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永遠の約束

 未来、僕は君の思いを尊重した。

 でもその挙げ句に、その命を失った事で僕は君をバカ呼ばわりするしか今の自分を保つことが出来ない。

 どうしてそんなに救いようのない人にまで気にかける。

 それは未来が未来でいるためだからだろ。

 それは分かっている。

 未来がそうしたいならそうすればいい。

 でも君はバカな事に代わりはない。

 僕はこの十六年で、まだ短いが未来のような自己犠牲が出来る人間には出会ったことがない。

 でも僕と未来は見知らぬままの他人同士でいれば良かったと思えてくる。

 そうすれば、僕はこんな悲しい思いはしなかった。

 未来は歴史に名をとどろかせた平和を主張した偉人と同じような事をして、同じようにその命を散らした人物のようだ。

 その一人であるインドのお坊さんのガンジーなんかがそうだ。彼は平和的な理想を掲げ、その反発で暗殺されてしまった。

 アメリカのキング牧師もそう。彼もまた平和的理想を主張して、その反発で暗殺されてしまった。

 僕が言いたいのは、そういった自己犠牲をして挙げ句の果てに自分の命が失われるなんて、何か滑稽だ。

 この世には生きる資格もないようなひどい輩でいっぱいだ。

 そんな奴らが善良な人をたぶらかして、おいしい蜜を吸って生きている。

 ニュースで報道されている汚職に手を染めた政治家なんかがそうだ。

 僕たちの国の税金を私利私欲の為に使いあざ笑っている者もこの世の中にのさばっている。

 そんな奴らが生きる世の中なのか?

 未来のような自己を犠牲をして相手に尽くすような心清き者が闇に葬られるのが世の常なのか?

 だったら僕はそんな世の中で生きたくないな。


 気がつけば、電車に乗っていた。気がつけば海にいた。気がつけば、見知らぬ町をさまよっていた。気がつけば、夜だった。気がつけば、もうどうでも良くなっていた。

 みんな心配することは分かっている。

 そして気がつけば見知らぬ町で大雨にさらされながら力つきて倒れていた。

 心は永遠の闇に葬られてしまった未来を求めていた。

 でも永遠の闇に葬られてしまった人間にあえる事は出来ないのは小さな子供だって知っている。

 でも僕は叶わぬ願いだとしても、その願いを叶えたいと僕は切に思う。

 本当に命をかけても良いと思う。

 でもそんな事をしても未来は帰ってこない。

 だったら僕も未来の元へと連れて行ってくれないかと本気で思う。

 雨は激しさを増す。

 今、何時だろう。

 時間を示すスマホを取り出したが、バッテリー切れで電源が入らない。

 僕は苛立ち、そんな使えないスマホを投げ捨てた。

 未来の尊い命が失われたのは、斉藤に銃で殺されそうになった僕をかばって死んでしまった。

 じゃあ、斉藤を殺しに行こうか?

 でも未来はそんな事を望まないし、あんな人間殺す価値もない最低な人間だ。斉藤は未来の言う通り、自滅する。

 今更そんな人間を殺す気にもなれない。

 どうして人は憎しみ会うのか?そして争うのか?それは簡単な事だ。誰もが自分が自分でありたいが為に、生きている。

 プライドを傷つけられたら、自分を取り戻すために憎み相手を貶めてまで自分を取り戻そうとする。

 そしてその憎しみは増大し、関係のない人までも巻き込み、誰かが悲鳴をあげる。

 それで犠牲になったのが未来。

 僕の大切な人。

 決して失ってはいけないもの。

 発端は理科の憎しみ。

 じゃあ理科を憎んで生きるか?

 でも理科は死んでしまい、自己の憎しみに溺れて哀れな死に方をしてしまった。

 何でも良い。

 何でも良いから、未来が帰らぬ人となった今、その生きる代償が欲しいと思う。

 ここで気がついたが、僕の心は矛盾だらけで、とりとめもないほど、頭がおかしくなっている。

 未来の元へ行きたい。

 でも僕はなぜか死ぬのが怖い。

 なぜ死ぬのが怖いのか?

 死ぬことは簡単だ。

 でも死にたくない。

 でも死にたい。

 じゃあ生きるの?

 大切な者を失った今、何を求めて行けばいいのか分からない。

 じゃあ、憎しみでも何でも良いから、それを糧に生きれば良いんじゃないか?

 でも未来はそんな事を望んだりはしない。

 じゃあ妹の盟のため、両親のため。

 でももう誰とも会いたくない。

 みんな心配している。

 その心配も何かうざい。

 僕はもう何も感じたくない。

 お願いだ、未来。

 僕も未来の元へと連れて行ってよ。

 でも、その願いは傷ついた体と心を刺激する激しい雨を感じて、叶わなかった。

 誰か教えてくれ。


「巧、汝自身を知れ」


「誰だ?未来なのか?」

 疲弊しきった体を起こして、その顔を上げると目の前に未来が立っていた。

 感極まって未来に抱きつこうとしたが、我に返るように気がつくと、未来ではなく、雨合羽を着た木更津先輩だった。

「巧君」

 木更津先輩は僕を哀れむような目で見つめて、そんな目で見つめられると、心臓が圧迫されるかのように辛くなり、逃げるようにその目をそらした。

「何ですか?」

「探したのよ」

「僕のことはもうほおっておいてくださいよ」

「そうしたい所だけど、あなたを心配している人はいるわ。それにあなたのご家族も、みんな心配している」

「だから何ですか?」

「何ですかって?決まっているじゃない。


 巧君、汝自信を知りなさい」

 木更津先輩の顔を見上げると、心なしか未来の面影を感じることが出来た。

 未来じゃない木更津先輩なのにどうして僕はそう感じてしまうのか?そんな木更津先輩を見つめていると、どこか遠くを見て、

「私も未来に巧君に言っている事を言われてみたいと思った。

 実を言うと同姓の私も未来に恋をしてしまった。

 私も色々な友達がいるけど、本当に心通わせられる友達は未来と言っても過言じゃないと思ったわ。

 部屋の中で自分が男じゃない事に神様を恨んだこともあったわ」

「木更津先輩の愚痴なら僕に言ったってどうしようもないですよ。他をあたってください」

 木更津先輩はそんな僕に呆れたのか?軽く息をつき、

「一つ言っておくけど、未来が亡くなって悲しいのはあなただけじゃない」

「そんな事は分かっていますよ」

 僕は我を忘れて激昂して叫んだ。

 木更津先輩は何の動揺もなしに怜悧な目つきで、

「何も分かってないじゃない。まあ、このままあなたを野放しにしたいところだけど、あなたを心配する家族や友達もいるから、一度帰って、頭を冷やしなさい」

 と言われ、確かに僕を心配する人は考えればすぐに分かることだ。

 そうだ。帰るのは何か気まずいが僕は帰らなくてはいけない。

 未来が亡くなり悲しいのは僕だけじゃない。そんな事は分かっている。でも木更津先輩からの口からそう言われて、心に焼き付き改まった。

 人は一人では生きていけないのが分かる。

 でも僕は一人になりたい。

 誰にも気づかれず、ただもう傷つきたくない。


 そして僕はどうしてしまったのか、部屋のベットの上で眠っていた。

 しかも、窓から太陽の光が僕を照らしていた。

 猫の鳴き声がして、布団をめくると、猫のミィミィを抱いて眠っている盟の姿がそこにあった。

 そこで僕は改めて気づかされる。

 僕は一人じゃない。

 こうして僕には盟がいる母さんも父さんもいる。それに学校の友達である木更津先輩やその他にも。

 でも心にぽっかりと大きな穴があいている。

 その原因は未来だ。

 その思いが僕の今、精神的な枷になっている。

 だから僕はその大きな穴を埋めるように、僕の布団で眠っている盟を思い切り抱きしめた。

「何、お兄ちゃん苦しいよ」

 ゴメン盟。僕も苦しいんだ。心に大きな穴を少しでも埋めたいんだ。だから盟ゴメン。

 と思って、僕は勝手だが妹の悲鳴も聞き入れず思い切り抱きしめた。


 生活の中で、未来に対する悲しみは少しずつ消えていった。

 悲しみは時がすべて洗い流してくれるが、本当にそうだ。

 このまま悲しみを時の風に乗せ、忘れていけばいいんじゃないかと思う。

 残念な事にもう未来はこの世には存在しない。この世に存在しなくなった人間が再び存在することはない。

 だからもう忘れて、僕は僕の人生を歩めばいいのだと思っている。

 でもなぜか?僕の中で葛藤が生じる。

 

 ただ忘れるだけで良いのかと?


 そんな葛藤を振り払うように、忘れた方が良いに決まっていると言い聞かせたが、腑に落ちない部分があって再び葛藤する。


 本当に忘れるだけで良いのかと?


 じゃあ、どうすれば良いのか?僕が未来の代わりに相談部を再び立ち上げて、相談に来る人たちの相談に乗れば良いのか?

 僕には出来そうにないな。

 だったら木更津先輩にでも相談してみようと思う。


 早速木更津先輩に相談してみた。

 木更津先輩は屋上にいるみたいなので、とりあえず行ってみる。

 屋上を覗くようにして入ってみると、木更津先輩は珍しく一人で屋上の手すりに寄りかかり空を見上げていた。

 心なしか、僕の相談を待っているように感じたがとりあえず、声をかける。

「木更津先輩」

「あら、巧君。どうしたの?」

「ちょっと相談したいことがあって」

 僕はちょっと勇気を振り絞って言う。すると木更津先輩は顔をほころばせ嬉しそうに、

「珍しいわね。あなたから私に相談って」

「相談に乗ってくれますが?」

「まあ、話を聞いて出来る限りの力は貸すつもりよ。未来にもあなたにも色々とお世話になったからね」

 それを聞いて僕は安心した。

 僕は木更津先輩に相談の内容を包み隠さず離した。

 これは僕の問題だが、力になるならないは別として、ただ話しただけで気持ちが楽になった感じだ。

「なるほど、未来をこのまま忘れてはいけない気がするか。

 実を言うと私も同じ事を考えていたわ」

「じゃあ、こう言うのはどうですか?相談部を立ち上げて、未来の後を次ぐって言うのは」

「それは私には出来ないから、その提案には乗れないね」

「そうですか」

 提案は却下され、ちょっと落ち込む僕であった。

「そんな顔をしないでよ。私たちは私たちであって未来ではないのだから、未来と同じ事が出来るかって言うとそれは無理な話よ」

 確かにそうだと納得が言って僕は黙り込む。

「とにかく私たちは私たちが今出来ることを頑張る事だと私は思う。

 それは私たち自身の為であって未来の為にもなると私は信じている」

 僕たちに今出来ること。

 何か胸が熱くなり、何か出来ることを頑張ろうと言う気になり。そんな僕の相談に乗ってくれて熱い心を諭してくれた木更津先輩に、

「木更津先輩に相談して良かったです。ありがとう」

「別にお礼を言われるほどの事じゃないわ」

 と言ってその手を差しだし、

「お互いに頑張りましょう」

「はい」

 とその手を握り、さらに胸が熱くなり、僕は自分のため未来のため誰かのために意欲的に取り組む気持ちになった。

「ちなみに木更津先輩は何を頑張るつもりなの?」

 ちょっと失礼かもしれないが参考に聞いてみる。

「内緒」

 それならそれで言いと思って、

「じゃあ」

 屋上を後にした。

 僕に出来る事。

 そういえば僕は小説を描いていた。

 内容は未来に教わった事が題材になっている。あの小説の続きを書き、未来の思いを僕の小説に載せて、一人でも多くの人に未来の思い、僕の思い、みんなの思い、他にもきりがなく色々な思いがわき出てくるが、意欲的に取り組む姿勢なので無理はない。

 とにかく僕は早速家に帰り、ノートパソコンを広げて、小説の続きを描いた。

 何だろう。すらすらと次から次へと内容が浮かんでくる。

 とにかく全力で突っ走る。

 僕に出来る事。それは未来のためでもあり、みんなのためでもある。

 何だろう?未来は死んでなんかいないような気がしてきた。

 僕が素直な気持ちに問いかければ、すぐに僕の心に現れて、言う。


「巧、汝自身を知れ」


 と。

 自分のために夢を見てよ。その夢は自分以外の誰かを幸せにすることが出来る。

 大きな夢でも小さな夢でもいい。

 誰か一人でも良いから、その人の幸せを考えてあげれば自分も幸せになれると僕は思う。

 人は一人では立ち上がれない。

 最初は一人だけど、この道を進むことで色々な人と巡り会うだろう。

 その中に、争いの種でもある憎しみを生みだしてしまう悲しい出会いもあるかも知れないが、僕は信じている。

 自分を。

 難解な問題の前でも僕は乗り越えて進んでみせる。

 未来、僕はそうやって進んで汝自身を知り、本当の自分を捜すよ。


 これは僕と未来との永遠の約束だよ。



                  終わり。


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