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(ⅩⅩⅩ)帰るべき居場所へと

 目の前には僕よりも遥かに高く、そしてこれでもかと言わんばかりの大きな門が身構えている。ようやく皆の力でこの場に来れたんだ。


(終わりの時ですね)


 スノウを助ける為に、そして何よりもイスカリアに利用されたミナト兄さんの仇を取る為に僕は退けない。

 正面の門を開けてしまえばかつて無い戦闘に僕は僕で無くなるかもしれない……けれど簡単には退けない。

 この場所に今立てているのはベルやザインそして僕を何だかんだで信頼してくれているレグナスの助力があってこそ。


「ここまで来たからには勝ちにいこう」


(はい、勝ちましょう!絶対に!)


 門を開ける。そこは舞踏会のような大きく広々とした部屋ではあるが、どこか居心地が悪い部屋の雰囲気が出ている。そしてその奥の椅子に座っているのは僕を快く待ち構えている全ての元凶イスカリアとシモンによって心を黒く染められた黒髪のスノウが無表情でイスカリアの隣に立っている。


「これで私の想いは実現するという事になるかな。今冷静にふと立ち止まった時、お遊び抜きで私が血眼になって探せば良かったと後悔しそうだが……過ぎた事に悔やんでも致し方無い。どうせ、今日という日に実行を移せば晴れて理想郷であるユートピアが築けるのだからな!」


 実現なんてさせるものか。そんな事は僕がさせない!手元に持っている大剣の刃先をイスカリアに向けるとさっきまで隣で無表情に立っていたスノウがイスカリアの正面に出てから僕の方へと向かってくる。

 僕は試しに何度かスノウを呼び止めようとしたけれど、そう簡単にはいかずスノウは足を止める事無く向かってくる。

 ぐっ、こうなったら僕が直接スノウの心に訴えるしかない!


「対象者、発見」


「スノウ、目を覚ましてくれ!」


「幾ら泣き叫ぼうが無駄だ。すでにこの女は我らの駒として動いてくれる存在。今さらどう足掻いた所で取り戻せはしない。さて、時にエイジ・ブレインよ。我々の理想を叶えるお手伝いをしてはくれないだろうか?この醜くそして哀れなる世界を今一度新たにゼロから立て直す、より良き世界を創造する計画を」


 それはあなた達のやりたい自分勝手な計画に過ぎない。そんな事をすればこの地上に住む全ての生命体が滅びてしまう。

 勿論僕の妹であるユリンと母さんも……居なくなる。だからこそ、今度こそは目の前で自分勝手な計画を実行に移そうとしているイスカリアを絶対に倒す。

 これは世界の平和とミナト兄さんの仇を討つためだ!僕は真っ赤な紅色をした大剣の刀身をイスカリアに突きつけて前面に走っていくとやはりイスカリアの隣で僕を警戒しているスノウが黒色になってしまった鳥型の召還獣グールを呼び出して迷い無く攻撃を開始する。お願いだ……頼むから、そこをどいてくれ。


「ボス、対象をどうしますか?」


「生け捕りだ。エイジ・ブレインは必ず生かせ。エイジの構えている剣は粉々に砕いても良しとしよう」


「承知しました」


 スノウは後ろに大きく引き下がってグールとルーンという召還獣と身体を共にする一体化魔法で合体するとスノウの背中から黒い羽根が大きく開かれる。どうやら、スノウは一切を持って躊躇いは無いみたいだ。どうにかして僕からスノウの意識を冷まさせないと……本当に取り返しがつかなくなる。


「対象者を生け捕り。即刻開始します」


「やめろ、スノウ!君は奴等に操られーー」


「ふふふっ、これは良い見世物だ。中々に絶景。君の愛しき人物と不本意に殺し合う戦はエレガントと言えるだろう!」


 スノウは空高く上がると両手から黒く染められた魔法陣を展開すると膨大な黒色の雪がシャワーとなって大量に降り注いでいく。

 僕は大剣をこれでもかと何度も何度も振り払うとスノウは僕の元に接近しながら服の両腕の裾からルナの力で形成させたと思われる刺さると確実に血は免れない黒色の氷柱を取り出して素早く切りつける。

 当たると危険だと判断し目で追いながら何とか避けていこうとするが、息を全く切らせないスノウは長時間に及んで切りつけてくる。

 お陰で僕の身体の一部に氷柱によって当てられ出血してしまった身体の一部分が地面に止めどなく落ちている。

 どうしよう?確かルーンの活動時間には限界があると聞いていた気がするけど、今のままでは強制解除する前に倒れてしまう恐れが高い。

 そんな僕の悩みとは余所に何が楽しいのかイスカリアは腹を抱えながら笑い出す。


「エイジ!もう限界が来ただろう?今この場で土下座して手を貸してくれれば、君の愛しき人物とやらの意識を正常にしてやろう。さぁ、どうかな?」


 これは脅しだ。この言葉に惑わされて従ったりでもしたら……世界いや地球は間違いなく破滅する。

 だから、僕は甘い言葉の誘惑には決して従わない。例えどんな言葉で言いくるめられても!イスカリアの言葉に僕は惑わされない!


「悪いが、お断りだ!僕は僕のやり方でスノウを取り戻してみせる」


「さっきも言ったとは思うが……その女は既に我らの手駒となっているのだ。どうにかして助ける事は不可能と言って良いのだぞ」


 あなたの妄言には従わない。


「スノウ!いい加減にしてくれ!僕はエイジ・ブレインで何よりも君の恋人になった男だ!そんな僕達が殺し合うなんて……君も望んでいないだろう!」


「っ!」


 動きが一瞬止まった?今なら説得できそうだ。僕は動きが止まったスノウに飛び込もうとした時に横槍の攻撃が降り注ぐ。やっぱり僕の邪魔をするのか……イスカリア!


「困るな。そんな事をされたら、非常に面白くない」


「邪魔をするな!」


 動きを妨げるイスカリアに一声を上げるがイスカリアは僕の声を無視してスノウの耳に囁く。


「どうした?目の前の敵を捕らえろ。奴は我々の壮大なる計画を破綻せんとする許しがたい青年だぞ」


 イスカリアの囁く声にスノウは……動かない。スノウの中で反抗心が芽生えているのか?


(エイジ、スノウを直に抱き締めて説得です!今なら取り戻せます)


 クレインの言葉に迷わず僕は動きが止まっているスノウに飛び込むが、この状況に気に入らないイスカリアは手のひらから複雑な線と見た事が無い魔法陣を前方に出すと広範囲に広がる巨大な黒い光が放射をする。

 かなりの速度に避けらないと思った僕は大剣を正面に掲げて身を守る行動に入るが余りにも強大な力に耐えきれず何回転も転げ回るとイスカリアは殺意を向けた表情で裾から伸びている緑色を施した剣で複数回に及んで切りつける。

 くっ、今の状況ならスノウを取り戻せるのに……どうして邪魔をするんだ!


「命は奪わんよ。私は何としても君の中に宿る力を利用して実行しなければならないからな。それに折角シモンが手に入れた人材を無くすのは面白味に欠けるからねぇ」


 この歯痒い状況、何とか突破口があれば助けにいけるのに!

僕はイスカリアと互いに睨み合いながら攻防戦を繰り広げていくとしばらくして誰かが無理矢理に入り口の門をぶち破る音が聞こえると共に後ろに髪を括っている青髪の人物が目に写る。


「レグナス!」


「ボサッとするな!いつまでも耐えれる保証はねえぞ!」


 すまない、恩に着る!後はスノウの中に閉じ込められている本来のスノウを呼び戻すだけだ。

 僕は無我夢中で全速力で頭を痛めているスノウに向かって抱き締めてから呼び掛ける。


「スノウ、ごめん。随分と待たせてしまったね。けど、これからは……死ぬまでは永遠に一緒だ。これだけは約束する。だから……戻ってきて欲しい」


 頬から涙が一粒こぼるとたちまちに粒がポタポタと流れて行く。そして僕の想いが届いたのかスノウの髪は本来の色である雪のような綺麗な白色を取り戻す。


「謝るのは私。本当に迷惑を掛けてしまって……ごめんなさい!」

 

 もう、良いんだ。これで君を取り戻せたのなら何も問題ではない。原因は僕にあった。

 もっと前からスノウの安否を確認するべきだったんだ。それを怠ったばかりに今回の一件を招いてしまった。責任は僕にある。

 でも、今は余韻に浸っている状況じゃない。

 最後にボスの位置に君臨するイスカリアをこの手で倒す!スノウとゆっくり話すのは倒してからだ!


「おのれぇ、私の駒を……どうやら、君は私を怒らせるのがお得意なようだな!」


「私を好き勝手に弄んだ罪、必ず償って貰います!」 


 スノウという便利な手駒を失った事により、更に戦意が増したイスカリアは一瞬でレグナスを壁際まで吹き飛ばしてから両腕の裾から伸びている緑色に光る刃で息を切らせる事無く凄まじい速度で切りつけてから、距離を取って宙に浮かぶ無数の球体を満遍無くぶつけていく。

 その間にスノウは距離を取って同じく無数に散らばる氷柱を一斉に放つがイスカリアは見えているか、優雅に避けていく。

 一方の僕は予想をつけながら頃合いの瞬間にイスカリアの腰辺りに一撃を入れるとダメージを少々受けたイスカリアはヘラヘラと奇妙な笑いを口に出す。


「くっくっ、あははははっ。お見事。やはり私を殺したあの憎き男にそっくりな所はあるな。奴は決意とやらを決めた時は手がつけられない状況にあった」


「終わりにしましょう、あなたの存在は世界から必要とされていない。勿論あなたが散々に馬鹿にする人間にも必要とされていないでしょう。これで詰みです」


「全く今日は冴えていない。私の計画と存在を消すというのか。

私を殺せば世界は再び戦争が始まる……人は過去の出来事から何も歩まないからな!!」


 例えあなたの言う通りになったとしても、誰かが道を正す。きっと必ず……だから!


「滅べよ、イスカリア!」


「まだまだ終われんよ」


 イスカリアは裾から伸ばしている緑色に光る刃の刀身を更に伸ばして直線に振り下ろして威力を見せつけてから僕の方に狙いをつけて切りつける。


「うぐっ!」


 しまった。かすっただけでも鋭い痛みが走るのか……どうにかして近づかなければ。

 どうにも手詰まりな状況に壁まで飛ばされていたレグナスが身体を起こして黒い剣をこちらに投げつけてきたので僕は慌てて受け取るとレーナは甘えた声で語りかける。


(エイジが私に触れているわ。なんか気持ち良い)


 無心になるんだ。無心に。


(エイジ~。久しぶりなんだから、もっと喋ってよ)


 喋っている暇は無い。今はイスカリアに執拗に迫られている最中に君と話し合っている時間なんて無いんだ。

 それに君には色々と過去に仕出かした罪がある。そう易々と楽しくお喋りなんて到底出来ない。

 ただ……レーナの力が加わった事で僕の力が増幅されているような気がする。これなら勝てそうだ!


「そいつの力を組み合わせて潰せ!お前なら出来る!」


「エイジ、勝って!世界の為に」


 レグナス、スノウ。分かった……僕はこの力を使って世界の歪みと化したイスカリアを倒して世の中を取り戻す!


「クレイン、レーナ!これが僕にとっての最終決戦だ!出し惜しみ無しで一気に叩き潰すよ!」


(了解です)


(決意に満ちた表情も最高ね。良いわよ、遠慮無くアイツをぶっ殺してやりましょう♪)


 以前僕の相方を務めていた人型召還獣レーナとレーナによって作られた人型召還のクレイン。

 この二人の力が組合わさる事で僕はこれまでに感じた事の無い強さを身体全体に感じる。

 背中には四方に展開する漆黒の翼、そして手にあるのは黒い剣と紅い剣が半分に混じり合う不思議な片手剣。


(エイジ、これがマスターと力を合わせる事で完成された想いの力です!)


「なっ、なんだ……何故そんなに強い力を、この偉大なる力を誇った私に見せつけるのだ!!」


 いける。いけるぞ!これなーー


「ぐぁぁぁぁ!」


 身体全体から伝わる耐えがたい強烈な痛み。それだけならまだ大丈夫だと言えるけれど……もっと根本的な問題がある。

 それは右目の視力が僅かながらに低下している事と身体に痺れがある事。

 原因は多分ルーンという一体化させる魔法をクレインとレーナに二重で重ねている事が原因かと思われるけど……この状況下に対して僕は簡単には引き下がれない!

 激しく増していく痛みと右目の視界がぼやいていく身体を無理矢理に我慢しながら僕は全ての力を持って、黒と紅が半分に混じった剣を大きく振りかざす。

 すると一瞬の速度で床が吹き飛んでいくと同時に耐えきれないイスカリアが後ろに倒れ込む。しかし諦めを知らないイスカリアは歯を噛み締めて前方に立ち上がる。


「終わりです。これからは僕達人間が世界を、時には間違えると思いますが正しく導いてくれると信じる事にします」


「我々使徒は君達より素晴らしい楽園を築き上げるというのに。なん足る愚かしい行為を……エイジ・ブレイン。君は一生を後悔する末路を辿る!」


 楽園なんて自分勝手な都合と言いようがない。僕達は楽園じゃなくて一人一人が健やかで充実した日々が送れる豊かな暮らしを望んでいるに過ぎないんだ。だから、世界を乱すあなたには!


「永遠にそして永久に消えて貰います!僕の……一撃でぇぇぇ!」


 剣から今まで以上の莫大な力が刀身から漏れ出す。僕は緑色に光る刃を両腕の裾から伸ばして一直線に切りつけようとするイスカリアに対して僕は深呼吸をしてから大きく振り上げて放つ。

 

 ミナト兄さんに託された想いを運んで。


「アルティメット……バスターー!」


 黒と紅が混じり合う閃光が一直線に吹き飛んでいくとイスカリアの身体に問答無用で直撃。

 攻撃を直に喰らったイスカリアはもがき苦しみそしてありのままに叫ぶ。自分が何としても為し遂げたかった計画の無念を。


「私はぁぁぁ!完成させるぅぅ!君の力でぇぇ!世界を新たに創る偉大なる計画を!ぐぉぉぉぉぉ!」


 イスカリアの身体は粒子すら出さずに綺麗に木っ端微塵に形すら無くして消滅する。

 そしてしばらくして城がぐらぐらと揺れ始める。どうやら、この城は主を失った影響で崩れ始めるみたいだ。

 何とかして早く逃げないと!ようやく念願のイスカリアをこの手で倒した僕はクレインとレーナを元に戻して、遠くで見守っていたレグナスとスノウに近づき一言礼を告げてからスノウに手を伸ばす。


「帰ろう」


「うん!」


 後からボロボロの身体で合流を果たしたザインとベルがこの場所に来てから、全員集合を確認したレーナは再び僕の血を使って転移魔法に使う魔法陣を描いて発動すると魔法陣の周辺は目映く紫色に輝く。


 さぁ、戻ろう……僕達が居るべき居場所へ!

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