のほどをよろしくお願いします。
モチベーションの維持になりますので何卒。
同時に連載してる『実は元蛮族な皇子さま』の方もよろしければ読んで頂ければ幸いです。




