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(ⅩⅩ)因縁の夢

 その手は温かく、赤に染められた液体に色褪せている。俺は物心がある頃から人を何度もこの手で始末していた。

 両親すら居たかどうかは分からない。ただ存在していたのは、ある場所に蔓延る戦いに飢えた連中と何故生きているのか存在自体が良く分かっていない俺。

 名前なんて無い……俺は上に立つ偉そうな連中に顎を使われてひたすら指令通りにやっていく。人を殺す時、何も感じなかった。あるとすれば因果応報。そちらから来たから殺す。

 先に仕掛けたの俺達かもしれないが、理由はどうであれ正当防衛……何もかも喜怒哀楽が抜けきった言われた通り無心にやっていく。

 その間にも表情が無い苛つき半分で俺を蹴飛ばす一部のメンバーが虐めを一週間の内に4回繰り返していたが、生きる事に意義を見出だせない俺は淡々と虐められている。どうでも良かった……こんな価値の無い愚かしき人生に。寧ろ楽に殺して欲しい位だ。


「誰か、殺せよ。生きていく意味が見出だせない俺を」

 

 虚空。真っ暗闇のボロ小屋で小さな声で呟いた所で俺の声は当然の如く届かない。あるのは両生類として扱われている生き物の声とそこらに寝ている野郎共。

 小屋の鍵は無いから、脱出しようと思えば可能。その代わり行き着く先はどこまでも裏切り者として追いかけられ始末される結末に辿り着く。


「いっそのこと、脱出してやろうか」

 

 悪くはない。どうせ死ぬなら、盛大に死んでやった方が良い終わりを迎えられる。


「明日、やるか」

 

 未練は無い……こんな下らない世界に。今や物心がある頃から単調となってきた生活に終止符が打たれるのなら、喜んで死んでやるさ。

 俺は密かな野望を抱き床につき、しばらくの間睡眠をしていると小屋を乱暴に開ける音が聞こえてくる。

 どうも、俺を安らかに眠らせるつもりは無いようだ。こういう時は何らかの任務が発生したと判断するのが妥当だろう。


「緊急任務だ。作戦室に集まれ!」

 

 寝かせる気は無いみたいだ。ここで断固拒否して殺されるというのも大いに結構だが、少々味気が無さすぎる。どうせなら盛大に惨たらしく死ねた方が良い。

 だから俺は作戦室まで足を動かすと続々と寝ているメンバーが眠たそうな顔を擦って、作戦室に赴き始める。俺が作戦室に到着した頃には全員規律正しく並んでいる状態。

 組織のリーダー格である人物は俺を含めた一同を見渡してから、作戦内容の説明を始めていく。


「全員集まったな!これより緊急作戦の概要を端的に説明していく!」

 

 概要は至って単純。気づけば拾われて、否応なしに任務をやらされている組織ファングの重要拠点と思われしき施設が何者かの暴挙により次々と大破。

 更に施設を壊している人物がこちらに押し寄せているとの情報がリークされている。しかも人数はたったの一人。


「負傷した者からは狼のような凶暴な声で、どういう目的かは知らんが一心不乱に破壊活動をしている。もうまもなくこの本拠点に奴が来るだろう。そこで、お前達にはその人物を撃破してもらう。被害が大きくなればなるほど我がファングの組織の戦力は激減するからな」

 

 要するに捨て駒になれと言いたいのか。はっきりそう言ってくれた方が素直になれそうなのに俺達子どもには飯と住まいを与えるだけの一方的な連中に慈悲なんて無い。


「どうした?返事をしろ!」

 

 俺には分かる。全員その場で行きたくないという思いがヒシヒシと伝わる事が……今回の敵は単独で施設を破壊している一人の人物。どれだけ取り繕った言葉で伝えようが結局は死んでこいとしか伝わらない。


「はい……」


「声が小さいぞ。言っておくが逃げるの断固無しだ……逃げたらその場で始末する」

 

 鉄火面の隊長に逆らうの無理だと判断したのか、続々と声を張り上げていく。ただし俺は無言で座っていた。声を張り上げる行為自体が煩わしいからだ。


「貴様、何故返事をしない!」

 

 どうだって良いだろ。どうせ返事をした所であの世に行くだけしか道は残されていないのだから時間の無駄遣い。

 だから俺は奴に何を言われても言い返さない。それが癪に触ったのかツバを俺の顔面に吐いて憂さ晴らしをする。


「もう良い。てめえは黙って指示に従え。おかしな行動をした瞬間には……」


「打ち首」


「そうだ。理解したのなら、真面目に取り組め」

 

 作戦室の壁に飾られているアナログ時計を見てみると針は真夜中の二時を示している。

 普通ならこの時間帯は殆どの住民が床についているが俺達ファングに属する雇われ兵に自由は無い。

 今回の襲撃任務もそうだが、一部の任務については真夜中に実行する所が多いからだ。

 そして、その身体を壊すほどの激務のお陰か一部の人間は見張りが居ない時間を見計らって脱退する。

 ただし逃げた連中が生きているとの連絡は一生無い。あるのは裏切り者は始末したとの良くある光景。


「来たぞ。全員死ぬ気で掛かれ!」

 

 無線機から無慈悲にも死んでこいと言ってくる知らせに野郎共はどんどん近づいてくる人物に襲い掛かっていく。

 ここを潰されたら、この拠点は大損失を受けるのは目に見えている。だからといって俺がこんな場所を義理堅く守る必要は無い。忠誠心なんて空っぽの俺にはどうでも良いからな。


「消えろぉぉぉ!」

 

 ジェネシス王国からかなり離れた山岳にある本拠点を駆け抜ける人物の一声で大抵の野郎共は綺麗に空に舞い上がり、大きな音と同時に地面に赤い液体が付着する。

 その光景に俺は呆然と見る。こんな凶暴な奴と戦っても無事に帰れる保証なんて無いからだ。


「諦めて……死ぬか」

 

 いっそのこと、楽に殺してくれる場が今ここにあるならこれ以上望む事は無い。さぁ!


「殺せよ、俺を」

 

 奇妙な形をした大剣を軽々と容赦無く振り回していく人物は、地面をクレーターの形にしたり周辺にある建物をぶっ壊していく。

 次々と戦力が減っていき最終的に使える兵が居ないと判断した隊長は自ら赴き、彩飾だけは立派な剣を手に携えて俺の首元まで持っていく。


「何故動かない?さては……怖じ気づいたか」

 

 半分は当たっているが半分は違う。そもそも俺は怖じ気づいてはいない。むしろ魅了されている。奴の姿に……


「いや、違う」


「何が違う!くそっ、使えない奴が!見ていろ、俺がアイツを始末したら次はお前の打ち首だ!」

 

 行ってこいよ、そしてさっさと死にやがれ。


「おらおら、隊長のお通りだ!」


「お前が隊長か。骨の無い奴だな」


「何!?」

 

 拠点を襲撃する人物は目にも止まらぬ速さで隊長を追い詰め、本の数秒で首を飛ばし一刀両断で容赦無く始末する。奴は……威勢だけ撒き散らして無惨に逝っただけの末路を辿った。これで拠点にポツリと残っているのは俺だけだ。


「殺せ。俺に生きる価値は無い」

 

 月に照らされ、薄い青髪で人を寄せ付けない眼光を持った人物は俺の言葉を感じとり幾ばくかの時が流れ奇妙な形をしている大剣を下ろす。何故だ?何故俺に刃を貫かない?


「お前をこの場で殺すのは非常に惜しい」


「何だと?」

 

 男の意味不明な発言に堪らず睨み付けるが、男は自分勝手に話を進めていく。


「お前は俺の為に生きろ。お前の中に宿りし呪いを受けてな!」

 

 瞬間、俺の心臓に手のひらを押し付ける男は良く分からない言葉をぶつぶつと喋り出すと意識は途切れ途切れになっていく。


「ぐぁぁぁ!」

 

 次に襲ってくるのは適度に来る傷み。そこに床があるなら直ぐにでもへばりつきたい程の強烈な苦痛。

 だが、身体の自由が効かない俺はただただ押し寄せている傷みに声をあげて堪えるしか無かった。


「時を隔て、再び合間見える時……全力でやりあえる事を楽しみにしているぞ」


「てめぇ」

 

 ようやく耐え難い傷みから解放された俺はいよいよを持って意識が無くなりかける。ぐっ、立てない。


「俺の名はユ……。機会があ……う」


「くそっ」

 

 奴の名前。最終的に俺の身体に呪いを植え付け今も生きていやがる奴の!奴の!奴の名は!


「誰だぁぁ!」


「どわぁ、驚かすなよ!」

 

 ベル?あぁ、そうか。俺はあの過去を長い事見ていたのか。一体どれくらいの月日が流れたのだろうか?

 いや、それにしてもこの場所は何処なんだ?見た感じではクロノス聖団本部にある治療室でも無いし、殺風景なひびが入ったコンクリート色の部屋を見た所で病院でも無い。


「ここは残骸の場所だ。ひとまず見つからなさそうな場所にお前を運んで、ひそひそと隠れている。あぁ、勿論お前が寝ている所には簡易毛布を敷いてあるから安心しろよ。さすがに直接コンクリートの上で寝かせるのは気が引けるからな」


「どういう状況だ?何故俺をこんなガラクタの場所に寝かせている?」


「信じられないかもしれないがクロノス聖団本部で成果を上げている団員がどういう訳か容赦無く一般人を殺している。偶然にも現場に居合わせていない俺は図書室に居たのだが、正気を保っていない連中を黙らせた所で急いでお前を外まで担ぎ込んで、この場に連れ込んだんだ。感謝しろよ」

 

 なるほどな。ベルの言う通りどういう訳から分からないがクロノス聖団本部の連中は正気を保てずに、道行く一般人を無差別に殺している。これは由々しき事態だとみるべきだな。


「あぁ、感謝してやる。それよりも」

 

 いくつか痛む傷をギリギリで堪えながら立ち上がり、周辺を確認。どうも俺が見渡す景色とかけ離れている。まるで戦争が終わった後の焼け野はらのようだ。余りにも殺風景過ぎる。


(おはよう、レグナス。早速だけど……)

 

 ライアが伝えようとしている言葉は口に出さなくとも分かっている。まずは状況の把握だ。こんな場所にいそいそと動かずにはいられないからな。

 外を出ようと毛布の隣にベルが担いでくれた時に持ってきたのであろう刀を腰の横に吊るすと壁際にもたれていたベルは俺の次の行動に察したらしい。


「行くのか?」


「状況を把握する為に外に出る。いつまでも留まる訳にはいかないからな」


「へぇ。レグナスにしては活発的じゃないか」

 

 消極的だと思っていたのか、この野郎。


「茶化すのなら、そこでじっとしていろ。俺だけでも事態を探る」


「そりゃあ、まずいだろう。さすがに今回ばかりは付いていくぜ」

 

 各地で悲鳴を上げている人の方に向かうか。何か出来るという事では無いが……俺としては眠っている間に現状一体何が起きているのかを知る必要があるからな。

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