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(ⅩⅩⅦ)使徒の根幹。幕は終わりへと紡がれる

 レオナルド・ブレイン。僕とミナト兄さんとユリンを小さい頃に育ててくれたと言われている父親。

 僕は物心がついた頃に部屋の棚にある写真立てでそれらしい人物を見ただけに過ぎない。

 というのも父の印象はそれほど強く記憶に残されていないから。ミナト兄さんがレオナルドという人物と母の話を聞かなければ恐らく一生思い出さずに過ごしていただろう。

 とにもかくにも母でありマリーとレオナルドが出会いを果たしたのは今から20年前に遡る。この当時マリーは20歳、レオナルドは25歳。

 二人の出会いはジェネシス王国……では無く僕と兄さんが最後の決戦で挑んだ場所であるバラーズヤード。

 レオナルドは偶々ぶらぶらと歩いている最中にマリーを見て一目散に話し掛けたらしい。一方のマリーも話し掛けたレオナルドに対してにこやかに談笑する。

 

 きっと両者共に一目惚れならぬ両思いだったのだろう。


 レオナルドはマリーと呼び、マリーはレオという愛称で呼ぶ二人は互いに強く惹かれ合いそしてさほど時間を掛けずに最初に出会いを果たしたバラーズヤードでレオナルドから愛の告白を伝えるとすぐに婚約を果たすことになり、1、2ヵ月後にはミナト兄さんが産まれて後の数年後には僕とユリンがこの世に誕生する。

 しかし、その際にある呪いがここにきて苦しめられるレオナルド。

 もう充分に幸せに生きただろうと満足したレオナルドは僕達三人が就寝している時間にマリーに対して真実を打ち明ける。


「俺は……あなたよりも100年前、危険分子である使徒と対峙していた者なんだ」


 レオナルドの真なる正体。それは100年前に使徒と死闘を繰り広げてた伝説と至らしめた魔術使い。

 生前に組んでいた5人の魔術使い共に使徒イスカリアと激闘を繰り広げて無事に勝利を果たしたレオナルドであったがイスカリアの死に際に放った不吉の言葉に奴はまだ生きる可能性が充分にあると悟ると自身にある種の魔術を施す。

 魔術の名前はリカバリー・ネバー。100の年月が過ぎようと決して老いたり死ぬ事が出来ない最悪最強の魔術。

 しかしここに来て遂に抗えない死の摂理が襲い掛かる。話をしていく内に堪えきれなかったレオナルドは泣きながらマリーにすがる。


「今日まで、死にたくないと思っていたのに!何故!何故俺は!死ななければならないんだぁぁ!」


「レオ……こんな話を聞いて正直嘘だと思いたい。けれどあなたの表情と言葉に嘘はついていないと見受けられるわ」


「あぁ、恐らく数週間でこの命は果てるだろう。その前に……」


 レオナルドは一旦なんとか落ち着くと、僕達三人が寝ている部屋に訪れて一人ずつ寝顔を確認すると決意を込めた表情でマリーにある決断を下す。


「マリー、俺は死ぬ間際にエイジに力を託す。温厚な性格をしているエイジならいかなる状況下に置かれても今後再び現れるかもしれないイスカリアを冷静に対処出来る」


 レオナルドの決意は端から見れば、息子であれなんであれ身勝手な行為。いくら温厚なマリーでもさすがにレオナルドの意見に口を出す。


「レオ、まだまだこれからどうなるか分からないエイジを巻き込むつもりなの?」


「身勝手だと言う事は百も承知だ。だが……いざイスカリアがこの世に姿を現した瞬間、今度こそ世は滅びる。俺はそんな崩れ去る世界を見たくはないんだ!!」


 レオナルドは歯を噛み締めていた。これは身勝手で横暴で僕に許可無く世界を賭けた重大責任を押し付ける行為であると。

 しかし、自身の力を託さずに天へと登り数年後にイスカリアがまたしても復活を果すと世界は永遠の闇へと誘われる。

 今やボロボロに朽ち果て痛みが増す身体では長くは持たないと悟っていたレオナルドは考えに考えて、今宵マリーに打ち明けたのだ。


「自分勝手だと思われても構わない。だが、これだけは言わせてくれ……マリーを含め、俺の息子や娘も愛していると」


「レオ」


「俺を恨んでくれても構わない。だが、エイジやミナトそしてユリンだけは見捨てないでくれ」


「あなたを愛している私が決して恨むはずがありません。けれど……エイジはこれから先見たくもない光景に出会いを果たすのでしょうね」


「あぁ、俺のワガママな理由でエイジは酷い目に逢うかもしれない。けれどエイジなら何とかやってのけるだろう。エイジはどんな時にでも諦めずに立ち向かう強い子供なのだから」


 レオナルドとマリーは互いに目を合わせてから寝ている僕の服を捲ってお腹に呪文らしき文字を手持ちのチョークで描くと魔術を発動すると周辺に目映い光が出現すると同時にレオナルドは僕に対して深い謝罪を語ったらしい。


「赦される必要は無い。エイジ、お前はいつかイスカリアと呼ばれる人間に牙を剥く使徒と巡り会う事だろう。いつかその時が来るまで俺の力を最大限に有効的にそして大いなる敵である使徒に出会ったら……このルナの力を思う存分、扱ってくれ」


 そうか、そうだったんだ。これで僕が何故イスカリアに執拗に狙われたのかが今になって分かった。

 イスカリアは気付いていたんだ……僕の中に伝説の魔術使いであるレオナルドのルナが入っていた事に。

 そして母が死んだと思ってしまった数日後には父であるレオナルドのルナを無意識に扱ってレーナという存在を産み出した。その時にきっとミナト兄さんは確信していたのだろう。


 エイジ・ブレインには異常な力が存在すると。

 

 母さんの話にのめり込んでいた僕。ようやくになって僕の中に宿るルナの謎が解けて、父が託した意思を知る事が出来た僕は改めて通話先に母に決意を伝える。


「母さん、僕は今日この手で倒します。世界の平和を取り戻すために!」


 僕の決意に涙を溢しているのだろうか。泣き声がしばらくの間続くと母さんもはっきりとした調子で僕に託す。


「こんな事を言うのもあれだけど、エイジなら必ずやり遂げれると信じているわ。戦いが無事に終わったら自由に生きてね」


 多分この戦いが無事に終われば僕はクレインを戦闘には使わないだろう。未来永劫に。


「うん、分かった」


「それじゃあ、ユリンに代わるわね。どうもあなたの声が聞きたいみたいだから」


 しばらくして待つとユリンの声が聞こえる。ユリンは僕が戦いに赴いている状況に心配しているようだ。


「エイジ兄さん、私は影からしか応援出来ない愚か者ですが絶対に無事に帰ってくると信じています」


「あぁ、必ず……必ず帰るよ。それじゃあ、もう行くよ」


「はい……」


 通話を終了した僕は再び上空にそびえ立つ立派な敵の城を見つめるとザインは今置かれている状況を説明していく。


「現在、各地で暴れまわる本部の連中は減少傾向に辿っているらしい。一部のまだ教われていないメディアが発表している。本部が壊滅して独立した支部は上手く連携して討伐しているみたいだな」


 ようやく落ち着いてきたのか。後は僕達の手で使徒に引導を渡すだけ。


「遂に終わらせる時間が来たか。もう避けては通れない道だぜ」


「終わりにするぞ。いつまでもユダ……使徒の連中に好き勝手に遊ばれたら迷惑だからな」


「さぁ、愛しきエイジ。いよいよね。これが終われば私とエイジだけで薔薇色の世界にーー」


「ならねえよ。エイジにはスノウとかいう一国の姫が居るからな」


 軽いチョップを受けたレーナは痛そうに擦りながらも、決意に満ちた表情で城を見つめる。

 思えばレーナも初めて再開した時は僕を執拗に狙っていたから、会話する余地も無かったけど今に至ってはかなり落ち着きを取り戻している。これは凄く良いことだ。


「エイジ、どこまでも無限に続く青い空と敵にコントローラされたスノウを取り戻しましょう」


「そうだね。今度こそ僕はミナト兄さんの為にもイスカリアを終わらせる!その為にも……力を貸してくれ!」


「はい!」

 

 クレインと繋がれし力。背中に大きな紅のマントに破壊力が増幅した大剣を手に僕は最後の戦いに今こそ赴く。目指すは上空にそびえ立つ城。倒すべきは世界を自分の思うままに征服するイスカリア。


「行こう!未来を次に繋げる為に!」


 王歴216年4月半ば。僕の中に宿りしルナを奪い取り世界を自分の良いように影から支配していくイスカリアとの最終決戦が今を持って幕が開かれる。


※※※※


 瞳に写るのは多くの白衣を着こなす人間。彼等はカプセルに眠りし六人の試験体にレポートで予め定めておいた名前を名付ける。バルト・ヨハン・シモン・アンドロ・ユダヤ、そして5人を纏めるリーダーに位置するイスカリア。

 彼等は誕生するや否やすぐさま試験に投入されていく。

 試験内容は複雑な物では無くただ単純にジェネシス王国で不正な行いをした者や犯罪を犯した者を正しくありのままに粛正する事。彼等使徒はこのまま上手くいけば世界を均衡していく監視システムとして投入されていく……予定だった。

 

 事態が思わぬ方向へと動くのは試験から1ヶ月後。


 まだまだデータとして必要な試験中にある一封の通達が告げられる。


 使徒の存在は現段階に置いては野放しに出来ない。即刻処分せよ。二日後までに命令に背けし場合、君達研究者の家族を捕縛する……と


 手紙の内容を知り自身には大切な家庭がある状況で王に叩き付けられる手紙。彼等は抗えなかった。

 自分達が作り出した使徒を破棄して家族を守る事に優先した。それを死角から聞いていたユダヤはすぐにイスカリアへと報告。

 イスカリアは絶望をした……人は脅されただけで簡単に裏切ると。

 このまま居れば必ず存在を消されると確信したイスカリアを始めとする使徒は遠くへと逃げていこうとするもジェネシス王国がかき集めた実力がある硬派な連中に執拗に追い詰められた事でイスカリアは惜しくも自分を慕ってくれた仲間を失う。

 そして自身は……志半ばで一番に実力があるレオナルドよって存在を失う。


「何故だ?我々を生み出し不要になれば切るのは何故だ!お前らは世界を影ながら守っていく俺達を無慈悲に処罰するのは……何故だぁぁ!」


「悪いが命令なんだ。お前達は世界に存在してはならない。初めからお前ら使徒は死にゆく定めだったんだ」


 この瞬間、イスカリアの目的は大きく変わる。自らを作り出し身勝手に処分する不完全な人間を塵も残さず消滅させると。

 イスカリアはレオナルドに大剣で真っ二つに切られようとも最後に記憶に残る言葉を残す。


「必ず蘇る!憎き人間全員を我々の手で終わらせてやると!!それまでは首を長くして待っていろ!ふははははっ、ふははーー」


「イスカリア、起きろ。エイジを始めとする連中がなにやら魔方陣を出している」


 夢の途中でユダヤに強制的に起こされたイスカリアは椅子から立ちあがって大きめの窓へと移動して雲の隙間を掻い潜ってみるとそこにはエイジ・ブレインを始めとした幾つかの人間が並んでいる。

 いよいよを持ってエイジから決戦に赴く姿を見たイスカリアは心がときめく。


 ようやく、自分の欲望のままに全力で張り合えると。


「エイジ……良いだろう。いつまでも遠くからこそこそと君を探す為に部下を向かわせるのは時間の無駄だったんだ。だから君が敢えて、そう来るのならば!」


 ユダヤ・シモンはイスカリアのそれぞれの隣に立つ。イスカリアは互いに目配せをしてから、エイジには届かない声で思いっきり叫ぶ。


「来い!哀れな人間!我々崇高なる存在として究極の存在に極めて近い我々が丁重にそして大胆に壊してやろう!特にレオナルドの魂を直に受け継げしエイジには至高のおもてなしを差し上げよう!ふははははっ!」

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