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(ⅩⅩⅨ)未来の命運は

 激しい攻防。ザインが手持ちの2丁拳銃べリアルで軌道をあちこちに自由自在に変幻自在にねじ曲げ、ベルがその間に突進したりなどの共同攻撃が行われるもシモンは焦りの表情を一切浮かべる事無く優雅に捌いていくと両手にそれぞれ構えた妙な拳銃と片手剣を軽やかに使いこなす。

 ザインはシモンが放った無数の弾丸を可能な限り回避するも一部の弾丸は身体に直撃。ベルはシモンの扱う鬼のような素早い目にも止まらぬ早さで血が吹き出す。

 端から見れば圧倒的な実力と言わざるを得ない状況に至っているのであった。しかし諦めを知らないザインは直撃した弾丸の痛みをグッと堪えて立ち上がる。こんな所で倒れてしまえばエイジに顔向け出来ないと判断したからである。


「まだだ、俺はお前を必ずや倒す。その為にエイジ達を先に行かせてたんだからな」


 ヨロヨロになりながらもザインは指を噛み千切って素早く地面に魔法陣を描くと両肩にバルカンなどの重火器を搭載している召還獣クラシャーをその場に呼び寄せ一斉射撃の命令を下すとクラシャーは命令のままに持てる力を全て出しきって銃弾を大量に発射する。

 しかし、未だに余裕の態度を浮かべるシモンは正面に手が開いている状態で構え魔術を出す為の必要な詠唱を素早く行う。


「劣等種が!我が誇り高き護りに屈しろ!」


 シモンの正面に大きな白色の円が大きく広がるとクラシャーの放つ全ての砲弾に貫通する事も無くいとも簡単に撃ち尽くされる。

 さすがに余裕が無くなった表情を浮かべるザインはいつになく、まずいと感じている表情を浮かべて焦り出す。


「くそっ!やはり実力に差がありすぎたか!このままじゃあ、俺達は地獄とやらが平和であるように祈るしか無さそうだぞ」


 今の内にサクッと手短に終わらせようとするシモンはじりじりと確実にゆっくりと倒れているベルに近づく。

 しかし近づいてきた直前にベルは地面に落ち着いている大剣を取るとすぐシモンの背後へ回って攻撃を仕掛けるも咄嗟に気づいていたシモンは後ろに一回転してから未だに余裕を見せつける。


「まさか、背後とはね。良い速さですが……詰めが甘い」


 骨にひびが入りそうな程の強力な足蹴りに直撃するベル。悲鳴をあげそうになりながらも何とかギリギリで堪え忍んだベルは今までルナの膨大が激しい事で封印していた雷の最強魔法を放つ事を決意する。


「このまま死ぬなんざ許されない。せめてお前だけでも……あの世に逝きな」


「劣等種風情が、お前達雑魚は私に潔く殺されれば良いのだよ!今後の崇高なる未来を紡ぐ為にな!」


 シモンは再び召還獣に合図を送ると一斉に召還獣は行動を開始する。しかしボロボロの身体で起き上がるベルは一歩も引かずに詠唱を開始する。

 その間にザインはシモンに上手く間合いを取りながらも詠唱の時間稼ぎのサポートに移る。


「とっとと終わらせろ!俺がシモンとギリギリ相手をしている間に!」


「そんな事、分かっている!今しばらく相手をしていろ」


 明らかな時間稼ぎ行為だと心で悟ったシモンはほくそ笑む。こんな絶望的でどう考えても勝てる筈が無い状況下で有利になれるとは現段階に置いてあり得ないと判断したからだ。

 そういう事でシモンはわざとザインを挑発に乗りながらも心の底からバカにする。最後の決死の悪あがきをじっくりと拝めて終わり次第、鮮やかにそして後悔残らずに綺麗に仕留めようと。

 やがて詠唱らしき言葉が終わるとベルは大股に開いて両手を前に広げる。するとこれまでに無いくらいの特大の黄色を施した魔方陣が展開していく。


「粉々に砕け散れ!ボルト・マックスゥゥゥ!」


 魔方陣から放たれた特大の雷があちこちに散らばり、さっきまでこちらに目掛けて襲い掛かる使徒にコントロールされている召還獣はこれ以上に喰らった事が無い位に大ダメージを浴びたのか一同に倒れる。

 これには楽観視していたシモンも舌打ちをして距離を取るも、ベルは満面の笑みで特大の魔方陣を更に大きくしてから両手を前に突き出すと全体的に雷を莫大に纏っている龍がシモンに向かって突撃していくとシモンの身体は直に直撃する。


「ぐっ、今のは少々侮ってしまいましたね」


 剣を床に突き刺し、膝をつくシモンに好機と捉えたザインは前に赴き頭上にありったけの弾丸を撃ち放つ。

 そして弾丸を頭上にたっぷりと溜めたザインは一斉射撃の合図を声に出す。


「ぶっ倒れろ!俺の撃ち放つ銃弾のシャワーでな!!そして!」


 2丁拳銃を宙に投げつけ、2丁拳銃は1つの砲身が長い新たなる銃へと姿を変えていく。

 ザインはその銃落ちた銃を両手に構えて今まで出しきっていなかったルナを解放する。


「こいつで逝けや!べリアル・ブラスト!」


 トリガーを引くことで砲身から壁に穴が空く程の絶大な威力を誇った弾丸と頭上に溜めた弾丸を一斉に放射する。

 これにはシモンも余裕が無くなったのか、手加減していた力をその場で解放して手のひらからアルテマ・カノンという強力な光線を撃ち放つと力は互いにぶつかり回りを巻き込む衝撃波が襲うとベルは巻き込まれる形で壁に飛ばされザインとシモンは床に転がりまくる。


「まだ私は……こんな所で倒れるわけにいかないのです」


 ザインの攻撃で身体中を痛めつけられたシモンは何とか身体を起こして、足を引きずりながらも倒れているザインの方へと向かってゆく。対してザインは起こせない身体で強気に出る。


「なんで、変なしがらみに縛られるのかね?こんなやり方……面倒くさいだけだろうが。成し遂げたって、どうせ何も残らないだろうによ!」


「黙りなさい!全ては我々の崇高なるイスカリアの偉大なる計画に準じて私は付き従うままです!」


「はっ!言いなりかよ。お気楽な事だな!」


 ザインの態度に底から気に入らないのか怒りの表情を浮かべて銃弾に撃たれた血塗れの足に痛みを堪えながらも剣の矛先をザインの顎に突き付ける。そこでザインは勝ったような表情をシモンに向ける。


「なんだ?何故この状況下で余裕を浮かべていられる?あなたは死ぬのですよ……志半ばで」


「いいや、死なねえよ。俺は最終的にはビックな金持ちなるまではそう易々と天国という名の片道切符には乗車しない」


 ザインはニヤリと意識を混濁とさせながらも、壁に埋もれさせておいた銃弾の軌道を己の意思で修正して一瞬の早さでシモンの胴体に打ち付けるとシモンは血をありったけに床に垂らし、その場に倒れる。

 全ては最後の最後に油断したシモンを貶める為の苦肉の策。ようやく勝てたザインは壁に打ち付けられ、何とか身体を起こしたベルの助けで起き上がると満面の笑みを浮かべる。


「さっきまで俺達を見境無く襲い掛かる召還獣は消え、あんたもノックアウト。この勝負、どうやら最後まで抗った俺とベルの大勝利だな」


「ふっ、私を倒した所で意味は無い。イスカリアが事を成し遂げれば……世界は我々の思うがままに!そして、我々を苦しめた劣等種は…………消え去るので……す」


 自身の思いを告げ、命を無くしたシモンは粒子となって消え去る。その光景を見守ったザインとベルは哀れだと思いながらもエイジとレグナスが突き進んだ道へと歩く。

 まだこんな場所で倒れている暇は無いと。そう自分の中で言い聞かせて。


※※※※


 窓に映る月の力を利用したユダヤは獅子のように突進していく。俺は絶え間無く止まらない斬撃をギリギリのラインで避けつつ、猛攻撃を仕掛けるも相手は一度俺が敗北されたユダヤ。そう簡単に落ちる筈が無い。

 それに剣を振る度に俺の中に元々宿っているルナが枯渇していくような気がしてならない。くそっ、この女の力はやはり大量に消費していく。このままだとルナが枯渇してレーナの力が発揮されなくなる。


「おらっ!どうした!威勢が良かったのは最初だけか!」


「そんな訳ねえだろ!俺は今度こそ新たに手にした剣でお前を真っ二つにする!お前の顔がもう二度と見えないくらいには!」


 と言っているが、実際の所は大分呼吸が乱れていやがる。こんな大事な場面でぶっ倒される訳にはいかねえんだよ!だから、まだ立ち上がれ!


(息が乱れすぎ。落ち着いて対処しなさい)


 そんな事、鼻から知っている。だがどれだけ攻撃を当てようが平気な顔を浮かべて次々と目にも止まらぬ俊敏な動きで翻弄する以上、落ち着かせる暇すら無いんだよ!


「脆い、脆い、脆いぞ!お前の昔のあの目付きを俺に見せてみろ!」


 昔だと?その時は確かお前の事をまるで作業のように片付ける鬼神だと感じていたがーー!?


「このまま反撃しないならば俺直々に人生の幕開きをお手伝いしてやるよぉぉ!」


 頭上に高く跳躍しやがったか!恐らくこの高さからの奇襲を真面目に喰らえば生きている保証は無い。ここで反撃の手を加えなければ確実に死ぬ。

 なら、レーナに悪いが力を絶対に貸して貰う!こいつだけはどんな事があろうと殺さなければならないからな!世界とかそんな命運なぞ俺には知らん。

 俺は俺で自分のするべき事に力を捧げる!その為にはどんな事でも無理矢理に利用する!


(レーナ、必殺技を教えろ!今すぐにだ!)


事は一刻を争う。こいつからなにがなんでも聞き出してやる。そんな俺の焦りをレーナは汲み取ったのかやけに素直に教えてくれた。


(仕方無いわね。なら私直々に教えてあげるわ) 

 

 やけくそだがここはこいつの持つ必殺技で対応する。多少のルナの莫大なる消費はやむを得ない。

 頭上から大剣を俺の顔面に狙いを済ませるユダヤに対して俺は黒い剣を後ろに構えて力を研ぎ澄ませてから大剣がぶつかる寸前で一気に大きく振り下ろす。


「レイヴン・クラスター」


 剣先から闇のような禍々しい力が盛大に離れるのと同時に膨大な威力がユダヤに向かっていく。

 ユダヤは瞬間的に自らが誇る大剣で防御して防ぐ。ふっ、今なら好機。ここで一斉にぶつけてやる!

 俺はただただ無心でユダヤに何度も何度もありったけに斬りつけると後ろに下がっていくユダヤは再び大剣を大きく頭上で回転させると気性を荒くして激しい動きで迫っていく。


「俺に敗北は無い!あるのは勝利!その為にも盛大に俺の血をたぎらせ盛大に華々しく散っていけ!」


 誰が散るかよ。最後に存在ごと散るのはユダヤただ一人だ。俺は負けない!てめえみたいな戦うだけの権化に!


「終わらせてやるよ。お前の人生その物を!」


「終わるのはお前だ。俺は生き残る!強者だけが生き残りそして俺が暴れまわって自由に戦える圧倒的に張り合いがある世界を!」


 うぐっ、こんな時に。今はまだ……


「はははっ!どうした?さっきの威勢が嘘みたいに消え失せているぞぉぉ!」


「がはぁ」


 ちっ、さすがにさっき放った奥義に対するルナの消費量が大きすぎたか。

 段々と剣に力が籠らなくなった俺は壁に吹っ飛ばされてからしばらくして人型になって出てきたレーナが困った表情で俺の顔を見つめる。


「ルナの枯渇。私を扱うには時間制限があったのね。全く無表情かつ無愛想なレグナスは体力が無さすぎよ」


 お前、それは俺を馬鹿にしているのか?お前には一度ルナを吸われる俺の身になって欲しいもんだ。

 俺になれば気持ちが変わるだろうな。しかし心の中で幾ら愚痴ろうがレーナの態度と事態は根本的に変わりはしない。何とかして事態を切り抜けなければ確実に死が待っている。

 だったらどうにかルナを回復させて再びアイツに必殺技を直接身体に叩き込ませる。その為には……くっ、まずい!止めを刺しに来やがった!今は避ける事に専念する。


「レーナ、ルナの力が一時的に取り戻せる方法を考えろ!俺はこいつの攻撃を避ける!」


「考えは幾つか浮かんでいるわ。あなたの身体に眠りしルナを再び目覚めさせる良き方法をね」


 あるのかよ。なら、さっさと実行するに限る。


「でも嫌だわ。そんな事……知り合って間もないあなたに対して気軽に!?」


 くそ、レーナに攻撃を当てて来やがったか。レーナが万が一にでも殺られたらエイジに顔を会わせられない所か対処法が無くなって確実に詰む。それだけは絶対にさせねえ!

 俺は考えるのを止めて一気にレーナの元まで走っていくとしばらくして俺が近づいた事に気が付いたユダヤはそれでもレーナを必要以上に追い詰める。

 レーナは背中から黒く染められし両翼を出して苦し紛れに後退していくが段々と壁際に追い詰められるという事には気が付いていない状態。

 ユダヤの野郎、どうやら先にレーナを始末してから残りの戦う手段が無い俺を片付ける算段か。

 そんな計画は俺が阻止してやる!


「くっ!」


「さらばだ、女。お前を消して力を与えた青年を楽に殺す。その為にも華々しく散れぇぇぇ!」


 この遠く離れた距離だと走っていこうが永遠に間に合わない!なら、俺が出せる力を出しきって加速魔法を解き放つ!


「疾風よ、風のままに加速しやがれ!」


 足に少しだけあると思われるルナを回して僅かながらに加速していく。これで間に合えぇぇ!


「レーナ、手を出せ!」


 俺の声に躊躇わずに手を出すレーナを前に抱えてから俺は背中を向いてユダヤからの一撃を直に味わう。

 余りの痛さに声をあげそうになったが歯を噛み締めて再び加速魔法で距離を取ってから思わず抱き締めてしまったレーナを即刻離す。

 さすがにさっきの行為は殺されるかと覚悟していたが……殺される所か顔がやけに赤くなっているみたいだ。どこか体調でも崩しやがったか?今ここで倒れられても困るんだがな。


「おい、どこか怪我したか?こんな場所で倒れるなよ。俺にはまだお前の力が必要だからな」


 おい、一応心配してやっているのになんでそんなに呆れた表情を浮かべているんだよ?言っておくが俺はお前が殺されないように俺の一部を擬制にして守ってやったんだぞ。少し位は感謝を述べられないのか?


「あなたって変な所で格……何でも無いわ。可及的速やかに終わらせましょう。こいつの薄汚い逆なで髪を見るのは飽きたから」

 

 なにか言いかけていなかったか?いや、そんな事は後からでも聞ける。今はユダヤの存在を抹消する為には一刻も早くレーナと共に終わらせるだけだ。


「そうだな。俺もお前の意見には大いに賛成だ。さっさとお前が渋っている案で終わらせるぞ!」


「えぇ、でも」


 こいつ、さっきから変な所で渋りすぎだろ。それしか方法が無いんだったら早く教えろ。


「俺は死ねない。お前も……死ねないだろ?なら実行に移すしかない」


 面倒な女だ。これで納得すれば助かるが。俺は半ばやけくそに説得して表情を窺うとレーナは諦めたのか溜め息を1つばかりついた後に決心が決まったのか俺の顔を見つめる。

 なんだ?今から俺は何をさせられるんだ?なるべくなら面倒事は避けて欲しいが。


「目を瞑りなさい。瞑らなければ死体としてこの場で埋葬してあげる」


 言う事を聞かずに埋葬される位なら目を瞑る方が遥かにマシだ。俺は仕方無しに目を瞑る。何をされるのかは全く……!?

 なんだ、これ。生暖かい舌が俺の舌の中に……いや、それどころか舌と舌が混じりあって。


「んっ、ちゅ」


 この野郎……こんな状況の中で何をしてんだよ!さっさと俺の口を離せ。

 俺はがむしゃらにレーナを引き裂こうとしてみたがしばらくすると今までに無い心地良い感覚が動きを妨げる。

 俺とレーナは互いに唇を重ねて幾分かの時が過ぎると用は済んだのかレーナから離れるとお互いの唾液が地面に垂れていく。

 その際にレーナの顔が林檎のように真っ赤になっている事は誰が見ても分かる事だった。

 とはいえ俺も顔が赤いかもしれない。絶対に認めたくないが俺の頬が妙に熱いからだ。


「お前、何してんだ?」


「ルナを直接送るにはこれが手っ取り早いのよ。本当は、本当は!したくなかったのだけれど!まぁ、助けてくれたお礼みたいな物よ」


 なるほどな。確かにさっきの……行為とやらのお陰で俺の中に宿るルナが不思議とあるように感じる。

 これならもう一度力を振るえると確信した俺は再度レーナに手を伸ばそうとした時にユダヤは俺が今まで一度も聞いた事が無いほどの大爆笑を始める。


「はははははははっ!お前達二人で何を仕出かすかと思えば……急に発情するとはつくづく愚かしい奴だな。俺に殺されると悟っての発情行為か。哀れで醜いな」


 ふっ、悪いな。俺は発情とやらでやってもいないしレーナからやってきたんだ。だが、この行為とやらで俺にはかつてない程の力を感じる!


「レーナ、ユダヤを葬る。こいつを終わらせる力を寄越せ」


「えぇ。一緒に終わらせましょう」


 再度手を繋いで俺は人型のレーナから剣へと姿を変えていく新たに形が少々変化した黒い剣をユダヤに突きつけるとユダヤはやる気に満ちた表情で同様に大剣を突きつけてくる。

 しばらくの静寂が過ぎた頃に俺から一気に近づいて勢いをつけて振り下ろすとユダヤは平然とした表情で守りに徹するが俺の剣に押されていく事に動揺を隠しきれていないようだ。いける、いけるぞ!これなら……奴に勝てる! 


「終わらせてやるよ、お前の命を」


「冗談じゃない。俺はまだ終われない。こんな場面で俺はぁぁぁ!」


 俺の挑発を素直に聞いている時点でお前に余裕が無い事は分かった。


(私があげた力を存分に奮いなさい!無駄死には絶対に許さないわよ!)


 無駄死にだと?はっ、俺がそんな野暮な事をやるかよ!お前が仕方無しにやった行為を無駄にする程、俺は恩知らずじゃねえ。

 今度こそ、この一撃で消し飛ばす!


「レイヴン・クラスターー!」


 威力が増した闇の禍々しい力を纏いながら、俺は何度も何度も何度でも隙だらけのユダヤに直接これでもか切り刻んで最後に重い一撃を振り下ろすと砕けた大剣と共に身体に大きなダメージを直接喰らったユダヤは遂に膝をつく。そして自らが敗北を悟ったのか勝利を得た俺にわざわざ賛辞を送る。


「お見事。お前はやはり……俺が気に入って生かしただけはあったな。本当に良き好敵手に巡り会えた」


 お前にとっては。俺にとっては強くなり呪いという名の痛みを与えたお前をただただ殺そうと思った憎き存在。


「だが後悔しろ。我々という気高く誇りある存在を殺した事で更なる災いが招く事に」


「それを防ぐのは俺達人間で充分だ。お前達はさっさと永久の眠りにつきやがれ。二度とその姿を俺に見せるな」


「くはははっ、手厳し……いな」


 粒子となって消え失せたか。これで俺の為し遂げたかった事は半分以上出来た。後はアイツを追いかける。まだ休憩するには早い。


(行きましょう。エイジが心配だわ)


 そうだな。早く行くに限る。今から向かうには時間が掛かるが。


 それまでには無事に生きていろよ、エイジ。 

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