(ⅩⅩⅤ)引き裂かれる出会い
(数は減ってるわ。レグナス、もっと押し切りなさい!)
「いちいち俺に指図するな!」
レーナの小言にイライラしながらも喚きながら襲い掛かる召還獣を八つ裂きに切り裂く。
黒い剣の切れ味は相当な物で一振りしただけで大抵の敵は一瞬にして終わる。
威力は俺が前に使っていたライアの力より数倍あると見込んで良い。
しかも使う度に襲い掛かる痛みは嘘みたいに襲ってこない。ただあるとすればルナという魔力の消耗が若干激しい事と剣へと姿を変えたレーナが愚痴愚痴と小言を喋るくらいだ。
(その調子よ。まだまだ接近してくるからへたれない事ね)
ちっ、まだ迫ってくるのかよ。いい加減に休憩させろ。
「数は?」
(ざっと二桁と見込みなさい)
ありとあらゆる場所からかき集めたのかは定かでは無いが、俺一人で捌くというのは随分と堪える。
さっさとエイジと合流しなければならないのにな。こんな奴らと戯れている暇は無い。そんな意図に気付く由も無い操られし召還獣はこぞって囲んでいる。
たくっ、どいつもこいつも死にたがりが多い。
「掛かってこい。問答無用で蹴散らしてやる」
俺の挑発に対して次々と襲い掛かる。俺は予めの攻撃を予測しつつ回避した後に胴体まるごとを躊躇う事無く切り刻み、背後から奇襲を仕掛けてくる虫型の召還獣に対しては首を掻っ払う事で終わらせる。
だが、それでも続々と押し寄せてくる召還獣に体力の低下を感じていた。さすがに一人で長時間やり合っていると鍛えた身体でも限界を感じる。
(よく頑張った方だわ。当初は甘く見ていたけど、ここまで乗り切ったのなら充分見込みがある)
上から目線か。たくっ、こっちは命懸けで襲い掛かってくる敵を蹴散らしているのに。
「くっ、これまでだな。ここからは急いで逃げる」
(了解。レグナスは私を離しなさい)
言われた通りに黒く染められた剣を手放すとレーナは人間へと姿を変えていく。
毎回エイジが連れている赤い女みたいに形が変わるのは以上だと俺は思っている。普通なら人間の姿をしない別の生き物が力の媒体となっているからな。
「さぁ、私の右手に不本意ながら掴まりなさい」
不本意は余計だろ。そんなに俺の事を毛嫌いしているのかよ。
「何してるの?早く掴まらないと最悪の状況下で置き去りにするわよ」
冗談じゃない。もし、お前が俺を置き去りにした瞬間の暁には死を持ってしてでもあの世に逝ってもらう!たとえ相打ちになろうともな!
俺は心の本音を押し殺しながらレーナの指示通りに右手を掴むと背中に潜ませている黒き翼を展開して自由自在に宙を舞っていくと、北の方角を真っ直ぐに進んでいく。
恐らくこの速度で進んでいけば、それほど時間も取らずに到着しするだろう。
「才能は高く評価してあげる。無愛想かつ無表情なレグナス」
無愛想と無表情はいつもながらに余計だ!ちっ、真面目に聞いていたらイライラするだけだ。今はユニバース王国でエイジと合流する事に気持ちを切り替える。
「どれくらいで到着しそうだ?なるべくなら早く到着した方が助かる」
「ふぅ、難しい相談ね。あなたを抱えているお陰で無限には飛べないのに。早く到着させろだなんて無茶苦茶だわ。到着するとしても30分以上は掛かると見込みなさい」
おい、そんなに悠長としていたら俺が行き遅れるだろうが!
「もっと速度を上げろ!」
「無理ね。あなたをここから突き放してしまえば可能だけど」
うぐっ、それは困る。こんな高さから手を離されたら、俺の身体は一瞬で終わるからな。
ここは大人しく聞いているしかないか。
「それにしても、変わり果てたわね。空は私の美しき髪の色と同じく紫で下には荒れ果てた広大な大地。そして極めつけには街として機能しているかどうかも怪しいボロボロの王国。さすがにここまで使徒?に滅茶苦茶にされると私のやる気も下がるわ」
もはや、世界は使徒を中心に回りつつあるのが現状だ。俺は別に世界の平和とか知った事では無いが個人的な恨みでエイジが作り上げようとしている無名の組織に参加しているだけに過ぎない……が今にして、この状況を見渡すと使徒は完全に滅ぼさなければならないと感じる。
何故なら奴等は理由がどうであれ、勝手な事情で世界を思いのままに好き勝手に暴れまわる自己中心的な連中だからだ。
「ふぅ、急げよ。あんまり待たせるとあいつらに怒られる」
俺の当初の目的は呪いを与えやがった人物の逆恨みだった。だが、今は……違う。今は俺がただ世界に託された者としてやるべき事を成し遂げるだけだ。
「はいはい、そんな事分かりきっているわよ。私も早く格好いいエイジに会いたいのだから」
天空にある奥にそびえ立つ城と怪しき紫の空を眺めながら俺達は陥落しているかもしれないユニバース王国へと向かう。
その先に予期しない事が待ちわびていたとしてもな。
※※※※
着いた先にあるのは、あの賑やかな印象とは真反対の悲惨な光景。僕は余りにも酷い死体と周辺から漂う充満した血の匂いに耐えられずに地面につくとベルとザインはその場で落ち着いて黙祷を捧げる。
「遅かったか」
「もはや見るに耐えんな。こりゃあ王国としての存在を無くしている。あそこにそびえ立つ城ですら原型を留めていないしな」
ユニバース城は陥落寸前でいつ崩れ去ってもおかしくない状況と言える。果たしてスノウは無事にしているだろうか?マリア姫と一緒にどこかに避難していたら良いんだけれど。
そんな時に押し寄せてくる意識の無いクロノス聖団の団員と不気味な黒い生き物がこちらに導かれてきた。恐らくここを徘徊していたのだろう。
「人の形を成した亡霊が。さっさと天に登りな!」
ザインは両手から生み出した2丁拳銃を全体的に遠慮なく発砲する。その次の瞬間にベルは近づいてくる敵に対してぶった切るという中々に息の合ったコンビネーションを見せ付けてくれた。
「こいつら!しぶとい!」
しかし何度も何度も倒そうが何度でも立ち上がる状況に陥る。もはや生物を逸脱した不死身のゾンビに近い。
これでは永遠に向こうに行けない。こうなったら、無理にでも正面突破して先を急ぐしか無い!
「先を急ごう!こいつらと戦っていたら先には進めない!」
「エイジの意見には賛成だ。適当に蹴散らしながら先を進む!」
「了解。俺はエイジを狙う敵を完膚なきまでに脳味噌ごと蹴散らしてくれる!」
幾つかの階段を駆けながら、街並みに颯爽と襲い掛かってくる操られた団員や不気味な生物を切り伏せ無理矢理にでも走っていくとスノウがもしかしたら居るかもしれないユニバース城に辿り着くと同時に背後から大量の敵が足並みを揃えて続々と押し寄せてきた。
「まだ来るのかよ」
額が汗だくになりながらも2丁拳銃を構えて戦闘体勢に入るザイン。隣に威風堂々と雷を纏った大剣を構えているベルも疲れきっている表情が窺える。
「やれやれ、ここまでしつこいとさすがに弱音がポロリと出そうだな」
「確かに……けど、ここから先は通さねえ!」
二人は互いに目を合わせて、押し寄せてくる敵をギロリと睨み付ける。
「やるぜ!エイジ、悪いがここから先は単身で迎えに行ってこい!さすがに大量の敵が城にお邪魔したら逃げれる場所が無いからな!」
「心配はするな。妙に息がピッタリな俺達ならば苦労せずに合流出来る。だから!」
分かった。そういう事なら……君達にこの場を任せるよ!
「二人共、ありがとう!僕は先を急ぐよ!」
後を託した僕は城内の扉が無い荒れ果てた入り口に入って、辺りをしらみ潰しに探索していく。しかしながらスノウの姿やマリア姫の姿が一向に見当たらない。もう遅かったのだろうか?
(エイジ、王の間は?)
クレインの言葉を聞いて、僕は急いで王の間へと入るが……やはりそこにスノウの姿は居ない。居るのは誰かを守って朽ち果てたであろう兵士と隊長らしく髭を伸ばしている人物の死骸が横たわっているだけ。
「いや、待てよ。この奥にある鉄の扉は……」
一番偉い人が座る椅子の裏側に何やら気になる鉄の扉を発見する。もしかしたら、ここからスノウとマリア姫が密かに脱出したのかもしれない。
(エイジ、入りましょう!あの奥には恐らく……)
重い鉄の扉を両手で開けると、そこには一人が通れてやっとな通路が細く真っ直ぐに続いている。僕は慎重に真っ直ぐ歩いていくと、灯りに灯されている床の至るところに血の跡がある。これは無理矢理に身体を引きずっているのだろうか?
「酷い有り様だ。まさか、ここまでの事を平気でするなんて」
(正直、キングのやり方を越えています。使徒がやっている事は残虐に近しき行為です)
怒りに震える状況下で出口が見えてきた。僕は歩みを止めずに出口に突入すると、そこには広い部屋に十字架に吊るされているマリア姫と連絡が一向に取れなかったスノウが項垂れている。
僕は見た瞬間に真っ先に飛び出すが唐突に地面から出てきた人物に道を阻まれる。
スノウの雪のような白く綺麗な髪とは対照的に灰色の髪を几帳面に揃えていてる十字架の男は剣を構えている僕に対して丁寧な挨拶を始める。
「初めまして、我々の重要な存在であるエイジ・ブレイン様。私はシモン。あなたを城にご招待する為……遥々やって参りました」
「使徒、今すぐそこを退いてください!」
「丁重にお断りします!あなたが我々の計画に対して素直に首をイエス!して頂ければ解放してあげなくもないですが」
ふざけるな!僕をそうやって陥れても無駄だ!格なる上はシモンを排除してでもスノウとマリア姫を助ける!
「その表情は、残念ながら交渉決裂となりましたか……では、私も切り替えましょう」
人差し指をパチンと弾くシモンと同時になんの変哲もない地面からまたしても不気味な黒い生き物が正体を現す。一瞬で囲まれてしまった僕はルーンを発動して紅いマントを羽織って大剣が現れたと同時に一気に蹴散らす……がシモンは尚も召還し続ける。
「やれやれ、我々が人間の遺体から生み出したデーモンに何度抗おうと無駄!あなたは私から呼び出される死の生き物と戯れていれば良いのです!」
この不気味な生き物の正体はデーモン。僕は使徒によって新たに生み出されたしぶとい生き物に灼熱の炎を当てると複数直撃したデーモンは一瞬にして燃えていくが再び出てくる新たなるデーモン。僕は諦めること無く立ち向かうが途中シモンが手のひらから放った光線によって体力がみるみると低下していく。
「くっ」
「さて、魔術の効果が切れる間に」
何をする気だ!マリア姫とスノウに触るな!そんな僕の言葉は届かないシモンはじりじりと十字架に吊るされているスノウに近づくと声を高らかに上げる。
「これであなたの意固地な考えは……終わりを告げるでしょう!」
シモンが詠唱しきってからスノウの頭に手を乗せると、スノウの身体中から禍々しい黒いオーラが放出される。これは……考えるまでもない!危険だ!今すぐにでも止めないと!
僕はシモンに喰らった攻撃に対して無理にでも立ち上がって、スノウの元に駆けつけようと試みるも無尽蔵に沸き上がるデーモンに容赦無く腹を抉られると腹から一気に血が吹き出す。
「ぐっ、シモン!」
(エイジ、駄目です。そんな状態で動けば!)
関係無い。この場でシモンの魔術を止めないと気絶しているスノウを助けられない!僕はデーモンに一撃いれて、血を垂らしながら歩き続けるも……遅かった。もうスノウは目とそして髪を黒色に変えて、僕を睨み付けている。
「はい、残念。あなたの大切な物は我々が奪いました!」
「私はスノウ。エイジ・ブレイン、私達の計画に基づきあなたを力ずくで拘束します」
どうして……どうしてこうなったんだ!目を覚ましてくれ、スノウ!




