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魔法自衛隊1964  作者: 秋山 完
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053●第9章● 〃 1964年6月17日(水)午後~18日(木)②:宇宙開発

053●第9章●秘密基地の人々…1964年6月17日(水)午後~18日(木)②:宇宙開発




「今どき、それが普通だよ。六〇年代のうちに人類を月に送る……と、ケネディ大統領が約束したのは、科学力の不足を魔法力で補う目途がついたからなんだ。かの国の宇宙計画は最近とみに、悪魔への依存度が高まっている」と万城が解説する。

「そもそも“NA‐SA”にしてからが、ナビゲート・サタンの略っすからねえ」と漆田。「魔王を飼いならして宇宙へ行こう……ペル・アーチフィンド・アド・アストラ……ってのが、あちらさんの標語になっているくらいだから。そのNA‐SAで親分やってるのが、ヴェルナー・マグヌス・マクシミリアン・フライヘル・フォールヘヴン・ホン・ブラウン男爵ってえ、どえらい魔法使いでさ……」

「そんな長い名前、よく憶えられたわねえ」と、本気で感心する池条いけちゃん。

「長い名前からして、いかにも錬金術師だろ。かの国の宇宙開発を支える大黒柱、偉大なる宇宙魔法使い、ロケット・ウィザードだからね。“宇宙へ行くためなら悪魔に魂を売ってもいい”と公言してるんだぜ。魔法科学の最先端を走る傑物さ。要するに、科学の力で人工悪魔を合成して、そいつをロケットの推進剤にしようっていう、ま、楽して得するアイデア」

 うわ、これまた中世魔法っぽくなってきた……と、久は内心、警戒した。

「人類の科学で、人工の悪魔が作れるんですか?」と訊いてしまう。

「そうだ、理論的には。欧米先進国ではかなり実験が進んでいる。悪魔を“あの世”から召喚するのでなく、科学的なプロセスで傀儡魔ダミーデモンを合成しようってことだ」と万城。「ホン・ブラウン男爵は華僑系ドイツ貴族で、“悪魔サタン(ブイ)”という凶暴な人工の傀儡魔ダミーデモンを製造して、その魔力で超大型ロケットを月まで飛ばそうとしているというのが、もっぱらの噂だよ。ああ、Vってのは、戦時中のドイツ軍のロケット兵器、V2号ってのがあっただろう。あれのVと同じ意味だってさ」

「サタンV……?」

「全長百メートルを超える、超巨大な空き缶に、超巨大な人工悪魔をぎゅう詰めにする。そいつに点火、超強力な地獄の業火(ヘルファイア)を吐き出して天まで昇ろうって寸法さ。神をも恐れぬ所業というか」

「でも、純粋な科学でなくて、魔法をまぜこぜにするんだから、忌数いみかずには気を付けないとネ」と、経理に明るい池ちゃんが忠告する。

「だから、マーキュリー計画は十二号で終わったし、今のジェミニ計画も十二号で打ち止めにする予定。そのあたり、ホン・ブラウン男爵はわかっているみたいだ」と万城。

 よその国の宇宙計画だから、万城も漆田も池ちゃんも気楽に喋っているが、実際に日本人の宇宙飛行士が国際宇宙ステーションに滞在する時代の久としては、どことなくうすら寒い気分も漂ってくる。宇宙旅行って、こんなんで、いいのだろうか?

 ……まてよ、そういえば、“アポロ13”という映画をテレビの名画劇場で観たことがある。昔の月旅行計画で、忌数いみかずの13だから悪いことが起こる、というストーリーだったけれど……あれって、実際に起こったことなんだっけ、それとも、作り話のSFだったのかな? よく覚えていない。

 にしても、一九六四年のこの時代では、魔王が宿る魔剣ならぬ、魔王が宿る魔のロケットに人間を乗せて、宇宙へ打ち上げているというわけだ。もちろん世間的には秘密なのだろうけど。

 たしかに神様も幽霊も魔物も実在していて、だから魔法も実在している世界なんだから、そこに加えて科学が発達してきたら、魔法と科学が混然一体となった大技おおわざたくらむ“魔法科学者”が出てきてもおかしくない。

 社会の裏面に隠れて、アメリカのホン・ブラウン博士は、科学よりも魔法を使って、剣や槍でなく全長百メートルもの月ロケットに、人工の魔王を仕込もうとしている。

 ほぼ、というより、まさしく黒魔術の世界だ。

 いつか月に行けるとしても、乗りたくない、これは絶対乗りたくないぞ。

「それじゃ、ロシアのロケットは?」と、ついつい好奇心にかられてしまう久。

「ああ、ソ連のロケットかい。あれも同じだよ。社会主義者は無神論者だというけれど、連中、あれでけっこう魔法が好きなんだ。マルクスとエンゲルスによれば、共産主義ってのはヨーロッパをさまよう“妖怪”なんだからね」

「神様の存在は否定しても、悪魔は否定しないみたい。不思議ねエ。学者の先生って、なぜか魔法の好きな人、多いでしょ。昔のファウストさんとか」と池条いけちゃん。

「それって、怖くないんですか?」と久。

「怖くても、科学者はきっとやるっすね。科学の発展のためなら、悪魔にでも魂を売ってやる……ってのがマッドサイエンティストの心意気、万国共通の理念でやんス」と、誇らしげに語る漆田。すでにマッドな一員のつもりらしい。「だから、ロケットの打ち上げでは、管制室の全員が声を合わせて呪文を唱えるんすよ。“リフトを外せ!”ってね。正しくは“リフト・オフ! マジック・オン!”すなわち、“ここからは機械力でなく魔法力で昇っていけ!”という意味でやんして」

「そういう人たちが、ロケットを打ち上げてるんですね……」と、いまや諦観するばかりの久。

 国内ではささやかな観測用のカッパロケットどまりだけど、この時代の海外の超大国では、魔法のスケールも超巨大だということか。どちらかといえば、あまり関わりたくないが……

 こうして米ソ宇宙開発競争の実態が明らかになったところで、池ちゃんが時計を見て、あわてた。

「あ、いけない、もうこんな時間……食堂、行ってきます、ごめんね」

 とたとた……とスリッパの音を響かせて部屋を出ていく池条いけちゃんを見送って、万城は久に言った。

「十二時四十分、“うず潮”タイムなんだ」

「うずしお……」

 海自さんの潜水艦じゃあるまいし、何のことかわからず、きょとんとする久に、万城は説明する。

「テレビだよ。地下食堂のテレビジョンを見に行ったんだ。この時間、我が国のブラウン管は“うずしお”を観る女子に占領される」

「それって、NHKの朝ドラですか!」

「アサドラ? それは二十一世紀の、どら焼きの一種か?」と万城。

「いえ、朝に放送される連続ドラマです」と、冷静かつ適切にコメントする久。未来用語の解説も、そろそろ手馴れてきた。

「すなわち今に言う“連続テレビ小説”ね」と漆田が訂正し、「視聴率がすごいんだぜ。毎回四割にせまる、バケモノ番組さ」

「魔法自衛隊としてではなく下請けの映像会社として、うらやましい限りだ。会社は社会の縮図、ということで、うちの社内も、だいたい四割は見ている。」と万城。「まあしかし、これとは別に、夕方の十七時四十五分には『ひょっこりひょうたん島』が始まるから、キュウ君もできるだけ観るように。こっちは同じNHKでも視聴率がボロボロで一桁どまりなんだが、子供向けの体裁で大人向けの内容をこなしている力作なので、特撮プロの社員としては、必須の番組だ」

 日本放送協会における視聴率の天国と地獄を代表する番組を紹介して、調子に乗った万城は漆田に、「ウルさん、ひとつトラ司令に、テレビで一発当たりそうな企画を上げてみるか。ドシラとは一味違う怪獣ものでさ。三十分枠で。子供向けの皮をかぶった、大人もうならせる本格特撮シリーズをね」

「マンさん、やりやしょう! これからはテレビの時代でっせ。絶対になんたって怪獣っス。ドシラみたいなお茶目路線もいいけれど、やっぱしメカニカルな先端科学で武装した、怪獣退治の専門チームが出てこないといけませんや。おれたち魔自みたいな」

 万城は、言い得て妙とばかりにうなずいた。

「そうだな、思えば俺たち、やってることが、まんま特撮怪獣ドラマだもんな」

 そうっす、そうっすと、含み笑いをこらえて、漆田はうなずく。

「キュウ君に、魔物を16ミリフィルムで撮影してもらえば、そのまま使えるんじゃないですか」

「ははは、冗談だろう。これまで、ちゃんと撮れたためしが……」と言いかけて、万城は、はっと気づく。「……そうだ、俺たちの撮影はオールピンボケで、からきしダメだったが、キュウ君なら、ひょっとすると鮮明に撮れるぞ。16ミリでも35ミリ並みの画質が期待できるかも! それなら映画に使える。頼むぞキュウ君!」

 万城は、久の背中をポンと叩いた。

「頑張ります!」

 本心から頑張る覚悟があるのか、いささか心もとないのだが、久は元気良く答えた。

 どうやら、魔法を使って本格的な特撮怪獣ドラマを撮るのが、万城と漆田、二人の共通の夢なのだ。一九六四年は、TVに怪獣が出てきてブームが盛り上がる黎明期にあたるらしい。

 このときの二人の楽しそうな表情に触れて、久はできることなら何でも協力してあげたいと思った。あまりにも屈託のない笑顔の万城に背中を叩かれると、なぜかその気になってしまう。

「いいねえ、その意気だ。新入社員はそうこなくちゃ」

 と、万城は親しく久を励ましつつ、“企画課・営繕課”と墨書した木札の下にチマチマとまとまった、三人分の机の一つをコンコンと拳で叩いた。「ということで、今日からここが、キュウ君の席だ。企画課の一員だよ。宜しく……といっても、企画課はおれとキュウ君の二人だけだ。で、この中には、見ての通り、君の商売道具が入っている。昨日まで、俺が使っていたカメラだよ。使い方は、おいおい説明するからな」


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