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(ⅩⅩⅥ)過ち・覚悟・真相

 意識は薄れていく……そしてさまざな出会いは消されていく。

その中に1つ1つ丁寧に残っているエイジの記憶。それが無慈悲に壊れ去る。

 そうして壊れていく様をスノウ・ローゼンはただただ遠巻きで見つめるしかない。何故ならどうする事も出来ないから……


「やめて、やめて!」

 

 スノウの叫びは届かず、届くのは一人の知らない男の声。


「染まれ、ただ我々に従う心に」


「いや、いやぁぁぁ!」


 暗闇の中、スノウは必死にもがき続ける。しかし、その抵抗は次第に薄々と無くなり……最終的には殻に閉じ込められる。


 永遠に目覚めない闇の中で


※※※※


 意識をシモンに奪われてしまったスノウは僕に躊躇う姿も無く、背中に張り付けてある十字架から抜け出すと青い鳥であるグールを召還して一斉に氷の柱を僕に向けて解き放つ。

 僕は傷だらけの出血した身体でよろめきながらも避けていくがその間に背後に回り込まれてしまった僕はスノウの強烈な右足で容赦無く壁まに打ち込まれる。

 そして何とか立ち上がろうとするも、時間を与えないスノウは息も整えさせてくれないほどの素早い追撃を仕掛けてきた。

 まさか、シモンに意識を奪われただけでここまでの実力を発揮するとは……末恐ろしい。どうにかしてスノウを取り戻さないと!

「スノウ、よせ!僕だ!エイジ・ブレインーー」


「黙れ、喋るな」


 僕の説得も虚しく、黒髪に染められしスノウは僕を睨み付ながらも宙に舞う無数の氷の柱を解き放つと僕の弱っている身体にダイレクトに直撃する。

 よもや、シモンに身体能力を低下された僕に勝ち目なんて無い。

 このままでは確実に殺されるか計画に利用されるだけだ。そして傍らで見物していたシモンもそれを知ってかスノウを静止させて再び僕に問い掛ける。


「さて、問題です。ここにあなたの守りたい人物が私の力で見事に操られています。では……救うにどうすれば良いでしょうか?答えは2択です。1、全てを投げ捨てて私達の指示に全うに従う。2、己の無慈悲さに呆れそして後悔を知りながらも私達に従って取り戻す。さぁ、どれが正解かな?」


 答えなんて、たかが文を変えただけでどちらの答えも一緒に過ぎない。

 恐らくシモンはこの状況下では僕に勝ち目なんて無い事を確証しているのだろう。

 だとしたら本当に良くできた策だと思う。これなら、僕でさえも心が折れそうになるから。


(エイジ、どうするつもりですか?)


 普段の僕なら抗うだろう。でも今置かれている状況が違う。

 僕が従わなければスノウは使徒に思うがままに扱われて、そして用事が済んだら躊躇う事無く鮮やかに殺すだろう。

 だから、僕は止めたい。けれどそれをする事で僕達の世界は間違いなく崩壊する。この互いに葛藤するジレンマに僕の頭は痛みを増していく。

 あぁ、違う。だんだんジレンマに関係無く僕は流されている。どうしてでもスノウを助けたいと……


「はい、時間です!答えをお聞かせください、エイジ様」


 僕の答えは決まっている。僕は純粋な一目惚れをして様々なスノウの表情を見てそして告白をして恋人として見てきたスノウを捨てるなんて到底出来ない!これが正しいかは分からない。きっと誰もが否定をするだろう。だとしても僕は。


「……力を貸す。だからスノウを解放してくれ」


「良く言えました。これで交渉は今度こそ成立しましたねぇ!」

 

 愚かな選択だと思う。けど局地に極まったこの状況ではこうする事でしか救えない。


(なんで、こんな選択を……これは間違いですよ。エイジ)


 僕の頭の中で語るクレインの口調はわなわなと震えている。すまない、今の僕ではこうする事でしか解決出来ない。


「ごめん、クレイン。悪い事をしてしまった。取り返しのつかない事をしている。僕は非情にはなれない……純粋で、そして単純で浅ましい人間なんだ」


 この犯した過ちは死を持ってしてでも償う。けれどスノウだけは何とかして取り戻したい。

 その先に償いきれない罪があったとしても。

 僕はボロボロになっているクロノス聖団の服の裾を払いながら、じりじりとシモンに近づいていく。もう少しでスノウを助けられるのと同時に世界は終わりを告げるだろう。


「さぁ、もう少しです!もう少しであなたの取り戻したい愛しきスノウを助けられますよ!」


 僕は手を差し伸べるシモンに手を伸ばす。これでスノウが助けられるなら……その瞬間、天井が一気に崩れ去るとシモンは何事かと振り向くと同時に背中に黒い剣が心臓付近に突き刺さる。


「なんと、やられましたな」


「油断したな。どうせ、この天井から来ると思わなかったんだろうが……お前は一本取られた。これはどうであれ、変わらない事実だ」


「排除!」


 新たなる敵を察知したスノウはレグナスに飛び掛かろうとした時に心臓に突き刺した黒い剣を抜き去って、躊躇無くスノウを真っ二つに切り裂く。

 僕はその余りにも乱暴と言える行為に怒りが湧いた。


「やめろ、スノウを傷をつけるな!」


「黙ってみてろ!」


 レグナスは一言で一喝すると、再び襲い掛かるスノウを無慈悲にねじ伏せる。その間に突き刺さされた心臓を密かに修復していたシモンは修復活動が終わると同時に畳み掛けるもレグナスは至って冷静に切り払う。


「ぐっ、相手が悪いか」


「さっさとくたばれ」


「そうはいかん。今日はこの場で引き上げさせてもらう!行くぞ!」


 シモンの言葉に反応したスノウはすぐさまシモンの隣に立つ。この時レグナスは意図を察したのか……すかさず接近して一振り剣を下ろすも、一瞬でデーモンを引き連れてどこかに消え去った。考えるまでもないけどあの天空に高くそびえ立つ城に逃げ込んだのだろう。


「ちっ、逃したか」


 黒い剣を手放して人間の姿をしたレーナに戻したレグナスは弱気になっている僕の胸ぐらを掴むと壁に押し倒す。その表情は怒りに満ち溢れていた。


「お前、なんで俺が怒っているのか全く分かっていない顔をしているな」


「あぁ、正直なんでそんなに怒っているのか分からない」


「分からないか……じゃあ答えろ。何故お前はあの時、敵である使徒に手を差し伸べた?はっきり答えろ!」


 隠す事は何も無いので、僕はただただはっきりと説明するとレグナスは一瞬呆れた表情を浮かべた後に右手の拳に力を込めて一発殴る。

 だがそれでは怒りが沈められないのか、地面に倒れている僕に再び殴りかかろうとするとするレグナスに端から嫌そうな表情で見ていたレーナが止める。


「てめぇ、エイジを甘やかすつもりか」


「あなたにエイジを傷つける資格は無い。それ以上やるなら私も実力行使に移るわ。それでもやる気なら……どうぞ」


「くそがっ!」


 拳を沈めたレグナスは周辺を何となく見渡す。その間にレーナはボロボロに倒れている僕に向かって飛び込んできた。


「馬鹿ね。あなたは一人で抱え込みすぎなのよ。もうちょっと愛しき私に頼りなさい」


「レーナ、今でも僕は君を許していない。何故なら」


「分かっているわ。私は……ちょっと暴走していた事は認めてあげる。勿論許されなくても構わない。けれど、少しは人に頼りなさい。いつもエイジは肝心な時に一人だけで殻に閉じ籠る傾向が強いか」


 どうだったかな。僕はレーナに言われた通り、出来る事は自分で解決しようという性格になりがちかもしれない。


「エイジ、殴った事に関しては謝罪しない」


「構わない。今回の一件に関して言えば逆に感謝している」


 もし、レグナスが来なかったらと思うと……僕はなんて血迷った判断をしたのだろうと嘆いていたに違いないから。


「まずは道中の敵を片付けているザインとベルに合流する。本格的な話はそれからだ」


 一旦来た道を戻る。ザインとベルに会うまで重苦しい沈黙が空間に漂う。

 王の間を抜けて入り口の玄関へと戻ると、両者壁にもたれ掛かって心底疲れている表情を浮かべている。

 僕は休憩しているザインとベルに城の中で起きた出来事を出来るだけ分かりやすく伝えると、ザインは驚きの声を隠せずにはいられなかった。

 それもそのはず、スノウはこの前に一緒に救助したばかりなのだから。とにかく僕達は一旦落ち着く為に敵が襲ってこないユニバース王国の外に出てから話し合いを始める。


「くそっ、またか。スノウはいつも災難な目に逢われるな。ここまで来たら災難大会で優秀しそうな勢いだ」


「どんな大会だよ、それは」 


「こうなったらスノウの救出と共に使徒に引導を果たすしかないな」


 あの天空にそびえ立つ城。多分あそこにイスカリア並びにイスカリアに付き従う二人の使徒が待ち構えている。そしてスノウも。


「どうやって城に行くつもりだ?」


 城に行く方法。何か飛行魔法があれば良いけど、この人数でそれを実現するのは難しい。

 一体どうすれば良いんだろうと一同悩んでいた時にレーナは思い付いたのか僕に提案を提供する。


「私が転移魔法で全員分、城へ移動すれば問題ないわ」


「あそこまで転移魔法で行く……だとしても、それを使うには膨大なルナが必要となる。そのルナはどうやってやるつもりなの?」


 城まで転移。ジェネシス学園に在籍していた頃、レーナの魔法は学園内で先生に優秀であると言われていた。本を読むだけで器用にこなすレーナはいとも簡単にやってのける。

 けれど今回は別だ。遥か上空にある城に向かって行くには絶対的に膨大なルナが必要不可欠。しかしレーナは余裕の笑みで嘲笑う。何か方法を思いついたのだろうか?


「あなたよ、エイジ。あなたが私に大量のルナを送り込めば可能よ。あくまでも私の理論上によるけど」


「何故、僕なんだい?ベルやザインやレグナスでも出来ると思うんだけど」


 僕の意見に真っ向からキッパリと無理と判断するレーナ。詳しく聞くと僕の中に宿るルナは特別製で膨大を越えた無限の質量が入っているという事らしい。

 確か僕が初めてルーンを使用した時にもクレインが言っていたような気がする。


「さぁ、始めましょう。こっちにもっと近づいてきなさい」


 レーナ、そのおぞましい微笑みが隠れきれていないよ。もし、邪な事を考えているならもっと僕にばれないようにした方が良いよ。


「ねぇ、何する気なの?ちょっと……怖いんだけど」


「大丈夫大丈夫♪すぐに楽になるわ」


 本当なら、今すぐにでも引き下がりたい気分だけど……ここで自分の気持ちを優先して躊躇ってしまったら、永遠にあの上空にある城までは辿り着けない。

 恐らく僕が囮になれば行けるかもしれないけど世界が滅亡する恐れがある今、簡単には引き下がれないんだ。

 決意を固めた僕はレーナの元に近づく。すると説明も無しに僕の腕を掴んで裾をめくると突然歯を噛む。余りの痛さに我慢が出来ず、少し声が出てしまう。


「ぐっ、痛っ!」


「ごめんね、少しの我慢よ」


 僕の腕から垂れてきた血を人差し指ですくうとレーナは自分の口に含む。それからレーナは転移魔法の詠唱を始めていく。唱えてからは随分と間が空いている状態だったが、しばらくの時が経過すると地面に大きな紫色の円が精一杯広がる。これで準備と覚悟さえあれば、いつでも乗り込める!


「はい、出来上がり♪あとはお好きなタイミングでどうぞ」


「よし、今からでも出発だ」


 さっきまで色々とあったけど、迷いは無い。とにかく僕は闇に染められたスノウと世界を破壊する使徒イスカリアを倒す!と意気込んでいた時に背後から車の音が聞こえてくる。

 何だろうと僕を含めた一同が後ろを振り向くと年老いたお爺さんが元気そうに手を振っている。


「おっ、来たか来たか」


「ザイン、一体なんの為にわざわざ呼んだの?」


「すぐに分かるさ。おっさん、悪天候の中、ありがとな!」


 50代の年老いたお爺さんは車を適当な場所に停めると後ろのトランクを開けて箱のような物を出してから、その場で開封すると……中には赤のカッターシャツが4着と下の黒ズボン4着そして黒のコートが4着も綺麗にたとまれている。


「全くこんな所にまで呼びつけよって!服屋のワシを殺すつもりか!」


「んなわけねえだろ。お代は落ち着いた時に払ってやる。その前に一部は車で着替えるわ」


 プンスカと怒りながら帰っていくお爺さんにザインは気にする様子も無く到着した服に袖を通していくが下はさすがにまずいと思ったのかお爺さんの扱っている車で着替えると同様にレグナスとベルも同じように着替える。

 僕は皆が落ち着いてから新しい服に着替える事にした。クロノス聖団の服装は今やボロボロでみずぼらしかったからだ。

 これはこれで活発に動きやすい服装だから、実の所かなり着心地が良い。

 お爺さんは全員が着替えるのを確認してから颯爽と帰っていったのでお礼も言えなかったけど凄く感謝している。


「良いわ良いわ。ますます興奮する」


「エイジ、グッジョブです」


「さて、新しく気持ちが入った所で突ーー」


 僕のタブレットが着信音で鳴り響く。僕は静かにザインに謝りながらも電話ボタンを押して耳を澄ませるとユリンの声が聞こえてきた。


「エイジ兄さん、すいません。今はお時間宜しいでしょうか?」


「構わないよ。一体どうしたんだい?」


「実は私達の母さんがエイジにだけは伝えておきたい話があると言われたので……今代わりますね」


 しばらく間が空くと、聞きなれないけれど何だか心地が良い優しい声が聞こえてきた。


「エイジ。誰だか分かりますか?母のマリー・ブレインです」


「母さん、良かった……無事で。本当に」


 ようやくの再開に泣きそうになる気持ちをぐっと我慢して話を切り出すと、母さんは僕に対していつかは知っておかなければならなかった話を切り出した。

「エイジとユリンとミナト。私と一緒に短いながらも育ててくれた父、レオナルドの話です」


 レオナルド・ブレイン。ミナト兄さんには直接調べろと言われていた人物というより僕の父。

 

 果たしてどんな人物なのだろうか? 

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